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第22話: 幼き日の誓い(リィナ過去編:旅立ちの涙)

リィナが生まれ育ったのは、深い森の中にひっそりと存在する猫耳族の集落だった。

他の種族からの支配が及ばないこの地で、猫耳族は長い間、自分たちだけの文化を築き、慎ましくも平和に暮らしていた。


リィナは、その村の狩人の家に生まれた。父は弓の名手であり、母は薬草に詳しく、村の人々の病を治す役割を担っていた。2人とも穏やかで優しく、リィナにとっては何よりも大切な存在だった。


「リィナ、いつかお前も立派な狩人になれるよ」

「私もパパみたいに強くなりたいにゃ!」


そんな夢を抱きながら、リィナは毎日、森の中を駆け回っていた。


しかし、猫耳族の楽園とも言えるこの村は、決して安泰ではなかった。

なぜなら、魔族たちが、彼らを商品と見なし、時折、襲撃してくるようになったからだ。


特に最近になり、魔族と契約を交わした魔従兵などが頻繁に村の近くをうろつくようになっていた。

魔族たちがなぜ猫耳族を狙うのか――それは、彼らの特殊な身体能力や魔力適性の高さに目をつけ、奴隷として売りさばくためだった。


それでも、村の戦士たちが奮闘し、これまでの襲撃は何とか退けてきた。

リィナもまだ幼いながらに、森に張り巡らされた警戒網の中で小さな役割を果たし、村を守ることに誇りを感じていた。


だが――その日が来るとは、誰も思っていなかった。


──運命の夜。


空には月が輝き、いつもと変わらぬ静かな夜だった。

だが、突如として村の外れから悲鳴が上がる。

「敵襲だ!! 魔族の傭兵団だ!!」


鋭い叫び声が夜の静寂を破り、村のあちこちから人々の慌ただしい声が響いた。


リィナは寝床から飛び起き、外に飛び出した。


村の入り口付近には、黒い鎧をまとった傭兵団が押し寄せていた。

彼らの手には剣、槍、そして燃え盛る松明が握られている。


「猫耳族を捕えろ! こいつらを売れば大金が手に入るぞ!」

「抵抗するなら殺せ!」


傭兵たちは笑いながら、村人たちを襲い始めた。


「リィナ、すぐに森へ逃げなさい!」


父の叫び声が聞こえた。

見ると、弓を構えた父が必死に敵を迎え撃っている。


「パパ、ママ! 私もみんなと戦う!」

「ダメよ、リィナ! あなたは生き延びなさい!」


母は涙を浮かべながら、リィナの背中を押した。


しかし、リィナは足がすくんで動けなかった。

燃え上がる家々、倒れていく仲間たち。


(私も……戦えば、みんなを助けられるかもしれない)


そう思った瞬間、目の前で父が剣を振るう敵の攻撃を受け、膝をついた。


「パパ!!!」


リィナは駆け寄ろうとしたが、母が強く腕を掴んだ。


「お願い……生きて……!」


母の最後の言葉を聞いたそのとき、リィナの視界は涙で滲んだ。


そして――次の瞬間、母の手が振り払われる。


傭兵が彼女の髪を掴み、無理やり引き剥がしたのだ。


「オッ……! いい獲物だな!」


「やめて!!」


リィナは絶叫した。


その直後――父の最後の矢が放たれ、傭兵の喉を貫いた。


母が解放されたのを見て、父は力を振り絞り、リィナに向かって叫んだ。


「リィナ、行けぇぇぇぇッ!!!」


その言葉が、リィナの心を締めつける。


リィナは涙を流しながら、必死に森へと駆け出した。


背後では、村が燃えている。


母の叫び、父の最期の姿――すべてが、彼女の脳裏に焼きついた。


(私は……私は……)


足がもつれそうになりながらも、彼女は走り続けた。


いつしか森の奥深くへとたどり着き、気づけば膝をついていた。


「パパ……ママ……」


呟いても、返事はない。

彼女は、自分の無力さを呪った。


「もっと強ければ……! もっと強ければ……!!」


涙が頬を伝い、地面に落ちる。


この時、リィナは決意した。


「絶対に、強くなるんだ……!」


逃げるだけの自分とは決別する。

もう、大切なものを失わないために――。


こうして、幼き日のリィナは誓いを立てた。


♢孤独な旅の始まり


リィナは、森の奥深くで目を覚ました。

昨夜の出来事が悪い夢であってほしいと願ったが、現実は非情だった。

村は燃え、両親は――いない。


(ここでじっとしていたら、私も見つかってしまう……)


涙をこらえ、彼女は震える体を無理やり起こした。

食料も、水も、何もない。あるのは、昨夜の出来事が染みついた服と、心に突き刺さる痛みだけだった。


(強くならなきゃ……生き延びなきゃ……)


何度も自分に言い聞かせるようにしながら、彼女は森の中をさまよい歩き始めた。


──生存のための戦い。


森の中は静かだった。

しかし、それは決して安全を意味するわけではない。


リィナの耳は、草むらを揺らす微かな音をとらえた。

振り向いた瞬間、彼女の目に映ったのは、大きな狼だった。


「にゃっ……!」


冷たい視線でこちらを見つめる獣。

体は痩せていたが、それでも幼いリィナよりはるかに大きい。

生存競争の厳しいこの森では、弱者は捕食者に喰われる運命にある。


リィナは足を震わせながら、必死に考えた。


(逃げるべき? でも……もう逃げたくない……!)


両親を失い、何も守れなかった無力感が胸を締め付ける。

もう二度と、自分を弱いとは思いたくなかった。


「うわぁぁぁっ!!」


リィナは落ちていた木の枝を拾い、狼に向かって振りかざした。

しかし、狼は簡単にそれを避け、鋭い牙を剥く。


(ダメ……! このままじゃ……!)


