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22.ありがとう、おやすみ


「それでは、行きますよ」

「「はいっ!」」


 作戦は、すでに決まっていた。

 琴莉(ことり)の合図と同時に、翔真と帆乃夏が左右へ散るように駆け出す。


 雷属性の攻撃を無効化する雷断の腕輪は、変わらず帆乃夏が装着している。

 サンダーターはそれを見抜いているのか、雷球の狙いは翔真と琴莉へと集中していた。


 巻き込まれることを恐れてか、先ほどまで翔真たちを取り囲んでいたモンスターたちは、いつの間にか姿を消していた。


 青白い雷光が次々と奔る。

 翔真は右へ、左へ、ジグザグに駆けながら、その合間を縫うように雷球をかわしていく。

 目の端で琴莉の動きを確認しながら、雷の軌道を予測する。


(さっきより、避けやすい……!)


 視線が分散している分、サンダーターの狙いは甘くなっていた。

 だが油断した瞬間、死が訪れる。


「お稲荷さん、後ろに跳んで!」


 琴莉の鋭い声が飛ぶ。

 咄嗟の指示に、翔真は反射的に跳び退いた。

 直後、地面に突き刺さる黒い羽根。鋭く、光沢を帯びた刃のような羽だった。


 雷球の閃光に紛れて撃たれた暗器は、まさに翔真の心臓を狙っていた。


「…………本当に、未来が視えるのか」


 琴莉の持つ固有スキル――『未来予知』。

 数秒先の未来を読み取ることができる、十万人に一人の特異な才能(ユニークスキル)


 俄かには信じ難い能力だが、


〇マジで視えてるから

〇キツネは黙って信じてろ

〇琴莉さんガチで推せる


 翔真は信じることにした。

 信じて、走る。


 そのとき、帆乃夏が目的地に辿り着いた。

 落ちていた何かを拾い、翔真に向かって勢いよく投げる。


「お稲荷さまっ!」


 空中を弧を描いて飛ぶのは、()()()()()雷断の腕輪。

 高濃度魔素エリアで倒したジャガーゴイルのドロップ品だ。

 戦うことで精一杯だった翔真たちは気づいていなかったが、配信を見ていた視聴者がドロップに気づき、それを琴莉が覚えていたのだ。


 翔真は腕輪をキャッチすると、すぐさま鈴鳴りの弓につがえ、サンダーターを狙って弦を引いた。


 ――みんなで、勝つんだ。


「喰らええぇぇ!」


 翔真は全力で弓を引き絞り、雷断の腕輪を矢として放つ。

 サンダーターが雷球を放つが、雷断の腕輪はその電撃を貫いて飛翔し続けた。


 ボスッ。

 軽く、乾いた衝突音。


 腕輪はサンダーターの胸部、羽毛の中に。

 直後、淡い光が走り、周囲の空気が歪んだ。


 サンダーターの身体を覆っていた高圧電流のシールドが、雷断の腕輪を中心に半径二メートルほどの範囲で消失していた。


「これで終わりです!」


 琴莉が吼える。

 どこから取り出したのかも分からないほど自然な動作で大剣を手にし、跳ぶ。


 雷光の中、宙を舞う影。

 翔真の視界に焼き付いたのは、真っ直ぐな刃を構えた戦士の姿だった。


 振り下ろされる全力の一撃。

 サンダーターの首筋へ、滑らかな軌道で振り下ろされる。


 刃が骨を断ち、肉を裂く。


 だが、終わらない。

 サンダーターは、まだ動いていた。


 切断面から、電気混じりの黒い血が噴き上がる。

 サンダーターは呻くような金切り声を上げながら、その巨体を大地に叩きつけるようにして暴れ出した。琴莉は大きな羽に弾き飛ばされて体勢を崩している。

 

 首はほとんど繋がっていないのに、サンダーターは羽を大きく広げると、殺意に満ちた目で翔真たちを睨みつけていた。


「マジかよ……。まだ、生きてんのかっ……!」


 両眉を上げながら、翔真はもう一度弓を構える。

 手が震えている。膝も、視界も、すべてが揺れ動いていた。


 だが、やらなければ、殺される。

 ここは戦場だ。命の奪い合いをしているのだ。


「眠らせてやるよ」


 翔真は深く息を吸い込んだ。

 矢を形成するのは、この空間に漂う濃厚な魔素。


 照準を定める。

 サンダーターの眼が、翔真を捉えた。


「…………ッ!」


 見えない矢が放たれる。


 風を裂き、矢は断ち切られた首の付け根へ。

 心臓に近い急所へと突き刺さった。


 雷光が炸裂する。

 黒い羽が舞い、空間が歪み、地響きのような振動が耳を突いた。


 そして、沈黙。

 ついに、雷翼鳥らいよくちょうサンダーターが、地面へと崩れ落ちた。


 その場に、重苦しい沈黙が満ちる。

 翔真は膝をつき、深く息を吐いた。


「終わった……ってことでいいんすかね?」


 脱力しかけた翔真に、琴莉の厳しい声が刺さる。


「まだです。ダンジョンコアを破壊しなくては、バーストは止まりません」


 琴莉が指差した先。

 まるで心臓のように脈打つ黒い結晶が、壁に埋まっていた。

 ダンジョンを支配し、バーストを引き起こす核。

 サンダーターが守り続けてきた、ダンジョンの心臓。


 これを破壊すれば、ダンジョンバーストは終息し、このダンジョンも消滅することになる。


 翔真は立ち上がると、最後の矢を形成する。


「今まで、ありがとう」


 翔真はこれまで、このダンジョンで魔石を採取して暮らしてきた。生かされてきた。

 そのダンジョンに、翔真が終止符を打つ。


「おやすみ」


 翔真は最後の一射に力を込めた。

 息を吐き、弦を引く。


 そして、撃った。


 矢は一直線にコアを貫き、黒い結晶が粉々に砕け散った。


 直後、空気が浄化されるように、重苦しかった魔素の圧力が霧散する。

 空間が明るくなり、どこからか風が吹いた。


 倒れ込むように座り込んだ翔真の目に、いつもの配信コメントの賑やかさが飛び込んでくる。


〇お稲荷さま最高!

〇あの見えない矢 やっぱかっけぇ……

〇ダンジョンバーストは終わったってことでおk?

〇8888888888


 笑い声と、安堵、そして拍手。

 画面越しの無数の手が、翔真たちの勝利を讃えていた。


今日から旅行にいくので、公開時間がいつもより早めです。

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