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第15話: “頼れない存在”

(ちくしょう……! 心の隙を突く魔物なんて……!)


悠真は槍を振るい、偽者の攻撃を弾く。

だが力が増した分、その腕には痺れるような衝撃が走る。


リィナも矢を放つが、相手は以前よりも速く、

鋭い動きでかわしてくる。


「リィナ、落ち着け!」


「わ、分かってる……! でも……でも……!」


リィナの頭の中に、幻影の声がこだまする。


――「悠真は本当にお前を必要としているのか?」

――「矢を外した時、心の中で失望しているんじゃないか?」

――「それでも一緒にいるのは……同情かもしれない」


「……やめろ……やめて……!」


リィナは叫び、矢を乱射する。

だが感情に任せた射は精度を失い、ことごとく弾かれていく。


その隙を突いて、偽リィナが一気に詰め寄る。矢を放つ動作ではなく、短剣を抜き、一気に迫った。


「リィナ!」

悠真が割って入ろうとするが、偽悠真が行く手を遮る。

完全に分断された。


刃が振り下ろされる――!


リィナは必死に身をひねり、辛うじて頬をかすめる程度でかわした。だがその瞬間、鏡面に自分の姿が映る。

そこに映ったリィナは――怯え、涙を浮かべていた。


(……私、こんな顔……してるの……?)

自分の弱さを突きつけられ、心臓が凍りつく。


「はぁっ……!」

悠真の叫びとともに、槍が偽悠真を大きく弾き飛ばす。だが相手はすぐに体勢を立て直した。

戦いは膠着し、鏡の空間に金属音と悲鳴が響く。


そして――

幻影の声はますます鮮明になっていった。


「リィナ……もしお前がいなくなっても、悠真は戦える」


「悠真……本当に隣にいるのは、仲間か? 

それとも足枷か?利用されてるだけでは?」


言葉がナイフのように心を切り裂き、二人の動きを鈍らせる。

同時に幻影たちはさらに大きくなり、

その瞳は赤く妖しく光り始めた。


「このままじゃ……!」

悠真は必死に考える。だが答えは見つからない。

鏡の中の敵は強くなる一方で、突破口が見えない。


その時――リィナが矢を放つ手を止め、息を呑んだ。


彼女の視線の先に映っていたのは――

鏡の中の“もう一人の悠真”。


だがその幻影は、冷たく歪んだ笑みを浮かべ、

何かを囁くようにリィナを見つめていた。


「リィナ……あの人は、もうお前を信じていないよ」


その言葉が胸を刺し、リィナの指先が震えた。

矢は力なく揺れ、彼女の手から静かにこぼれ落ちた。


鏡の迷宮は、2人の心を完全に呑み込もうとしていた――。


「……あ……」

こぼれた弓が鏡面に当たり、カランと乾いた音を立てる。

その音は、まるで敗北を告げる鐘のように、虚しく響き渡った。


「もう終わりだな」


偽悠真の声は冷たく、だが妙に優しい響きを帯びていた。

「彼女は戦えない。お前一人で、俺に勝てるはずがない」


悠真の胸を、怒りと焦りが掻きむしる。

「黙れ!」


全身の力を込めて槍を振るう。

だが、幻影はさらに力を増し、まるで鉄壁のように立ち塞がる。


「悠真……」

リィナの震える声が背中に届く。


振り返れば、彼女は膝をつき、必死に涙を堪えていた。


「私……やっぱり……役に立ててないのかな……? 

それに、利用しようなんて思ってないよ……」


その言葉に、悠真の心臓が強く締め付けられた。

幻影の声が畳み掛ける。


「そうだ。彼女がいなくても、お前は戦える」

「むしろ彼女の存在が、お前を鈍らせている」


――違う!

悠真は胸の奥で叫んだ。


だが、口に出そうとすると、言葉が詰まる。

でも、もし本当に、そう思っていたら?

もし心の底で、リィナを負担に感じていたら?


その一瞬の迷いが、幻影に力を与えた。


偽悠真が一気に距離を詰め、槍を振り下ろす。

金属の衝突音。悠真は必死に受け止めたが、

足元が滑り、膝をつきかけた。


(……ダメだ……! 勝てるわけない……負ける……!)


