表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/86

第68話: 魔族の集う暗黒殿堂

思考より先に身体が動いた。


悠真は氷柱盾を解除し、

足元の崖を蹴って瞬電加速。

稲妻をまとった剣を両手で構え、

ガルザ=ヴェルグと二人の間に割り込んだ。


「させるかあああっ!!!」


風が耳を裂く。

閃光が走り、剣先がガルザ=ヴェルグの喉元に深々と突き刺さった。


「……おおおおおっ!!!」


雄叫びとともに、

悠真はさらに刃を押し込む。

雷光が怪物の神経を焼き切り、

ガルザ=ヴェルグが絶叫を上げる。


巨大な翼が暴れ狂い、

空気がねじれ、岩壁が砕け散った。


その衝撃波に弾かれ、リィナとセレスは必死に岩を掴み直し、崖の内側へと身を寄せた。


だが悠真は怯まない。

剣をさらに深くねじ込み、怪物の胸元に身体を預けるように密着すると――その勢いのまま、崖下へと落下していった。


谷底へと吸い込まれていく、二人の巨影。


――落ちる。


世界が逆さまに反転する。

轟音。

猛烈な風。

景色が高速で流れ、谷底の闇が大口を開けて迫り上がってくる。


ガルザ=ヴェルグが巨大な翼を広げ、

必死に体勢を立て直そうとする。


だが悠真は、

喉元に突き刺した剣を離さない。

両腕で怪物の首に絡みつき、

決して離れなかった。


崖下から吹き上がる暴風が襲いかかる。

まるで竜巻の核に落ちていくかのように荒れ狂っていた。

悠真のマントが裂け、布片が鞭のように顔を打ちつける。


「ぐっ……は……」

息ができない。

視界が白く飛ぶ。


だが同時に――脳裏に閃光のような直感が走った。


――今しかない。


吹き荒れる暴風。

巨大な翼。

身体にまとわりつくマント――そして、俺の力。


悠真は剣を押し込みながら、心の奥底で“風そのもの”に手を伸ばした。


「――いけ……進化しろ……!」


瞬間、目に見えない回路が繋がる感覚。

暴風が無数の糸となり、ガルザ=ヴェルグの巨躯を貫き、悠真のマントへと一気に注ぎ込まれる。


マントの繊維がビリビリと音を立てて裂け――そして、瞬時に編み直された。

布の感触が羽毛へと変わり、背中に“翼の感覚”が鮮やかに芽生える。

冷たい空気が掌で形を持ち、悠真はそれを掴むように大きく広げた。


ガルザ=ヴェルグが翼を震わせ、反撃に転じようとする。

だが悠真はそれを逆手に取る。怪物の巨大な翼の動きに完全に同調し、風の流れを自分の背へと奪い取った。


稲妻の剣がさらに深く貫く。

暴風の力がマントを駆け巡り――ついに、完全覚醒が訪れる。


悠真はすべてを感じ取っていた。

背に生まれた見えない羽ばたき。

空気の流れを掴む、確かな支配感。

そして、真下に迫る谷底の深い闇。


ガルザ=ヴェルグが金色の瞳を大きく見開いた。


悠真は、笑みとも咆哮ともつかない声を張り上げた。


「――お前の翼、全部もらったぁ!!」


稲妻と暴風が激しく交差し、空気が一瞬だけ無音になる。


そして――谷底の闇が、牙をむいた獣のように大口を開けて迫ってきたその刹那。 


指先から魔力が溢れ、巨大な翼と狂風が絡まり、背に集中する。


「……来いッ!」


バチンッ!!


乾いた炸裂音とともにマントが弾けた。


薄緑の燐光が迸り、鷹の羽のような蒼い輪郭が形成された。


風が形を取った。

見えない翼が、確かに――力強く羽ばたいた。


翼は暴風を吸い込み、速度を殺し、落下の軌道を変えた。


悠真の体がふわりと浮く。


ガルザ=ヴェルグが驚愕の目で睨む。だが、その黄金の瞳に映る人間は、もう獲物ではなく、同じ空を支配する捕食者の姿だった。


――脳裏に、輝く文字。


蒼風そうふうの翼》

 

【特性】

特性①:空気掌握(周囲の風を自在に操り、飛行と加速が可能になる)

特性②:風装強化(移動・攻撃・防御に風の加護を宿し、あらゆる動作が高速化する)

特性③:風緩衝ふうかんしょう

落下や衝撃の瞬間、空気のクッションを展開し、ダメージを大幅軽減する。


……これがお前の力か。


悠真がニヤリと笑うと同時に、背の蒼い翼が一度――大きく、力強く羽ばたいた。


ズンッ!!


空気が震え、風が唸る。


ガルザ=ヴェルグが咆哮する。

狂気を孕んだ翼が暴風を叩きつけ、崖の壁を削り取る。


だが悠真の背にある蒼い翼は、それよりも速く、より正確に風を操り、空中で鋭い弧を描く。


「行くぞ、ガルザ=ヴェルグ――これが俺の一撃だ!!」


雷光の剣に蒼い風が巻き付き、刃全体が淡く輝く。

翼を大きく羽ばたかせ、風を圧縮――一気に爆発的加速!!


ビュオオオオオッ!!


竜巻の芯のような一筋の軌跡が生まれ、悠真の身体は矢となってガルザ=ヴェルグの胸元へ突っ込んだ。


怪物の巨大な爪が振り下ろされる。


だが風がその軌道をねじ曲げ、わずかな隙を縫って懐へ潜り込む。


稲妻を帯びた剣が、ガルザ=ヴェルグの胸鱗を深々と裂いた。

硬質の鱗に、無数の亀裂が一気に奔る!!


