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第79話: 異常な存在と闇の視線

前線に足を踏み入れた瞬間、

視界が一瞬で色褪せた。

爆ぜる火花、亀裂の走る大地、

上空を裂く魔法光線――。


ゴブリンの群れが怒濤のように押し寄せ、

背丈三倍はあろうオーガが棍棒を振り下ろし、

その頭上では飛行型の魔獣が魔法陣を展開していた。


敵の質も数も、訓練用のゴーレムなど比べるまでもない。


それでも――三人の顔に浮かんだのは恐怖ではなく、静かな昂揚だった。



一真が《灼斬しゃくざんの剣》を抜き放つ。


刃が空気を割った瞬間、

灼熱の軌跡が走り、地面が赤く裂ける。


ゴォッ――!


突っ込んできた魔物たちが、

まとめて炎の渦に飲み込まれた。


一真は、ほんの一瞬だけ驚く顔をした。


「……軽い?」


剣そのものは、驚くほど手になじむ。

以前よりも、振り抜く軌道が滑らかだ。


だが次の瞬間――


ズシン、と腕に重さが返ってきた。


炎だけが、質量を持ったかのようにのしかかる。


斬るというより、

押し出す灼熱が前方へ叩きつけられる感覚。


剣は軽い。

だが、振るうたび――炎が重くなる。


「……なるほどな」


一真の口元に笑みが浮かぶ。


炎は刃に引きずられているのではない。

逆だ。


斬撃そのものが、炎に引かれている。


それは、ただの一撃ではなく――

《灼斬》という武器に宿る“意志”のようだった。


次の瞬間、一真の踏み込みがさらに深くなる。


「抜けろォッ!!」


地面をえぐる炎柱が走り、

前線の穴が一気に広がった。


美咲はその背後で杖を掲げ、

二重詠唱を発動する。


空気が張り詰め、

重ねられた詠唱が、

戦場の水分そのものを震わせた。


片手で魔力を収束、

もう片手で軌道を制御。

彼女の足元に淡い紋様が幾重にも重なっていく。


「——《水蛇みずへびの奔流》」


地面から立ち上がった水蛇たちが絡みつき、

生き物のようにうねりながら走る。


逃げ場を与えぬ軌道で包み込み、

締め上げ、ねじ伏せるたび、

骨ごと圧し砕ける鈍い音が響いた。


次の瞬間、美咲は軽く息を吸い――

拘束された魔物へ、指を軽く弾いた。


「落ちて!」


音もなく放たれた極細の水槍が、

数十の急所を同時に穿ち抜く。


圧力だけで肉体を穿つ――《穿水連槍》


魔物は悲鳴を上げる暇もなく崩れ落ちた。


「イメージが形になる……本当に速い!」


美咲の唇が、

戦いの中でわずかに笑みを描く。


詠唱はない。

杖を前に突き出すだけ。


轟、と世界が潰れた。


前方に立ち上がる透明の城壁——

触れただけで骨を砕くほどの圧力を秘めた《圧縮水殻ハイドロ・ドーム》が、味方を包み込む。


同時に、水壁の内側から細い斬線が解き放たれた。


飛ぶのではない。走る。


——《断潮一閃》


地面をなめるように走る水刃が、

敵の魔法陣に触れた瞬間、

陣形そのものを削り取り、

消し去っていく。


ただ静かに、淡々と――

水だけが戦場を塗り替えていく。


それが、美咲の“水”だった。


健吾は《重絶じゅうぜつの盾》を地面に叩きつける。


大地が鳴り、空気が一瞬、潰れた。


「来いよ――全部まとめてだ!」


盾の中心に走る黒い紋が脈打つ。

次の瞬間、周囲の世界が“沈んだ”。


視界がわずかに歪む。

音が低く、重く、引き延ばされる。


圧壊領域――

重力そのものをねじ曲げる、異常な領域。


足を踏み入れた魔物たちは、

一様に動きを止めた。

止まったのではない。


押し潰されていた。


筋肉がきしみ、骨が悲鳴を上げる。

膝が砕け、地面へと叩き伏せられていく。


「ぐ、がああああっ……!」


オーガの巨体が地面へ沈み込むたび、

地面が波打ち、ひび割れが周囲へ走った。


健吾は一歩、前へ出る。


――たった一歩。


だが、その一歩が

圧力の壁となって戦場を押し流す。


盾を押し出した瞬間、

黒い波紋が前方へ広がり、

まとめて敵を地面へ叩きつけた。


「どけぇッ!!」


圧縮された重力が弾丸のように撃ち出され、

飛びかかってきた獣型の魔物が、

見えない手に掴まれたかのように空中で歪み、

内側から砕け散る。


血飛沫さえ、

重さに引かれて落ちる。


健吾の周囲だけ、

戦場の“法則”が変わっていた。


味方兵が驚愕の声を漏らす。


「前が――開く! 行けるぞ!」


健吾は息を吐き、

盾を地面へ突き立てる。


その瞬間、

圧壊領域が縦に伸び、

巨大な見えない壁となった。


押し寄せる魔物たちが、

壁に触れた瞬間――潰れる。


「ここは通さねぇ!

