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日報受取人  作者: 智天斗
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人見秀一の黙秘録-episode7-〇〇べからず①

久しぶりの更新です。新たなepisode、不思議で少し不気味な話

〇〇べからず①



 それはある日の仕事帰りのことだった。今日は岡山県の山奥の村の住民に話を聞いた。最後に話を聞いたのはその村の老夫婦。


「今日はありがとうございます」


 深々と頭を下げると老夫婦は笑顔で見送ってくれる。


「はい。私達のお話を聞いて下さりありがとうございます。また何かあればお伝え致します。お二人共気をつけてお帰りください」


「ありがとうございます。では、これにて」


「はい。ありがとうございます」


 一緒にいたのは田原愛美。仕事仲間だ。

 実の所こいつが今回この村に行こうと言い出した張本人だ。

 それは3日前に遡る。


「ねぇ、人見さん。今度の土曜日暇ですか?」


「暇ですと答えて何かあるのか?」


「いいじゃないですかー。少しの雑談みたいなもんです。お話しましょうよ」


「君は前置きが長い。さっさと本文をかけ。だから読者も読まないんじゃないのか?」


「そんなこと言わないでくださいよー」


 この憎たらしい女は田原愛美。少し可愛らしい顔立ちの女だ。彼氏は居ないようだが、男運がないから私は彼氏は作らないとこの前聞いた。


「まぁいい。それで何の用だ?何か用があるから話しかけてきたんだろ?」


「そうなんですー!そう、さすが人見さんですね。もうー」


「うるさい。さっさと話せ」


「はいはい。わかりました。わかりました。わかりました」


「3回も要らない。1回でいい。話す気がないなら僕はこのまま他の現場に向かうとするよ」


 席を立とうとすると慌てて、田原は話を始めた。


「はい、話します。話しますよ」


「で、何の用だ?」


「はい。それがですね。取材に行きたいんで…ってちょっと待って下さいよ。人見さん」


「一人で行くという選択肢はないのか、君は」


「だって、そこの村が山奥なんですよ。だから、女の子一人で行かせるのはどうかなーって」


「仕事なら一人で行け。それだけだ」


 もう一度席を立とうとするとまた慌てて止めに来る。


「ちょっと待ってくださいよ!私が一緒に行きたいのはですね。多分、人見さんも興味あるかなーって思ったからなんです」


「何?」


 振り返って田原の方を見ると少しニヤリとしてこちらを見つめている。


「それで、僕が興味を示す内容って?」


「やっと食いついてくれましたか。その村がですね。地図で言うとここにあるんですよ」


 指された場所にはぽつんと村があった。周りは木々に囲まれており、田舎と言うよりは辺境の地と言った方がいいくらいに周りは山だらけだった。


「それでですね。ここには不思議な話があるんですよ」


「不思議な話?」


「はい。ここの村変な噂があって、1度入ったら戻れないーとか、ここで神隠しにあった人がいたーとか」


 結構ある話ではないかと人見秀一は鼻を鳴らす。


「そんな話で僕が着いていくとでも思ったのか?全く。拍子抜けもいいところだぞ。そんな話いくらでも転がってる」


「人見さんならそういうと思ってましたよ。この話には続きがあるんですよ」


「ほう?続きね。伏線回収だけは美味い君は何を教えてくれるのかな」


「私の知り合いの漫画家さんがここで行方不明になったんです」


「行方不明?」


「はい。行方不明の前日に連絡があってこの村に行ってくるから何かネタがあれば教えるってそれっきりで」


「捜索願いは?」


「もちろん出しました。警察によると右足の靴とスケッチブックだけがその村からの帰り道に落ちていたらしいです」


「その村の人達は何か言ってたのか?」


「いえ、特には。村の人が言うには話を聞いて帰って行方不明になったと証言しています」


 なるほど。村人からの手がかりもなし。なら、あともうひとつ確かめることがある。


「スケッチブックには何か書いてあったのか?」


 スケッチブックが置いてあったならその時に描いた絵なんかがあるはずだと僕は考えた。


「確か、この村の風景や山を書いてあったと思います。あとは、看板」


「看板?」


「はい。看板って言っても風景画の中の一部ですけど」


「なら何故その"看板"のことを強調して言ったんだ君は」


 すると、田原は答えた。


「その"看板"があるって言う道なんてどこにもないんですよ」


「ん?どういう事だ」


 風景画を描いていたなら、それに該当する道くらいあるだろう。確かに山の中にある道だけを描いたのであればどこなのか探すことは難しいだろう。でも、目印の看板があるなら、見つかるだろうに。


