第7話: 小さな事件への介入
進化の研究に没頭する日々が続く中、
悠真は予期せぬ事件に巻き込まれることになった。
夕暮れの市場で買い物を終え、宿へと急ぐ静かな路地を歩いていると。
「やめてくれ! それだけは勘弁してくれ!」
――聞こえたのは、張り裂けそうな叫び声。
「さっさと金を出せ、ジジイ!」
悠真はピタリと足を止め、声のする方向へ目を凝らした。
薄暗い路地裏で、年配の行商人が二人のチンピラに囲まれているのが見える。
(強盗か……? いや、ただのチンピラかもしれない)
どちらにせよ、老人が追い詰められているのは明らかだった。
悠真は物陰に身を潜め、様子を窺う。
「いいからよこせってんだよ!」
「頼む! これは家族を養う大事な商売道具なんだ!」
「うるせぇ! なら荷車ごと頂いてやる!」
チンピラたちは行商人の荷車を乱暴に引きずり、中身をガサガサと漁り始めた。
悠真は短く息を吐いた。
(どうする……? 相手は二人。武器を持ってる可能性もある。
でも、今の俺には『進化した武器』がある。試してみる価値はあるんじゃないのか?)
覚悟を決め、腰の剣に手をかけた。
心臓の鼓動が速まる。
そして、ゆっくりと路地から歩み寄った。
「おい、お前ら」
低く、落ち着いた声で呼びかける。
二人のチンピラがギロリと睨みつけてきた。
「……なんだぁ? 邪魔すんなよ」
「その人を放せ」
「はぁ? 寝言はよそで言ってろ!」
悠真は返答を無視し、無言で懐から「月光の杖」を取り出した。
杖の先端に意識を集中させると――
月光の加護――
シュンッ!
杖の先が淡い青白い光を放ち、路地裏を幻想的に照らし出す。
「なんだそりゃ……?」
「こいつ、ただの旅人じゃねぇぞ……」
チンピラたちの視線が一瞬乱れた。
その隙を逃さず、悠真は氷剣を鋭く抜き放つ!
シュゴォッ!
刃先から冷気が溢れ出し、周囲の空気がカチリと凍てつく。
試しに足元の小石を軽く斬ってみる。
瞬間、その表面が白く凍りつき、パキンと砕けた。
「なっ……!?」
「魔法剣だとぉ!?」
動揺したチンピラの一人が、短剣を振りかざして突進してきた。
悠真は左手に力を込める。
「召喚――!」
ドゴンッ!
左手に巨大な「岩石盾」が瞬時に出現!
同時に――
ガキィン!
短剣が岩肌に弾かれ、甲高い金属音を立てて跳ね返った!
「ぐっ……!?」
弾かれた男の腕が揺らぐ。
その隙を突き、悠真は氷剣を振り切った。
シュパッ!
刃先がかすめただけで、男の腕に白い霜が広がり、みるみる凍りつく。
「っつぅ! 冷てぇぇ!」
「こいつ……やべぇぞ!」
残ったもう一人のチンピラが慌てて飛びかかってきた。
悠真は杖を高く掲げる。
「目を閉じてろ!」
閃光!
バチィッ!
杖先から眩い光が炸裂し、
路地は一瞬、昼間のように照らされた。
「うわぁっ! 目がぁ……!」
視界を奪われたチンピラがよろめく。
悠真は間合いを詰め、氷剣の切っ先を男の喉元に突きつけた。
「……まだやるか?」
低い声に、2人は顔を青ざめさせ、短剣を投げ捨てて後ずさった。
「ちっ……忘れねえぞ!」
「覚えてろ!」
捨て台詞を残して、暗がりへ消えていった。
「た、助かった……! 本当にありがとう!」
行商人は深く頭を下げ、震える手で悠真の手を握った。
「危ないところでしたね」
悠真は剣を鞘に収め、ホッと息をついた。
「あんた、冒険者かい?」
目を丸くする老人に、悠真は軽く肩をすくめて笑う。
「まぁ、そんなとこです」
「いやぁ、すごい技だったよ! 本当に感謝しかない……」
老人がポケットから小さな布袋を取り出し、差し出してきた。
「たいした物じゃないんだが、受け取ってくれ」
中には色鮮やかなハーブの加工品や、香ばしい香りの保存食が詰まっていた。
「これくらいしか渡せなくて恐縮だが……」
「いや、助かります。ありがとうございます」
袋を受け取ると、老人は何度も何度も頭を下げた。
「君がいなかったら、私はどうなっていたか……! 本当に、本当にありがとう!」
悠真は少し照れ臭そうに笑い、軽く手を振って別れを告げた。
(ふぅ……初の実戦だったけど、思ったより上手くいったな)
夕暮れの路地裏に、悠真の足音だけが静かに響いた。
ーーーーー
宿に戻った悠真は、ベッドにドサリと腰を下ろし、深く息を吐いた。
「……疲れたな」
野盗相手とはいえ、人間相手の戦闘は初めてだった。
進化させた武具の力も確かに実感できた。
だが同時に、自分の未熟さも痛いほど分かった。
(今回は何とか勝てたけど……もっと強い相手だったら?)
