第38話: 爽快無双バトルに突入。
最初に姿を現したのは、牙を剥いた大狼の群れだった。
リィナが駆け抜けるたび、《雷哭の短剣》が閃き、稲光が地を走る。巨体が音もなく崩れ落ち、草の匂いに焦げた匂いが混じった。
「軽い! 切れ味もすごいにゃ!」
悠真は雷光の剣を振り下ろし、轟音と共に十数体の魔物を一瞬で灰に変えた。青白い閃光が闇夜を裂き、視界いっぱいに暴れ回る。
「威力は十分。問題なしだ」
――だが。
森の奥から、低い振動が地を這うように伝わってきた。
木々が一斉になぎ倒され、闇の中から溢れ出す魔物の群れ。
狼、蜥蜴、巨大な虫、影のような獣――視界の端から端まで埋め尽くすほどの数だった。
リィナの足が止まる。
「……え、ええ〜! これはちょっと、多すぎない?……」
悠真は肩をすくめ、苦笑した。
「腕試しのつもりが……模擬戦どころじゃないな」
「これじゃあ、街が……飲み込まれちゃうよ……!」
それでも、リィナの瞳は怯えよりも熱を帯びていた。
短剣を素早く納めると、背中の弓を引き抜いた。弦を軽く弾き、にやりと牙を見せるように笑う。
「でもさ――こういう無茶の方が燃えるんだよにゃ!」
「同感だ」
悠真は剣を構え、雷鳴を呼び起こす。
青白い光が空を裂き、闇夜を昼のように照らす。
「まとめて灰にしてやる!」
「いくにゃっ!」
リィナは弓を引き絞った。雷迅の弓は、雷鳴丘の残滓が宿ったかのようにしなやかに光を放つ。
一射目、放たれた矢はまるで稲妻の軌跡を描き、前方の魔狼の頭を貫いた。矢が命中すると同時に、周囲の空気が爆ぜ、二匹目三匹目の魔狼が連鎖するように弾き飛ばされる。
さらに二射目の矢が地面に突き刺さると、雷が駆け抜け後方の群れを弾き飛ばす。
“雷矢変換”と“属性共鳴”――二つの特性が完璧に融合した瞬間だった。
「ひゃっ……これ、本当に私の矢?!」
リィナ自身が目を丸くする。撃った矢が、雷精のように変化し、森を照らしていく。
次々と放たれる矢は木々の間を閃光のごとく走り、魔狼が雪崩のように倒れていく。一人で軍勢を薙ぎ払う狩人の女神のようだった。
「すげぇな……。だが、まだ来るぞ!」
悠真が前に出る。
矢の雨を抜け、なおも魔物たちは突進してくる。
十、二十、三十――際限がない。
「悠真、後ろ! 囲まれる!」
リィナの叫びにも、彼は振り返らない。むしろ口元に笑みを浮かべた。
「いい機会だ。雷光の剣、本気で試してみるか」
剣を天へと掲げる。瞬間、空気が震えた。雷雲もない晴天に、白き稲妻が奔る。
刃を振り下ろす――雷が地を裂き、群れの中心へ突き刺さった。
耳をつんざく轟音。衝撃波が草木をなぎ倒すと共に、魔物たちが一斉に跳ね飛ぶ。
黒焦げの残骸が、雷鳴の残響とともに夜空へ舞い上がった。
「うわっ……!」
リィナは思わず耳を押さえる。鼓膜を揺らし、腹の底まで震わせた。
煙が晴れると、地面には焦げた魔物が折り重なっていた。
ただの一撃で、群れの半分が消えた。
「……一撃で、これ……?」
リィナの声は震えていた。
だがまだ終わりではなかった。後方からさらに大群が押し寄せてくる。
「数が減ったくらいじゃ止まらないよな」
悠真は低く呟き、再び剣を構える。
そして、振り下ろした軌跡は雷そのものだった。前方を薙ぎ払った瞬間、数十体の魔物が宙を舞う。
二閃――数十匹が灰になる。
三閃――大地に亀裂が走り、電撃が根こそぎ群れを焼き尽くす。
雷鳴は終わらない。
もはやそれは一人の剣士の戦いではなく、天そのものが怒りを爆発させているかのようだった。
「す、すご……にゃ……」
リィナがかろうじて声を絞り出す。
それでも彼女の手は止まらない。矢が雷に導かれるように飛び、放つたびに稲妻が奔る。
弓と剣、雷と矢――二つの光が絡み合い、嵐のように大地を覆い尽くす。
それは戦闘というより、もはや“災厄”だった。
やがて最後の雷光が森を貫き、轟音とともに魔物の群れが完全に沈黙した。森には静けさだけが残る。
悠真は剣を地に突き立て、息を整えた。
「……終わったな」
風が抜け、焦げた匂いが遠ざかっていく。
生き残った魔物は、一匹もいなかった。
「う、嘘みたい……」
リィナは弓を握ったまま震えていた。
自分の矢が、こんな力を持っていたなんて夢にも思わなかった。
悠真もまた、剣を見つめた。
刃の奥で、まだ小さく雷がうずくように光っている。
「……俺たち、強くなりすぎてないか?」
「かもね。でも…...悪くない気分だにゃ」
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
