第9話: 猫耳族のリィナと神槍「天穿の槍」誕生
悠真は、さらに遺跡の奥へと進んでいた。
壁一面には見たことのない古代文字が刻まれ、ところどころに砕けた石像が無造作に転がっている。長い年月を経て朽ち果てた遺跡の空気は冷たく、静寂が支配していた。
「……この雰囲気、何か違う。ただの古い遺跡ってわけじゃない気がする。」
.....かつて、ここで大規模な戦闘があったのだろう。辺りには、放置された武器や鎧が無数に散乱していた。
悠真は慎重に周囲を観察しながら、足元に転がる一本の古びたランス(槍)を拾い上げた。柄はひび割れ、刃先も欠けているが、どこかただの武具ではない気配を放っていた。
「……試してみるか」
彼は進化の媒介になりそうなものを探し、壁際に残っていた焚き火の跡を見つけた。
炭はすでに冷えていたが、かすかに魔力の残滓が漂っている。
「この炭、まだ使えるかもしれないな」
槍を炭にかざし、静かに力を込めてみる。
すると、槍の表面が赤黒く変色し刃先がねじれるように歪み始めた。
「……お?」
手にした槍の表面が、淡く炎の光を反射する。
《歪んだ炎の槍》
特性①:火属性付与(攻撃時に炎の力を宿す)
特性②:形状不安定(使用するたびに形が少しずつ変化する)
「……なんか、微妙だな。」
攻撃に火属性がつくのは悪くないが、「形状不安定」という特性がどう作用するのか分からない。
試しに軽く振ってみると、槍の先端がわずかに縮んだり伸びたりしている。
「使いにくそうだな……他にもっといい媒介があれば……。」
悠真は槍を持ったまま奥へ進むことにした。
その時——
「にゃっ?」
不意に、警戒を帯びた可愛らしい声が響いた。
悠真は反射的に剣を構える。しかし、視界に飛び込んできたのは、猫耳をピンと立てた亜人の少女だった。
「なんだ人間か……脅かさないでほしいにゃ。」
彼女は壁際の暗がりに身を潜めていたらしい。細い手に握られた短剣が、壁に刻まれた符文の輝きを映していた。
髪は淡い橙色の髪を二つに束ね、ぴんと立った猫耳が特徴的だ。脚には動きやすそうなショートパンツと黒のニーハイソックス姿。しなやかな体つきと、警戒する瞳が印象的だった。
彼女は、鋭い目つきで悠真をじっと観察すると、口の端を吊り上げた。
「それにしても、こんな遺跡で人間に会うとは思わなかったよ。」
「俺も驚いた。」
悠真が警戒を解くと、彼女もひとつ息をついて口を開く。
「アタシはリィナ、猫耳族の冒険者。お宝目当てでこの遺跡に来たんだけどね」
彼女はニヤリと笑いながら、自分の胸をポンと軽く叩いた。
「……俺は悠真。まあ、なんというか、冒険者…みたいなもんなのかな」
「みたいなもん? ふーん、怪しいにゃ。それで、あんた、こんな奥で何をしてるわけ?」
「探索ついでに、武器の試し撃ちをしてたんだ。」
悠真はそう答え、手にした槍を軽く振る。
リィナは興味津々といった様子でそれを覗き込んだ。
「ほぉ……ちょっと変わった槍にゃ。でも、なんだかいまいちっぽいけど。」
悠真は苦笑いを浮かべ、手のひらを返した。
「まあな。イマイチなんだ。」
「......」
悠真は、リィナの好奇心たっぷりの視線を感じながら、少し考えた後、口を開いた。
「進化の実験が、ちょっと上手くいかなくて.....失敗した結果なんだ。」
「進化の実験? 何それ?」
悠真は小さく頷き、説明を始めた。
「…..俺の能力だ。武器やアイテムを“進化”させることができるんだ。」
リィナは猫耳をピクッと動かし、怪訝そうに目を細めた。
「ふーん…...そんなうまい話、ほんとにあるのかにゃ?」
悠真は手にした槍を軽く掲げ、先ほどの変化を見せるようにした。
