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第76話: 猛攻ーリオナス死守戦

リオナスの城壁は、昼夜を問わず魔王軍の猛攻に晒され続けていた。


砦の周囲には黒い旗が鬱蒼とした森のように林立し、

上空では竜型の魔獣が不気味な輪を描いて旋回している。


かつて穏やかな交易都市として栄えたこの街は、

今や煙と灰に塗りつぶされ、

石畳の上を負傷兵と避難民が途切れることなく行き交っていた。


その中心――崩れかけた市庁舎跡を急ごしらえで改造した臨時司令室で、

悠真は指輪を淡く輝かせていた。


《碧環の指輪》から放たれる青碧の光が、

壁に刻まれた簡易陣をひとつずつ活性化していく。


指輪の刻印活性の力で、崩れかけた防御陣を再起動させ、

周囲に漂うわずかな魔力を集めて補充する。

(詳しい特性は後書きに記載)


これさえあれば、まだ持ちこたえられる……。


「……あと二回。いや、

下手をすると一回が限界か」


光を注ぎ込みながら、

悠真は唇を噛みしめた。


補給路はほぼ断たれ、

回復薬も矢弾も、底を突きかけている。


「……次の突撃を凌げれば、

中央からの援軍が間に合うはずだ」


自分に言い聞かせるように独り言を零し、

指輪の光を慎重に微調整する。


背後では、リィナが短剣の刃を確かめ、

セレスが小さく指を動かしながら、

詠唱の確認を繰り返していた。


「正面門……

突破されるのは、もう時間の問題ね」


リィナが短く、鋭く告げる。


セレスは薄く首を振り、冷静に答えた。


「弓兵隊の半数はもう動けないわ。

それに、魔力回復薬も完全に尽きてる」


「ギリギリだな……」


悠真は顔を上げ、

崩れた窓越しに空を見上げた。


夕焼けとも夜ともつかない、どんよりとした空が広がり、

炎の煙が赤く妖しく照らされ、城壁の陰へと吸い込まれていく。


魔王軍の角笛が、低く、重く何度も鳴り響く。

そのたびに、遠くから市民の悲鳴が混じり、胸を締めつけた。


「悠真、次の突撃……来るよ」


リィナが短剣を固く握りしめる。

疲労は隠せないが、

その猫のような瞳はまだ鋭く輝いていた。


セレスは後方で杖を構えたまま、

淡々と告げた。


「前回の突撃から間隔が短い……

敵が焦っている証拠かもしれないわ」


「こっちは焦る余裕すらないけどな」


悠真は苦笑いを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。


「――やれることを、全部やるだけさ」


その言葉が終わらぬうちに――

砦の外から、

地を震わせる長い角笛の音が、

再び鳴り響いた。


魔王軍の進軍だ。


悠真は通路を抜け、瓦礫を踏みしめながら城壁へと急ぐ。

左右に整列した兵士たちが、ぼろぼろの鎧越しにこちらをじっと見つめていた。


疲弊しきっているはずなのに――

その視線だけは、決して消えていない。

希望の灯が、まだ燃えている。


「全員、下がるな!

ここが最後の盾だ!!」


悠真が声を張り上げると、兵士たちの背筋がわずかに伸びた。


リィナが短剣を高く掲げ、

「負けてたまるかーっ!」と、

耳をピンと立てるように声を張った。


セレスが小さく指を鳴らすと――

兵士たちの足元に青白い光の線が走り、

簡易の防御魔法が一瞬で展開した!


次の瞬間――ドゴォォォン!!


轟音が砦全体を揺らし、

外門の一部が粉々に崩れ落ちる!

粉塵が爆発的に舞い上がり、視界を覆った。


黒い皮膚の魔族たちが、

黒い波のように押し寄せてくる!

地鳴りとともに、

巨大な四脚獣が咆哮を上げて駆け抜けた!


「来るぞ――構えェェ!!」


悠真の合図と同時に――

弓兵たちが一斉に矢を放つ!!


矢は《碧環の指輪》の力で淡い青光を帯び、

魔族の先頭を次々と撃ち抜いた!


指輪が最後の力を絞り出し、

兵士たちの武器に強化の紋様を瞬時に刻み込んでいく!