突破したきゃ、俺より“重く”なってみろ!」


挑発するように吠え、

健吾はさらに力を込める。


盾が悲鳴のように震え、

地平線まで続くかのように重力の波が走った。


前線が一気に押し上げられる。


道を作るのは、剣でも魔法でもない。


たった一枚の盾――

だが、その盾が戦場を支配していた。


三人の連携は、

訓練で試した時よりも、

はるかに洗練されていた。


一真が《灼斬の剣》で前線を割り、

敵の注意を引きつける。


美咲がその背後から水槍で敵の動きを封じ、水の壁で味方を守る。


健吾は盾で押し潰しつつ、

敵の突撃を根元から断ち切る。


敵陣の中央でまるで一点突破の矢のように、三人が突き進むたびに戦況が変わった。


敵は次第に混乱し始める。

飛行型の魔獣が火球を落とそうとした瞬間、美咲の水蛇が絡みつき、呪文を中断させる。


一真の炎柱がその隙を突いて隊列を焼き払い、健吾の重力壁が追撃を完全に封じた——


まるで一つの生き物のように、

三人が完璧に連動していた。


「すげぇな……あの三人だけで……!」

「壁が崩れたぞ、突撃だ!」


味方兵士たちが歓声をあげ、

雪崩のように後へ続く。

押し寄せていた魔王軍の部隊が、

彼らの前で瓦解していく。


「ふっ、手ごたえがねえな……」

一真が息を吐く。


「これが、進化の加護……いや、

それだけじゃないわね」

美咲が微笑む。


「そうだよ、お前らの強さも半端ねえ。武器が俺たちの能力を引き出してるみてぇだ。完全にシンクロしてるぜ」

健吾が笑い、盾を担ぎ上げた。


味方の部隊が前線を制圧し、

敵が後退を始めるころには、

戦場の空気そのものが変わっていた。


誰もが彼ら三人を“異常な存在”として見ていた。


やがて敵影が遠ざかり、号令が飛ぶ。

「ここまでだ、いったん戻れ!」


三人は互いに顔を見合わせ、

小さくうなずいた。



その少し離れた丘の影で――

悠真は、腕を組んだまま戦場を見つめていた。


「……やっぱり、桁が違うな」


炎で道を切り裂く一真。

戦場そのものを“書き換える”美咲。

重力で前線を固定し、押し流す健吾。


自分の作った装備が、

まるで“本来の持ち主”を得たかのように、

暴力的なまでの力を発揮している。


「俺の……進化の能力で作ったアイテムが、

勇者たちに渡ると、ここまで変わるのか……」


思わず息を飲む。


あれは武器の力だけじゃない。

勇者としての適性と、

アイテムの“進化段階”が

完全に噛み合っている。


——相性が良すぎるんだ。


ーーーーーー


魔王城の最奥。

漆黒の大広間に、

炎の揺らめく音だけが響いていた。


魔将バルザークは、

ゆっくりと地図の上に影を落とす。


押し進めた侵攻線は大きく湾曲し、

その中に――奇妙な“穴”があった。


「……ここだけ、崩れぬ」


低く呟く。


ヴァルミラが鉄仮面越しに目を細めた。


「勇者がいる拠点ですね。

それに、数名の特異戦力……」


「違う」


バルザークは、指で一点を軽く叩いた。


「勇者どもは厄介だが、理屈が通る。

剣、魔法、士気、補給……

いずれも説明がつく」


ごく短い沈黙。


「だが、ここだけは――“歪んでいる”」


将たちの視線が集まる。


侵攻は確かに進んでいる。

だが、そのたびに、

必ず一人の人間の名が報告書の端に残るのだ。


ゆっくりと、ヴァルミラが呟く。


「……ユウマ」


リシュヴァが、影の中で舌を鳴らす。


「だが、噛み合いすぎている。

あの人間がいる場所だけ、

戦況の“形”が変わる」


補給が追いつく。

壊れた陣形が、あり得ない速度で再構築される。

本来なら崩れるはずの戦線が、粘り続ける。


それらが、見えない糸でつながれるように、

滑らかに最適化されていく。


偶然が重なるには、度が過ぎていた。


バルザークは、静かに玉座へ身を預ける。


「勇者の剣よりも、

あの男の存在そのものが、気に入らぬ」


ヴァルミラが、低く問う。


「討ちますか?」


バルザークは首を横に振った。


「まだだ」


炎が、ぼう、と揺れ上がる。


「“何者か” を見極める。

あの人間は……ただの兵ではない」


魔将たちの間に、

言葉にならない寒気が広がった。


“脅威” と断じるには早い。

だが――


“違和感” だけは、確かにそこにある。


バルザークは、ゆっくりと目を閉じた。


「王の復活を前に、

無駄な芽は残せぬ」


そして、命が下る。


「監視をつけろ。

標的は勇者ではない。

ユウマだ」


静寂が落ちる。


王国はまだ知らない。

本人すら、気づいていない。


ただひとつだけ――確かだった。


闇は、すでに彼へ向けて

静かに手を伸ばし始めている。

第79話、最後まで、ご覧いただき本当にありがとうございます。(^^)

いよいよ後半戦ですね。


次回は、

第80話: 女魔将、ヴァルミラ。


ヴァルミラの視線が――

ゆっくりと、戦場の奥へと滑っていった。


「……あら」


唇がかすかに吊り上がる。


「おや? あの子かしら」


名は、もう知っている。


ユウマ。


ブクマ、評価、して頂けると励みになります。m(_ _)m。


ぜひ応援よろしくお願いします。

いろいろなご意見、感想もお待ちしています。

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