第3話: 初めての進化 - 川辺の剣
城の扉を後に、悠真は重い足取りで丘を下った。
異世界の風は冷たく、銀貨10枚の小袋がやけに軽かった。
行くあてもない。知らない世界、知らない文化。頼れるのは、この見ず知らずの「アイテム進化」の力だけだ。
(王の冷笑、坂本の嘲り……本当に俺は不要なのか?)
唇を噛み、拳を握る。悔しさが胸を焼くが、立ち止まるわけにはいかない。
丘を下りると、緩やかに広がる平原が見えてきた。遠くには森が広がり、小さな川が流れている。
「水でも飲むか……もし魚でも捕れれば食料になるかもしれない」
喉の渇きと空腹を紛らわすため、川へ向かった。
透き通った水がゆるやかに流れる川辺でしゃがみ、両手で水をすくう。冷たい感触が火照った頭を落ち着かせた。
「ふう.....」
ふと、水底で鈍い光が揺れた。
「……剣?」
苔に覆われ、錆びついた古びた剣。刃は欠け、柄はひび割れていた。形状からして騎士が使っていたものだろう。
悠真は川に手を伸ばし、剣を拾い上げた。
「これ……使えるのか?」
ずっしりとした重みがある。だが、剣の状態はひどく、まともに戦えそうな代物ではない。
(でも……俺の能力って、アイテムを進化させるんだよな)
試しに剣を握り、じっと見つめる。すると——
突然、悠真の脳内に情報が流れ込んできた。
《進化可能なアイテムを確認》
心臓が跳ねる。
剣の材質や傷が、まるで頭に流れ込むようにわかった。
そして、進化の条件が浮かび上がった。
《媒介:水》
(媒介……?)
半信半疑で、剣を川の水に浸す。何が起きるんだ⁉︎
——一瞬、胸が締め付けられる。
「うわっ!?」 剣が青白く輝いた。
水面が波立ち、剣の錆が溶けるように消える。刃に水の波紋が刻まれ、柄が銀色に輝く。まるで剣が意志を持ったかのように、軽く唸った。
手に残ったのは——
《水流の剣》
が誕生した。
《特性: .........》
「な、なんだ、これ……!」
悠真は驚きながら剣を握り直した。
重量はほぼ変わらないが、握ると力が脈打つ。
剣に宿る何かを感じた。
「すげえ……! これが俺の能力?」
悠真は試しに剣を振ってみる。
すると、刃の軌道に沿って水が流れるような残像が生まれ、キラキラと光を反射した。
追放の屈辱が、初めての希望に変わる。
戦闘向きではないと言われたが、剣が、武器が、進化によって性能を上げるのなら、戦える可能性はある。
(もしかして、この能力……使い方次第では、かなり強くなれるんじゃないか?)
高揚感が胸を満たす。その時ーー
ガサガサッ
近くの茂みが揺れた。
悠真は驚き、ハッと身構える。
次の瞬間、青い半透明のスライムが、赤い目を光らせ現れた。三体。ぬるりと動く姿に、背筋が冷える。
「……敵、か?」
スライムが滑るように向かってくる。心臓がドクンと鳴った。
「くそ、やってやる!」
悠真が一歩踏み出すと、それに反応したようにスライムが飛びかかってきた。
「うわっ!?」
悠真は剣を振った。
シュッ!
刃がスライムの体を切り裂く。
その瞬間、刃から発せられた水流がスライムを包み込み、一瞬だが僅かに氷結させた。
「えっ……!?」
スライムは凍りついたまま砕け散る。
(この剣……水だけじゃなく、氷の力も持ってるのか!?)
二体目も跳ね、襲いかかってくる。粘液が飛び散る。
悠真はもう一度剣を振るった。
今度は刃の動きに沿って水の波が生まれ、スライムを押し流すように攻撃する。
ズバッ!
弾けるように消滅。地面に青い粘液がべっとりと残った。
最後は、剣を横に薙ぐ。
シュワッ!
水流が渦を巻き、スライムを飲み込んで粉砕した。
「はぁ……はぁ……」
息を整え、剣を握り直す。初めての戦闘。心臓がまだ鳴っている。
「勝った……!」
確かにスライムは弱い魔物かもしれない。しかし、悠真にとっては異世界での初めての勝利だった。
そして、自分の能力が戦闘にも活かせると分かったのは大きな収穫でもあった。
(俺の力……意外とやれるのかもしれないぞ?)
そう思った瞬間——
《スライムの魔核を入手しました。進化の媒介として使用可能です》
「……は?」
脳内に再び情報が流れ込む。
地面に小さな赤い結晶が光っていた。拾い上げると、ひんやりとした感触。
「これが……魔核?」
これを使えば、別のアイテムを進化できるのか?
「進化の条件には、媒介が必要ってことなのか……?」
悠真はふと、自分がまだ知らない能力の可能性に気づく。
(もし、強い魔物の魔核を手に入れたら……)
もっと強い武器を作れるんじゃないか?
王も坂本たちも、俺の能力を「戦闘向きじゃない」と判断した。
だが、戦う手段がないわけではない。
「……面白くなってきたじゃんか」
悠真は剣を腰に掛けると、魔核をポケットにしまった。
やるべきことが見えてきた。
この能力の真価を確かめるために、もっといろいろ試してみる必要がある。
そして、自分が戦えることを証明するために——。
次の町へ向かう決意を胸に、悠真は歩き出した。
この世界で、自分の居場所を見つけるために——。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
自分でもどうなっていくのかわからなくて、今後が、楽しみだったりしてます。笑
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