「言った通りです。どうやら、その看板のある絵以外の場所はどこなのか検討が着いているみたいなんですけど、その看板のある道だけは村の近くには無いんですよね。スケッチブックもその日に購入したものを使用しているので」


 それは確かに妙だな。


「なるほど、少し興味が出てきたよ」


「なら、言ってくれるんですか!?」


「それにその知り合いを助けたいってことだろう?」


 「端的に言えばそういうことです。私は彼を、彼を助けたいと言うよりまず探したい」


 「はぁ…仕方ない」


 何か裏があるのかもしれない。ちょうど土曜日は空いている。恐らく俺の予定を知った上で田原は誘ってきたのだろう。


「仕方ない。僕も行こうか。少し気になることもあるし。その漫画家を探すことも出来るかもしれないしな」


 そして、今に至る。特に情報もなく、ただ、ただ無駄足だったのは間違いない。老夫婦を含め、その村の住民は何か隠しているようには見えなかった。


「何かあると思ったんだがな」


「そうですねー、はぁ……」


 帰路に着く。村は山の奥にあるため、車もろくに使えない。歩いて帰るしか方法がないため、人見秀一は仕方なく歩いた。


「それにしてもこの村なぜこんなところに…」


 この村は何故か車も自転車なども通れないような山奥にあった。道は整備されておらず、ギリギリ車が通れない位の道。まぁ今の時代そういうところがあっても変じゃないが今回の取材も苦労する。


