第6話: 川辺での新たな発見
川のせせらぎが響くほとりに、悠真は腰を下ろした。透き通った水は冷たく、指先を浸すと身震いした。昨夜の雨で、山の雪解け水が流れ込んでいるようだ。
悠真は進化の条件を確かめるため、何度も試行錯誤を繰り返していた。盾の進化で、焚き火が媒介となったように、水もまた媒介の一つだと分かっている。
(でも、水ならどんな条件でもいいってわけじゃないはずだ)
「流れる水」「静かな水」「冷たい水」、同じ水でも違いが出るかもしれない。
悠真は手持ちの「古びた剣」を取り出し、冷たい川の水に浸してみた。
——ピシッ……!
刀身にわずかな霜が浮かび、周囲の空気がひんやりとする。
「おっ、来た!」
(もし……冷たさも進化に影響を与えるんだとしたら?)
以前作った「水流の剣」は流れる水の中で生まれた、しかし今回は——。
悠真は剣をさらに深く水に沈めた。
川の流れは冷たく、手を入れているだけで感覚が奪われそうになる。
(もっとだ!もっと冷やすんだ......)
悠真は水の中で剣をしっかり握ったまま、川の中心に向かった。流れ込む雪解け水はどんどん冷たくなっていく。
——すると、その瞬間——
ガキィンッ!
刀身全体が一瞬にして白く染まり、淡い氷の膜が張った。
「冷てぇ!」
たまらず剣を川から引き上げると、周囲の水滴が瞬時に凍りつき、キラキラと光る結晶が剣の表面を覆っていた。
頭に声が響く。
《氷剣》
特性: 攻撃時に冷気を帯び、対象を瞬時に凍結させる
「すげえ……!」
(冷たい水が媒介になったってことか)
目を輝かせ、剣を握る。刃に触れると、指先に冷気が刺さる。
進化の方向は、温度や状況によっても決まる。
——新たな発見に、胸が弾んだ。
しかし、同時に一つの疑問が生まれる。
悠真は、今生まれたばかりの「氷剣」を手に取り、改めて進化の実験を試みようとした。
(この剣を、さらに違う媒介で進化させたらどうなるんだ?)
たとえば、再び炎にかざせば「蒸気の剣」になるのか? あるいは、風の力を与えれば「吹雪の剣」になるのか?
焚き火を起こし、剣を炎にかざす。——期待が膨らむ。
しかし——
何も起こらなかった。
(……ダメか)
一度進化したアイテムは、二度と進化しない。
それは「水流の剣」のときもそうだった。進化を終えたアイテムは、それ以上変化することなく、その形で固定される。
(じゃあ、「やり直し」はできないってことだ……)
つまり、失敗すれば、そのアイテムはもう二度と別の進化を遂げることはない。
選択を誤れば取り返せない——悠真はその事実を強く意識した。
続いて「錆びた短剣」を取り出した。
(冷たい水ではなく、普通に流れる水で進化させてみよう)
悠真は短剣を川の水に沈めた。
しかし、今度は先ほどとは違う現象が起きた。
——ジジジ……
水中で短剣が不穏な音を立て、刀身が徐々に崩れていく。
「えっ……マジか!?」
慌てて引き上げるが、遅かった。
ポロッ——
短剣は跡形もなく崩れ去り、手元にはただの柄だけが残った。
間に合わなかった.....
「なぜ……!?」
手が震える。
(進化にはリスクがある……状況によっては、進化の途中で壊れてしまうこともあるんだ....!? )
つまり、進化は万能でもない。失敗すれば、アイテムは消滅してしまう。
川辺に腰を下ろして、息を整える。
「ふう.....」
氷剣を手に、頭を整理した。冷たい水で成功、普通の水で失敗。
うーん...
「温度」や「状況」によって進化は異なる。
二度の進化はしない。
消滅することもある。
(なるほど....媒介は目に見える物体だけではない。だとすれば「自然環境」そのものにも大きく影響を受けるのかもしれない)
これからは、やみくもに試すのではなく、成功率や結果の予測について調べ……
あれ……?
いや、ちょっと待てよ?
悠真はふと、重大なことに気づいた。
予測できるものと考えること自体、都合が良すぎるのではないか?
