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第13話:ダンジョン攻略

ギルドを出た悠真とリィナは、その日の午後、

早速ダンジョンへと向かっていた。


街の北側にそびえる岩山の麓、ぽっかりと口を開けた洞窟――それが「灰霧の洞」。


初心者から中堅の冒険者までが挑む定番の場所だが、

油断すれば命を落とす危険な迷宮としても知られている。


入り組んだ構造と、不意に現れる魔物たち。

それらが、幾人もの命を奪ってきた。


「初めてのダンジョン攻略だな」

槍の石突で地面を軽く叩きながら、悠真が静かに言った。


「緊張してるのかな?」

リィナがにやりと笑う。


腰に短剣、背には立派な弓を背負っている。

その軽装に似合わず、目は鋭く冴えていた。


「まあね。……でも、遺跡で死にかけたことを思えば、

まだ落ち着いてる方かな」


「ふふっ、頼もしいこと言うね。

今日は私もちゃんと働くから、安心してよ」


軽口を交わしながらも、二人の足取りは慎重だった。


洞窟に足を踏み入れると、空気は途端にひんやりと変わる。

外の風は届かず、湿り気を帯びた静寂が支配していた。

壁面には苔がほのかな光を放ち、細い水流が足元を這っていく。


「視界は悪くないけど……音が響くな」

悠真は周囲を確認し、槍の柄を握り直した。


リィナは軽やかに身を沈め、一本の矢を弦に番えた。

弦がかすかに鳴った。

二人の呼吸だけが、暗闇に一定のリズムを刻む。


「行こう」

悠真の小さな声を合図に、二人は迷宮の奥へと歩を進めた。


——低い唸り声が響く。


岩を擦るような足音。四つ足の影が3体、暗闇から姿を現した。

赤く光る瞳、剥き出しの牙。

灰霧の洞に棲む群れの魔物――洞窟狼だ。


「来るにゃ」

リィナの声と同時に、最前の1匹が飛びかかる。


「させるか!」

悠真は半身に構え、槍を突き出した。

鋭い穂先が狼の喉を正確に貫き、勢いを殺す。

そのまま槍を返し、横薙ぎに一閃。狼の体が壁に叩きつけられた。


2匹目の牙が迫る――が、その前に矢が走った。

リィナの放った矢が狼の目を射抜き、苦痛の咆哮が響く。


「ナイス!」


「ふふん、もっと褒めてもいいけど?」


最後の1匹は怯えたように下がったが、

悠真がすかさず距離を詰め、槍の柄で顎をはね上げた。

体勢を崩した狼の胸を一突き――沈黙。


「3体、片付いたな」


「息ぴったりだったね」

リィナは弓を背に戻し、笑顔を見せる。


悠真も小さく息を吐いた。

遺跡での死闘を思えば、呼吸は乱れていない。


——戦える。今の自分は確実に強くなっている。


実感が胸に広がる。これまでの経験も活きているのだろう。

それでも慢心は許されない。


進化の力に頼らず、自分の力だけでどこまでやれるか――それが今回の課題だった。


通路を進むほどに、魔物との遭遇は増えていく。

壁から飛び出す岩トカゲ、

天井から群れで襲いかかる巨大な蝙蝠。


悠真は槍で次々に突き落とし、リィナは矢を正確に射抜いた。

その一連の動きはまるで舞うように優雅だった。


悠真は一瞬、その鮮やかな姿に、一瞬見とれてしまった。


「なにボーッとしてるの? 矢が外れたらどうするにゃ!」


リィナが振り返り、頬を軽く膨らませて睨む。


「いや、ただ……手際がすごいなって」


「……っ、そ、そんなの当然だよ。弓は私の十八番なんだから!」


リィナは顔を赤らめ、さっと前を向き直した。矢筒の中で揺れる矢羽が、薄暗い通路の中でやけに鮮やかに映る。


戦いながら進むうちに、二人の呼吸はますます合っていく。

危険な場面もあったが、

二人は互いを支え合いながら着実に奥へと進んでいった。


「だいぶ慣れてきたな」


「ふふ、最初から慣れてたんじゃないかな? 遺跡でもボスを倒してるんだから、中級ダンジョンくらい楽勝でしょ!」


「まあ、あの時は半分運だったけどな」


「にゃは、謙遜してるところが逆に怪しいから」


視線を交わしながらも、二人の動きは軽快だった。

足取りは弾み、次々と魔物を退けていく。


やがて通路が広がり、天井の高い空間に出た。

無数の石柱が立ち並び、苔の光が天井を照らす。

水面に反射するその輝きは、まるで別世界のようだった。


「わぁ……綺麗.....」

リィナが感嘆の息を漏らす。


悠真も言葉を失い、ただその光景を見上げた。


「……幻想的だな」

悠真は小さく呟き、すぐに警戒の視線を周囲へ巡らせる。


「こういう場所こそ、罠や敵が潜んでる可能性が高いぞ」


「分かってるもん。

