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第23話:再会の地(襲撃、再び!)

「……この森、懐かしいにゃ……」


リィナは静かに呟いた。


彼女と悠真は旅の途中、偶然にもリィナの生まれ故郷である森の近くを通ることになった。リィナにとっては、かつてカイルと共に暮らした場所。そして、すべてが始まった場所だった。


「リィナ……ここが?」


悠真が隣を歩きながら尋ねると、リィナは小さく頷く。


「うん。ここが、あたしの故郷だよ」


悠真は驚いたように目を見開いた。


「でも、ここには村なんてないよな……? 亜人の里とか、そういう場所があったのか?」


「……ううん。ここにはもう、何もないにゃ」


リィナは、どこか寂しげに森を見つめた。


悠真は一瞬、踏み込んでいいものか迷った。

しかし、彼女の表情から何か言いたそうな気配を感じ、そっと言葉をかける。


「……行ってみるか?」


「……いいの?」


「もちろんだ」


2人は歩みを止め、森の奥へと足を踏み入れた。


ーーーー


懐かしい森の匂いが鼻をくすぐる。風の音、葉のざわめき、そして、遠くで小鳥たちのさえずる声――すべてが、かつての日々と変わらないように思えた。


しかし、この森にはもう、彼女の知る家も、焚き火を囲んだ暖かい夜もない。


(カイル……)


かつて彼女を救い、育ててくれた義父のような存在。彼との思い出が、この森の至るところに刻まれている。


木漏れ日の中を進むにつれ、リィナの表情は次第に曇っていった。


(この辺り……昔、カイルと歩いた道……)


目に映る木々の配置や、小さな小川の流れさえも記憶のまま。

しかし、それは逆に彼女の胸に重くのしかかる。


「……ここだったにゃ」


そう呟いた先には、かつてリィナが暮らしていた家のあった場所が広がっていた。


だが、そこには何もなかった。家は跡形もなく、わずかに崩れた石の基礎だけが残されている。


「……カイルがいたら、なんて言うかな……」


寂しげに呟くリィナの耳が、ふとピクリと動いた。


――ガサッ


わずかな物音が、森の奥から響いた。


悠真も気づいたのか、すぐに剣に手をかける。


「誰かいる……?」


リィナはそっと耳を澄ませた。

そして、視線を奥へ向けると、そこには……。


「……足跡……?」


確かに、新しい、人の足跡が残っていた。


「最近、誰かがここに来たみたいだな……」


悠真の言葉に、リィナの瞳が見開かれる。


(まさか……!)


彼女は急いで足跡をたどり、森の奥へと駆け出した。


「リィナ! 待て!」


悠真も慌てて後を追う。


ーーーーー


足跡を追い、森の奥へと進んでいくと、次第に空気が張り詰めていった。


(この感じ……嫌な予感がする……)


そして――


「……誰か、いるの?」


リィナが警戒しながら声を発した瞬間だった。


――ギィィンッ!!


突如、木々の間から矢が飛んできた。


「危ない!」


悠真がとっさにリィナを庇い、剣で矢を弾く。


その直後、木々の陰から複数の影が姿を現した。


「……これは……!」


全身を黒い鎧に包んだ男たちが、悠真たちを取り囲んでいた。


リィナの目が驚きとともに大きく見開かれる。


(この感じ……この雰囲気……あのときと、同じ……!)


その瞬間、彼女の脳裏に幼い頃の記憶がフラッシュバックする。


燃え盛る炎、逃げ惑う人々、そして――


「……ちっ!」


悠真が剣を構え、敵をにらみつけた。


「お前ら、何者だ?」


しかし、黒い鎧の男たちは何も答えない。

ただ、静かに武器を構えるだけだった。


(いや……違う……)


リィナの体が小さく震える。


(今のあたしは、もう……!)


彼女は必死に呼吸を整え、弓を構えた。


「リィナ、大丈夫か?」


悠真が横目で彼女の様子を伺う。


「...へ……平気にゃ」


そんな決意とともに、彼女は弓を引き絞る


(もう、逃げるだけの自分じゃない……!)


