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第8話: 遺跡への挑戦

翌朝、悠真は街を後にし、東への旅を始めた。遺跡に至る道は長く、きっと未知の危険が潜んでいるのだろう。それでも、彼の心は燃えていた。


進化の謎を解き明かしたい——。

(この力の真実を掴み、もっと強くなりたい)


進むにつれ、周囲の空気が変わるのを感じた。草木は少なくなり、道の両側には無機質な岩肌がむき出しになっていった。そして、次第に薄い霧が立ち込め始める。


「これが行商人の言っていた霧か……」


悠真は慎重に足を進めた。


 吐く息が白く揺れる。霧は濃すぎるというほどのものではないが、視界は徐々に曖昧になり、道の先が霞んでいく。このまま進めば、いずれ方角を見失うのかもしれない。


 やがて岩の裂け目へ続く細い道に入った。谷底がすぐ脇まで迫り、足元は不安定になる。崩れかけた岩を一歩でも踏み外せば、奈落へ真っ逆さまだ――緊張が背筋を這う。


さらに、岩壁の隙間から白いもやが流れ込み、空気が湿り気を帯び始めた。


商人の言葉が頭をよぎる。

「迷ったら戻れないぞ」


その瞬間、霧が一気に渦を巻き、白煙のように道を覆いつくした。鼻先に鉱物の匂いが漂い、冷たさが肌を刺す。


 悠真は腰の短剣に手をかけた。金属の冷たさが掌に伝わる。戦いのためでなく、障害物の除去や、岩に小さな印を刻んだりするためだ。


 「抜けられるのだろうか……」


小さな独白とともに、彼は意を決し、白一色の世界へと足を踏み入れた。



♢霧の迷路


 霧はますます濃くなり、視界はせいぜい2、3歩先までしか見えなくなった。岩壁に沿って進む道は一本道のはずだったが、どこか様子がおかしい。


少し歩を進めると、さっき通ったはずの岩の突起や割れ目が、目の前に現れる。


「くそ……また同じ場所に戻ったのか?」


目を凝らしても、位置関係がまるで掴めない。道標として刻んだ印すら、霧が手元まで覆い隠し、薄い線はすぐに掻き消されてしまった。


自問自答しながら歩き続ける悠真だったが、曲がり角の岩陰はどれも同じに見え始め、目印に頼れない孤独な迷路と化していく。彼は苛立ちを抑え、深く呼吸を整えた。


「焦るな、落ち着け……!」


 やがて時間の感覚すら曖昧になり冷たい湿気が身体を包み込む。孤独の重さが肩にのしかかり、じわじわと心が蝕まれていった。

.......それでも、諦めなかった。


ついには、岩壁の輪郭さえも曖昧にし、視界が完全に奪われてしまった。


「くそ....!」

悠真は、上下も方向もわからず、ただ立ち尽くすしかなかった。


だが、ふと背中の重みに意識が向いた。ランタンに手が伸びる。


古びたそれは、いつか街で手に入れた安物。そして、今、この手の中で、唯一自分を導く頼れる存在だった。


 「頼む……力を貸してくれ。」


 ランタンに意識を集中させる。すると、微かな振動が手のひらに伝わった。悠真の力がランタンに流れ込み、金属とガラスが微光を帯び、淡く青白い炎が内部で揺れた。


その瞬間、霧が小さく波打つのを感じた。まるでランタンの光が霧を押し広げているかのようだーー。

 

脳内に声が響く。


《霧切りの灯》

特性:光を通じて魔力の流れや自然の微細な変化を感知できる


「霧切りの灯……」


 進化したランタンは、光そのものが霧を振動させる作用を持っていた。悠真は岩壁沿いに歩きながら、ランタンを前にかざす。霧が光に反応して微かに裂け、見えなかった岩の隙間が浮かび上がる。


「いけるのか......!?」


 悠真は光と影を頼りに、迷路のような岩壁の中を慎重に進んだ。


 時折、足元の岩が崩れかける。だが、《霧切りの灯》の光が揺れるたびに、岩の影が壁に映り、進むべき足場を示すかのように形を変える。


「....この光...きっと正しい道を示している.....」


悠真は息を潜め、小さな光の道を永遠と進んだ。微かな光の連鎖が頼りなくも繋がり、霧に閉ざされた岩壁の迷路を少しずつ突破していく。


ランタンは頼れる相棒として、間違いなく深淵の先を示していた。


パラパラ...


