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信じる力

春の陽射しが、まだ少し冷たい風に混じってトラックを照らしていた。

空は晴れ渡り、グラウンドには練習に励む部員たちの声が響いている。


私はその端で、ボードを抱えながら碧の走りを見守っていた。

相変わらず、彼女はどこか不安げな様子で走っているけれど、

それでも少しずつ確かな足取りを感じることができるようになってきた。

ただ、それを見守ることに対する重圧が、私を時折押し潰しそうにさせる。


「ねぇ、凛。最近、あの子にかかりっきりじゃない?」

その声に、私は振り返る。同級生の斎藤の真剣な眼差しが、私に向けられていた。

「碧のこと?」

「そう。あんなに急に注力してる理由って、なに?

普通に考えれば、凛は引退が次の大会で決まる三年生に注力すべきじゃない??」

隣には、三年生の野村先輩が立っていた。彼女は副部長として部全体を見ている。

だから、碧が来てから少し変わった私に気づいてもおかしくない。

だから、こんな質問が出るのも無理はなかった。

「碧は、特別だと思う。」

私はそのまま答えた。内心、少しでも疑われることにイライラしていた。

けれど、彼女たちは純粋に部のためを思って言っているのだと、心の中で自分をなだめた。

「特別?」 野村先輩が眉をひそめる。「あの子はいったいどれくらい早いんだ?

正直、けがのことを踏まえると未知数に感じるけど。」

「その『未知数』が面白いんだよ。」 私は少し目を細めて言った。

それが、碧に対する信頼の証だった。

「信じてるの?」 真剣な表情を崩さず、二年生の斉藤が言った。

「でも、もしあの子がダメだったら? 凛、碧には次があるけど、先輩たちにはないんだよ?」


その言葉に、私の胸の奥で何かが熱くなった。あの子には、間違いなく才能もセンスも実力だってある。

そう感じているからこそ、私はここまで支え続けてきた。彼女が怪我で迷ったあの時だって、

私が離れれば、きっと彼女はまた一歩踏み出すのが遅くなる。それを避けるために、あえて厳しく、

そして優しく見守ってきた。


「ダメ?、碧がダメな結果を出すわけがない。」 私は静かに、しかし強い口調で答えた。

「碧には才能もセンスも実力もある。何より、けがする前の実力に戻そうとしている意思がある。

次の大会で、彼女は絶対に優勝する。」


その言葉に、周囲の空気が一瞬止まった。誰もが、

私の言葉を信じられないような、疑いの目で私を見ていた。


「まさか…」 真剣な眼差しを向ける斉藤に、私は再び強く言った。

「彼女の走りを見ていれば、分かる。あの子は、ただの追いかける選手じゃない。

次の大会、あの子は必ずトップに立つ。」


その時、私の心は決まっていた。どれだけ周囲が疑おうと、私の信じる道を貫く。

碧は、私の中で一番大切な選手だ。彼女の夢、私の夢。二人で走り抜ける未来が、

今、確実に見えてきた。

その静かな戦いの中で、私の胸の中で一つの確信が生まれる。碧の未来を信じて、私も共に走る。

その覚悟があったからこそ、私はその瞬間、自信を持って言葉を続けた。


「だから、彼女に期待している。私がここでサポートし続けるから、

次の大会では必ず頂点に立たせる。」


その瞬間、部内の空気はピリッと張り詰めた。誰もが私を見ていた。

でも、私にはそれが必要だった。今の私にとって、この言葉を発することが、

碧を本当に信じている証だと思ったから。


「凛が言うなら、信じるしかないか。」 野村先輩が、少し渋い顔をして言った。

「でも、もし結果が出なかったら、凛。川島は凛を恨むかもね。」

「結果を出すのは碧だ。」 私はその言葉をしっかりと受け止めた。「私が言ったから、じゃなくて。

彼女自身の力で、必ずやり遂げる。」


その後、他の部員たちは何も言わずに散っていった。私はその場に残り、碧の走りを見つめる。

「必ず、優勝する。」 私は心の中で何度も繰り返した。あの子には、それができる。

そして、私はひとり、次の大会に向けて心を燃やしていた。

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