その時だった。

風のような速さで何かが駆け抜け、狼が鋭い悲鳴を上げた。


「お前、こんなところで何してる?」


低い声が響く。

目の前に立っていたのは、黒い毛並みを持つ猫耳族の青年だった。

彼は素早く短剣を構え、狼を牽制している。


狼は青年の気迫に押され、静かに森の奥へと退いていった。


リィナは、ようやく力が抜けたように地面に座り込む。


「助けてくれて……ありがとう……」


青年はリィナを見下ろし、溜息をついた。


「お前、一人なのか?」


「……うん」


「そうか。……まあ、助けちまったんだから、放っておくのも気が引けるな」


青年は肩をすくめると、リィナに手を差し伸べた。


「俺はカイル。お前、名前は?」


「リィナ……」


「リィナか。……強くなりたいか?」


その言葉に、リィナの耳がピクリと動く。


強くなりたい――それは、彼女が何度も何度も心の中で誓った言葉だった。


「……なりたいにゃ!」


「なら、ついてこい。狩りの仕方、戦い方、生き延びる術――全部、叩き込んでやる」


カイルの言葉に、リィナは迷わず頷いた。


こうして、リィナの新たな生存の旅が始まった。


──狩人としての修行。


カイルは、森の奥にある小さな隠れ家にリィナを連れて行った。

そこは、かつて村を追われた猫耳族の者たちが身を潜めていた場所だった。


リィナはそこで、カイルから様々な生きる術を学んだ。


最初に教わったのは、「獲物を狩る方法」だった。


「狩りはな、ただ獲物を追いかけるんじゃない。相手の動きを読むことが大事なんだ」


カイルの言葉を胸に刻みながら、リィナは木々の間を静かに移動する方法や、獲物の習性を学んでいった。


次に学んだのは、「武器の扱い方」。


「お前は小柄だ。だから力任せじゃ勝てない。速度と技術で戦うんだ」


弓の使い方、短剣の扱い方、そして素早く敵の懐に潜り込む戦い方――。

それらを学ぶ中で、リィナは少しずつ自信を取り戻していった。


──孤独の中で得たもの。


カイルと過ごす日々は、リィナにとって新たな希望だった。


「お前、すぐに顔に出るな」


「え……? そ、そんなことないよ!」


「はは、強がるなよ」


そんな軽口を叩き合う日々の中で、リィナは少しずつ笑顔を取り戻していった。


しかし――。


ある日、カイルはリィナにこう言った。


「ここで生きるのも悪くないが、お前にはもっと広い世界を知ってほしい」


カイルがふとそんなことを口にしたのは、いつものように焚き火を囲んで食事をしていた時だった。


リィナはカイルの言葉に耳を傾けながら、木の枝で火をつつく。


「……広い世界?」


「そうだ。お前はいつも聞いてくるだろう? “他の町には何があるの?”とか、“人間の国はどんなところ?”とかよ」


リィナはハッとした。

たしかに彼女はカイルと過ごす中で、何度もそんなことを尋ねていた。


「だって……知らないことばっかりなんだもん」


「それは当たり前だ。お前はここでしか生きたことがないんだからな」


カイルはそう言って、遠くを見つめた。


「この森は安全だし、俺もいる。だけど、お前が知りたいことの答えは、ここにはない」


「……」


リィナは言葉に詰まった。


カイルの話を聞くたびに心が躍った。

遠くの町には、猫耳族以外の亜人や、いろんな職業の人間たちがいて、見たこともない食べ物がたくさんある。

大きな市場では、珍しい品物が並び、吟遊詩人が楽器を奏でながら物語を語る。

魔法を扱う者がいて、強い剣士がいて――。


(そんな場所に、行ってみたい……)


リィナの胸に、知らない世界への憧れが芽生えていた。


カイルはそんな彼女の様子を見て、ふっと微笑んだ。


「お前、外の世界を見たくてたまらないんじゃないか?」


「……にゃっ」


「その顔は、そう言ってるぜ」


カイルは焚き火に木の枝を投げ入れ、立ち上がった。


「もし外に出るなら、ここにずっといるよりも、もっと強くなる必要がある。世界は広いが、それだけ危険も多いからな」


「……私、強くなる」


リィナは真剣な眼差しでカイルを見上げる。


「強くなって、いろんな場所に行って、いろんなものを見て……もっとたくさんのことを知りたい!」


「……いい決意だ」


カイルは満足げに頷くと、彼女の頭をポンと撫でた。


「よし、なら明日から特訓だな。旅に出るなら、最低限の戦い方と、生き抜く術を身につける必要がある」


「うんっ!」


リィナは勢いよく頷いた。胸の奥から、熱い気持ちがこみ上げてくる。


カイルに拾われた日、森の中でただ震えていた自分。

弱くて、何もできなくて、守られるだけだった自分。

けれど、もう違う。


(私は……もう逃げるだけじゃない)


世界は広い。危険もある。でも、それ以上に知りたいことがたくさんある。


焚き火の炎がぱちぱちと弾ける音が、まるで彼女の心の高鳴りを映し出すように響いた。


「ありがとう、カイル」


「礼なんかいらねえよ。……お前がどんな景色を見つけるのか、楽しみにしてるぜ」


その夜、リィナは眠れなかった。


心が弾む。胸が熱くなる。

見たことのない景色、知らない世界、出会うはずのない人々――それらが頭の中で巡っていた。


こうして、リィナは森を出る決意を固めたのだった。

第22話ご覧いただき大感謝です。

毎日更新中ですが、いずれ月水金にする予定です。^^;


次回『第23話:再会の地(襲撃、再び!)』も

是非【応援よろしくお願いします。】

ブクマ、評価、お願いします。

いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。

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