第37話: 雷鳴鉱石の短剣と新たな装備
雷鳴丘を後にした二人は、来た道とは違う山道を下っていた。
帰り道は不思議なほど穏やかで、雷光の剣が時おり柔らかく光を放ち、まるで道案内をしてくれるようだった。
やがて嵐の気配は遠ざかり、旅の疲れを引きずりながらも、街の灯が視界に入ったときには、思わず互いに顔を見合わせ小さく笑った。
「……ようやく帰ってきたにゃ」
「本当に……やっとだな」
二人はそのまま宿へと足を運び、一晩、疲れを癒すようにぐっすりと眠った。そして翌朝、雷鳴丘で手に入れた鉱石を携えると、鍛冶屋へ向かった。
炉の熱気が押し寄せ、鉄を打つ音が響く。
顔なじみの主人は二人を見ると、ニヤリと笑った。
「おう、また来たか。あの剣の調子はどうだ?」
「もう最高。気に入ってますよ。でも今日は、こいつで新しい武器を作ってほしいんだ」
悠真は布袋を差し出す。鍛冶屋がそれを開けた瞬間、目を丸くして、手にした槌をポロリと落とした。
「……まさか....お...!? おい、冗談だろう?雷鳴丘の鉱石なんざ、並の冒険者じゃ手に入らないんだぞ!」
炉の赤光に照らされた鉱石は、青白い稲光を宿したように輝き、鍛冶屋の顔を映し出す。主人はしばし言葉を失い、それからゆっくりと息を吐き出した。
「……信じられん。まさか、あの死地からこれを持ち帰るとは……」
驚愕と感嘆をないまぜにしながら、やがて職人の目が興奮から真剣な光へと変わった。
「……わかった!時間をくれ。一本の短剣として形にしてみせよう」
主人はそう言い終えるとすぐに炉へ向かい、轟々と火くべ始めた。 二人は、鉄槌を握る背中を見届けると街へと繰り出した。
「さあ、ここからが本番だ。装備をしっかり整えるぞー!」
「にゃー!狩りの準備は完璧にゃ!」
鎧屋では革鎧を新調し、矢羽根屋では上質な矢を選ぶ。
雑貨屋では冒険に必要な道具を買い揃えた。
リィナが軽く身体をひねって、装備の感触を確かめる。
「おお、動きやすいにゃ。前のより軽い!」
「だろ?防御力も上がってる。これなら少しの無茶でも大丈夫だ」
「無茶するのは悠真にゃ」
「ははは、お互い様だ」
街を歩きながら、久々に人の喧騒に包まれ安心感を味わう。屋台の香ばしい串焼きをつまみ、宿で湯に浸かり、しばし嵐を忘れた穏やかな時間が流れた。
翌日も二人は街を駆け回り、装備の仕上げを重ねた。
商人との値段交渉ではリィナが粘り強く食い下がり、悠真はただ笑って見ているしかなかった。
そうして出来上がった装備は、それぞれが持つ個性を際立たせていた。
リィナがスカートと小手を合わせた軽装姿に身を包むと、以前よりも可憐な鋭さを漂わせ、周囲の視線を集めていた。
その後は悠真の出番だった。
これまでの戦いで手に入れた魔核やアイテムを媒介に、新しい装備をひとつずつ進化させていく。
彼女が選んだのは、群青色のショートスカートを基調にした戦闘用の軽装。
動きやすさを重視しながらも、裾には銀糸で雷を模した紋様が刺繍され、見る者に凛とした印象を与える。
スカートの下には黒のニーハイタイツが重ねられており俊敏さと防御を両立させていた。
胸元の《翠紋の胸当て》は、戦いの傷を癒やす力を宿し、瘴気や毒にも耐える。
腕には小手《雷燕の小手》が嵌められ、細やかな動作に反応して稲光のような軌跡が走り、彼女の矢を導く。
そして足元には、白銀に輝く《迅翼ブーツ》。疾風加速の効果で踏み出すたびに速度を補助し、足音すらかき消した。
背中の弓――《雷迅の弓》は、黒木に雷の鉱粉を混ぜ進化させたもの。射られた矢はわずかに雷を纏い、命中と同時に雷撃を走らせる。
《無尽の矢筒》からは、一定時間ごとに魔力の矢が再生され、戦いが途切れることはない。
「……すごい。まるで身体の一部みたいに馴染むにゃ」
リィナが弓を構え、軽く動いてみる。髪が風を切り、銀糸の刺繍が光を返した。
「お前のために進化させたんだ。しっかり使ってくれよ」
リィナは頬を赤く染め、小さく頷いた。
悠真の装備は、実戦で俊敏に立ち回るスタイル。
黒と深青を基調にした胸甲は柔軟で、衝撃を受け流す。
腕から肩にかけては薄手の籠手を装着し、腰には必要最低限の道具だけを吊るした。
動くたびに風が流れ、軽やかに地を蹴る感覚が伝わる。
