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第8話

「ではこれにて、今回の御前会議は終了といたします。次の開催は……」

「パブロ」


 俺はソファの真横に立つ、赤味のかかった金髪の男を呼び寄せた。


「ドモーアとシアを残して、他は帰らせろ。ヘススとフレンもだ」


 俺の声は、薄い垂れ幕の向こうにいる両公爵にも聞こえていた。

彼らの背中がピクリと反応し、出席たちが散り始めようとする中、パブロの高く透き通る柔らかな声が響いた。


「アシオスの守護隊長ドモーア殿と、ブラス地区守護隊長シア殿は、ここに残られよ。他の者はみな下がれ」


 すかさず両公爵から横やりが入る。


「ニロ王子。王子が私的に直言を賜るのは、いかなる場合においても許されておりません」

「左様です王子。王子の言葉には、必ず証人が必要とされております。個人的なお話しは、事前に連絡を頂いてから……」


 ヘススとフレンが食い下がろうとするのを、パブロは遮った。


「二言はない。卿らも去れ」


 とたんに会議室は騒がしくなった。

異例中の異例の出来事に、慌てふためく連中が引いていくのを待つ間、俺はパブロに指示を出す。


「宝石のやりとりを、上手く繋げてくれ」


 明かりの少ない薄暗い部屋で、ドモーアとシアの二人が並び一段低い床に片膝をつくと、頭を垂れ俺の前にひざまずいた。

パブロの声が響く。


「守護隊長としての勤め、ご苦労であった」

「ありがたきお言葉、痛み入ります」


 ドモーアが即答したのに対し、シアは口をつぐんだまま、焦るように目を泳がせている。

パブロはゆったりとした口調で続けた。


「実はほんの数日前、なくし物をしてしまってね」

「ほう。どのようなものにございましょう」


 意気揚々と顔を上げるドモーアに対し、シアはしっかりと前を向いたまま、困惑した表情を隠せていないのが面白い。


「私の部屋にあった、いくつかの贈り物が見当たらないのだ」

「贈り物? と、言いますと、宝飾品の類いにございますか」

「さすが。ドモーア殿は察しがいい」


 パブロは直立不動で前を向いたまま、表情もなく声だけで柔らかくふわりと笑う。


「一度、アシオスで買い取りを願ったのが、断られたという話だ。その後ブラスへ行き、なくしてしまったらしい」

「なくされたのですか?」

「あぁ。そのようだ」


 シアは黙ったまま、ずっと渋い顔をしている。

ドモーアは突然の話に、困惑の色を隠せない。


「あの……。王子はそれを、売りに出すおつもりだったのですか?」

「さぁ」


 俺はソファに横たえていた体を起こした。

サラリと衣ずれがして、重なりあった石がキラキラと放つ光は、カーテン越しにでもその輝き見てとることが出来るだろう。


「私の可愛い人のすることだ。何を考えているのやら」


 パブロは上品にクスリと微笑んだ。

ドモーアはそれに力なく「あはは」と笑い、俺は苦笑を浮かべる。

パブロの奴め。


「許してやりたいんだ。こっそり見つけて、あれの喜ぶ顔が見たい。探してはくれないか」


 俺はソファから立ち上がった。

その気配を察した二人は姿勢を正し、深く頭を下げる。


「かしこまりました」

「ふふふ。よろしくね」


 ペタペタと素足を鳴らし、俺は部屋を出る。

専用の廊下を抜けると、隔離された庭園に戻った。


「おい、パブロ。可愛い人って、なんだよ」


 パブロはとぼけた顔をして、フンとそっぽを向いた。

おどけたパブロの隣で、ディオスはため息をこぼす。


「ご自分で言い出したことでしょ。あの時は本当に、こっちの方がびっくりしましたよ」

「うるさい」


 だけど、思いつきで口走ったにしては、上手いこと行ったのでは?


「ははは。それより、あのシアの顔を見たか?」

「滅茶苦茶困ってましたよね」

「ウケる」


 外界から切り取られた庭園の内側から、世界の外に目を向ける。

庭園から見える景色は、どこまでも広がるアルパラナの城下街だ。


「だがこのままでは、計画が台無しだ」


 明るい黄土色の街が広がる中に、不自然な黒い染みのような焼け跡が見えた。


「ホセとフィローネの様子を探ります」

「この事件を、もっと騒ぎ立てろ」

「と、言いますと?」


 ディオスが首をかしげる。


「世間の注目を集めさせるんだ。好きなだけ金を使って、大騒ぎしろ。人々の関心が集まれば、ドモーアも慎重にならざるを得ない」

「絞首刑を逃れられると?」

「重すぎるだろ」


 ドモーアは金集めの機関として、サパタ商会を軸とするアシオスの経済圏を掌握しようとしている。

彼らの私利私欲を満たすための犠牲となるのは、あまりに不憫だ。


「出来れば助けてやりたい」


 二人も強くうなずいた。


「行って参ります」


 白の庭園から二人を見送る。

彼らからの報告が返ってくるのに、さほど時間はかからなかった。

ドモーアが御前会議で報告した通りに事は進んでいて、ホセには絞首刑が決定されていた。


「なぜだ! どうしてこうなる!」

「ホセは犯行を否定していますが、恋人であるフィローネが、自分たちの犯行だと自白したと」


 ウソだ。

そう信じたいが、正式な報告書であるアシオス守護隊の公文書にそう記されている以上、これが「真実」となってしまう。

しかも、ドモーアは御前会議の場ではっきりと言及しなかった、盗品売買の件まで彼らにかぶせて片付けるつもりだ。


「お前たちは、これを信じるか?」


 ディオスとパブロからの返事はない。

このままでは、二人が殺されてしまう。


「行こう。真実をこの目で確かめたい」


 俺たちはすぐに城を飛び出した。


「フィローネはどこにいる」

「彼女は、例の雑貨店で通常の生活を続けています」

「ホセが地下牢か」

「そうです」


 馬を走らせアシオス守護隊本部前にそれを乗り捨てると、中へ乗り込む。


「面会を求める! ここに勾留されている、ホセという男に会いたい。案内しろ」


 入り口すぐの小部屋で四角く切り取られたカウンターに、受付らしい男が一人座っている。

飛び込んで来た俺たちを警戒したのか、数人の守護隊員が武器を片手に、こちらの様子を窺っていた。


「……。名前は?」

「セリオだ」

「ホセとはどういう関係に?」

「友人だ」


 禿げ上がった頭の初老の男は、持っていたペンで額を掻いた。


「面会は認められません。規則です」

「俺が会いたいと言っている。案内しろ」


 ディオスが俺の発行した、俺の許可証を取り出す。

王家の紋章が施され、王子直筆のサインが入った、国内でのあらゆる制限を突破できる許可証だ。


「な……!」

「案内しろ」

「しょ、少々お待ちください」

「待てぬ! ディオス。お前は分かるか?」

「はい」

「では案内しろ」

「ちょ、お待ちを!」


 受付の男が止めるのを無視して、ディオスが歩き始める。

俺とパブロも後に続いた。

廊下を進み地下に潜ると、ディオスは石で固められた牢獄の中へ入った。

真っ直ぐな通路の両脇に鉄柵がはめられ、囚人たちが捕らえられている。

その中の一室に、ホセが入っていた。


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