「撃てる限り撃ち続けるんだ!」


リィナはその隙を突き、城壁の影から忍び寄った魔族を短剣で斬り伏せる!

影のように滑り込み、次の敵の背を正確に断つ。


セレスの詠唱が完成――

頭上に七本の巨大な氷柱が浮かび上がった!


「《断氷槍》――沈んで!」


ズバァァァッ!!


氷の槍が雨のように降り注ぎ、

魔族の列を容赦なく抉り取る!


それでも敵は止まらない。

後から後から、押し寄せてくる――


補給の尽きた兵士たちは槍を逆手に持ち替え、歯を食いしばって応戦する。

矢が尽きた弓兵は素手で瓦礫を投げつけ、

治療兵までもが盾を手に戦線へ並んだ!


セレスが再び詠唱を始め、

光の膜が城壁の内側に広がり、味方を守る。


悠真は《雷光の剣》を抜き放ち、

大きく振りかぶると――稲妻が刃を駆け抜けた!


「……ここを通すわけには、いかない!!」


斬撃が魔族の硬い皮膚を裂き、

電撃が連鎖して周囲の瘴気を一気に弾き飛ばす!


「悠真、後ろ!」


リィナの声と同時に――

魔族の弓手が城壁の上へ飛び乗ってきた!


悠真は即座に《氷柱の盾》を前に構え、

衝撃を真正面から受け止める。


盾の表面に鋭い氷柱が立ち上がり、

凍結の反撃が弓手を叩き落とした。


セレスが追加の攻撃魔法を叩き込み、

魔族の射手をさらに押し返す!


戦場は泥と血に塗れ、

叫び声と爆音が渦を巻く。


しかしその修羅の渦中にあっても――

兵士たちは、ほんの少しずつ、確実に敵を押し返していた。


リィナが荒い息を吐きながら、

「……信じられない……

まだ持ちこたえてるにゃ!」


セレスが小さく笑う。


「皮肉なものね。

補給は尽きてるのに、

士気だけは上がっていく」


悠真は頷き、剣を構え直した。


「ああ――絶対に守りきるんだ!」


その瞬間――


丘の向こうに、王国軍の旗が翻った!!


増援の馬蹄の音が、

風に乗って力強く響いてくる。


遠くから、王国軍の角笛が応答するように高らかに鳴り渡った!


「……来たにゃ!!」


リィナが興奮を抑えきれずに声を漏らす。


セレスが低く、安堵を込めて言った。


「間に合ったようね……」


砦の上に立つ兵士たちが、一斉に歓声を上げた!

疲れきった顔に、わずかな生気が戻ってくる。


悠真はその光景を見て、

一瞬だけ剣を下げた。


だがすぐに、戦場へ視線を戻す。


「まだ終わってないぞ。気を抜くな!

ここで一気に押し返すぞォォ!!」


《碧環の指輪》から、再び青碧の光が溢れ、

兵士たちの武器に、鮮やかな青い炎が宿る。


咆哮とともに剣と槍が振るわれ、

リオナス防衛戦の空気が、一気に逆転していく!


