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第11話

「おい。これはどういうことだ」

「申し訳ございません。完全に警戒されております」


 アシオスの地下牢で、ドモーアと顔を合わせたのがマズかった。

城下に忍ばせている俺の配下の者たちが、完全に封じられている。

「セリオ」が今の状態で彼らに捕まることは決してないが……。


「マズいな」


 ようやく着替えを終え、執務室に入る。

三人だけとなった空間で、やっと一息ついた。


「しばらくは動けません」

「絞首刑の執行はどうなった」

「一旦延期になったところまでは、把握しております」


 ここまで監視されると、俺たちはしばらく動けない。


「……。この件を、派手なお祭り騒ぎにしろと言った指示は?」


 ディオスは珍しく表情の乏しい顔を緩めると、ツンとすましてみせた。


「順調に動いております」


 パブロもニッといたずらに微笑む。

どうやら、上手くいっているようだ。


「はは。ならとりあえず、静観とするか」


 今はヘススの警戒を解くことに専念しよう。

しばらく大人しくしていれば、すぐに注意は逸れるだろう。

簡単なことだ。


 俺はいつものように閉じられた庭園で寝て過ごし、時にはそうであってほしいと願う連中の望みに合わせ、楽団を呼んで馬鹿騒ぎなんかもしてみる。

そうやって待っていれば、次の知らせが入るはずだ。


「王子!」


 そう思った矢先、城外においている者からの知らせが入った。

その一報に、ディオスが駆け込んでくる。


「ホセとフィローネの、執行の日が決まったようです」

「いつだ」

「明後日です!」

「出るぞ」


 まだ間に合う。

俺はベッドから飛び降りると、着替えようと箪笥に手を伸ばした。


「お待ちください。今日はもう遅い。昼を過ぎております。今から外へ出ても、夜明け前までに戻って来られるかどうか分かりません。今日は準備を整え、日の入りと共に城を抜け出すのが得策かと」

「それで間に合うか!」

「いずれにせよ、今のままでは執行を止めることまでは出来ません」


 クソッ。ディオスの言うとおりだ。

俺には何の力もない。

もし俺が王として強くあったとしても、守護隊長の決定を俺の一存だけで覆すことは不可能だった。

しかも今の俺たちは、外界との接触を断たれている。

確かな情報がほしい。


「明日の早朝に出る。準備を整えておけ」


 予定通りまだ日の昇りきる前に、俺たちは城を抜け出した。

行く先はアシオス守護隊本部。

そこにドモーアとホセがいる。

人気のない早朝の大通りを、三頭の馬が駆け抜けた。


「来たぞ! 奴らを捕らえろ!」


 守護隊本部を間近にして、複数の守護隊員が路地裏から飛び出してきた。


「なんだコイツら!」

「罠だ! セリオ、逃げろ!」


 ディオスとパブロが馬上で剣を抜く。

逃げろって、どこへ?


「クソッ。一旦引くぞ」


 本部前を全力で駆け抜ける。

背後から追いかけて来る騎馬隊を連れたまま、郊外の草地まで出た。


「俺たちを捕らえるつもりか! これじゃドモーアと話が出来ない!」

「ここは我々が食い止めます」


 それでも、明日が処刑日だ。

追ってくるアシオスの騎馬兵は三体。

俺たちは首に巻いた布で、しっかりと顔を隠し直した。


「シアの所へいく。戻るまで持ちこたえろ」


 その瞬間、ディオスとパブロは馬を反転させる。

高いいななきが、明け方の草原に響いた。

追っ手を制するディオスの声を背に、俺はシアのいるブラスへ馬を走らせる。

どれだけ馬を飛ばしても、たどり着くのは昼前だ。

太陽はジリジリと昇り続ける。


「シア! シアはいるか!」


 本部へ着くなり、馬を乗り捨て中に駆け込んだ。

驚くブラスの守護隊員を押しのけ、隊長室のドアを突き破る。


「頼みがある。馬を出してくれ!」


 シアはブラスの守護隊隊長である証の白い制服を着て、数人の部下に囲まれ執務の真っ最中だった。


「アシオスの守護隊に襲われた。仲間が処刑される。彼らを助けたい」

「守護隊に襲われた? 知らん。アシオスでの出来事は、アシオスの守護隊長に頼め」

「それが出来ないから、お前のところまで来たんだ!」


 シアはうんざりとため息をつくと、一度は止めていたペンを再び走らせる。


「出来ないことはないだろう。おかしな奴だ。お前は王子の愛人であり、使者なのだろう? それが本当なら、ドモーアは喜んで協力してくれるはずだ。そっちへ行け」

「はめられたんだ」


 ディオスのところへ来た連絡、それ自体が罠だったのか? 

処刑日を使って俺を招き寄せた? 

「セリオ」を捕らえるため? 

あらゆる可能性が脳内を駆け巡り、もはや何を信じていいのかも分からない。

シアは頬杖をつくと、呆れた目で見下ろした。


「詳しい事情など、俺に興味はない。アシオスの出来事は、アシオスで判断される。俺の出る幕じゃないってことくらい、お前にも分かるだろ」


 もちろん分かっている。

分かってはいるけど、それでもどうにかしたい。

今ここで彼らを見捨てることは、俺には出来ない!


「……。王子からの伝言だ。今すぐなくした宝石を持って、城まで来い。ドモーアも一緒にだ」


 シアの冷静さを保っていた眉が、ピクリと動いた。


「おい。そんな宝石の使い方、初めて聞いたぞ」

「王子の命令だ。従えないのか」

「それがもし、お前の嘘ならどうする?」

「俺を殺せ。好きにするがいい」


 シアの細く黒い目が、じっと俺を見定めている。

俺はそこから目を逸らさなかった。


「……。分かった。いいだろう。その話、今回は特別に乗ってやる」


 シアが重い腰を上げた。

手袋をはめ、部下に予定の変更を伝えている。

奥の部屋から、宝石の詰まった小袋がトレイにのせ運ばれてきた。


「ひとまずお前に返しておこう」

「恩に着る。この礼には、いつか必ず報いよう」

「はは。そりゃ楽しみだな」


 俺がそれを懐にしまうと、シアは兵舎へ向かい部隊の編成を始める。


「どれくらい人数がいればいい?」

「多ければ多いほどいい。六は欲しい」

「それだけ動員すると、こちらの負担が大きいのだが?」

「補填してやる。心配するな」


 シアと俺以外に、供をする六人が選ばれた。

それぞれが馬にまたがり、装備を調える。

俺にも新しい馬が用意され、その手綱を掴んだ。


「行くぞ!」

「待て。セリオ。王子の目的はなんだ。せめてそれくらいは聞かせてくれ」

「知らん。次に会った時にでも聞け」


 先を急ごうとする俺の前に、シアは馬を並べ立ち塞がった。


「ならば聞き方を変えよう。お前の目的はなんだ」

「俺? 俺は……」


 俺の目的? 

なんだそれ。

そんなこと、今のシアに必要だと思えない。

それをシアが知って、何が変わる?


「……。忘れた」

「フッ。まぁいいだろう。今は黙って付き合ってやる」


 シアの合図で、部隊が動き出した。

それに合わせて、俺も馬を走らせる。

余計なことなんて、考えている暇はない。


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