でも……ちょっとくらい見とれても罰は当たらないにゃ」


リィナは肩をすくめながらも、

目の前の神秘的な光景に目を奪われた。


ほんの一瞬、戦いを忘れるような穏やかな時間が流れた。


「あれが中層の目印だよ」


「なるほど……ここまでが中級か、でも、ここからは、さすがに雰囲気が全然違うな」


――


通路を抜けると、さらに広い空間が待ち構えていた。

壁に点々と光る苔が、ぼんやりとした灯りを放ち、天井の高みまで闇が支配している。


「……空気が重いね」

リィナが耳をぴくりと動かし、弓を構える。


悠真も、湿った地面に足を沈めながら低く呟いた。

「ああ....ここ……何か、嫌な気配がする」


ぴたりと、空気が止まっていた。

遠くで水滴の落ちる音だけが響き、二人の呼吸が妙に大きく感じられる。短い沈黙が流れる。


「……リィナ。この階層を抜けたら、終わりにしよう。」


「え? もう帰るつもり?」

リィナは少し驚いたように顔を上げたが、すぐに頷いた。


「油断は禁物だ。無理して命を落としたら、それで終わりだからな」


「ふふ……慎重な悠真も嫌いじゃないよ」

リィナはそう言って微笑み、悠真も小さく笑みを返した。


だが――その穏やかな一瞬が、最後だった。


足元の石畳が、低い悲鳴のような音を立てる。

「……っ!」


二人が反応するよりも早く、床が一気に崩れ落ちた。


世界が傾き、重力が一瞬で裏返る。

視界が回転し、光と影が混ざり合う。


リィナの叫びが、遠くで反響した。

「悠真――っ!」


2人の体は闇の底へと吸い込まれていった。


ーーー闇の底へと吸い込まれる中、悠真は反射的にリィナの手を掴み、落下の衝撃に備えた。


ゴウンッ!

硬い石の床に叩きつけられ、鈍い痛みが全身を走る。

湿った空気が肌にまとわりつき、苔の光も薄暗く頼りない。


「……まずい.....中層よりずっと深い階層だ!」

悠真の声に緊張が走る。

漂う魔力の圧が、肌を刺すように重い。


「……うわ、完全に落とし穴トラップにゃ。

上には戻れそうにないよ」

リィナが顔をしかめながら、弓を構えて引き絞った。


周囲に漂う魔物の気配が、これまでとは比べものにならないほど濃密だった。


壁の影がぬるりと揺らぎ、細長い黒い影が床に伸びる。

次の瞬間、獣のような四足の魔物が姿を現した。


人面を思わせる歪んだ顔に、ぎらつく眼。

闇をまとった獣――影喰い。


「来たぞ……!」


悠真が踏み込み、槍を突き出す。

鋭い一撃が影喰いの胸を貫いた。


「やった!」

リィナが歓声をあげた。だが次の瞬間、悠真の目が見開かれる。


倒れたはずの影喰いの体が、闇の粒子となって広がり、

壁や床の影に染み込んでいく。


――ぞわり。


冷たい気配が背後から立ち上がった。


「ふ、増えてる……!」

リィナの叫びに振り向くと、左右の壁から2体、

影喰いが這い出してきていた。


「1体が死ぬと、2体に分かれるのか……!」

悠真は舌打ちする。


すかさずリィナが矢をつがえ、ひとりを射抜く。

矢は正確に目を貫き、影喰いは崩れ落ちた。


だがその死骸から、またしても2つの影が溢れ出し、

さらに2体が姿を成す。


「きりがないよ!」


広間の空気が闇で濁り、視界がじわりと霞む。

数はどんどん増え、やがて10体を超えた。


歪んだ笑い声が四方から木霊し、心臓を鷲掴みにするような圧迫感が迫る。


「リィナ、背中を預けろ!」

悠真は後退し、リィナと背中合わせになる。


槍が振るわれるたびに1体が貫かれるが、すぐに2体へと増殖する。

リィナの矢も次々と敵を穿つが、まるで水をすくうように数は減らない。


「このままじゃ押し潰される……!」


影喰いたちが一斉に蠢き、獲物を仕留めるべく跳びかかってくる。

悠真は槍を薙ぎ払い、リィナは弦を引き絞る。だが、どれだけ倒しても数が減らない。

むしろ壁の隙間を埋め尽くすように膨れ上がっていく。


背後に退路はない。

悠真は2体を突き払いながら踏みとどまるが、次の瞬間、脇腹に冷たい衝撃を受け、石壁に叩きつけられた。


肺の中の空気が一気に抜け、視界が揺れる。

第13話、ご覧いただき大感謝です。

毎日更新できてますが、いずれ月水金にする予定です。

まだ、慣れなくてアタフタ^^;


次回、『第14話:鏡の中の試練』も

是非【応援よろしくお願いします。】


いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。

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