もしかして、進化にはどうしても避けられない、ある種の「ガチャ的要素」が絡んでいるのではないか?――
(.....もっと知りたい。この能力で、俺はどこまで行けるんだろう)
♢ガチャ的要素の発見
悠真は、川辺での実験を経て、進化の条件が媒介や環境に強く依存することを理解した。
しかし、それと同時に「進化の結果は予測しきれるものではない」ということにも気づき始めていた。
翌日。
——レーベンの市場は朝から活気に満ちていた。屋台から漂う果物の甘い香り、鍛冶屋の響く金属音、冒険者たちの高らかな笑い声。
悠真は市場に出かけると、使い古しの装備を安く買い集めた。
夕方近くまでじっくり物色すると、宿に戻って、テーブルに戦利品を広げた。
錆びた剣二本、折れた杖、小石三つ、割れた盾など。
「試すなら、こういうボロボロの装備がちょうどいいよね」
さらに、以前スライムを倒したときに手に入れた小さな魔核も取り出した。
「魔核……本当にこいつが進化の媒介になるのかどうか、ずっときなってたんだ」
まずは、錆びた剣に魔核を触れさせる。刃が淡く発光し始め、頭に声が響いた。
《魔刃の剣》
特性: 魔力伝導(使用者の魔力を刃に通すことで、斬撃に魔力を帯びさせる。)
手に取ると、刃が漆黒に染まり、わずかに魔力の波動を感じた。
「おおっ、魔核は魔法属性か……これ、強いぞ!」
興奮が抑えられない。魔核があれば、魔法系の進化が狙える。
次に、折れた杖を進化させようと考えた。
夜空に月が瞬く。
「月明かりの下で進化させたら、また違った効果になるかもな」
折れた杖を屋上の月明かりに晒す。
しばらくすると、杖がかすかに光を帯び——
《月光の杖》
特性: 月光の加護(夜の間、杖の先から微細な月の光が漂い、魔法の詠唱をわずかに補助する。)
杖の先で光が揺れる。
「ふーん、星空とは、また違うタイプの進化だ」
だが、すべての進化が成功するわけではなかった。
調子に乗って、小石を媒介に、錆びた剣を進化させようとしたがー。
《砕けた刃》
「……は?」
刃がボロボロに崩れ、使い物にならなくなってしまった。失敗だ。
「くっ……無駄にしちまった」
また、別の錆びた短剣に小石を触れさせたときは——
《毒の短剣》
特性: 微毒付与(刃がわずかに紫がかり、命中時に低確率で微量の毒が付着する。)
「毒!? 石で!?」
普通の石が媒介だったのに、今度は毒の属性を持つ武器に変化した。
予想外の結果に目を見開く。同じ媒介でも、結果は予測できない。
「.....ガチャだ。」
やはり、進化のルールには**予測不能な「ガチャ的要素」**がある。
さらに、新たな検証をするため、魔核を2つ同時に使ってみることにした。
すると——
突然、剣から不穏な魔力がほとばしり、悠真の手を離れて宙に浮いた。勝手に動き始めたのだ。そして、宿の屋根を斬りつける。
「えっ?おいおい、ちょっと待てって!」
予測不能な動きをする剣に翻弄され、息をのむ。
悠真は慌ててそれを掴もうとした。
「くそっ、止まれ!」
しばらくの間、剣は暴れ回ったが、やがて動きを止めた。悠真は恐る恐るそれを拾い上げる。
《暴魔剣》
特性: 不安定な魔力放出(剣が魔力を暴走させ、一定時間ごとに意図しない衝撃波を発生させる。)
「……扱いづらっ!」 剣を握る手が怖ばった。
「……魔核が強すぎると、暴走する可能性があるのか? それとも2つだからか? いや、違うな……。もしかしたら、自分のレベルが関係しているかもしれない……」
おかげで、以下のことが、わかった。
結果はランダム(ガチャ)であり、壊れたり暴走することがある。
そして、魔核を使うと魔法属性が付与される
「ふふふ.....とはいえ.....次は何を進化させようかな」
悠真は口元に笑みを浮かべ、新たな実験に胸を躍らせた。
「この力で、どこまで行けるか——試す価値は充分にある。」
第6話、ご覧いただき大感謝です。
次回、第7話: 小さな事件への介入!
是非よろしくお願いします。
いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。




