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第50話: 古代魔族が使った封印符

「証拠はねぇがな。

ただ、連中が動くと必ず不幸が広がる。

病や暴動、戦の影――全部だ」


店主は低く笑った。

「お前らも気をつけな。

深入りすりゃ、この街で二度と朝陽を拝めねえ」


悠真は杯を置き、深く息を吐く。

確証はない。だが、点と点が線になり始めている。


 ◇


宿に戻る帰り道。

夜の市場はひっそりと静まり返っていた。

昼の喧噪が嘘のように消え、石畳に月光が白く落ちている。


リィナがぽつりと漏らす。

「北方領に送られてる薬草…… 

本当に“治す”ためのものなのかにゃ?

もし逆だったら?」


その言葉に、

三人の足がピタリと止まった。


セレスが夜空の月を見上げた。

「月影商会はただの闇商会じゃない。

古代魔族の封印符を扱える人間が背後にいる。

そんなこと、普通じゃありえないわ」


犬の遠吠えが夜に溶ける。

 

――確かめなくては。

この街を覆う影の正体を。


表通りを外れた瞬間。


空気が変わった。


「気づいた?」

隣を歩くセレスが、低く囁いた。


「ああ……足音が増えてるな」

悠真の手に、氷柱の盾が音もなく現れる。


気配は三つ、いや四つ。背後を取り囲むように迫ってくる。


リィナも小さく頷き、短剣を抜いた。

刃に走る稲妻の紋様が月光を弾く。


「完全に囲まれたにゃ……」


次の瞬間、黒い外套の男たちが姿を現した。

三日月の印が腕に浮かぶ。月影商会の見張りだ。


「おや……迷子の旅人がこんな裏道に?」

声は軽いが、その背後に潜む殺気は隠しようもない。


「よそ者がうろつくには遅い時間だな」

先頭の男が鼻で笑い、片手を掲げる。


暗がりの中で刃の鈍い光が一斉に立ち上がった。

 

悠真は即座に盾を構え、仲間を背に庇った。

「悪いが、今は道を譲ってもらうぞ」

  

「そうはいかない」

合図をすると同時に、影が一斉に飛びかかってきた。


リィナの短剣が電光とともに閃き、敵の目を灼く。

金属を弾く音が夜に響き、一人が怯んだ。


「下がって!」

雷光の一閃が武器を弾き腕をかすめる。

男は呻き声をあげて後退した。


一方でセレスは杖を掲げ、低く詠唱を紡ぐ。

「氷鏡――映し惑え」


路地の壁一面に、透き通った氷の鏡が次々と浮かび上がる。

姿が複雑に反射し、どれが本物か判別できなくなった。


敵が振るう刃は鏡に弾かれ、逆光を浴びた彼ら自身の影が不気味に揺らめく。幻惑の魔法だ。


「くっ、魔術師か……!」

見張りたちは焦りを露わにし、動きが鈍る


悠真はその隙を逃さなかった。

盾を構えて前に踏み込み、相手を壁際に押し付ける。

鉄と肉のぶつかる音が響き、男が呻き声をあげて崩れ落ちた。


「リィナ、セレス! 抜けるぞ!」


三人は一気に駆け抜ける。

背後で氷の鏡が砕け、敵の怒声が響いた。

だが、追撃はすぐに止まった。


リィナが肩越しに振り返り、息を切らしながら言う。

「……変にゃ。あれだけ囲んでおいて、本気で仕留めに来なかった。それに……動きが妙に統率されてた」

 

セレスも頷き、眉間に皺を寄せる。

「氷鏡に映ったわ。後ろで、まだ見ているだけの影がいた。手を出す気配もなく、私たちの動きを観察していた」

  

悠真は奥歯を噛む。

「つまり、今のはお試しってことか。俺たちの力を測るために……」


宿の灯りが見えてきても、三人の緊張は抜けなかった。

退けたというより、見逃されたような感覚が胸に残った。


ーーーーー


宿に戻ったのは、夜半を過ぎたころだった。

路地裏での小競り合いを経て、まだ張り詰めた空気が漂っている。


リィナは靴を脱ぎすてるなり椅子にドサッと身を投げ出し、

セレスは黙ったまま窓辺に立ち、外の街を見下ろす。

悠真だけが落ち着かず部屋を行き来している。


「……大きな影が、いるな」

悠真の独り言に、セレスは視線を戻した。


「ええ。あの小競り合いは見せつけよ。

私たちに『見ている』と知らせるための」


そのとき、扉が控えめに叩かれた。

三人が警戒の目を交わすと、悠真が盾に手をかけて応じる。


「……俺だよ。エルムだ」


扉を開けると、少年が立っていた。

疲れが残る表情だが、瞳は迷いがなかった。


「妹の熱が下がったんだ。……ありがとう」


リィナが少し照れくさそうに腕を組む。

「薬草師のばあさんがいい仕事しただけにゃ」


でもエルムは首を振った。

「違うよ。俺ひとりじゃ、何もできなかった。

……だから力になりたいんだ、あんたたちが追ってる“月影商会”のこと、俺にも手伝わせてほしい」


静寂。


悠真が、その瞳をじっと見つめ返した。


「……危険だぞ。本当にいいのか?」


静かに問いかけると、少年は力強く頷いた。


「わかってる。でも、妹だけじゃない。

貧民区じゃ、同じ症状で倒れる奴がどんどん増えてる。

腐った水も、怪しい薬も……あいつらが流してるんだろ?」


エルムは拳を握りしめ、声を震わせながら続けた。

「俺はずっと、見てるだけだった……。

でも、もう嫌なんだ」


その目に嘘はなかった。


悠真はゆっくりと笑って、

右手を差し出した。


「わかった……歓迎するよ。エルム」


少年は目を丸くして――

その手を、力強く握り返した。


ーーーー


翌朝、悠真たちは冒険者ギルドにある資料室を訪れた。


昼間は依頼や報酬を求める人々で賑わうギルドも、

奥の書庫は別世界のように静かだった。


埃の舞う本棚で、セレスが古い書物をめくる。

やがて、指先がピタリと止まった。


「……あったわ」


ページに描かれた、

三日月の封印符。


「古代魔族が使った禁忌の印。

魔力を封じ、操り、時に増幅させる……

かつて人の国を滅ぼした“呪い”の象徴よ」


リィナが顔をしかめる。

「じゃあ、やっぱり魔族が関わってるってこと?」


セレスは静かに頷いた。


「師匠の言葉通りだわ。

『封印は忘れられたとき、必ず誰かの手で解かれる』――

今、まさにそれが起こってる」


悠真が拳を握りしめる。

「月影商会の背後に、魔族がいる。

もしそれが事実なら、――これは、もう街だけの問題じゃない」


リィナは机を軽く叩き立ち上がる。

「じゃあ決まりだにゃ!

裏で何をやってるのか、この目で確かめる!」


重苦しい空気の中、三人の進む道だけははっきりしていた。

闇は深い。でも、もう退くわけにはいかなかった。

第50話、最後まで、ご覧いただきありがとうございます。嬉しっす。(^^)


次回は、第51話『魔族の影』です。


「上位個体.....魔族の中でも選び抜かれた存在よ。私たちの力じゃ絶対に勝てない」


その一言に、リィナの手が震える。


「じゃ、じゃあ……どうすれば……いいにゃ……」


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ぜひ応援よろしくお願いします。

いろいろなご意見、感想もお待ちしています。感想もお願いします。


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