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第6話

「フィローネ。君がリッキーさんのことを心配するのはよく分かる。だけど、俺らには俺たちの暮らしがある。こんなことを言うとフィローネは怒るかもしれないけど、他人の問題に首を突っ込んでいる暇なんてないんだよ。トリノさんの店が潰れちまったら、俺たちだって他人の心配をしてる場合じゃなくなる。誰かを心配することが出来るのは、自分が安心出来る立場にいられるからだ。今はリッキーさんのことより、明日のうちの仕入れ先を考えなきゃ。違う?」

「そうね。エンリケは間違ってない。それが正しいし正解だと思う」


 他人のことを気にかけて自分が倒れてしまったら、それを誰かのせいになんて出来ない。


「守護隊の判断を待つことにする。それで、絶対にサパタ商会じゃない仕入れ先を探す。あそことは取り引きしない」

「あはは。そうこなくっちゃ」


 開いておいたドアが軋む。

足音が聞こえ、私たちは振り返った。


「ホセ!」

「……。ふ、二人とも、何でこんなところに?」


 彼は杖をつきながら疲れたように悪い足を引きずり、中に入ってきた。


「ホセ! 守護隊に連れていかれたって!」


 エンリケが彼の体を支える。ホセはようやく安心したように、エンリケに体を預けた。


「うん。ずっと取り調べを受けてて……。今日になって、現場検証も終わったからって、さっき解放されて……」

「そっか」

「倉庫や事務所に鍵は掛かってないから、後はお前に任せるって言われたんだ。これからのことはまだ考えられないけど、とりあえず戸締まりくらいはしに来ようかと思って……」


 エンリケがホセの背をしっかりと抱きしめた。

抱き合ったホセの目に、涙が滲み出る。


「……。よかった。今ここで二人に会えて。じゃなきゃ俺、どうなってたか……」


 私は両腕を思い切り広げると、エンリケごとホセを抱きしめた。


「大丈夫。私たちは負けない。何があったって、立ち上がってみせる。そうでしょ? ホセ」

「うん。ありがとう」


 二人から抱きしめられているホセ越しに、エンリケと目を合わせる。

このまま彼を一人にしておくわけにはいかない。

こんな日は、誰だって放っておかれたくなんかないし、一人にしてはいけない。


「ねぇ、今日はうちに泊まりにこない? ホセなら大歓迎よ。カミラに頼んで、ごちそうしてもらわなくっちゃ」

「お、いいなフィローネ。そうしようぜ」

「で、でも……」

「いいから来いよ!」


 エンリケに背中を叩かれ、ホセは遠慮がちにうなずく。

ようやく彼にはにかんだような笑顔が戻った。


「ありがとう」


 事務所の窓ガラスは割れたままだったけど、私たちはドアにしっかり施錠すると、三人でトリノの雑貨店へ戻る。

緑の三角屋根が見えてくると、帰りが遅いのを心配したカミラが、店の前で待っていた。


「フィローネ!」


 両腕を広げたカミラの胸に飛びつく。

彼女は痛いほど私を抱きしめた。


「心配したのよ。帰りが遅くって」

「ゴメンなさい。だけど、どうしてもリッキーさんと倉庫をそのままにしておけなかったの」


 カミラはエンリケとホセにも遠慮のないハグをする。


「ホセ。大変だったわね。よく無事でいてくれたわ」

「ご心配をかけてすみません」

「いいのよ。さぁ、入ってちょうだい。すぐに何か食べるものを用意するわ」


 今夜は早くに店を閉め、五人で夕食のテーブルを囲む。

私たちは出来るだけ明るい話しをして、意識的にホセを気遣った。

天気の話、最近生まれた赤ちゃんの話、近所の鶏小屋が狐に荒らされた話と、屋根の葺き替え工事をそろそろ考えないといけないとかなんとか……。


「あら。誰かしら?」


 勝手口から扉を叩く音が聞こえる。日はとっくに沈み、夜も遅い時間帯だ。


「誰だろ」


 予定のない訪問者に、全員が身構える。

エンリケが立ち上がると、慎重にドアを開けた。


「こんばんは」

「セリオ!」


 彼は初めて出会った時と同じ服を着て、胸に手を当てると丁寧に頭を下げた。


「歓談中のところをお邪魔して申し訳ない。近くを通りかかったもので、どうしてもご挨拶しておきたくて」


 柔らかく巻いたクセのある黒髪に、透けるような白い肌。

目が覚めるほど鮮やかな碧い目をしたセリオは、駆け寄った私に優雅に微笑んだ。


「フィローネの知り合い? コイツが?」


 彼の持つ華やかな雰囲気は、確かに丁寧で気品ある優雅なものではあるけれど、その一方で他人を寄せ付けようとしない、鋼の鎧のようでもあった。

にこにこと微笑むセリオを、エンリケは胡散臭そうな目で眺める。


「なんだお前。どっから来た」

「また会う約束をしていたの。だから来てくれたのよ。それが今夜だとは思わなかったけど」


 セリオは私たちが夕飯を食べていたテーブルを見渡した。


「フィローネ。よかったら君の家族を僕に紹介してくれないか?」


 エンリケは呆れたような顔で自分の席に戻ると、残っていたパンを口に放り込む。


「えっと、この二人は、私を孤児院から引き取って育ててくれている雑貨屋のトリノとカミラ」

「初めまして」


 セリオはまるで貴族がそうするかのように、二人ににっこりと微笑んだ。

むくれた顔で不快感を隠そうともしないエンリケに目を向ける。


「こちらは、うちの店を手伝ってくれているエンリケで……」


 ホセは見知らぬ人を前にして、いつになく緊張していた。

だけど私には、彼を紹介するとしたらこれしか思いつかない。


「……。リッキー商会で倉庫番をしていた、ホセよ」

「リッキー商会!」


 セリオの整った顔に、驚きがパッと広がった。


「フィローネ、キミは本当によく出来ている」

「何のこと?」


 今のホセにとって、これはとてもデリケートな問題だ。

彼はリッキー商会の倉庫番であることを誇りに思っている。

その彼を笑ったりバカにするような人なんだったら、いくらセリオでもここから追い出す覚悟だ。


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