一瞬、不安が胸をよぎる。
でもその一方で、別の感情も燃え上がっていた。
(俺は……まだまだ強くなれる!
武器の特性を上手く組み合わせれば、こんなもんじゃないはずだ!)
悠真はベッドの上に武具を並べ、一つ一つ手に取って確かめた。
【氷剣】
冷気を帯びた刃。敵の動きを封じる凍結効果が恐ろしく頼もしい。
【岩石盾】
地殻の力を吸収して進化した鉄壁の守り。
表面を撫でると、ほんのり温かく、衝撃を吸収するかのような独特の質感。
「コイツのおかげでマジで助かった……」
そして【月光の杖】。
月明かりの下で進化した光の武器。
光源として使えるだけでなく、戦闘では敵の視界を奪う強力な一手になった。
「組み合わせ次第で……戦い方はいくらでも広がる!」
そう考えると、胸の奥が熱くなった。
そして何よりも、最近知った嬉しい能力があった。
それは、進化させたアイテムなら自由に召喚(出し入れ)できること。
これが、自信を与えてくれた。
「......いける、次はもっとやれる!」
ーーーーー
翌朝、市場を歩いていると、聞き覚えのある声が飛んできた。
「おおー! あんたか! 昨日は本当に助かったよ!」
昨日助けた行商人のおじさんが、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「いえ、大したことしてませんよ」
「いやいや、とんでもない! あのままだったら荷車も商売道具も全部やられていた……!」
「それは良かったです。俺も試したい技があったんで、ちょうどいい機会でした」
悠真が苦笑すると、おじさんはキョロキョロと周囲を見回し、声を潜めた。
「しかし君は……不思議な力を持っているようだな?」
悠真は一瞬、身構えた。
「なぜそう思うんです?」
おじさんは顎に手を当て、思い出すように目を細めた。
「昨日の戦いを見て思ったんだが……あの氷の剣、どこかで見た気がしたんだよ」
「え? 本当ですか……?」
悠真は驚き、言葉を呑み込んだまま、次の言葉を待った。
彼はしばらく考えた後、
「.......思い出した! あの遺跡だ! 知り合いがそこで妙な武具を見つけたと、言ってたんだ」
「妙な武具……?」
「そうさ。なんていうか……“自然と一体化したような”ものだって言ってたな。例えば、刀身が凍ったままの剣、炎をまとった槍、風の力を感じる弓……お前さんの剣とどこか雰囲気が似てるような気がする。」
(……!)
悠真の心臓が、ドクンと跳ねる。
それはまさに、自分の進化武器の特徴そのものだ。
「その遺跡……どこにあるんですか?」
おじさんは少し声を落とし、慎重に言葉を選ぶように話し始めた。
「東に3日ほど行った谷にあるって話だ。だがな、簡単には近づけないんだ。
周囲に奇妙な霧が立ち込めてて、方向感覚が狂っちまうんだとか。
行った者はみな、同じ場所をぐるぐる回る羽目になるらしい」
悠真の目が鋭く光った。
「でも……?」
「ハハ、鋭いな! 確かに、運よく突破する奴もいるんだ。
そしてそいつらが、不思議な武具を持ち帰ってくるってわけさ」
おじさんはニヤリと笑い、続けた。
「噂じゃ、その遺跡では不思議な現象がよく起こるらしい。
気候が突然変わったり、特定の場所にいると武器が勝手に変化したり……
まぁ、ちょっと信じがたい話だがな」
(……! 武器が勝手に変化!?)
悠真は無意識に剣の柄をギュッと握りしめた。
進化の秘密に繋がる場所かもしれない。
「貴重な話をありがとうございます」
そう告げると、行商人は苦笑いしながら肩をすくめた。
「こっちこそ命拾いした礼だよ。ま、行くなら気をつけてな。
戻って来れないと、笑い話にもならんからな。」
悠真は軽く頷きながら、行商人と別れた。
「遺跡......武器が変化する……」
(俺の知らない何かが隠されているのかもしれない。)
宿に戻り、荷物をまとめながら、悠真は呟いた。
胸の奥で、静かな炎がメラメラと燃え上がる。
自分の知らない「進化」の秘密が、そこに隠されているかもしれない。
「絶対……確かめてやる!」
第7話、ご覧いただき大感謝です。
次回、第8話: 遺跡への挑戦!
是非よろしくお願いします。
いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。