背に負う《雷光の剣》は、鞘の中にあっても電撃の気配を放ち、握れば稲妻がわずかに走る。
攻めにも守りにも転じられるその装備に、悠真は確かな手応えを感じていた。
数日後、鍛冶屋を再訪した二人を、主人が迎えた。
炉の奥から取り出された一本の短剣。布を外すと、刃の根元に稲妻が奔った。
「……これが、お前の雷鳴鉱石の短剣だ」
黒曜石のような柄、青白く光る刃。静かな力を秘めたその姿に、誰もが息を呑む。
「持ってみな」
リィナは思わず両手で抱きかかえ、目を丸くする。
刃が微かに鳴き、彼女の気配に呼応するかのように雷が閃いた。
「……きれいにゃ。手に、ぴったり馴染む」
「ぴったりだな」悠真が笑う。
鍛冶屋は満足げに頷き、低く言葉を添えた。
「雷の魂を封じた武器だ。扱いは慎重にな」
その日のうちに、悠真は一人で雷鳴丘へと向かった。
雷光の剣を掲げると稲妻は道を開き、嵐はその力に逆らえなかった。
「やっぱりな、今なら造作もないか」
頂に到達すると、彼は雷鳴鉱石の短剣を掲げた。
次の瞬間、天が裂けたような閃光が降り注ぎ、雷が刃を駆け抜ける。
轟音が収まると、手の中には新たな武器が生まれていた。
《雷哭の短剣》
特性①:雷撃付与(斬撃時に稲妻が走り、感電効果を与える)
特性②:瞬閃移動(戦闘中、短距離を電光のように移動できる)
「……これで完成だ」
翌朝、街へ戻った悠真はその短剣をリィナに手渡す。
「わー、ありがとにゃー!」
リィナは嬉しそうに短剣を構え、軽く振ってみせる。刃が空を裂き、稲妻の尾が残った。
「にゃふふ……ちょっと強そうになった気がする」
「いや、かなり強そうだぞ」悠真が真顔で言う。
「そ、そう? 本当に?」
「次は、俺が置いてかれるかもな」
「そんなことないにゃ! ……たぶん」
二人は笑い合った。雷鳴丘での嵐が嘘のように、リィナの笑顔は、雷のように明るかった。
ーーーー
その夜、街の空気は妙にざらついていた。
家々の窓が一斉に閉まり、扉の閂の軋む音が通りに響く。
巡回中の兵士が血相を変えて駆け抜けていくのを見て、悠真はただならぬ気配を察した。
「何があった?」
声をかけると、兵士は振り返りざま、息を荒げながら答える。
「南の森から……魔物の群れが押し寄せてる! 数が尋常じゃない、数百は下らないって!」
その声は恐怖で震えていた。
普段は散発的にしか現れない森の魔物たちが、一斉に動いている――それは異常の証だった。
リィナが短剣の柄を握り、耳をぴんと立てる。
「数百って……そんなの、普通じゃないにゃ……」
悠真は夜空を仰いだ。
遠くの森の上に、青黒いもやが立ち込めているのが見える。雷を孕んだ雲のように、不吉な光を帯びて。
「……瘴気にやられたか。魔石が割れて、魔物どもが狂ったのかもしれない」
低くつぶやきながら、悠真は背負った剣を抜いた。
刃が闇を裂き、雷光が淡く走る。
その光が彼の瞳を照らした時、リィナはすでに頷いていた。
「装備の仕上がりを確かめるには、絶好の機会にゃ」
「だな。どうせ放っておいても被害が出る。先に叩くぞ」
「ふふ、言われなくてもそのつもりにゃ!」
二人は視線を交わすと、門を抜けて夜の外へ飛び出した。
第37話、最後までご覧いただきありがとうございます。嬉しいです!(^^)
ちなみに、本文の内容に出てきたリィナの進化装備を参考までにまとめました。
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**リィナの装備**
《迅翼のブーツ》
① 疾風加速(走行速度↑・跳躍力強化)
② 風纏い(足音消去・隠密補助)
《翠紋の胸当て》
① 自然治癒(戦闘後体力徐々回復)
② 毒耐性(自然毒・瘴気軽減)
《雷迅の弓》
① 雷矢変換(矢に雷属性・感電付与)
② 速射強化(連射速度↑・精度維持)
《無尽の矢筒》
① 矢生成(一定時間で魔力矢再生)
② 属性共鳴(弓属性で矢攻撃力↑)
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次回、第38話『爽快無双バトルに突入』
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