第19話:古びた剣の再誕「風裂の刃」
「まずは、戦う準備を整えましょう」
悠真がそう言うと、村人たちは不安そうに顔を見合わせた。
村長が一歩出て、申し訳なさそうに口を開く。
「ですが……私たちには、戦う力がありません。武器も、防具も、まともなものは何一つないのです……」
案内された倉庫の中には、錆びついた剣や盾、ボロボロの農具が積まれていた。
刃は欠け、柄は腐り、魔物の爪がかすっただけでも砕けそうな代物ばかりだ。
「……これは、ちょっとひどいね」
リィナが尻尾をぱたぱたと揺らし、呆れたようにため息をつく。
悠真も眉を寄せたが、すぐに気持ちを切り替えた。
(……進化の力を使えば、まだどうにかなるはずだ)
彼は棚の奥にあった鍬を手に取る。
「これ、まだ使えるのか?」
「え、ええ……一応は」
悠真は頷き、鍬にそっと手を当てた。
静かに息を整え、心の中で言葉を放つ。
(——進化)
次の瞬間、鍬が淡い光に包まれた。
鈍く曇っていた刃が鋭く伸び、柄はしなやかで強靭な黒木へと変わる。
青白い輝きを纏いながら、農具は全く別の“武器”へと生まれ変わった。
悠真の視界に、新たな武器の特性が表示される。
《烈牙の鍬》
特性①:貫通強化(刃が硬質化し、魔物の皮膚を容易に切り裂く)
特性②:振動衝撃(振り下ろした際、衝撃波が発生し、相手を弾き飛ばす)
「……す、すげえ……!」
鍬を受け取った村人は、信じられないように刃を撫でた。
「これなら……戦えるかもしれない!」
歓声が上がると、他の村人たちも一斉に駆け寄ってきた。
「俺の剣も頼む!」
「この盾も試してくれ!」
「この鎌、なんとかならんか!?」
悠真は一つひとつ、手を当てて進化させていった。
古びた剣は白銀に輝き、夜空の月を映すような美しい刃を持つ。
《月閃の剣》
特性①:斬撃強化(攻撃時、刃に魔力が宿り、威力が倍増する)
特性②:月光の加護(夜間に威力上昇、刃が自動修復される)
錆びた盾は、赤く燃える紋様を浮かべながら変化した。
《炎障の盾》
特性①:炎耐性付与(炎を防ぎ、熱ダメージを無効化)
特性②:衝撃吸収(衝撃を半減させ、打撃ダメージを抑える)
そして、最後に手に取ったのは一振りの鎌だった。
刃こぼれだらけのそれが、二つの月を象るように湾曲した双刃へと姿を変える。
《双月の鎌》
特性①:毒浸透(刃が微細な毒を付与し、敵を弱体化させる)
「おおおっ……!」
村人たちが歓声を上げる。
彼らの目には、恐れよりも希望の光が宿っていた。
「す、すごいぞ……!」
「魔物と戦える……!」
村人たちは興奮しながら、新たな武器を手に取り振りまわす。
その様子を見ながら、悠真は進化能力の奥深さを実感していた。
(俺の力が、誰かを守るために役立っている……)
悠真は静かに拳を握った。
「ふふっ、さすが悠真だね」
リィナが嬉しそうに飛び跳ねる。
「だけど、武器だけじゃ心もとないにゃ。防具も作れないかな?」
「……防具も作れるのか?」
村長がそう言うと、村人の一人が古びた鎧を持ってきた。
「これは……祖父が傭兵だった頃のものです。今じゃ錆びてしまい穴だらけですが……」
悠真が鎧に触れると、ひび割れた金属が再構成され、黒と青の光沢を帯びた装甲へと変化した。
《蒼壁の鎧》
特性①:魔法耐性(魔法攻撃を30%軽減する)
特性②:衝撃吸収(打撃のダメージを和らげる)
「こ、これは……!」
村人が鎧を撫で、感嘆の息を漏らす。
「新品どころか……前よりもずっと頑丈だぞ!」
村人たちの士気が一気に高まっていく。
悠真は次々と防具を進化させ、最終的には村人全員が戦える装備を整えることができた。
「これなら……俺たちでも戦える!」
「村を守るんだ!」
「おう! やるしかねえ!」
悠真はその様子を見て、静かに息を吐いた。
「……準備は整ったな」
リィナが鋭く爪を研ぎながら言う。
「にゃっ。後は、魔物を迎え撃つだけだね!」
悠真は頷き、村の門へと視線を向けた。
夜の帳が降り始め、森の奥が不気味にざわめいている。
——迫りくる戦いの気配が、確かにそこまで来ていた。
ーーーーー
村人たちの士気が高まる中、悠真はひとつのことに気づいていた。
――自分自身が使う決定的な武器がまだない。
(今の槍も悪くはないが……相手は群れだ。状況によっては、別の武器が必要になるかもしれない)
そう考えながら村の中を歩いていると、古い神殿に飾られた木箱に目が留まった。
蓋を開けると、中には埃をかぶった一本の剣が眠っていた。
「これは……?」
剣を手に取ると、刃は錆びつき、柄の装飾も剥げ落ちていて、とても使える状態ではない。
だが、不思議と手放す気になれなかった。
「おお、それは……」
村長が、懐かしそうに見つめた。
「かつて、この村を守った剣士のものです。『風裂の刃』と呼ばれていました。しかし、長い年月を経て、今ではただの飾り物になってしまいました……」
「風裂の刃……」
悠真は黙って剣を見つめた。
かつてこの剣を手に戦った英雄がいたのだろう。だが、今はその力を失い、歴史の残骸のように眠っている。
(もう一度、この刃を蘇らせてみるか……?)