そのとき、不意に光が乱反射して、文字のような模様が浮かび上がった。古代の符号か、ただの自然の偶然か。悠真は直感に従い、模様の示す方向へ進む。


「あ....」


心臓が激しく高鳴る。なぜなら、岩壁の狭間に、突如として古びた石段が現れたからだ。


目にその光景が焼きつく。光の屈折と霧の揺らぎが交錯し、まるで自然が道を譲ったかのような幻想的な景色が広がった。


悠真は息を整え、一歩一歩、石段を登る。霧が徐々に薄れ、周囲の岩壁がそびえ立つ姿を現した。


やがて、視界は一気に開けた。目の前に広がるのは、苔に覆われた古の門、ひび割れた石柱、そして時の重みを刻む広大な石造りの広場――古代の巨大遺跡だった。


霧の彼方から、まるで主人公を待ち受けていたかのように、長い年月を経てもなお荘厳な威厳を湛える遺跡が、静かに佇んでいた。


「……ここが遺跡か。」


悠真は目を見張った。遺跡は想像以上に巨大で、岩壁に埋め込まれるように存在している。入り口は崩れかけた石造りの門で、所々に古代の文字が刻まれていた。


これが何百年、いや、何千年も前のものだとしたら……なんとも壮大な光景だな。


「そして、俺はまた、進化の力に助けられたってわけか」

悠真は一息つき、しばし休息を取ることにした。


――――――


遺跡内部は静寂に支配されていた。ひんやりとした空気の中、足音だけが石の床に響く。悠真はその空間を利用して、進化の試行を重ねてみることにした。


手持ちの武器をいくつか取り出し、遺跡内で試せそうな環境を探す。


(未知の空気、古代の建造物——何かしら面白い変化を引き出してくれるかもしれない。)


まずは、剣を石床に置き、遺跡内の空気にさらしてみた。しかし、大した変化は起こらない。


次に、遺跡の壁に刻まれた紋様に剣をそっと触れさせた。すると、刃が一瞬だけ、淡く光を放ったが、期待していたほどの変化は訪れなかった。


(ちっ……そう簡単にはいかないか)


さらに矢を一本、遺跡の奥に佇む泉にそっと浸した。すると、妖しい光を放ち、矢の色が派手な紫色へと変わった。


《紫の矢》

特性:矢が紫色に変化する


「お、何か起きたのか?」


興味をそそられ、取り出してみる。試しに弓で射ってみたが、特別な効果は見られなかった。鑑定の結果通り、ただ色が変わっただけのようだ。


「はぁ.....」

(……全然ダメだな)


頭をかきながら、ため息をつく。


試行錯誤を続ける悠真は、遺跡の奥深くへと着実に進んでいった。しかし、そこで彼を待ち受けていたのは予想をはるかに超える強敵だった。


「くっ……!」


悠真は剣を構えながら後退する。


目の前にいるのは、大型の石像兵ストーンゴーレム。遺跡の回廊を、まるで持ち場を守る古代の守護者のように巡回していた。


(コイツの装甲、硬すぎる……!)


剣で斬りつけても、刃が石肌を滑るだけで傷一つつけられない。逆に振り下ろされる相手の一撃は強烈だった。悠真はギリギリで回避したものの、直撃を受ければ一撃で終わる破壊力。なんとか距離を保つのが精一杯だった。


(この遺跡、明らかに俺のレベルに見合ってない……!)


額に汗が滲む。


これまでの戦いは経験を積むことで少しずつ成長することができた。だが、今目の前にいる敵はまるで格が違う。


「……こんなの攻略できるのか?」


思わずそう呟いてしまうほど、圧倒的な壁を感じた。


それでも......諦めたくなかった。


「……いや、進むしかない。もっと知りたいんだ。」


彼は手元にある武器を見つめる。


進化の法則はまだ掴めていない。それでも、この遺跡の奥には何かがあると確信していた。


(ここを突破できれば、俺はさらに強くなれる……!)


恐怖と焦燥を押し殺しながら、悠真は石像の守りをかいくぐり、なおも遺跡の深奥へと足を進めた。

第8話、ご覧いただきありがとうございます。

大感謝です。

次回、第9話: 猫耳族のリィナと神槍「天穿の槍」誕生!

是非よろしくお願いします。

まだ慣れなくてアタフタしつつ書いてます。^^;

いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。

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