44.ファンからの贈り物
日が傾きかけた頃、三人はダンジョンの入り口付近に戻ってきた。
午後四時過ぎとは思えないほど、冬の陽は短い。
G県、華坩山にあるダンジョン。
高濃度魔素エリアでの配信を無事に終え、今は心地よい疲労感が身体を包んでいる。
ネット上ではすでにコメントや拡散が活発になっていた。
「んーっ。やっと、戻ってきたね。うわっ、風つめたっ」
汗ばんだ肌に冷たい風が突き刺さる。
帆乃夏は思わず身震いした。
「コメント欄、すごかったすね。Vivitterでも『ステージ3』がトレンド入りしてますよ」
翔真がスマホを確認しながら呟いた。
「まだまだこれからです。この調子で続けていきましょう」
琴莉が鳥頭の被りモノをしたまま真面目なことを言うギャップが、帆乃夏は面白くて仕方がない。
我慢できず、「ふふっ」と笑いがこぼれる。
そんな帆乃夏たち三人のもとに、数人の影が近づいてきた。
「あのっ、すみません! ほのりんと……お稲荷さま、ですよね!?」
突然声をかけてきたのは、帆乃夏たちとそう歳の変わらない青年だった。
格好から察するにアマチュアハンターだろうか。
背後には、彼と同じような年頃の男女が数人立っている。
みな、どこか興奮気味な表情だ。
「えっと……はい。あの、なにか御用ですか?」
帆乃夏が一歩引き気味に答えると、青年たちは次々と口を開いた。
「さっきのライブ配信、ずっと見てました! 毎回楽しみにしてます!」
「自分たちの地元に来てるってわかったんで、もしかしたら会えるかもって」
「間に合って良かったあ」
「今日の配信もすごく勉強になりました。あんなに濃い魔石、初めて見ました」
「俺、一応、プロハンターなんですけど……。正直、ここのダンジョンがステージ1なんておかしいって前から思ってて。でも、言えなくて。だから、配信してくれて本当にありがとうございます!」
帆乃夏が戸惑いながらも、
「え……、あ……、ありがとうございます……?」
頭を下げると、翔真と琴莉もそれに倣う。
「お稲荷さまも、すごかったです! あんな正確な射撃、憧れます!」
「狐面の弓使いとか、マジで中二心くすぐられますよね」
「私はちょっと無口なところも好きですっ」
「ちょっ、ドサクサで何言ってんの!?」
テンションの高さに任せて、賑やかに騒ぐ男女。
本当に彼らは、ただただ帆乃夏たちのファンらしい。
「ありがとうございます。……正直、こんな企画を配信することが、視聴者の皆さんにどう受け取られるかちょっと不安だったんです。でも、こうして声をかけていただけて、本当に嬉しいです」
込み上げる照れくささを飲み込んで、帆乃夏が代表してお礼を述べる。
「いやいや、嬉しいのはこっちの方ですよ! …………本当にすごい企画だと思います」
最初に話しかけてきた青年が、少し照れたように言う。
「僕らがなんか変だなって思って注意喚起しても、『ハンター連盟がステージ1だって発表してるんだから大丈夫』って誰も聞く耳なんて持ってくれなくて。でも、最近は配信を見た人たちが『ほんとにヤバいのかも』とか言ってて。ああ、良かったって」
本当にホッとしたような表情をしている青年は、きっとすごく心の優しい人だ。
自分たちの言うことを信じてくれない人たちの身を本気で心配している。
「ダンジョン配信って、ぶっちゃけ娯楽だと思って見てました。だけど、皆さんの企画は毎回内容が濃くて……見終わった後、必ず調べてるんです、自分なりに」
「そうそう! うちの弟なんて、最近『将来ハンターになりたい』って言い出してて……。よくよく聞いたらほのりんに憧れてるんですって」
「気持ちわかるなあ。正直、テレビより信用してるもん。だって現場からリアルタイムで流れてくるから、編集もされてないし、変な演出もないし、本物って感じがする」
「でも……怖くないんですか? あんな危険な場所に入って、しかも、ハンター連盟を敵に回すような企画やって」
それは何度も自分に問いかけた質問だ。
帆乃夏は静かに口を開いた。
「もちろん怖いですよ。とても。でも……誰かがやらなきゃいけないことだから」
翔真は黙って頷いた。
「私たちは、連盟の間違いを知ってます。知っていて黙っていたら……きっと犠牲者は増え続ける。それが一番怖いんです。だから、皆さんの応援は、本当に力になります」
帆乃夏の言葉に、翔真が無言で頷く。
琴莉の被りモノも少しだけ上下に動いた。
そのとき、
「あの! お稲荷さまにこれ! よかったら持っていってください」
青年の後ろにいた女子が、木製の細長い枝に白い紙垂が結ばれた小さな玉串を差し出した。
飾り気はないが、丁寧に清められているのが伝わってくる。
「この前、ダンジョンで拾ったアイテムなんですけど、ごく稀に願いが叶うお守りみたいなアーティファクトらしいんです。私からの応援の気持ちだと思って頂けると……」
翔真が狐のお面をしたまま、帆乃夏の方へ一瞬目を向ける。
その視線には、「これ受け取っていいんすか?」という問いと、わずかな戸惑いが滲んでいた。
「受け取らないのも失礼なんじゃないかな?」
そう言うと、女子もブンブンと首を縦に振っている。
「…………あざっす。……すごく、嬉しいっす」
相変わらず言葉少なだが、彼なりの感謝を伝えながら玉串をそっと受け取った。
無事に役目を終えた女子は、照れくさそうに、青年の背に隠れるように戻っていった。
「今、誰かが声をあげないと、この国は本当に取り返しのつかないことになる気がするんです。だから……これからも頑張ってください。応援してます」
「絶対、負けないでくださいね!」
「アンチとか気にしちゃダメっすよっ」
「ほのぼのだんじょん、最高っ!!」
拍手や激励の言葉が飛び交う中、
三人はその場に立ち尽くし、寄せられた想いを静かに胸に刻み込んでいた。
木立を抜ける冷たい冬の風が、玉串の紙垂を静かに揺らす。
想いが込められた贈り物。
これからの配信には、きっと彼らの想いも乗ることになる。
火は、確実に広がっている。
若い世代を中心に、世論は動きつつあった。
その余波は、意外な人物へと繋がっていく。
だいたい60エピソードくらいで完結しそうです。
引き続き、よろしくお願いします。




