第1話: 異世界への召喚
はじめまして。転生アニメが大好き過ぎて気がついたら『追放された最弱勇者、ガチャ進化で無双』を書いちゃいました。 最弱少年がガチャ進化で逆転する物語。初回は3話公開! 是非よろしくお願いします。
轟音。視界を白い光が焼き尽くした。
篠崎悠真は信号待ちの交差点で、迫るトラックのヘッドライトに凍りついた。家族の笑顔が脳裏をよぎる——
次の瞬間、ふわりと宙に浮くような感覚とともに、固い床の上に叩きつけられた。
「……っ、痛っ……」
鈍い衝撃が身体に走り、思わず顔をしかめる。
(……死んだのか? 俺……)
ゆっくりと目を開ける。
目の前に広がるのは、豪奢な大広間だった。
高い天井、壁には精巧な彫刻が施され、煌びやかなシャンデリアが輝いている。
そして、目の前には大きな玉座があり、豪華な衣装を身にまとった中年の男が悠然と座っていた。
(ここ……城?)
混乱する悠真だったが、それ以上に周囲の状況に驚かされた。
同じように床に倒れこんでいた男女が、悠真のすぐそばで身を起こしていたからだ。
「ここは……?」
悠真の隣で、短めの黒髪の青年が低く呟く。彼は鋭い目つきで周囲を見渡しながら、自分の服を確認していた。
スリムTシャツにジーンズ、黒スニーカーという現代的な装いだが、鋭い目つきが存在感を放っていた。
その隣には、長い黒髪を背中まで流した落ち着いた雰囲気の美少女。水色ワンピに白のロングカーディガンを羽織り、首元にある水滴型のシルバーネックレスが光る。まるで水の精霊のような清楚さだ。
さらに、その隣には、筋肉質でがっしりとした大男。
グレーのタンクトップにカーキのワークパンツ、足元の重厚なブーツが圧倒的な力を感じさせる。だが、彼は困惑した表情で周囲を見渡していた。
(...知らないやつばかりだ)
「ようこそ、勇者たちよ」
荘厳な声が広間に響いた。
悠真たちがそちらを向くと、玉座に座る男——この国の王と思われる人物が堂々とした態度で彼らを見下ろしていた。
「我が名はアルベルト・エルミナス三世。エルミナス王国を治める者である」
彼が名乗ると、周囲にいた甲冑姿の騎士たちが一斉に剣を掲げ、敬意を表した。
「貴公らをこの世界に召喚したのは、他でもない。我が国……いや、この世界が滅びの危機に瀕しているからだ」
「滅びの危機……?」
黒髪の少女が静かに尋ねる。
王は重々しく頷いた。
「封印されし魔王が復活を果たそうとしている。我々人類は、この災厄を食い止める術を持たない。故に、異世界より勇者を召喚したのだ」
「勇者……?」
悠真は自分の耳を疑った。
突然の召喚。異世界。そして、勇者としての使命。
これがゲームや小説の世界であれば、大いに興奮する展開だろう。しかし、今、目の前に広がっている光景は、現実そのものだった。
「ちょっと待ってください。つまり、私たちはあなたたちの世界を救うために、強制的に召喚された……ということですか?」
黒髪の少女が冷静に問いただす。
「無理もない。貴公らにとっては、突然のことであろう。しかし、貴公らには加護が授けられている。それこそが、貴公らが真の勇者である証なのだ」
「加護……?」
「そうだ。神より授けられし特別な力。それを持つ者こそ、魔王を討ち滅ぼす資格を有している」
悠真は息を呑んだ。
彼の運命は、この瞬間、大きく動き出す——。
♢勇者たちの能力開示
王の言葉に、広間の空気が張り詰める。
「……加護?」
筋肉質な大男——高橋健吾が太い腕を組みながら呟いた。
「その通り。貴公らには、それぞれ特別な力が与えられている。その力を示せば、貴公らが真の勇者であると証明されるであろう」
王が軽く片手を上げると、隣に控えていたローブ姿の老人が一歩前に出た。
「私は王国の宮廷魔術師ガルス。今より、貴公らの加護を鑑定し、明らかにしよう」
老人は杖を持ち上げると、柔らかな青白い光が広間に広がった。
「では、一人ずつまいりましょう。まずは——そこのあなたから」
ガルスが指を差したのは、短めの黒髪の青年だった。
