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12.兆候


「無事にオープンエリアの終わりまで到着したね。モンスターは全部お稲荷さまにお任せだったけど。おい、役立たずとか言うな。それじゃあ、今日の配信はここまでだよ。また遊びにきてねー♪」

「あ、えっと。……最後まで見てくれてありがとうございました」


〇おつほのー

〇お稲荷さまも乙

〇【¥500 面白かった。またやってくれ】

〇【¥100 お賽銭】

〇【¥1000 俺もレアドロップが出ますように】

〇【¥10000 私もご利益ほしい】

〇【¥50000 お稲荷さまの運を分けて貰えると聞いて】


 画面に向かって手を振っていると、オレンジ色のフレームがバンバン出てきた。

 はじめは『おひねり』みたいな感じだったんだけど、後半は『ご利益目当てのお賽銭』になっていた。


 たまに流れてくる一万円、五万円……金銭感覚どうなってんだ。

 見てるこっちが、桁を間違ってるんじゃないかと不安になってしまう。


「さて、と。じゃあ、戻ろっか」

「そうっすね」


 ドローンを片付けた帆乃夏が、ピタリと翔真の真横にくっついてくる。


「あの……距離、ちょっと近すぎません?」

「…………あのね、潜木くん。私はいつもオープンエリアの入口あたりで配信してるの。なんでだかわかる?」


 帆乃夏が翔真を見上げて、正確には翔真のつけている狐のお面を見つめて言った。

 身長180cmの翔真と帆乃夏とでは、ざっくり20cmほど身長差がある。


「えっと、安全だから?」

「そう。安全だから。そしてここはオープンエリアの終着点。モンスターの強さは入口とは比較にならないよね。つまりとっても危険なわけ。わかる?」

「はい。わかるっす」

「……………………」


 帆乃夏は眉間に少しシワを寄せて、なにかを諦めたように息を吐いた。


「つまりね、今の私は……ふっつーーーーに怖いのっ! どこからモンスターが襲ってくるかわからないし、もしも潜木くんとはぐれたら即・死亡なんだからねっ!」


 帆乃夏の言いたいことはわかる。確かにここは危険な場所だ。

 だけど、こんなにピッタリくっつく必要はないんじゃないだろうか。

 あまり近くにいられると、動きづらくてむしろ戦闘のパフォーマンスが落ちそうなんだけど。


 ――という考えが頭をよぎったが、それを口に出したら面倒になりそうで、翔真はぐっと喉奥で飲み込んだ。


「それになんか……このあたりの魔素、濃すぎない?」

「そうっすかね。でも、言われてみれば確かに――」


 オープンエリアも、入口と最奥部では魔素の濃さが違う。

 高濃度魔素エリアに近い最奥部は、扉の向こう側から漏れ出てくる魔素の影響を受けるからだ。

 でも、今日はそれだけじゃない気がした。


「――いつもより少しだけ濃いような」

「いつもより濃い? それ本当?」

「うーん。多分、濃い……かなってレベルっすけど」


 さっきまでの不満気な表情から一変、帆乃夏は難しい顔をしている。

 感情がすぐ顔に出るタイプのようだ。


「イヤな感じだなあ」

「なにがっすか?」

「ここの魔素が少し濃いってことは、高濃度魔素エリアから流れてきている魔素が濃くなってるってことでしょ」


 帆乃夏の説明に翔真はうなずく。


「ってことは、高濃度魔素エリアの魔素は普段よりかなり濃くなってる可能性がある」

「あー、確かに」


 普段、あまり考えたことはなかったが、仕組みはとてもわかりやすい。

 しかし魔素が濃くなったら何か問題でもあるのだろうか。

 魔素が濃くなれば、より高濃度の魔石が取れるようになるってことだから、むしろ良いことなんじゃないかとも思える。もちろん、モンスターも強くなってしまうのだけど。


 そんな翔真の考えを察してか、帆乃夏はじっと翔真を見つめて言った。


「ダンジョンの最奥部における魔素濃度の上昇は――ダンジョンバーストの兆候のひとつだよ」

「………………っ!?」


 五年前に巻き込まれたダンジョンバーストの記憶が、翔真の脳裏にフラッシュバックする。

 街中にあふれ出すモンスター。シェルターはどこも満員。逃げ惑う人。悲鳴。泣き声。


 あれはこの世の地獄だ。


「こっちの壁際には小さな断層があるんだけど、これも兆候のひとつ。でも、このサイズじゃ判断できないな。兆候が強く出やすい高濃度魔素エリアを調査すれば、ほかにも見つかるかもしれないけど」

「それは……」


 オープンエリアの奥。

 固く閉ざされた無機質な扉に目をやる。


 この扉は人為的に取り付けられたもので、プロハンターのライセンス証がないと開けることができない。アマチュアである翔真と帆乃夏では、この先に進むことはできないのだ。


「今の私たちにできることは、ハンター連盟に連絡して高濃度魔素エリアの調査をお願いすることくらいかなあ」

「…………っすね」


 高濃度魔素エリアといっても、ジャガーゴイルくらいのモンスターが相手なら翔真の敵ではない。

 大学でダンジョン学を学んでいる帆乃夏は、ダンジョンバーストの兆候の有無を調べることができる。


 つまり、ライセンス証さえあれば、そのまま高濃度魔素エリアへ入って自分たちの目で事実を確かめることができたのだ。


 行ける力はある。でも、その資格がない。

 それだけの理由で足を踏み入れることすら許されない。


 そんなもどかしさを抱えたまま、翔真と帆乃夏は来た道を戻り始めた。


おはようございます。

新たにブクマと★を頂いてニコニコの朝です。

今日も3エピソード公開しますね。

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