第20話:村人たちの決意
震えながらも立ち上がる村人たち。
その手には、悠真の進化能力によって生まれ変わった武器が握られていた。
「まずは俺が道を開く!」
悠真が風裂の刃を振りかざし、一気に前へと踏み出した。
夜風が唸り、髪をなびかせる。
「――疾風斬撃!」
シュッ――!
放たれた風の刃が、迫りくる影狼たちを一掃する
その斬撃は音すらも置き去りにし、黒い毛並みが風とともに舞い散った。
「す、すげえ……!」
村人たちが驚愕する中、悠真は次々と風の刃を放つ。
振るうたびに、透明な軌跡が闇を裂き、遠くの魔物たちをまとめてなぎ倒した。
「悠真さんに続け!」
村人のひとりが叫ぶと、恐怖に縛られていた者たちの目に、再び生気が戻る。
「おりゃあああっ!」
***鋭刃の鍬**を手にした農民が、鋼牙熊の分厚い毛皮を貫いた。
肉を裂く音とともに、熊が地を揺らして倒れ込む。
《鋭刃の鍬》
特性①:刃強化(刃の部分が金属化し、攻撃力を大幅に上昇)
特性②:装甲貫通(硬い防御を持つ敵にも有効打を与える)
「いける...いけるぞ!」
**魔貫の槍**を持った若者が影狼の群れを貫き、次々と仕留めていく。
《魔貫の槍》
特性①:魔力貫通(魔物の防御魔法を貫通しダメージを与える)
特性②:投擲強化(遠距離からでも正確に敵を狙い撃つことが可能)
「この槍……本当にあたるぞ!」
叫びとともに、村人たちの恐怖が少しずつ勇気へと変わっていく。
武器を手に、村人たちは次第に自信をつけ始めた。
「す、すごい……! 俺たちでも戦える!」
互いに声を掛け合いながら、連携して魔物を押し返していく。
その姿を見て、悠真の胸は熱くなった。
(俺の“進化能力”が……誰かの力になっているんだ......!)
初めて感じる手応えだった。
この力は、俺1人だけのものじゃない。誰かを守る力にもなるんだ――そう思えた。
だが、その瞬間。
――ズゥゥン。
地面がわずかに震えた。
異様な気配が村の入口に広がる。
悠真が反射的に視線を向けると、入口に“それ”が立っていた。
漆黒の鎧に包まれた騎士。
重厚な鎧の隙間から、闇の魔力がゆらめくように漂っている。手にした大剣は禍々しく、刃先には微かに黒い炎が揺らめいていた。
その場の空気が一瞬で変わる。奮闘していた村人たちも、圧倒的な威圧感に気圧され、誰もが動きを止めた。
「な、なんだあれは……?」
「人間じゃない……」
村人たちが後ずさる。先ほどまでの士気が、まるで霧のように消えていく。
その威圧感は、ただ立っているだけで膝をつかせるほどだった。
悠真は剣を握り直し、静かに息を整える。
(こいつ……ただの魔族じゃない……!)
圧倒的な力の気配――まるで“黒き戦鬼”の再来のようだった。
間違いない。
この魔族の騎士こそ、魔物たちを操る黒幕だ。
漆黒の鎧が月光を飲み込み、闇の中で鈍く輝く。
その姿は、まるで夜そのものが人の形をまとったかのようだった。
騎士は悠真の視線を受け止めると、ゆっくりと口を開いた。
「貴様が……この戦いの鍵を握る者か?」
低く響く声が夜の空気を震わせる。
その音には、言葉以上の“圧”があった。
悠真は一歩も引かず、静かに返す。
「お前が……魔物たちを操ってるんだな?」
「ふ……察しがいい。」
わずかに唇を歪めると、騎士はゆっくりと大剣を構えた。
刃先が地をかすめ、黒い火花が散る。
「......なるほど、少しばかりはやるようだが……その力、どれほどのものか試させてもらおうか。」
次の瞬間、空気が爆ぜた。
――ドンッ!!
地を蹴る轟音。
騎士は“消えた”のではない。視界から外れるほどの速さで踏み込み、悠真との間合いを一瞬で詰めたのだ。
(っ……来る!)
風が逆流する。
反射的に刃を構えた瞬間――
ガギィンッ!!
剣と剣がぶつかり合い、金属が悲鳴を上げる。
火花が夜空を裂く。衝撃波が地面を揺らし、周囲の砂を巻き上げた。
「ほう……」
騎士が楽しげに呟き、再び間合いを取る。
悠真は腕の痺れを感じながら、冷や汗を拭った。
(速さだけじゃない……洗練されている)
「人間にしては悪くない動きだ。しかし――」
言葉とともに、騎士の足元から黒い霧が立ち昇る。それはまるで意思を持つ生き物のように蠢き、鎧を這い上がっていった。
「はたして、貴様のその剣が、どこまで抗えるのか……」
霧が騎士の身体を完全に包み込む。
次の瞬間、重力そのものが歪んだような圧が襲いかかった。
「くっ――!」
悠真が身を屈めた瞬間、黒い残光が走る。
騎士の一撃が空を裂き、悠真の頬をかすめた。
ほんの一瞬の遅れで、命を落としていた。
だが、衝撃は想像以上に重く、悠真の足元が大きく沈む。
(こいつ……パワーもあるのか!?)