「まぁいい。話は聞けた。それだけでいいじゃないか」


「ですね、まぁ手がかりなしでしたから」


 汗を垂らしながらひたすら山を歩く。先程の道を覚えていた田原に着いていく形で人見秀一は確実にあの村から離れていた。


 少し歩いたところで平坦な道が出てくる。十数分位は歩いただろう。

 そして、僕らは道に佇む看板を目にする。


「するべからず?」


 そこには"するべからず"と墨で書かれた看板がたっていた。とても古い看板のようだった。ところどころ壊れかけており、今にも倒れそうだ。


「こっちの道にします?」


「まぁ普通ならそうするだろう。こちらの岩壁を降りるより断然こちらの道を通った方が危険度はない」


 行きにはなかった道。岩だらけで危ない山中だったはずが、道がある。

 人見秀一と田原愛美は看板が立っていた方の道へと歩き始めた。


「岩ばかりだと思ったが普通に道があるとは。行きの苦労が嘘のようだ」


「ですね。私もそう思います。事前に見ていた道では無いみたいですよ?」


「どういうことだ?」


「人見さんも一緒に見たじゃないですか。この村に取材に行こうって行った時に」


 そうだったか…?あまり記憶にない。何故か忘れてしまっていたようだ。


「それでだ、田原は疲れとかはないか?」


「あら、心配なさるんですね。意外です」


「意外とは失礼だな。まぁいい。こちらの平の道をゆっくり下ってさっさと帰ろう」


「はい。そうですね」


 2人が歩いているとまた看板を見つけた。


「なんですかね、これ」


「遊びでもしているんじゃないのか?」


 そこには"あるくべからず"そう書いていた。またも古びた今にも壊れそうな看板だった。看板から1メートルほど離れたところには棒切れで雑に線が敷いてある。


「歩くなか…。つまりジャンプして進めってことなんじゃないのか。多分、あそこの線からがスタートのようだ。まぁ僕はそんな遊びに付き合ってる暇はないがな」


「それもそうですよねー。結局何の成果も得られませんでしたから」


 そう言っていた田原愛美はその看板に書いているのを無視して歩き始めた。


「私達も早く帰らないと…」


 先に歩いた田原を追う形で人見秀一はその看板を通り過ぎる直前で目の前の田原が座り込んでいることに気づく。


「おい、どうした田原」


「あ…あ…」


 様子が変だ。明らかに変だ。何かがあった、そうとしか思えない。

 数歩だ、数歩いただけで何故かうずくまった。


「おいおい、お腹でも痛くなったか?それとも靴紐でも解けたか?」


「あ、足が…!足が…!」


 よく見ると田原の足が変形していた。まるでそこだけ骨もないようにぐにゃりと変形している。


「…!?」


 絶句する。

 何が起こったのか全く理解ができない。


「た、田原!大丈夫か!」


「あ…あ…」


 パニック障害に陥っている。このままではまずい。


「田原!こっちに来れないか?戻ってこい」


「は、はい…」


 そう言って足を引きずり、体を引き摺って何とか戻ろうとする。


「人見さん…無理です…」


「ど、どうしたんだ?」


「いや、その…。か、身体が全然動かなくて。緊張とかそんなんじゃなく、もう恐怖で体がすくむんです…」


 足が変形していた田原はもう、そのまま動けない様子だった。


「あ…あ…。人見さん。助けて…」


「なんだ、なんなんだここは」


周りを見渡しても山しかない。それ以外には看板のみがあるだけ。


「あ…あ…」


 田原の状況は刻一刻を争う可能性がある。

 何が起こっているのだ。この道。この道はなんなんだ。

 そういえば田原が言っていた。この道は地図にはなかったと。ならばここはどこだ。地図に載っていない不思議な道。それがこの道ということなのだろうか。


 人見秀一は思い出す。行方不明になった漫画家が描いたスケッチブックのことを。


「まさか…。いや、確実にその可能性が有り得る」


「あ…あ…」


 田原に今話しかけたとしてもパニックで動けない。スケッチブックに書かれていた道がここの可能性があるならこの場所に田原の言う、漫画家が迷い込んだ可能性は高い。


「田原!動くな、絶対に動くなよ…」


「は、はい…」


 悲痛な叫びが聞こえる。

 心の中で人見秀一は考える。


 どうする、あの看板に書かれていたのは"あるくべからず"つまり、歩かなければいいのか。ジャンプすればいいのか?それとも、単純に走ればいいのか…?

 ジャンプして進めば本当にいいものなのか?仮に先に左足が着いて右足がその後に着いたらどうなる?走ると言えど、走る基準が分からない。


「くそ…。どうする。意を決して飛んでみるのが本当にいいのか…」


 理屈は分からない。ただ、この道ではあの看板に従わない限り、田原のようになってしまうということだ。


 そうなったら終わり。2人とも足を失い、帰路に着くどころかここで誰かが来るのを待つしかなくなる。しかし、ここは地図には無い道と田原は言っていた。つまり、助けが来る保証はない。


「どうする…どうする…」


 思考が巡らない。本当に飛ぶことが正しいのか、それとも正しくないのか。


「だ、大丈夫なのか?田原!」


「は、はい…。今のところは…。気をつけてくださいね。飛ぶと言っても同時に着地です。コンマ数秒だろうとズレたら私のように足が溶けていくみたいに曲がってしまいます」


 息が荒くなる。しかし、あることに気づいて、田原に伝える。


「おい、と言うよりも簡単なことじゃないか。この道を戻ればいい。来た道を戻ったらわざわざその"あるくべからず"を守る必要もなくなる」


「で、でも人見さん!私は、私はどうしたら…」


「心配するな。まず、この山をおりてから警察なりなんなりに捜索願を出して貰う。そうすれば君も助かるだろう。その足が治るかは別だが」


「私、ここに1人ですか?」


「すまないがそうせざるおえない。仮にここで僕がそちらへ飛んで足がぐにゃりと変形した場合、助けることは愚か人を呼ぶことも出来なくなる。それならば僕が戻り君を助けた方がいいのではないか?」


