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第99話:切り裂かれた運命の糸

「……ふふ。

このまま殺せちゃうわね」


膨張した影が、

鎌の形を成して悠真の首筋に迫る。


リシュヴァの顔には、

獲物を追い詰めた完璧な余裕。

セレスは悠真の体に覆いかぶさり、

絶望に顔を歪めていた――。


だが。


その影が肉を断つ寸前、

悠真の唇がわずかに動いた。


「……今だ」


昏倒を装っていた悠真の瞳が、

冷徹な光を宿して見開かれる。

同時に、セレスの絶望が消えた。


彼女は《深淵の杖》を地面に突き立て、

温存していた全魔力を一気に解放する。


「――術式分割展開!」


リシュヴァの眉が、驚愕に跳ねる。


「なっ……!?」


セレスの周囲に、

三つの巨大な転移方陣が同時に浮かび上がった。


まず一つは、あまりに強大で、

あまりに不安定な魔力痕跡を撒き散らす「暴走転移」の偽装。


そして二つ目は、

気配を殺した悠真を逃がすための「本命」の転移。


そして最後――

セレス自身を囮にし、

リシュヴァの注意を最も強く引きつけるための「自分自身の転移」。


「しまっ――」


リシュヴァが影を伸ばすが、遅い。


セレスがわざと繰り返してきた「失敗転移」の残滓が、周囲の地脈を撹乱し、追跡能力を著しく低下させていた。


「悠真……絶対、生きて! 私が必ず……!」


「ああ、頼んだぞセレス!」


術式が分岐する。


眩い光が森を白く染め上げ、

三つの方向へと魔力の奔流が弾け飛んだ。


リシュヴァは迷わない。

彼女の狙いは、

あくまで「進化士」である悠真だ。


最も強烈な魔力の尾を引いて森の深奥へと跳んだ「悠真の気配」を、本能のままに追尾する。


「小賢しい真似を……! 逃がさないよ!」

リシュヴァの姿が影に溶け、

一瞬で「悠真」を追って消失した。


――だが。


光が収まったあと。

誰もいなくなったはずの戦場に、

沈黙が降りる。


リシュヴァが追ったのは、

セレスが術式分割で作り出した

「悠真の魔力を持つデコイ」だった。


本物の悠真は、

別の座標へと転移していた。


そして、もう一人。

セレスもまた、逆方向へと跳んでいた。


彼女が向かった先は、

リィナの波長が最も濃く漂う「救出地点」。


セレスは冷たい汗を拭い、杖を握り直した。


「……グローデンはまだ北部戦線を制圧中。

リシュヴァを引き剥がした今なら、

あそこに『守り』はいない」


悠真が命懸けでリシュヴァを釣り上げている間に、自分がリィナを奪還する。


これが、二人が泥を啜り、

無様を晒してまで作り上げた、

唯一の勝機だった。


「待ってて、リィナ。

今、助けるから」


セレスの姿が、

今度は迷いなく闇の中へと消えていった。


♦︎


「……逃がさないと言ったはずよ」


次元の隙間を、影が滑る。


リシュヴァは転移の渦中、

先行する最も強い魔力の糸を掴む。


――だが、その裏側に、

傷だらけで震えながらも、

鋭く研ぎ澄まされた“本物”の気配が、

薄く、確かに残っていることに気づいていた。


「面白いわね……

二重の囮を仕込んでくるなんて」


彼女は派手な魔力痕を追いつつも、

本物の気配を見逃していない。


――選ぶまでもないわ。


「その程度の細工で、

私を欺けると思ったのかしら……。

傲慢ね」


瞳が、怒りで紅く燃える。

魔将である自分を、あんな小娘の術式が一瞬でも「足止め」させた。その事実は、彼女のプライドを激しく逆撫でた。


「……いい度胸ね。その足掻き、

どこまで私を愉しませてくれるか……

見届けてあげるわ。」


影が爆ぜた。

漆黒の爪が空を裂き、

空間を無理やりこじ開ける。


囮など眼中にない。

彼女は、一直線で「本物」の背後へと躍り出る。


♦︎


だが、そこで待っていたのは、

一方的な蹂躙ではなかった。


セレスが生み出した、

一瞬の「空白」を突いた――渾身の一撃。


(倒せない。わかっている。

それでも、この一太刀で、

少しでも――時間を稼ぐ。)


「――っらぁぁッ!!」


転移直後のリシュヴァを正確に捉えた、

悠真の全力の横薙ぎだった。


《雷光の剣》が咆哮し、

森を白く焼き尽くす。


「ふふ……まだ、そんな目ができるの?

