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第17話:進化の力、再び。

大剣が振り下ろされ、轟音が響いた。

シグルドの鋼の剣がそれを受け止めた瞬間、金属が悲鳴を上げ、火花が迸った。


「ぐっ……! 重いッ!」


両足が石畳にめり込み、膝がきしむ。

押し返そうにも、まるで山そのものとぶつかっているかのような圧力だった。


「シグルド!」

悠真は反射的に飛び込み、槍を突き出した。防御を無視する天穿の一撃が戦鬼の胸を貫いた。


蒼白の光を帯びた刃が、鎧を貫き、巨体を突き抜け背へと突き抜ける。


天穿の槍――防御など意味をなさない。

どんな堅牢な装甲であれ、必ず突き破り内側へと到達する。

この槍を手にして以来、通じなかった敵など一人も存在しなかった。


だが――


「……止まらない!?」


確かな手応えがあったにもかかわらず、戦鬼は怯まない。

胸を貫かれたまま、巨大な斧を振り下ろしてきたのだ。


悠真は咄嗟に横へ転がり、土煙を上げる。

大地がえぐられ、砕けた石片が雨のように飛び散った。


「……なっ!?」


血が流れていない。

確かに槍は通ったはずなのに――まるで「痛み」という概念が存在しないかのように。


「……効いてないのか!?」


悠真が目を見開いた瞬間、戦鬼の大剣が横薙ぎに走る。

シグルドがとっさに受け止めるが、その衝撃だけで吹き飛ばされ、倒壊した家屋の壁に叩きつけられた。


「ぐはっ……!」


「シグルド!」

リィナが矢を放つ。


彼女の矢は青白い尾を引き、戦鬼の視界を裂いた。

だが矢もまた肉を裂く感触を残さず、鎧に当たって折れるばかり。


戦鬼は一瞥さえせず、悠真に向かって突進した。

大地が砕け、石畳が跳ね上がる。

その速度は巨体からは想像できぬほど鋭い。


「速い――ッ!」


悠真は辛うじて槍を盾に構え、突進を逸らした。

だがかすめただけで体が宙を舞い、鐘楼の崩れた石壁に叩きつけられる。


「がはっ……!」

肺の空気が一気に押し出され、視界が白く弾けた。


「悠真っ!」

リィナが叫び、梁の上へと飛び移る。そこから弓を引き絞り、狙うは戦鬼の眼。


矢は一直線に紅い光を射抜いた――はずだった。


「にゃっ……!?」


間違いなく矢は、眼窩に突き立っている。

しかし戦鬼は瞬きひとつで、砕き捨てた。

痛みも、怯みも、何もない。


「……まるで痛みを知らない……?」

リィナの声が震える。


その瞬間、戦鬼の紅い瞳がぎょろりと上を向いた。


「やば――ッ!」


地面が砕ける音と共に、戦鬼が跳躍した。

「きゃああっ!」

振り下ろされた大剣が梁を粉砕し、リィナの体が宙を舞う。


「リィナッ!」

悠真が飛び込み、抱きかかえたまま転がるように着地した。


背後では家屋が崩れ落ち、土煙が空を覆う。


「大丈夫か!?」


「……っ、なんとか。ありがと、助かったにゃ……!」


息を整えながらも、リィナは矢を握り直す。

悠真も立ち上がり、槍を構え直した。


だが、黒き戦鬼は歩みを止めない。

無表情のまま、淡々と大剣を振るい続ける。

どれだけ貫こうが、撃ち込もうが、叩き斬ろうが――立ち上がる。


それはもはや「戦闘」というよりも、「破壊」そのものだった。

理性も痛みも存在せず、ただ敵を粉砕するためだけに組み上げられた兵器。


「……冗談だろ……」

悠真は唇を噛みしめる。


広場全体が、その異様な存在感に支配されていた。


シグルドが地に膝をつき、剣を杖代わりに立ち上がる。

「……あの化け物を倒すには……何か工夫が要るようだな」


「ああ....」

悠真は頷き、リィナと視線を交わす。

息が詰まるほどの緊張感の中で、次の一手を模索するしかなかった。


――戦いは、まだ終わっていない。

三人は完全に追い詰められていた。



ーーーーー


「キィン!ガキン!」

戦場に響くのは、金属と金属がぶつかる轟音。


シグルドの剣が火花を散らし、悠真の天穿の槍が鋭い弧を描く。

しかし、黒き戦鬼は何度倒しても立ち上がった。


倒壊した家屋を踏み砕き、矢を受け、槍で貫かれてもなお――まるで痛みという概念が存在しないかのように。


「……やっぱり、おかしい」


息を荒げながら悠真は呟いた。その動きには、人間的理性や逡巡がみられない。斬られようが、突き抜かれようが、反射のように即座に反撃してくる。

