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第3話

「君たちか。盗品を売りさばきたいと言ってきたのは」


 店の男がトレイに乗せ運んできた宝石を、男の前に置いた。

机の両脇には、護衛のための男を二人立たせている。


「品物を拝見させていただこう」


 男が小柄なせいで、普通サイズの椅子が大きくみえる。

子供が大人の椅子に座り、息息荒く渦巻いているようだ。


「これらをどこで?」


 男は袋から転がした宝石類を台の上に並べると、レンズ越しに一つ一つ丁寧に覗き込む。


「家にあった」

「なるほど。どこかの王公貴族でもないかぎり、これだけの品が家の中にあるとはおもえないな」

「本当にあったんだ」

「でしょうね。信じますよ」


 男は鑑定していた手を止めると、ニヤリと商人らしい笑顔を向けた。


「これだけの品が本当に盗まれたのだとしたら、話題にならないわけがありません。大事件ですよ。高貴な方々にとっての、重大事件だ。だけどうちに、そんな情報は入ってきていない。事件でないとしたら、どこかの坊ちゃん、つまり、家の人間が持ち出したということだ。身内の醜聞に敏感な貴族なら、こんな話は決して表には出ない。あなた方がどこの名家のご出身か知りませんが、値打ちのある品であればあるほど、出所はすぐに足がつきますよ。例え身分を隠したところで、すぐに割れます」


 男は隣国の国王から祖父王の見舞いついでに贈られた耳飾りを、指の先にぶら下げた。


「しかも、このデザインは男性用のもの。持ち主はあなた様ご本人とみて間違いないでしょう。まとまったお金が即金で欲しいなら、すぐに融通できますよ。理由なんていりません。いかがなさいますか?」

「取引は中止だ。今すぐ引き上げろ」


 すぐにディオスとパブロが宝石を詰め直し、ディオスが腰に結ぶ。


「残念です。このアシオスで、いやアルパラナ国内において、『貴族の盗品』を扱えるのは、うちだけですよ?」


 男は胸元から名刺を取り出すと、俺に向かって差し出した。


「サパタ商会のミトンと申します。またのお越しを」


 フンと鼻息だけ返し、部屋を出る。

気分は最悪だ。

不機嫌丸出しで階段を下りる俺を、初めに案内した男がチラリと見上げる。

笑われた気がした。


「……。ちょっとやり過ぎたか?」

「まぁ、王子の持ち物を一般に売ろうとする方が、間違ってるかも」


 確かに俺が引き出しの宝飾品を掴んだ時、ディオスは難しい顔をしていた。


「止めなかったじゃないか」

「とうするつもりなのか、聞かされていなかったので」


 とぼけるディオスに、俺は苦い虫をかみ殺す。

パブロは話を全く聞いていないのか、素知らぬ顔で横を向いている。

やかましい館内を抜け、外に出た。


「まぁいい。今日は、中の様子が知りたかっただけだ」


 身分がバレるのは面倒くさい。

だが、上手いようにあしらわれたのは、面白くない。


「何かいいアイデアはないのか?」


 繋いでいた馬に乗ると、ディオスとパブロも馬にまたがった。


「ですがこれで、この商会が『盗品』を扱う可能性があることは分かりました。貴族たちと繋がりがあるのも明白です。御前会議で盗品の件に触れていた、ブラス地区の守護隊長、シアさまに協力を要請しては」

「シアか」


 色白で、全体的に色素の薄い男の姿を思い出す。

真面目で誠実そうな風体でありながら、俺を利用して自分の意思を通そうとする強かさもあった。


「ニロ王子との繋がりを示唆することで、協力を仰いでみては? 彼の思惑とも一致することですし、のってくるかと」

「なるほど」


 ブラス地区もここアシオスと変わらないほど荒れ果てた貧しい地区だ。

治安もあまりよくないことから、有力貴族の子弟は守護隊長になりたがらない。

確か前任は軍人気質を拗らせた岩窟爺さんで、晩年は随分とモウロクしていたらしい。

守護隊長という名誉ある肩書きにこだわり続け、長く悪政をしいていた。


「シア隊長は、若くして実績をお持ちです。住民からの人気も高く、人柄も評価されています」


 ならば今回の件に巻き込んでも、問題はなさそうだ。


「行ってみるか」

「どのようにお誘いします?」

「は?」

「先ほど事前に方針を聞かなかったことを、咎められましたので」


 俺がディオスを気に入っているのは、その飄々とした遠慮のない物言いにもある。

元は城にいた下級兵の一人で、たまたま散歩に出掛けた先で、上官や先輩たちに囲まれ暴行を受けていた所を拾いあげた。

俺と同じ蒼い目と、そのままここで死んでいいという覚悟が気に入った。

どれだけ殴られても決して歯向かうことをやめず、自分の損得とは無関係に何度でも立ち上がっては、上官に掴みかかっていた。

俺が偶然通りかからなかったら、そのまま殴り殺されるか、処刑されていただろう。


 アシオス郊外の草原をのんびりと風に吹かれ、歩かせる馬がそのたてがみをふるった。


「……。何か、いい案でもあるのか?」

「ないです」


 そう言ったディオスに、パブロはプッと吹き出した。


「そういうセリオだって、何も考えてないだろ!」

「悪いか! だからどうすればいいかって聞いてんだよ!」

「ストレートに頼めばいいだろ。一緒にドモーアを何とかしようぜって!」


 ディオスが馬を走らせる。

俺とパブロも慌てて彼に続いた。


「バカか! そんな単純なことで、ブラスの守護隊長が動くわけないだろ! もうちょっと頭使え!」


 俺たちはアシオスを抜けると、田園風景の広がるブラスへと向かった。



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