雷と矢が織りなした無双の戦いは、彼ら自身にすら驚きを与えていた。
ーーーーー
街はまだ騒然としていた。
魔物の群れを退けた悠真とリィナの名は、瞬く間に広まり、人々は彼らを英雄のように扱い始めていた。
広場を通るたびに「おかげで助かった」「雷鳴の勇者だ!」と声が飛んでくる。本人たちはどこか照れくさそうにしながらも、決して悪い気はしなかった。
「にゃっはっは! 悠真、聞いた? 英雄だってさ!」
リィナが胸を張って歩く。
「いや、浮かれるなよ。俺たちはやるべきことをやっただけだよ。」
「でも、みんな本気で感謝してるにゃ。悪い気はしないでしょ?」
そう言って笑う彼女の表情は、戦場での鋭さとは打って変わって、猫のように無邪気だった。
そんな折、街の宿で一人の旅人と出会った。
雪を思わせる純白のマントは、動くたびにひらりと舞う。
先の尖った帽子には氷の結晶を象った飾りが揺れ、見る者に冷たい気配を与える。
肩まで流れる銀髪は月光のように艶やかで、その腰に携えた黒木の杖には古代文字が刻まれていた。
光沢の美しい深青のローブには大胆なスリットが入り、脚線を美しく見せつつ、戦闘時の俊敏な動きを可能にしていた。
ひと目でわかる――この世界において只者ではない、まさに“魔法使い”だった。
「やっと見つけたわ! あなたが……雷を呼ぶ剣士ね?」
「そして、あなたが、その相棒でしょ?」
彼女はまっすぐ悠真を見つめ、口元に淡い笑みを浮かべた。
「にゃ、にゃんだ?」
リィナがたじろぐ。
息を切らせながらも、彼女は目を輝かせる。
「私はセレス。雪山の村から来たの。お願い、助けて!」
言うが早いか、セレスは勝手に椅子を引いて腰を下ろし、卓上の水差しをぐいっと一気に飲み干した。
「ふう〜、生き返るわ。でね、事情を説明するわ」
悠真とリィナが顔を見合わせる間にも、彼女は早口でまくしたてた。
「雪山の村ではね、このところ異様な寒波が続いてるのよ。それに魔物が妙に活発になってきて、村の外にすら出られりゃしない。食料も底を尽きかけてて、このままじゃ全滅よ! しかもね、村を守っていた『氷の盾』まで消えちゃったの」
そう口にする刹那、彼女が触れた水差しの縁から、ビー玉ほどの小さな丸い氷がこぼれるように生まれていた。
それがテーブルに転がり落ちると、白く濁り回転して消えた。
あまりにも小さい動きなので、注意しなければ見逃してしまいそうだった。
そして、話している最中も、小さな氷の粒が一つ、また一つと現れては、音もなく溶けるように消えた。
まるで彼女の言葉のリズムに合わせて、魔法が無造作にこぼれているかのようだった。
「え?え?...何て?」
悠真は一瞬、粒が気になって頭に入ってこなかった。
「だから〜!私の村、めっちゃ寒くなって、魔物も暴れまくりで、食料もつきてヤバイの。で、『氷の盾』まで消えちゃったの!」
セレスはわざとらしく机をドンと叩いた。
「どう? もう完全に詰んでるでしょ?」
すると、氷の粒もコロンと跳ね、薄い光を放って消えた。まるで彼女の感情の高ぶりに反応したかのような動きだった。
「ちょっと……落ち着けよ」
そう言ったものの、内心ではテーブルに目を奪われていた。
悠真はテーブルに散る氷粒を一瞥し、すぐに顔を上げた。
「つまり――『氷の盾』が消えたせいで、村の防衛が崩壊寸前ってわけか」
リィナも小さくうなずく。
「えっと......村人がすごく困ってるってことだよね」
「そう! そういうこと!」セレスは嬉しそうに手を叩いた。
「それでね、私ひとりじゃどうにもならなくて……あなたたちにお願いしたいのよ」
「にゃ......なるほど〜。」
リィナはうなずきつつも、テーブルの上で消える氷の粒にみとれていた。
どうやら、セレスは無意識に魔法をこぼしているらしい。
セレスの図々しさと真剣さが混じった調子に、悠真は思わずため息をついた。
リィナと視線を交わすと、セレスはにやりと笑って肩をすくめた。
「また面白い話が転がり込んできたにゃ。どうする、悠真?」
「……放ってはおけないな」
「やっぱりね! じゃあ決まりにゃ!」
こうして三人は、雪山の村へと向かう旅に出ることになった。
第38話、最後まで、ご覧いただきありがとうございます。嬉しっす。(^^)
次回は、第39話『偏屈な魔法使いセレス』
新キャラクター登場で、ドキドキしてますが、
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