誰もが限界を超えていた。

だが、その限界のさらに奥底から――

もうひと踏ん張りを、絞り出していた。


援軍を加えた王国軍の猛反撃は、数時間にわたって続き、

ついに魔王軍を退却へと追い込んだ。


―――


夕陽が沈みかけた頃、

リオナスの街に、ようやく静けさが戻りつつあった。


城壁の外ではまだ黒煙が立ち昇っているが、

魔王軍の旗は遠ざかり、

地鳴りのような足音も、次第に薄れていった。


戦場に散らばる折れた武具や破れた旗が、風に揺れながら、

長い一日の終わりを静かに告げている。


悠真は、崩れた市庁舎跡地でようやく一息ついていた。


瓦礫を片づけて作られた仮設広場には、

市民兵や冒険者たちが肩を寄せ合い、

疲れきった顔で座り込んでいる。


誰もが無言で水を飲み、

包帯を巻き、

ただ生きていることを、互いに確かめ合っていた。


リィナは仮設テントのそばで短剣を磨き、

セレスは焚き火のそばに腰を下ろし、傷口を魔法で癒している。


戦いの直後とは思えないほど、三人とも言葉少なだった。


「ふぅ〜……」


悠真は大きく息を吐き、空を見上げた。


灰色と橙色が入り混じる空に、

王国軍の旗が誇らしげにはためいている。


援軍到着直後、

戦場の均衡はようやくこちらに傾いた。


リオナスは壊滅寸前だった。

だが――持ちこたえた。


それだけが、揺るぎない事実だ。


―――


あれから数日。


最初の援軍到着を皮切りに、

後続部隊が順次リオナスへと入城し続けていた。

補給物資も少しずつ届き始め、

街の復旧作業が本格的に進み始めている。


悠真たちは武器を置き、

戦士から労働者へと姿を変え、

瓦礫の撤去や負傷者の介抱に回っていた。


砕けた石畳の上には、

まだ血と灰の匂いが残っている。


悠真は袖を捲り上げ、

折れた梁を力任せに押しのけると、

下敷きになっていた商人の青年を引き上げた。


青年は呻きながらも「ありがとう……」と絞り出すように言った。

周囲の兵士たちに優しく担架で運ばれていく。


兵士たちの声には深い疲労が滲んでいるが、

もう以前ほどの切迫感はない。

あの地鳴りのような魔獣の咆哮も、今は遠い記憶になっていた。


「こっちに水を!」


「止血終わった、次の者を!」


交わされる声はどこか柔らかく、

ほのかな安堵さえ混じっている。


悠真は泥に膝をつき、

息を吐いた。


掌の中には、瓦礫の山から拾い上げた小さな銀のペンダントが、

冷たく光っている。


持ち主はもういないかもしれない――

それでも、悠真はそっと布に包み、懐にしまった。


通りの端では、

補給物資が山のように積まれ、

兵士たちが順に受け取っていた。


鎧の金属音よりも、包帯を巻く音のほうが多く聞こえる。


ほんの数日前まで死線にあった街が、

かすかだが確実に、息を吹き返しているのがわかった。


「あぶなかったな.....」


自分でも気づかぬほどの小さな声が漏れる。


そのとき――

瓦礫の間から、一人の兵が急ぎ足で駆けてきた。


街に緊迫した空気はもうなく、

報告の声にも切迫感はない。


兵は悠真の前で足を止め、息を整えて告げた。


「坂本一真さま、青山美咲さま、高橋健吾さま――

勇者のお三方が、率いる部隊とともにまもなく到着するとのことです!」


その名前を聞いた瞬間、

悠真は目を細めた。


「……勇者の三人が?」


リィナが短剣をくるりと回しながら顔を上げる。


「あの王都の? 珍しいにゃ!」


セレスは冷静な口調で、しかしわずかに興味を込めて言った。


「情報伝達が遅れていたのかもしれないけど……

援軍を率いていたのは、彼らかもしれないわね」


悠真は静かに頷き、

胸の奥に微かなざわめき――期待と緊張が混じったものを覚えた。


「……来たか」

第76話、最後まで、ご覧いただき本当にありがとうございます。(^^)


ちなみに、本文の内容に出てきた進化装備を参考までに↓。


■装備メモ


碧環へきかんの指輪》


特性①:魔力循環(周囲の魔力を集め、武器や陣に再供給する)

特性②:刻印活性(刻まれた簡易陣や術式を一時的に強化・再起動する)

特性③:魔力譲渡(仲間同士で魔力を安全に受け渡せる)


次回は、

第77話『乾杯する勇者たち』


美咲は、戦場の装備ではなく、

淡い灰色のワンピースに身を包んでいた。


髪も軽くまとめられ、首筋には銀色のペンダントが光っている。ほんの少しおめかししたその姿は、戦場で見せる鋭さよりも、ひどく柔らかい印象を与えた。


「似合ってるじゃん」

健吾が素直に言うと、


「ありがと」

美咲が小さく笑みを返す。

その笑顔が、悠真の胸に残った。


ブクマ、評価、して頂けると励みになります。m(_ _)m。


ぜひ応援よろしくお願いします。

いろいろなご意見、感想もお待ちしています。

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