「例えば、この槍。もともとはただの古びたランスだったんだけど、焚き火の炭を使って試してみたら、火属性が付与されて形が変わったんだ。まあ、正直、微妙な変化だけどな。」
リィナはじっと槍を見つめた後、ふっと鼻を鳴らした。
「へぇ、つまりあんた、今ここでその槍を“進化”させたってわけ?」
「まあ、そんな感じだな。」
「めっちゃ……嘘くさいにゃ〜。」
リィナは腕を組んで、猫耳をピクッと動かし、疑わしげに悠真を睨んだ。
「武器を鍛冶屋で強化するとか、魔法の付与で強化するとかなら分かるけど、あんたが触っただけで武器が進化するなんて、
そんな都合のいい話があるわけないにゃ。」
「……まあ、信じられないのも無理はないけどさ」
悠真は肩をすくめる。
「でも、実際にこうやって変化したんだから仕方ないだろ?」
そう言って槍を振るが、リィナはまだ半信半疑といった表情だった。
「それに、選んだ媒介によっては、結構面白い変化もするんだぜ。まあ、焚き火の炭じゃなかったら、もっとマシだったかもしれないけどな。」
「......」
悠真がもう一度肩をすくめると、リィナはくすっと笑った。
「ふーん。じゃあ、見せてもらおっか。
目の前で進化させてくれたら信じるかも。」
「目の前で?」
「そうにゃ。」
リィナは悪戯っぽく笑いながら、悠真の袖を軽く引っ張り、
楽しそうに微笑んだ。
「……それなら、いいもの、見せてあげる。
アタシのお気に入りの“火”があるんだ」
そう言って駆け出す。悠真も慌ててその後を追った。
たどり着いたのは、青白い炎が揺らめく不思議な燭台だった。
その炎は、遺跡の冷たい空気を震わせ、まるで生きているかのように脈打ち神秘的な輝きを放っていた。
周囲には、かすかに光る古代文字が刻まれ、炎の魔力が石づたいに淡い影を踊らせている。
「これは…?」
「古代の灯火。ただの火じゃないよ。この遺跡の奥に眠る、魔力を宿した“生きた火”。昔の魔術師が封じたって噂があるの。」
「確かに…何か隠してるような、謎めいた気配だな。」
悠真は足元に落ちていた古びたランスを拾うと、慎重に灯火へと近づけた。
次の瞬間——
「……っ!」
槍が強烈な黄金の光に包まれ、空間そのものが震えるような感覚が走った。遺跡全体が光に包まれる。
槍の表面が滑らかに輝き、先端は鋭く研ぎ澄まされていく。そして、柄の部分には淡い青白い紋様が浮かび上がり、かすかに蒼炎を纏っていた。
悠真の視界に、新たな槍の特性が表示された。
《天穿の槍》
特性①:貫通の極み(敵の防御力を無視してダメージを与える)
特性②:蒼炎の加護(攻撃時に青白い炎の魔力ダメージを付与)
特性③:耐久性強化(通常の槍よりも圧倒的に頑丈)
「これは……!」
悠真は驚きと興奮を覚えながら、槍を手に取った。これまでに扱った武器の中でも、圧倒的な性能を誇る。まるで自らの鼓動を持つかのように震えていた。
「本当に進化した! これ、すっごく綺麗!」
リィナが目を輝かせながら槍をじっと見つめる。
「ねえねえ、それ、ちょっと触らせてにゃ?」
「ダメだ。」
「ケチ!」
リィナは頬をぷくっと膨らませ、猫耳をピクピクさせた。悠真はそんな彼女を見て、思わず笑ってしまった。
「でも、すごい力だね。この槍があれば、もっと奥まで進めるかも!」
リィナは嬉しそうに尻尾を揺らすと楽しそうに笑った。
悠真は槍を軽く握り、手に馴染む感触を確かめる。
「うん。……これなら、いける。」
確信があった。この槍の力を使えば、遺跡の最奥にいるボス級の魔物とも戦える。
第9話、ご覧いただき大感謝です。
次回、『第10話:無双状態で遺跡を制覇!』も
是非よろしくお願いします。
いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。