「終わりだッ!!」


翼が二度、三度――力強く羽ばたいた。

風圧が唸りを上げ、雷鳴が腹の底に響き渡る。


悠真は剣に全魔力を注ぎ込み、渦巻く風と雷を一点に収束させた。


「《蒼風斬閃そうふうざんせん》――ッッ!!!」


ビィィィィィィィンッ!!!


蒼い光線が炸裂した。

稲妻を孕んだ風の刃が、崖下から突き上げるようにガルザ=ヴェルグの胸を貫き――そのまま背を抜け、天空へと駆け上がる。


ドゴオオオオオッ!!


衝撃に巨体が持ち上げられ、天へ弾かれたように激しく仰け反った。


巨大な翼が痙攣し、ガルザ=ヴェルグの喉から絞り出される絶叫が、谷全体を震わせる。


それでもなお、怪物は必死に翼を動かそうとした。

だが風は、すでに悠真のものだ。


悠真は蒼い翼を大きく広げ、渦の流れを反転させる。


巻き上がる暴風が巨大な渦を形成し、ガルザ=ヴェルグの巨躯を中心に――猛烈に締め上げていった。


「俺の……勝ちだッ!!!」


最後の閃光が迸る。

怪物の体表から無数の光の粒子が弾け飛び、翼がゆっくりと崩れ落ちていく。

暴風に呑まれた巨体は霧散するように粉々となって消滅した。


――風が、ぴたりと止んだ。


残ったのは、悠真の背で静かに羽ばたく蒼い翼だけ。


……勝った。


荒い呼吸のまま、悠真は空中に静止する。

足元には奈落のような深淵。

崖の縁では、リィナとセレスがこちらを見上げ、必死に何かを叫んでいた。


ーーーー


漆黒の大広間を、禍々しい燭台の炎が不気味に揺らめかせていた。

天井は闇の果てに溶けるほど高く、そこから垂れ下がる黒曜の鎖が、時おり冷たい金属音を響かせる。


奥の玉座前には、魔族の将たちが集い、低く擦れる声で言葉を交わしていた。


中央の玉座に座るのは、魔将バルザーク。

四肢を覆う分厚い鱗は天然の鎧のよう。過去の戦で折れた片角からは、濃密な魔気が絶えず滲み出し、常人なら近づくだけで膝をつくほどの圧力を放っていた。


左右に並ぶのは、それぞれ異形の威容を誇る魔将たち。


顔の半分を鉄仮面で隠し、無数の鎖短剣を吊した女魔将ヴァルミラ。

棘だらけの甲殻を揺らす巨躯のグローデン。

影のように立ち、三つ首の毒蛇を従えるリシュヴァ。

そして、灰色の毛皮に包まれた四腕の獣魔将ドルク。


誰もが、一歩踏み出すだけで空気が悲鳴を上げそうな魔圧を帯びていた。


すべての視線が、玉座の主へと集まる。

腕を組んだバルザークが静かに場を見渡す。その眼光が一人ひとりを射抜き、広間の空気をさらに重く沈めた。


「――黒炎の城が、落ちた、だと?」


低く放たれた声が、雷鳴のように大広間を震わせる。

ざわめきがピタリと止まり、張り詰めた静寂が訪れた。


ひざまずいた斥候が、紅い舌をちらつかせながら答える。


「報告は確かでございます、閣下。

いわゆる“勇者一行”と呼ばれる連中が、城を陥落させた模様。細部までは掴めておりませんが……」


鉄仮面の奥から、ヴァルミラが歯ぎしりを響かせた。


「忌々しい……あれほどの防壁を、いとも容易く突破されたとは。

黒炎の守護は、王が復活されるまでの時間稼ぎだったはずだ」


「だが、事実として落ちた」

バルザークが短く吐き捨てる。

「それも、勇者どもに、だ」


再び、低いざわめきが広間を駆け抜ける。


「奴らの勢い……侮れぬな」

「いや、それより――」


一人の魔将が声を落とした。


「ガルザ=ヴェルグが討たれたことこそ、信じがたい」


その名が出た瞬間、場の空気が一気に凍りついたように感じられた。


バルザークの眼光が、鋭く斥候を縫い止める。


「ほう……詳しく話せ」


「はっ!」

斥候が額を床に擦りつけるようにして続けた。


「あの谷に配していた《ガルザ=ヴェルグ》が、消息を絶ちました。

群れの半数が壊滅。調査に向かった小隊も一人も帰還せず……。

残された魔痕と戦闘の痕跡から判断するに――人間の手によって、討伐された可能性が極めて高いかと」


その言葉に、魔将たちは一斉にどよめいた。


「ガルザ=ヴェルグが……? 王が自ら作り上げたあの魔獣が?」

「人間ごときに……?」

「まさか……」


広間を満たす驚愕と怒りの声。

だが、その中に――わずかな、冷ややかな笑いが混じった。


バルザークはゆっくりと片角を撫で、静かに呟いた。


「面白い……。

ようやく、多少は楽しめそうな玩具が現れたようだ」

第68話、最後まで、ご覧いただき本当にありがとうございます。(^^)

大、大感謝です。


次回は、

第69話『魔族の採掘場“黒曜鉱区”』


肌にまとわりつくような圧迫感が三人を包む。


「……力が封じられてる」セレスが低く呟く。声がかすれていた。

鉱区の奥で赤黒く脈打つ巨大な結晶――魔精核が、心臓のようにドクドクと明滅している。

それがこの結界の中枢なのは、誰の目にも明らかだった。


「くっ...駄目だ……」


ブクマ、評価、して頂けると励みになります。m(_ _)m。


ぜひ応援よろしくお願いします。

いろいろなご意見、感想もお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