――まるで、操り人形だ。


「悠真、気づいてるんだろ!」

シグルドが怒鳴る。戦鬼の腕を受け流しながら横へ飛ぶ。

剣を握る手は血に濡れ、呼吸は荒い。


それでも彼は退かない。

「こいつは……ただの怪物じゃねえ!」


悠真は歯を噛みしめ、槍を構え直す。

「そうか……鎧そのものが本体だ。中身は“空っぽ”。呪いで動いてるんだ!」


リィナの顔が青ざめる。

「じゃ、じゃあ……どうすれば止められるの!? 肉を裂いても意味ないんだよ!」


「鎧を全て砕くしかない」悠真の声は震えていた。

「もしくは、呪いを断ち切る――」


だが言葉とは裏腹に、戦況は追い詰められていた。

鐘楼の瓦礫を盾にしても蹴り飛ばされ、路地に逃げ込んでも壁ごと薙ぎ払われる。戦鬼の力は底を知らず、じわじわと三人を削っていく。


シグルドが正面から突っ込むたびに、衝撃で地面が裂けた。そしてついに、彼は吹き飛ばされ、石畳に血を吐いて倒れ込んだ。


「シグルド!」


リィナが悲鳴を上げ、悠真が間に入って反撃する。

だが戦鬼はびくともしない。兜の奥に覗くのは、空虚な闇。そこからは、感情のない視線が突き刺さる。


「……悠真」


崩れた瓦礫にもたれながら、シグルドが唇を吊り上げた。

「俺が……囮になる。お前らが......仕留めろ」


「無茶だ!」

悠真が叫ぶ間もなく、シグルドは雄叫びを上げて突撃した。

大剣を掲げ、真正面から戦鬼の一撃を受け止める。

火花が弾け、轟音が夜を裂いた。


その背中を見て、悠真とリィナは迷わず動いた。


悠真は槍を地に突き立て、掌に力を込める。

「リィナ! 矢を……俺の進化で強化する!」


「……わかった!」


リィナの声は震えていたが、瞳は決意に燃えていた。

彼女は最後の一本を弦にかけると、悠真が掌を重ねる。


「いくぞ.....!」

ーー進化。


次の瞬間、矢が淡い蒼光を帯びる。

渦を巻く光の粒子が、掌の熱と呼応するかのように再構築され、蒼炎を纏う新たな刃として生まれ変わった。


「これは……?」リィナが息を呑む。


蒼煌そうこうの矢》

特性①:絶貫の極意(敵を精密に射抜き、核心を捉える)

特性②:蒼炎の加護(飛翔時に青白い炎の魔力を纏い、命中時に

呪いを断ち切る力を付与)


「呪いを断ち切る矢だ。俺の槍とお前の矢でしか貫けない」

悠真は短く告げ、天穿の槍を握り直した。


シグルドが渾身の力で戦鬼を押さえ込む。

「ぐっ……がああああッ!! 今だ……行けぇぇ!!」


悠真は全力で投げ放った。蒼光を纏う槍が空を裂き、一つ遅れてリィナの矢がその軌跡を追う。


槍は胸の鎧を貫き、矢はその隙間を正確に射抜いた。


刹那――戦鬼の身体が硬直する。

轟音とともに閃光が炸裂し、兜が砕け散る。呪いの鎖が断ち切られたかのように、黒煙が渦を巻いて四散した。


「……ッ!」


甲冑に亀裂が走り、次の瞬間、爆ぜるように砕け散った。

中から現れたのは――虚無の残響、ただ空っぽの闇だけだった。

禍々しい黒い影が、断末魔の叫びのように霧散していく。


静寂が広場を包む。

戦鬼は、跡形もなく消え去っていた。


悠真は槍を突き立て、荒い息を吐く。

リィナは弓を握ったまま、目を潤ませた。


シグルドは剣を杖にしながらも、どこか満足げに笑った。

「……やっぱり、お前たちは只者じゃねえな」


地面には砕けた鎧の残骸が転がっていた。

だが、それはただの鉄くずではない。

今もなお、肌を焼くような冷気を放っていた。


「これは……ただの魔物じゃない。誰かが造った“兵器”だ」


シグルドは険しい目で頷く。

「魔王軍……いや、それ以上の存在が背後にいるのかもしれん」


リィナは疲労の中で、それでも笑った。

「でも……あたしたちで、倒したにゃ」


悠真は黙って頷いた。

槍に宿る蒼炎が、彼に問いかける。

――この力をどう使うのか。


その問いを胸に抱きながら、彼は夜空を見上げた。

第17話、ご覧いただき大感謝です。

毎日更新できてますが、いずれ月水金にする予定です。^^;


次回、『第18話:旅立ち。』も

是非【応援よろしくお願いします。】


いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。

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