「俺か」
青年は一歩前に出ると、堂々とした態度で胸を張った。
「名を尋ねても?」
「……坂本一真だ」
坂本が名乗ると、ガルスは杖をかざした。杖の先が眩く輝くと、次の瞬間、広間に熱を帯びた空気が広がった。
「ほう……これは!」
「何が起きた?」
悠真が目を細めると、坂本の身体の周囲に薄く揺れる炎が浮かび上がっていた。
「見事なまでの戦士の加護……否、これは剣聖の力! 貴殿には炎を纏う剣技を操る力が授けられている」
「剣聖の力……?」
坂本は自分の拳を握りしめると、指の先から小さな炎が生まれるのを見つめた。
「すげぇ……!」
「おお……!」
周囲の騎士たちも、その力に驚きを隠せないようだった。
王は満足げに頷き、「素晴らしい力だ」と称賛を送る。
「次はそちらの娘」
ガルスは、黒髪の少女へと視線を向けた。
少女は静かに歩み出ると、冷静なまなざしでガルスを見つめた。
「名を」
「……青山美咲」
彼女が名乗ると、ガルスは再び杖をかざした。すると、今度は空間に冷たい波動が走り、空気中に水滴が浮かび始めた。
「……水?」
悠真が驚いていると、青山の足元から水がふわりと持ち上がり、彼女の周囲を静かに旋回し始める。
「なるほど……! これは魔力の権化! 水属性の魔法を自在に操る力を持っておる!」
「魔法……!」
「うそだろ……」
騎士たちの間から感嘆の声が漏れる。
青山自身も驚いているようだったが、すぐに冷静さを取り戻し、小さく頷いた。
「これは……なかなか興味深いわね」
「次!」
ガルスが指を差したのは、高橋健吾だった。
「俺か」
彼は力強く前に出た。
「……高橋健吾だ」
名乗った瞬間、ガルスの杖が光り輝き、彼の身体の周囲に金属のような硬質な輝きが広がった。
「なんだ……?」
「おお、これは!」
広間にどよめきが走る。
「これは錬金術の加護……否、貴殿は錬金術の達人の力を宿しておる! 鎧の強化、盾の創造……防御特化の力を持つ!」
「なるほどな……」
高橋は己の手を見つめ、満足げに頷いた。
坂本の剣技、青山の魔法、そして高橋の錬金術——どれも明らかに強力な力だった。
悠真は、少しだけ胸の高鳴りを覚えた。
(俺にも……強い能力があるのか?)
そんな期待を胸に、ガルスの視線が最後に悠真へと向けられた。
「最後は……貴殿か」
「……篠崎悠真です」
名乗ると、ガルスはゆっくりと杖をかざした。
だが——
何も起こらなかった。
「え?」
坂本や青山、高橋も不思議そうに悠真を見つめる。
「……?」
悠真自身も戸惑った。
「どういうことだ……?」
ガルスは再び杖をかざす。だが、何度やっても何も変化はなかった。
やがて、ガルスは困惑した顔で眉をひそめた。
「……これは……なんと……」
「何か問題が?」
王が不機嫌そうに問いかける。
ガルスは少し言い淀んだが、やがて口を開いた。
「……篠崎殿の加護は……アイテムの進化……おそらく、道具の性質を変化させる類のものかと」
「アイテムの進化?」
王の声がやや低くなる。
「つまり……戦闘には向いていない、ということか?」
「ええ……おそらく...戦闘に直接役立つ力ではありませんな.....いや、その......ただ未知の力ではあります」
ガルスの言葉が静まり返った広間に響く。
坂本の剣聖の力、青山の魔法、高橋の防御力。どれも強大な力だ。しかし、この能力は……。
悠真は、周囲の視線が冷ややかになっていくのを感じた。
「なんだ.....? それは……」
「補助系の能力? 勇者としては……あまりに地味では?」
「これでは戦力にならんではないか」
騎士たちがヒソヒソと囁き合う。
悠真は拳を握りしめた。
(そんな……まさか、俺だけ……)
異世界に召喚され、勇者として選ばれたはずなのに。
「——篠崎悠真よ」
王が静かに言った。
「貴様の力は……この戦いに必要なのか?」
王の言葉に、悠真は絶句する。
(俺だって....知るもんかよ.....)
その瞬間——彼の運命は大きく揺らぎ始めた。