転生した世界では蚊がラスボスだった〜平凡な俺が"究極奥義"で無双するまで〜
俺は、テンプレ通りトラックに轢かれて異世界にやってきた。
そこまでは良かった、そこまでは。
実はこの世界には、ただ一つ、俺が今まで読んできた転生系の物語とは明らかに違う点があったのだ。
そう、それは...
「こ、これは、!!!た、確かに確認いたしました。蚊の、死体です...!」
ザワザワ。受付のその言葉に驚いているようで、冒険者ギルドは騒然としている。
それもそうだろう。
この世界では、蚊は、魔物の中でもトップに君臨する危険度である。つまり、魔王みたいな感じだ。
それを倒せるのは特殊な力を持つ勇者しかいないと信じられていたのだから。
ざわめきを無視して、颯爽とギルドを後にした俺は、街を歩きながら、先ほどの光景を思い返していた。
蚊の死体を受付嬢に見せた瞬間の、あの一瞬で凍りついた空気。
そして次の瞬間、驚愕と恐怖が冒険者ギルド全体を包み込んだ。
いや、まさか蚊ごときでこんなに驚くとは。元地球人としては大変びっくりである。
だが、この異世界での蚊の扱いを考えると、彼ら冒険者たちの反応も無理はない。
この世界では、蚊がただの「吸血虫」なんて生易しい存在ではなく、「血の帝王」と恐れられる存在だからだ。
この異世界での蚊について、俺はギルドの図書室で事前に調べておいた。
というのも、俺が転生した初日、蚊らしき存在が目に入った瞬間に、街中の人々が全力で逃げていったからだ。
その時は何が起こったのかわからなかったが、調べた結果、次のような事実がわかった。
①蚊は数メートル単位で瞬間移動を繰り返すことができる。
これが「捕まえられない魔物」たる所以だ。まるでワープしているような動きで標的に近づき、攻撃を仕掛ける。つまり非常に素早いということ。
あれ?これ地球と同じじゃね?
②吸血した相手を状態異常にする。しかもその状態異常は強力で、非常に高確率で人を死に至らせる。
ん?これ蚊が地球で言うマラリアとかの病気を媒介してるってことじゃね?
③繁殖能力が非常に高く、ありふれた水たまりでも繁殖ができる。蚊の子どもは「ヤーゴ」と言われ忌み嫌われる。
てっきり異世界だから強くなっているのかと思いきや、蚊の能力は地球と変わらないようだった。
なのにどうして蚊を倒せないかというと、魔法も剣も全く当たらないから。
彼らの瞬間移動と、細かすぎる身体の動きは、この世界の人々にとってはほぼ神業。
それゆえ、冒険者たちは「最初から撃退など諦めるべき」と教えられているらしい。
だが、俺にはアドバンテージがあった。
それは地球でも使える、究極の蚊の倒し方。
「手で叩く」だ。
異世界人には思いつきもしない、あまりに単純なこの技術。
どうやらこの世界の人間は、魔力に頼りすぎていて、剣以外の物理攻撃をほとんどしないらしい。
もちろん蚊が剣で切れるはずがなく。
俺にとっては、ただ目で動きを追い、手を動かすだけの簡単な作業。
これが、この世界の蚊を討伐するための「究極奥義」となってしまう。
三日後・・・
「英雄様、次にお願いしたいのは……」と、ギルド長が深刻そうな表情で俺に声をかけてきた。どうやら次なる依頼があるらしい。
「近隣の村で、また『ヤーゴ』3体と『蚊』1体が現れたとの報告が……!」
「もしよろしければ、参戦していただきたいのですが...」
そう心配することはない。
俺の手には、蚊すら討伐する「究極の武器」があるのだから。
俺は深く溜息をつきつつ、再びギルドを出た。