いいわねぇ。……最高にゾクゾクするわ」


リシュヴァは影の壁でそれを受け流したが、その衝撃にわずかに目を細めた。


先ほどまで罪悪感に押し潰され、

ただ怯えていた少年の目じゃない。


リィナを奪われた恐怖も、

守れなかった無力感も、

すべてを「救うための覚悟」に変え、


さらに――ここで動けなければ、

リィナだけでなく、

セレスまで失うかもしれないという、

焼けつくような焦燥が加わっていた。


その瞳には、もう迷いはなかった。

虚空に手を翳す。


「来い――!」


悠真は《迅環の魔輪》を召喚した。

青白い光の輪が、

左腕に強引に食い込むように嵌まる。


「先の時間」へと肉体を強制的に押し出す魔具の脈動が、悠真の神経を焼き、世界を加速させた。


殺意を孕んだ影が、

弾丸のように踏み込む。


ドッ、と空気が爆ぜる。


「がっ……、はぁぁッ!!」


リシュヴァが放った影の刃を、

悠真は紙一重、

文字通り数ミリの差で回避した。


「かわした?」


リシュヴァの声に、

初めてわずかな興味が混じる。


猛攻が加速した。

一撃一撃が地脈を割り、

大気を震わせる。


悠真は《雷光の剣》で斬撃をいなし、

《氷柱の盾》を盾面に滑らせるようにして直撃を避ける。


盾の防御障壁を展開しても、

魔将の一撃は一瞬でそれを砕き散らす。

呼吸が裂ける。視界が明滅する。


「へぇ……。

それが『進化』の力ってやつ?

悪くないわね」


それでも、悠真は止まらない。


死の舞踏。


「避ける、避ける、避ける……!

それだけか、進化士!」


リシュヴァの猛攻がさらに加速する。

《迅環の魔輪》が筋肉を裂き、

骨を軋ませる。


反動固定が強引に傷を「なかったこと」に補助し続ける。

脳が、異常な速度に悲鳴を上げる中、悠真はただ――秒数だけを数えていた。


一秒でも長く。一瞬でも多く。


リシュヴァは、苛立っていた。


ネズミ一匹、

一瞬で握り潰せるはずだった。


なのに、

こいつは死に物狂いで食らいつき、

「時間だけ」を消費させてくる。


「何を待っている?

逃げるわけでもなく、

戦うわけでもなく……何を!」


リシュヴァの意識に、

異質な違和感が混じる。


(餌が……あの小娘の生命活動が、消えた?)


リシュヴァの感覚の中で、

監禁していたリィナの糸が切れたように崩れ落ちた。

意識を失ったのか、あるいは自害――。


計算外の事態に、

リシュヴァの眉がピクリと動いた。


「あら……人形が壊れた? ……ちっ、興醒めね」


彼女が拘束空間へ意識を割こうとした、その刹那。

悠真が、捨て身の突進を仕掛けた。


盾を捨て、

ただ剣一本にすべての魔力を込めた、

文字通りの特攻。


「行か……せないッ!」


ガキィィィンッ!!


「……ふふ、いいわ。もうあの小娘は用済。

だって、お前をここで消せば、すべて片付くもの。所詮、ただの餌よ? ......お前を誘き出すための、哀れな小道具に過ぎなかったのだから」


リシュヴァの魔力が一気に膨れ上がる。

リィナへの拘束に割いていた膨大な魔力をすべて回収し、眼前の「標的」を消し去るための術式構築。


大気が鳴動し、

森の木々が黒い渦に呑み込まれていく。


――まさに今。


それは、

セレスがリィナを奪還するための、

最短で唯一の――そして最も危険な、

空白だった。


悠真の瞳が、燃えた。


「――セレス!」

第99話、最後までご覧いただきありがとうございます。


ちなみに、

本文の内容に出てきた進化装備について補足です!

すべて、過去話で登場済みですが、復習用にどうぞ。↓



セレスの装備

深淵しんえんの杖》

 特性①:魔力吸収(周囲の魔素を吸い上げて魔法威力を増幅)

 特性②:術式分割(複数魔法を同時展開できる)


黒曜こくようのグローブ》

 特性①:詠唱短縮(魔法発動の遅延を軽減)

 特性②:魔力制御(精密な魔力操作が可能になる)


灰晶かいしょうのペンダント》

特性①:魔力安定(複属性魔法の暴発率を大幅に下げる)

特性②:術式拡張(単一魔法を二倍の範囲に拡散できる


悠真の装備と召喚した腕輪

《氷柱の盾》

① 雪崩や氷雪の衝撃を吸収し、氷の障壁に変える

② 敵からの物理・魔法攻撃を受け止めると、表面に氷柱が形成され、反射的に凍結反撃を行う。

③ 短時間であれば巨大な氷壁を展開し、仲間を包み込む防御障壁として機能する。

④ 盾を大地に突き立てることで、大規模な氷結結界を展開できる。


《迅環の魔輪》 (じんかん の まりん)

魔精核を圧縮して作られた円環型の補助具。

特性①:位相加速(使用者の動作を一時的に“先の時間”へ押し出す)

特性②:反動固定(急激な加速による身体損傷を無効化)


リアクションd(^^) もたくさんいただいて嬉しいです! ありがとうございます!


次回は、

第100話『…まだだ』


「お願い!間に合って……ッ!」


セレスの絶叫とともに、

光が戦場を引き裂いた。


状況を確認する余裕などない。

ただ、戦場に満ちるリシュヴァの殺意が、皮膚を焼き、鼓動を止めるほど膨れ上がっていることだけは理解できた。


本能が警鐘を鳴らす。


「ーー死なせない。」

絶望的な予感をねじ伏せ、

セレスは転移の渦から飛び出す直前で、杖を振り抜いた。


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