歯を食いしばり、体勢を立て直す。
このまま押し潰されれば終わりだ――反撃しなければ!
「――疾風斬撃!」
渾身の力を込めて剣を振るう。鋭い風の刃が一直線に飛ぶ。
しかし――
「甘い。」
黒霧が渦を巻き、風の刃を吸い込むように消し去った。
悠真の目に驚愕が走る。
(風を……喰った!?)
騎士の影がゆらりと動く。
気づいた時には、すでに悠真の懐――!
「終わりだ。」
漆黒の大剣が振り下ろされる。
風が裂け、月明かりが途切れた。
絶体絶命――瞬間!
「悠真さん!!」
鋭い声とともに、一本の槍が2人の間に飛ぶ!
村人の叫びが聞こえた。
「俺たちも戦うんだ!!」
その言葉とともに、武器を持った村人たちが一斉に駆け寄ってくる。
彼らの決意を感じた。
(そうだ……俺だけじゃない。みんなも戦っている!)
握る手に、再び力がこもる。
「ここで負けるわけにはいかない!」
悠真は歯を食いしばり、剣を構え直した。
彼らの声が、悠真の心に火をつけたのだ。
ギィンッ! ガキンッ!
火花が散る。
悠真は必死に刃を振るい、黒き騎士の猛攻を受け止めていた。
だが、剣を交えるたびに腕が軋み、呼吸が荒くなる。
押されている――わかっていた。
(くそっ……! 攻撃どころか、一撃ごとに削られていく……!)
騎士の剣は重い。
まともに受ければ、骨ごと吹き飛ばされるほどの破壊力だ。
それに加えて――
(こいつ、全く疲れる様子がない……!)
騎士の動きに乱れはなく、むしろ余裕すら感じられた。
ただ冷たく、正確に殺意だけが迫ってくる。
ズドンッ!!
地面を砕く一撃。
砕け散る瓦礫を跳ね飛ばしながら、悠真は後方へと飛び退いた。
「はぁ……はぁ……っ!」
肺が焼ける。
限界は、もうすぐそこだった。
(まずい……このままじゃ、やられる――)
息を整える間もなく、騎士が再び踏み込む。
目で追うのがやっとの速さだ。
ガキンッ!!
今度は完全に防ぎきれず、剣圧が腕を貫く、衝撃が肩まで走った。
感覚が一瞬、白く弾ける。
「ぐっ……!」
足元が揺らぐ。
力の差は、あまりにも大きかった。
――その時。
「下がって!」
リィナの叫びが夜を裂いた。
反射的に体を引くと、すぐ横を閃光が走る。
バシュッ!
一閃の鋼矢が、騎士の足元を撃ち抜いた。
黒い霧がわずかに散る。
「……ッ!」
騎士の動きが、一瞬だけ止まった。
「今にゃ! 悠真!」
その声で、悠真の中の何かが弾ける。
全身で地を蹴った。
(このチャンス、逃すかよ――!)
一気に踏み込み、剣を振り抜いた。
「はぁぁぁぁっ!!」
シュンッ――!
風を裂く音とともに、刃が閃く。
風の放つ斬撃が、一直線に騎士へと迫った。
ガキィィンッ!!
だが、騎士はとっさに剣を構え、その衝撃を真正面から受け止めた。刃は鎧をかすめる程度で、決定的なダメージにはならない。
(くそっ……! 浅い!)
だが――
「もう一発にゃ!」
リィナの声。
今度は、彼女が手にしていた"矢"が輝きを増す。
バシュッ!!
青い閃光が一直線に走る。
「ふんっ」
騎士は肩の甲冑を跳ね上げ、矢を弾く構えを見せた――が。
ズブゥゥッ
「なんだと….!?」
矢はそのまま騎士の肩口を正確に貫いた。
「……ぐはっ!!...なんだ、この力は!」
《浄化の矢》
特性①:穢れ浄化(闇・呪い・不死属性の敵に追加ダメージを与える)
特性②:魔力貫通(防御魔法を一時的に無効化し、内部の魔力核へ干渉可能)
特性③:装甲透過(物理防御を貫き、確実に肉体へ届く)
それは、あらかじめリィナに託しておいた進化の矢だった。
黒い霧が裂け、騎士が膝を折る。
その一瞬の隙を逃すわけにはいかなかった。
「これで決める!!」
風裂の刃を両手で握り、全力で踏み込んだ。
周囲の風が渦を巻き、地が唸る。
ゴオオオッ!!
吹き荒れる風が悠真の髪を逆立てた。
(……くらえ!!)
心臓の鼓動と同時に、悠真は渾身の一撃を放つ――!
第20話、ご覧いただき大感謝です。
毎日更新中ですが、予定通りそろそろ月水金にする予定です。^^;
次回、『第21話:黒騎士の最後の言葉』も
是非【応援よろしくお願いします。】
いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。