「村長、この村に特別な鉱石や魔力、不思議な力を持つものはありませんか?」
村長は少し考えた後、ゆっくり頷いた。
「村の中央にある泉じゃな。昔から“癒しの水”と呼ばれ、不思議な力を宿していると伝えられている。何かの役に立てばよいのだが.....」
——月明かりに照らされた泉は、静かに波を打ちながら淡く輝いていた。
見つめるだけで、何かしらの魔力を肌に感じた。
「……試してみるか」
悠真は剣をゆっくりと泉に浸す。
すると――
ゴォォォッ……!
突然、泉が唸りをあげ、瞬い光が水面から立ち上った。
その光は剣を包み込み、錆を焼き尽くすかのように弾き飛ばしていく。
「な、なんだ!?」
「泉が……光ってるぞ!」
駆け寄った村人たちの視線の前で、剣は激しく震え、形を変える。
ひび割れた刃が再生し、透明な風の流れをまとい始める。
やがて、青白く光る新たな剣が彼の手に収まった。
悠真の視界に、新たな武器の特性が浮かび上がる。
《風裂の刃》
特性①:疾風斬撃(剣を振るうと風の刃が生まれ、遠距離攻撃が可能)
特性②:風の加護(持ち主の素早さを大幅に向上させ、俊敏な動きを可能にする)
特性③:魔風の守護(風の魔力が穢れを遠ざけ、仲間を軽い瘴気や毒から守る)
悠真は試しに、軽く横薙ぎに振った。
シュッ――と音を立てて、透明な風の刃が放たれる。泉の水面を斬り裂き、波紋が静かに広がった。
風が頬を撫でていく。
「……すごい……」
手に伝わる感触がまるで違う。この剣はただの刃ではない。風の力そのものをまとい、かつての英雄にふさわしい力を取り戻したかのようだ。
「風裂の刃が……蘇った……!」
村人たちの声がどよめく中、悠真は剣を握り直した。
(これなら……戦える)
魔物たちとの戦いに向けて、悠真の決意が固まるのを感じた。
♢魔物との壮絶な戦い
夜の帳が降り、村の空気は張りつめていた。
静寂を破るかのように、遠く、森の奥から獣の唸り声が響く。
「……来るぞ」
悠真が呟くと同時に、村の入り口で見張りをしていた青年が震える声で叫んだ。
「ま、魔物が出たぞーっ!!」
村の鐘が鳴り響き、全員が持ち場につく。
準備を整えていた村人たちは、一斉に武器を握りしめ、必死に震える手を抑えていた。
月明かりに照らされ、次々と姿を現す魔物たち。
「こ、こんなにいるのか……?」
影狼、鋼牙熊、死食蛇……
どれもこの地域では危険とされる魔物ばかりだった。
(数が多い……。しかもバラバラに動くのではなく、統率されてる……)
悠真は魔物たちの動きに違和感を覚えながらも、風裂の刃を握りしめた。
「全員、構えろ! 俺が前に出る!」
悠真の言葉に、村人たちは一斉に頷いた。
「い、いくぞ!」
「俺たちの村を、守るんだ!」
夜風が吹き抜け、戦いの火蓋が切って落とされた――。
第19話、ご覧いただき大感謝です。
今のところ毎日更新できてますが、いずれ月水金にする予定です。^^;
次回、『第20話:村人たちの決意』も
是非【応援よろしくお願いします。】
いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。




