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第4話: 新たな旅の始まり

(戦えた……俺でも)


 異世界に来て初めての戦闘。スライムという低級の魔物だったが、勝てたという事実は大きな自信につながった。


 そして、手にした「水流の剣」は、悠真の能力によって進化した武器。この力があれば——そう思うと、少しだけ前向きになれる気がした。


 「……とりあえず、町を探そう」


 情報も宿も、食料すらない。何より、この世界で生きていくために金を手に入れなければならない。


 川沿いを歩きながら、悠真は周囲の風景を眺めた。


 青く澄んだ空。遠くに広がる深い森。風に揺れる緑の草原。


 この世界には、地球にはない不思議な植物が見られる。例えば、ほのかに光を放つルミナスグラスや、甘い香りのするエルダーハーブなど。意識をすれば脳内の情報が教えてくれた。


 (まるでファンタジーの世界そのものだな……)


 目の前の景色に感嘆しながら進んでいると、やがて道らしきものが見えてきた。


 土の道が森へと続いており、その脇には木製の看板が立っている。


 『レーベンの町まで徒歩2時間』


 「お、いいぞ。よし、いい感じになってきたじゃないか」



 森に入ると、一気に周囲が暗くなった。木々が生い茂り、太陽の光があまり届かない。


 悠真は気を引き締め、足を速めた。


 「慎重に行かないとな……」


 悠真は剣の柄に手をかけながら歩き続けた。


 ——その時だった。


 ガサッ……!


 突然、木の陰から何かが飛び出してきた。


 「っ!?」


 悠真が反射的に剣を抜くと、視界に入ったのは黒い毛並みを持つ狼のような魔物だった。


 「これは……」


 悠真はすぐにアイテム鑑定を試みたが、魔物には反応しない。


 (俺の鑑定はアイテム限定か……でも、植物に反応するんだから、生き物だって見えていいはずだ)


 集中し、魔物を見つめると、頭の中にぼんやりとした情報が浮かんできた。


 《——魔狼(低級)/攻撃手段:爪、牙/弱点:水》


 (なるほど……断片的な情報だが、水に弱いのか、ちょうどいい)


 悠真は進化した「水流の剣」を構えた。


 「こいつなら……やれる!」


 次の瞬間——魔狼が跳ぶ。

爪が空を切り、風が唸る。悠真は踏み込み、剣を振り上げた。


 ズバッ!


水の刃が魔狼の脇腹を切り裂き、血飛沫が散る。魔狼が吠え、地面に倒れる。だが、もう一匹が横から襲いかかる。


「くそっ!まだ、いたのか!」


剣を薙ぐ。水流が渦を巻き、魔狼を弾き飛ばした。ズバッ!


体が裂け、地面に崩れた。血の匂いが鼻をつく。


「はぁ……はぁ……!」


(やったのか?)

 慎重に様子を見たが、動く気配はない。悠真は大きく息をつき、震える手で剣を鞘に戻した。


スライムより手強かった。だが、勝った。

 (俺だって、やればできるんだ)


ようやく森を抜けると、開けた草原の先にレーベンの町が見えてきた。木造の家々が並び、鐘楼がそびえる。市場の喧騒や馬車の音が遠くに響いていた。


 「はぁ……やっと着いたか」


悠真は安堵しながら門へと向かう。


だが、追放された自分がこの世界でどうやって生きて行けばよいのだろうか——その答えはまだわからなかった。


♢レーベンの町


木製の門に近づくと、見張りの兵士が二人立っていた。


「おい、おまえ! 身分証を見せろ」

 

 (え?身分証……そんなの持ってないぞ)


焦りが胸をよぎる。だが、正直に話すしかない。


「すみません、あははは.....身分証はないんです。旅人で……」


兵士たちは怪訝そうな顔をしたが、続けて尋ねた。


 「最近、勇者召喚があったって噂だが……まさか、お前がその勇者ってことはないよな?」


悠真の心臓がドクンと鳴った。


(勇者……もう俺は違う)


王の冷たい言葉、坂本の嘲りが脳裏をよぎる。唇を噛み、静かに答えた。


「いえ、俺はただの旅人です」


そう答えが、悠真が、よほどひ弱そうに見えたのだろう、兵士たちは特に疑うこともなく門を開けてくれた。


 「よし、通っていいぞ」


 こうして、悠真は異世界での最初の町レーベンへと足を踏み入れたのだった。


市場の活気、香辛料の匂い、冒険者らしき剣士の笑い声。異世界の息吹が全身を包む。


(ここから……俺の旅が始まる)


剣を握り、悠真は胸を張った。

「この力で、絶対に証明してやる」


王や坂本に、俺が不要じゃないってことを——。

第4話、ご覧いただき大感謝です。

次回、レーベンの町から悠真の旅が本格始動! いろいろなご意見、お待ちしています。感想もぜひです!


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