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ぼくと吸血鬼、ときどき部長   作者: ジェロニモ


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マジシャン室伏

 インターホンの音に玄関の扉を開くと、そこには先日オカルト部を騒がせた透明人間、室伏さんがいた。


「あの、なんでぼくの家知ってるんですか?」

「いやあ、桃園くんに聴いたんだよ。お礼がしたくてね」

「そうですか」


 帰れ。


「その子は妹さんかい? 可愛いね」

「そうでしょう。宇宙一可愛いんですから」

「あー!」


 なかなかわかってるじゃないか。ぼくは室伏さんを部屋へと通した。褒められて嬉しかったのか、アカメも鼻の穴がぷくりと膨らんでいる。


「あれからあらゆる飲み会でひっぱりだこだよ。君には感謝してもしきれない」

「そうですか」


 どうも透明人間室伏さんは自分の触れているものも透明にできるらしく、物体浮遊に瞬間移動等タネがまるでわからない魔法と書く方のマジックで他サークルの飲み会にも呼ばれるほどの人気者になったらしい。

 モテるかどうかは別として、青春を謳歌できているらしい。これで昔はよかったなあと高校に来ることもなくなると信じたい。


「えー、なにかタネがあるんでしょーと女子が合法的に向こうから体中弄ってくれるんだ。これ以上のことはない」

「ああ、なるほど」


 どうやらモテモテのようだった。ほろ酔いの綺麗な大学生のお姉さん方がべたべたと体を触られる光景を思い浮かべる。……ぼくも狼男じゃなくて透明人間がよかったなあ。ああ、透明人間といえばだ。


「聞きそびれてたんですけど、室伏さんが透明になれるのは元からなんですか?」

「ああいや、だいだい二週間くらい前か、私のモーニングルーティンの為に鏡の前にいくと、自分が写っていない事に気づいたんだ」


 二週間前というと、ちょうどアカメが我が家にやってきたぐらいだった。それから室伏さんが持ってきた良いところのお菓子をつまんでいると、室伏さんが腕時計に目をやる。この後サークル仲間と予定があるらしい。


「桃園くんから色々聴いたよ。すまないね。先輩ともあろうものが、きちんとオカルトを探求する後輩たちにえらい迷惑をかけてしまったようだ。脅してしまった子達には、直接謝罪して回ろうと思ってる。あと、君には返し切れない恩ができた。個人的になにかぼくにできることがあったらなんでも言ってくれたまえ。いつでも駆けつけてみせるさ」


 玄関先。最後にそう言い残して胸をとんと張ると、室伏さんはアカメに手を振られ去っていった。


 ……彼はアカメのことを知らなかった。ぼくにつっかかることもなかった。それは、彼は部長がぼくの家に入り浸っていることを知らなかったということを意味する。

 つまり、彼は透明になれるという犯罪行為にぴったりな力を持っていながらも、放課後、部長の跡をつけるような真似はしなかったわけだ。矛先であった男子部員にも、直接危害を与えるようなことはしなかった。


 根は善人なのだろう。そこだけはまあ、尊敬してもいいのかもしれない。


 後日、また見知らぬ手紙が眼の前に現れた部員諸君がさらに怯えて、とうとう退部したという話を部長から聞かされた。なんとも恐ろしい怪奇現象である。部長は「部室が快適になったねぇ」と喜んでいた。あとぼくの出した退部届は握りつぶされた。


「さて、今日はなに観るんだ?」

「あ、あ、あー」


 夜、アカメはソファの上でぱたぱたと足を揺らしながら、ご機嫌でコントローラーを操作する。最近はバトルアクション映画にハマっているらしい。あまり影響されないことを祈るばかりだ。しゃれにならない。

 アカメといっしょに一作観たところで眠気がピークに達したので、ぼくは眠りについた。






「弘明くん、弘明くん!」


 真夜中、ドンドンと扉を叩く音と、部長がぼくの名前を連呼する声に目が覚めた。時刻は深夜二時。なんなんだ、こんな時間に……。


「うー!」


 とアカメもお怒りの様子だ。大方、部長がうるさくて映画の視聴を中断されたのだろう。


「わかった。静かにさせてくるからちょっと待っててな」


ぼくは寝ぼけ眼をこすり、玄関へと向かう。


「部長、少しは近所迷惑を考えるというか、まず空気を読むということを」


 玄関口。漂ってきたのはむせるような血の匂いだった。


「大丈夫ですか! 部……長?」


 慌てて力任せにドアを開くと、そこにいたのは血だらけの女の子をお姫様だっこする私服姿の部長だった。


「弘明くん、どうしよう。わたしこの子のこと吸血鬼にしちゃった」


ぼくは状況も飲み込めないまま、ただ「てへっ」、と舌を出す部長を眺めて呆然と立ち尽くした。


 ……なぜそうなる。


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