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第10話

「だとしたらどうなんだ? 俺は俺だ。自分の好きに動いている」


 シアの顔がさらに険しくなった。

何かを懸命に考えているようだが、勝手に混乱していればいい。


「その袋は、俺が王子から預かったものだ。好きに使っていいと言われている。俺かこの二人のどちらかから知らせがあるまで、ここに隠しておいてくれ」

「……。王子は何を考えている」

「さぁね。俺が知るわけないだろ。王子には王子の考えがあるんだろうよ」


 何を考えているかだって? 

そんなこと、もう俺にだって分からない。

だけど、あの美しく整えられた庭園という名の牢獄に閉じ込められているより、今の方がずっと気分はいい。


「とにかく、今日はそれだけを伝えに来た。日が落ちる前に、報告に戻らなくてはならないんだ」

「城にか?」

「そうだ」


 俺たちが部屋を出ると、シアは部下を引き連れ、外にまで見送りに来た。

慌ただしく馬にまたがるのを、静かに見守っている。

俺は帰城の準備を調えると、金髪の男を見下ろした。


「では、頼んだぞ」

「……。分かった」


 手綱を引いた時、もう一度シアが尋ねた。


「お前、本当は何者だ」

「だから、王子の『可愛い人』だよ」


 苦々しい表情を浮かべたシアを残し、馬を走らせる。

何が「可愛い人」だ。

自分で言って反吐が出る。

俺は自分をそんな風に思ったことなど、一度だってないのに。


 沈みゆく太陽と争いながら、馬を飛ばす。

このところ頻繁に城を抜け出している。

暗くなる前に城に戻らなくては、そうでなくても見逃されている俺の素行にケチがつけられる。

王子の使者がアシオスの牢獄へ入ったという情報は、ドモーアからヘススにも伝えられるだろう。

余計な目をつけられれば、今よりもっと動きにくくなる。


 いつものように馬を乗り捨て、隠し通路から城へ戻る。

ベッドに飛び乗ったと同時に、執務室のドアが叩かれた。


「ニロ王子。王子はご在室か?」


 ヘススだ。

奴は俺からの返事も待たず扉を開けると、中に入ってくる。

黒く染めていた髪は、いつも隠し通路入り口においてある、脱色剤を染みこませた布で拭きながら走ってきた。

俺たち三人は、天蓋から垂れ下がる目隠しの中で、必死で服を脱ぐ。


「王子。お返事は?」


 ヘススが垂れ幕を開ける。

まだ靴を履いたままの下半身と、脱ぎ捨てた上着をブランケットの下に隠して、俺はヘススをにらみつける。


「何の用だ。邪魔をするな」


 三人ともずっと馬を飛ばし、全力で走ってここまで戻ってきたばかりだ。

荒い呼吸に滴る汗が肌をつたっている。


「……。これは、大変失礼いたしました」


 ヘススの顔が、激しい不快に歪んだ。

カーテンを閉め直し、部屋を出てゆく。

今日はもう、小言をいう気力も失せたようだ。


「何とかなったな」


 そう言った俺に、ディオスは深くため息をついた。


「そうであればいいんですけどね」

「なんだ、その言い方は」

「とにかく、しばらくは慎重に行動しましょう」


 俺たちの不安は的中した。

ドモーアは俺がアシオスの守護隊を立ち去ってすぐ、ヘススと連絡を取ったらしい。

今まで滅多に興味を示すことのなかった俺を、ヘススが頻繁に訪問するようになった。


「王子。失礼いたします」


 今日は朝の支度をする、寝室横の衣装部屋にまで侵入してきた。


「本日は朝の散歩をご一緒したいと思うのですが、よろしいか」

「ディオスとパブロがいない」


 あの二人にまで何かと用を言いつけ、行動を制限してくる。


「あまり特定の者ばかりをかわいがるのも、如何なものかと。あの二人は大変優秀な才能の持ち主です。もっと彼らにふさわしい、他の役職を与えてご覧になってはいかがでしょうか。きっと素晴らしい活躍することでしょう」

「俺の側近は俺が決める。早く二人を呼んでこい」


 着替えを手伝う侍女の手をはねのけると、俺は半裸のままソファに腰を下ろした。


「ディオスとパブロが来るまで、ここから動かんぞ」


 そもそもあの二人は、城内に居を構えているのだ。

俺が呼んで来られないわけがない。

コイツは王子の命令まで無視するつもりか。


「ならばそれまで、ぜひ私と庭の散策を。真っ赤なハイビアナの花が、見事に咲いておりますよ」


 服を半分だけ着替えた格好のまま、片膝を立てそこに肘をつき、横を向いたまま動かないと決めた俺に、ヘススはすぐにイライラし始めた。


「王子。最近の王子は、市民の生活に関心をお持ちのようだと聞きました。素晴らしいことです。ご立派になられました。王もきっとお喜びになることでしょう。如何です? 国民の生活について、私と意見を交わすのも……」

「お前もヒマだな」


 俺のような人間にバカにされ、ヘススが湧き上がる怒りを必死で誤魔化そうとしているのが笑える。

公爵は脂肪に埋もれた顔に、いびつな笑みを浮かべた。


「王子は近頃、アシオスに特に興味がおありだとか。守護隊長でも呼んで、様子を語ってお聞かせいたしましょう」

「ほう。なぜ俺がアシオスに興味があると?」

「……。これはまだ単なる噂でしかございませんので、お耳に入れるのはどうかと苦慮していたのですが……」


 ヘススはふと、その顔に彼本来の底意地の悪さを浮かべた。


「近頃アシオスで、王子の名を語る不届き者が動いているとの報告がございまして。一度調べてみてはと思うのですが、なかなか尻尾を捕らえることが出来ずにおります」

「あぁ。俺の名を語ったところで、何の特にもならんだろう。放っておけ」

「そういうわけには参りません! 王子の名を汚すなど、もってのほか。手広く捜査を広げ、捕らえ次第厳重な処罰を下さねばなりません」


 コイツ、俺を牽制しに来たのか。

もしやセリオが俺だとバレてる? 

情けない話ではあるが、狡猾さと動かせる人員の広さでは、まだ俺は公爵たちに勝てない。


「ディオスとパブロを連れてこい。あの二人が来てからではないと、動かないと言ったはずだ」

「ふふ。かしこまりました。今すぐお連れいたしましょう」


 ニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべ、ヘススがようやく部屋を出て行く。

その言葉通り、二人はすぐにやって来た。


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