第5話: 試行錯誤の始まり
レーベンの町の門をくぐると、活気が悠真を包んだ。
市場の喧騒が耳を打ち、人々が行き交い、商人が道端で商品を並べ客を呼び込んでいる。
屋台には色とりどりの果物や干し肉が並び、鍛冶屋から金属を叩くカンカンという音が響く。異世界の匂い——スパイスと汗、土と鉄が入り混じる。
(......こっからだ……俺の居場所を必ず作ってみせる。)
「でも、まずは宿探しだな……」
幸い、レーベンの町はそれほど大きくない。豪華な宿から安宿まで選択肢はあったが、悠真が向かったのは路地裏の安宿だった。
「一泊銀貨一枚。食事はついてないけど、部屋はちゃんと鍵がかかるし、ベッドもあるよ」
受付の老人はそう言いながら、埃っぽい鍵を渡してくれた。
「ありがとう」
(今の俺にはこれで十分だろ)
悠真は部屋に入り、荷物を下ろした。簡素な木のベッドに机とガタつく椅子がひとつ。小さな窓からは市場のざわめきが遠く聞こえる。
(さて……本番だ)
悠真は、とりあえず、持っている武器や道具を机に並べた。
進化させて生まれた水流の剣、そして、市場で買った古びた盾、路地で拾った壊れかけの杖、雑貨屋の錆びた短剣。
(進化の鍵は、おそらく「媒介」…..問題は、どうすれば意図した進化を起こせるかってことだ)
これまでの経験から、「水流の剣」は水を媒介にして進化した。ということは、他のアイテムも何かを媒介にすれば進化するんじゃないか?
胸が高鳴る。失敗すれば、なけなしの金で手に入れた武具が壊れるかもしれない。それでも、試さなければ何も始まらない。
「もう、どうにでもなれだ!」
♢最初の実験: 炎と盾
悠真は宿の裏庭にある焚き火のそばへ向かった。夜になれば、宿の住人たちが集まって暖を取るための焚き火だ。
「炎……これを媒介にしたら、どんな進化をするんだろう?」
盾をそっとかざす。汗が額に滲む。何が起こるかわからない——緊張が喉を締める。
——ゴォォッ……
盾がほのかに赤く輝き、熱を吸うように震えた。
(きた……!)
悠真は慎重に観察する。火の熱が盾に吸収されていくような感覚。錆が剥がれ、盾の表面に炎の紋様が浮かぶ。熱い脈動。 そして、次の瞬間——
頭に響く声。
《炎耐性盾》
特性: 炎によるダメージを軽減
(成功だ……!)
炎にさらしたことで、盾が耐火性能を持つように進化したらしい。
「いけるぞ……!」
悠真は拳を握る。媒介の性質が進化を決める。炎なら耐火——単純だが、可能性は無限だ。
(やっぱり媒介が重要なんだ。適切な環境を用意すれば、狙った進化ができるかもしれない)
♢次の試行: 夜空と杖
宿に戻り、今度は壊れかけの杖を手に取る。
(これを進化させるには、どんな媒介が適している?)
ふと、窓の外に広がる星空を見上げた。
——夜。闇の中に輝く無数の星々。
「綺麗だなぁ..…こんな星空、元の世界じゃ見られなかった。......ゆっくりと、星空を眺める余裕もなかったしなぁ」
静かな美しさに心が動く。そして、杖をそっと窓の外に掲げた。
「……光よ、力を与えろ!なんてね」
そう願った瞬間、杖が微かに発光した。微かに震え、木のひびが消えると、星屑のような模様が刻まれる。
手に伝わる不思議な感覚——やがて、それは確信へと変わる。
《星光の杖》
特性: 夜間に光を発し、魔力の流れを安定させる
「すげぇ.....!」
(また成功だ……!)
悠真は小さく息をのんだ。
「あははは、面白いぞ!」
悠真の目が輝く。媒介次第で、進化の可能性は無限に広がる。何が起こるか分からないリスクも、このドキドキする胸の高鳴りも、まさにこの力の醍醐味だ。
次の日、悠真は町の市場へ向かった。
昨日進化させた「炎耐性盾」と「星光の杖」。この二つを売れば、まとまった金になるかもしれないと思ったからだ。
「まずは武器屋にでも聞いてみようかな....」
市場の一角にある小さな武器屋に入り、店主に進化したアイテムを見せた。
「この盾、炎に強いんだ。試してみてよ」
「ほう……炎耐性があるのか?」
「ええ、試しに火にかざしてもらえれば分かると思います」
店主は興味深そうに焚き火へと盾をかざす。そして、炎の熱を感じ取った瞬間、炎が弾かれた。驚いたように目を見開く。
「こいつは本物だ……! こんな特殊な盾、見たことがねぇ」
「いくらで買ってくれます?」
「銀貨5枚でどうだ?」
(……悪くないぞ)
悠真は交渉し、「炎耐性盾」を銀貨6枚で売った。次に「星光の杖」も売り、最終的に合計で銀貨8枚を手に入れた。
(凄いぞ!これでしばらく生きていける!)
笑顔がこぼれる。追放された元勇者が、初めて自分の力で金を稼いだ瞬間だった。
市場の喧騒を背に、悠真は思案する。媒介が鍵——炎、星、水、次は何だ? 進化は予測できない。それでも、その不確定さこそが、興奮を呼ぶ。
悠真は、分かったことを整理した。
・進化には媒介が必要(炎、夜空、水など)
・その特性が進化結果に影響する
・進化したアイテムは売れる(収入源になる)
だが、まだ疑問は多い。
もっと強い媒介なら? もっとすごいアイテムが生まれるんじゃないか?
胸が高鳴る。
——最初に作ったのは、川辺で試した水流の剣だった。
あそこなら、また新しい進化が生まれるかもしれない。
(そうだな……また川辺で試してみよう)
こうして、悠真は新たな進化の可能性を求め、町の外へと向かった——。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
第2章: 進化の一歩 - 条件と媒介を模索する
に入りました。
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