その時だった。

リィナが震える声で、かすれた言葉を発した。


「……あたし、本当は……怖かったんだ......」


悠真の目が見開かれる。

リィナは震える手で胸を押さえ、鏡に映った“怯えた自分”を見つめていた。


「矢を外すたびに……悠真に軽蔑されるんじゃないかって……足手まといだって思われるんじゃないかって……ずっと不安で……」


涙が一粒、頬を伝う。

「でも……それでも……一緒にいたかった。悠真と戦いたかった。だから……!」


彼女は落ちている弓を拾おうとかがむが、そのまま膝をついてしまう。

「ただ隣で戦いたい....それだけだった...」


その言葉が、悠真の胸を貫いた。


――そうだ。

自分もまた、リィナを信じきれていなかった。


幻影の言葉に、、誘導に乗せられ、“頼れない存在”だと勝手に植え付けられていた。

それが彼女を傷つけ、幻影に力を与えていたのだ。


悠真は大きく息を吸い込み、叫んだ。


「リィナ! 俺は、お前がいなきゃ勝てない!」


幻影の動きが、一瞬止まった。


「俺の槍は鋭いかもしれない。でも……届かない場所がある。俺一人じゃ撃ち抜けない敵がいる。だから、お前の矢が必要なんだ!」


リィナの瞳が大きく見開かれる。

次の瞬間、彼女の目に再び光が戻った。


「……信じてくれるにゃ?」


「当たり前だ! 俺はずっと、お前と戦ってきた!」


2人の声が響いた瞬間――

鏡の迷宮がビキビキと音を立ててひび割れた。


「なに……!?」

偽悠真と偽リィナが驚愕の表情を浮かべる。

その姿は揺らぎ、赤い瞳の光が弱まっていった。


「リィナ!」


「悠真!」


息を合わせ、悠真が槍で幻影を押し返し、リィナが矢をつがえる。

幻影たちも必死に抵抗するが、

その動きは乱れ、かつての鋭さを失っていた。


「いっけぇぇぇ!」

リィナの矢が放たれる。

悠真の槍の突きと重なり、矢は光を帯び鏡の空間を貫いた。


轟音とともに、鏡の壁が砕け散る。

無数の破片が宙を舞い、光の粒となって消えていく。


幻影の2人は、驚愕の表情のまま霧散していった。


......静寂が訪れる。

鏡の迷宮は消え、ただ石造りの廊下だけが残っていた。


「……勝った……のか?」

悠真は槍を下ろし、肩で息をついた。


リィナは矢を握りしめたまま、微笑んだ。

「うん……でも、勝てたのは……悠真が、私を信じてくれたから」


「違うよ。リィナが勇気を出して、本音を言ってくれたからだよ」


二人はしばし見つめ合い、そして小さく笑い合った。

胸の奥に、言葉では言い表せない温かさが灯っていた。


「……ありがとにゃ....」

リィナは弓を握りしめたまま微笑んだ。

その頬はほんのり赤く染まり、悠真を見つめる目が一瞬泳ぐ。


「な、なによ……そんなに見ないでよ……」


「え? いや……その……」

悠真は不意を突かれ、返事に詰まる。

リィナは慌てて顔を背けた。


(……悠真は、いつもそばで支えてくれる……)


彼女の胸に、小さな鼓動が跳ねる。

けれどその想いを言葉にする勇気は、まだ持てなかった。


ーーーーー


それから数日。

2人はギルドへ戻ったあとも、

いくつものクエストをこなしていった。


森での討伐、街道の警護、巨大洞窟の探索――。

どんな場面でも、あの“鏡の試練”で得た信頼が、二人の絆を支えていた。


リィナの放つ矢は、以前よりも迷いがなくなった。

悠真もまた、彼女を守るだけでなく、自然と“背中を預けられる”ようになっていた。


ギルドでもその名は少しずつ知られ、評判も高まっていった。2人は冒険者として確かな居場所を築き始めていた。



ーーーー


ある夜。

討伐を終え、野営の焚き火を囲んでいた時のことだった。


悠真は燃えさしを見つめながら、星空を仰いだ。

「俺の力……最初は、ただ生き延びるためだけに振り回していたんだ。でも――」


火の粉が夜空に舞い上がる。


その光を追いながら、リィナが横目で彼を見た。

炎に照らされた横顔は、いつもより少し大人びて見える。


「今は思うんだ。この力で……何かを“守れる”んじゃないかって」


「守れる......?」


「そう...誰かの夢とか、明日とか……そういうのを支えるために戦えるなら、この力もきっと無駄じゃないんだと」


リィナはしばし黙っていたが、やがて穏やかに笑った。

「……悠真らしいにゃ」


その笑顔を見て、悠真の胸の中に、あたたかな灯がともるのを感じた。


悠真の言葉が静かに夜へ溶けていく中、リィナも火のゆらめきを見つめながら口を開いた。


「……悠真は、守りたいものがあるから戦うんだね」


「そうだな。まだはっきりとは言えないけど……それでも、俺は前に進みたい」


「ふふ、あたしも同じだよ」

ほんの少し、彼女の胸が温かくなる。


「あたしもね……怖いけど、嫌いじゃない。だって、戦わなきゃ見えない景色があるし……その先でしか辿り着けない場所もある。この広い世界をもっと見てみたいんだ」


その言葉には、幼い頃から抱いていた夢が滲んでいた。


村の外に出たことのない仲間たちに話しても、笑われるばかりだったあの夢。けれど今は、隣に共に歩く仲間がいる。


「だから悠真と一緒なら、きっと見れる気がするの。怖いけど……でも、それ以上に楽しみなんだ」

その声は小さく、けれど確かに熱を帯びていた。


悠真と同じ炎を見ていると、胸の奥が不思議と熱くなる。


「魔王を倒すなんて無謀だって、みんな言うけど……悠真が本気で行くなら、あたしも弓を放つ。

だって、あたしの夢も、その先にあるんだから」


悠真は一瞬言葉を失い、そして静かに微笑んだ。

「……ありがとう、リィナ。お前がいてくれて、本当に心強いよ」


リィナは慌てて火に顔を向け、尻尾を揺らした。


「べ、別に悠真のためだけじゃないし……! 

……でも、いいコンビでいたいのは本当だよ」


炎が夜空に舞い上がり、二人の影を揺らす。

その影は、まだ頼りなく小さい。

けれど、確かに同じ方向へと伸びていた。


焚き火のぱちぱちと弾ける音だけが、夜の静寂を刻んでいた。

第15話、ご覧いただき大感謝です。

毎日更新できてますが、いずれ月水金にする予定です。^^;


次回、『第16話: 魔王軍の斥候“黒き戦鬼”』も

是非【応援よろしくお願いします。】


いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。


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