強く弓を引き絞り、彼女は前を見据える。


「来るぞ!」


悠真の声が響くと同時に、黒い鎧の男たちが一斉に襲いかかってきた。


「はっ!」


悠真は鋭い剣撃で迫る敵を斬り伏せる。

しかし、次々と現れる黒鎧の兵士たちは、まるで感情を持たない人形のように、淡々と剣を振るってくる。


一方、リィナも弓を素早く構え、矢を放つ。


「……っ!」


矢は、黒鎧の視線の先、目前の木を貫いた。

だが、敵は怯むことなく動き続ける。


(おかしい……普通なら、今の一射で動きが鈍るはずなのに……)


リィナは違和感を覚えつつも、集中を切らさないように次の矢をつがえた。


そのとき――


――キャアアアッ!!


どこか遠くから、悲鳴が聞こえた。


「!?」


リィナと悠真は一瞬動きを止め、声のした方向へと視線を向けた。


(今の……!?)


確かに、それは人の声だった。しかし、それだけではない。


「……この声……」


リィナの耳がぴくりと動く。彼女にはわかっていた。


(この声……猫耳族の声だ……!)


彼女の瞳が大きく揺れる。


(まさか……まだ、生き残りが!?)


「悠真、あっちに誰かいるにゃ!」


「……! 行くぞ!」


悠真は即座に判断し、敵の包囲を突破するべく前方の敵を一掃する。


「リィナ、援護頼む!」


「……!」


リィナはすぐに応えようとしたが――


(……体が、動かない……?)


いつもなら迷わず弓を引いていた。


だが、今は――


(うっ...戦えるの……? 私に……できるの?)


指が、震えていた。


「リィナ!?」


悠真の声がする。しかし、リィナには、目の前の光景がまるで過去の惨劇と重なって見えていた。


――猫耳族の悲鳴

――村が燃え、同胞たちが斬り伏せられていく。


――母の手が、自分を庇うように倒れた。


――何もできなかった。怖くて、ただ震えていた。


(また……また、同じことになる……?)


心臓が高鳴る。息が苦しくなる。


「リィナ! どうした!?」


悠真が叫ぶ。


しかし、リィナは恐怖に飲み込まれて、立ち尽くしてしまう。


その間にも、戦いは続いていた。


悠真が前へと駆け出し、敵を引きつけながら叫ぶ。


「くそっ……リィナ!」


そのとき――


「……リィナ、なのか?」


低く震えるような声が聞こえた。


リィナははっとして、声のした方を振り返る。


そこには、一人の青年がいた。

猫耳を持ち、精悍な顔立ちをした青年。


「えっ……」


その顔を見た瞬間、リィナの瞳が大きく見開かれた。


「……シュリ!? シュリなの!?」


「やっぱり……リィナ、なんだな……!」


リィナの幼馴染、シュリ。


彼はこの村を離れず、ずっとここで生き続けていたのだった。


しかし――


「話は後だ!」


悠真が叫ぶ。


「まだ戦いは終わってない!」


シュリもすぐに状況を理解し、手にした短剣を構えた。


「リィナ、今は生き延びることを考えろ!」


「……っ……」


リィナは震える手で弓を握りしめた。


(お願い...動いて……)


(ああ...どうして……?)


目の前で、かつての仲間たちが傷ついていく。


悠真も、シュリも、戦っている。


(でも……私は……)


足がすくむ。


このままではいけないとわかっているのに、体が動かない。


(怖い……怖いにゃ……!)


リィナは唇を噛みしめ、

必死に心を奮い立たせようとした。


しかし、その恐怖を完全に振り払うには、

まだもう少し時間が必要だった――。

第23話、ご覧いただき大感謝です。

毎日更新中ですが、いずれ月水金にする予定です。^^;


次回、『第24話:乗り越えるべきもの』も

是非【応援よろしくお願いします。】

ブクマ、評価、お願いします。

いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。


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