「で、でも…」


 うずくまる彼女を取り残すことは確かに心にくるが今は致し方ないだろう。まずはここから去り、そして…いや、待てよ。

 よく考えろ、この道はあの漫画家が迷い込んで行方不明になった可能性のある道だ。そこから戻ってもう一度この道が現れる保証はどこにもない。


 人見秀一が思考を巡らせていた時目の前の田原が話しかけてくる。


「待ってください。人見さん。話を聞いてください」


「どうしたんだ田原」


「いえ、看板です。さっき"あるくべからず"と書いていた看板です、よく見てください」


「よく見ろ?そう言っても書かれていることは"あるくべからず"じゃないのか?」


「違うんです、看板の後ろです。"あるくべからず"と書かれた看板の後ろに文字が書いてあるんです。看板には"もどるべからず"と書いてあります」


「何!?」


 直ぐに看板に近づいて後ろを確かめる。そこには確かに墨で雑に"もどるべからず"と書かれていた。田原は自分の体を動かして何とかそれを伝えてくれたようだ。


「"もどるべからず"だと」


「つまり、私は進むしかないんですよ!だから…」


「あぁ。分かってる。それにこの道を戻ったとしてもう一度この道が現れる保証はどこにもない。こんな現象が起こる道何だから無くなってもおかしくないからな。だからお前を置いては行かない。ここで何とかしなければならない」


「ど、どうしましょう。私、本当になんというか身体が全く動かなくて…」


「わかった。落ち着けとしか言えない自分が歯痒いが今は仕方ない。やはりここを抜けるにはそうするしかないのか…」


 看板を見て、考える。そして、あることに気がついた。


「いや、そうか。分かったぞ。この答え!」


「え!?本当ですか!」


「あぁ。単純な話だ。今の君の状態が正しいんだ」


「え?それってどういう…」


「つまりだ。"あるくべからず"つまりこういうことだ!」


 人見秀一は地面に倒れ込むと、ほふく前進を始める。


「そう、ほふく前進だ。これで腕だけを使えば足を使ったことにはならないはずだ。今から行くが、時間はかかる。これは歩くではないからな。悪いが待っておいてくれ」


「は、はい!」


 少しずつ少しずつほふく前進して進む。石で服はボロボロになるが仕方ない。今はこれしか思い浮かばない。


「よし、線を抜けるぞ」


 白線を抜け、自分の足を確かめる。


「大丈夫みたいだ」


 田原のように足がぐにゃりと変形してはいない。


「今から行く。耐えてくれ」


「は、はい…」


 少しずつ少しずつ進み、田原の所へとたどり着いた。


「だ、大丈夫か?」


「は、はい。大丈夫です」


「じゃあとりあえず俺の上に乗れ。そうすれば進める」


「え!?乙女にそんなこと言います?」


「今はそんな無駄なことを口走ってる時間はないぞ。お前の体重だろうが体臭だろうが僕は気にしない。一応筋トレもしているからそれなりに運動はできるはずだ」


「わ、分かりました。お、重いって言ったらひっぱたきますよ!」


「無駄話はいい。さっさと乗れ」


 人見秀一が手を引っ張る形で何とか、田原を背中の上へ乗せることが出来た。


「身体は動くか?」


「は、はい。今は少し動きます」


「ならいい。このまま進んで行くぞ」


 少しずつ、また少しずつではあるが進む。

 今はそれしか出来ない。田原が乗っているため、多少は移動の速さも遅くなるがそれよりもここから早くでなくてはならない。


「少し重いが仕方ない」


「だから言わないでくださいよ!」


「からかっただけだ。直ぐにここから出るぞ」


「はい!」


 田原を担いで人見秀一は進む。ほふく前進をすることが必要になることが来るとは思いもしなかった。日頃から運動している僕にとって大したことでは無いが。でも、普通に生活していてほふく前進をするなんてことはありえない。

 きついことに変わりは無い。


「慣れないことはするもんじゃないな」


 ゆっくりと進む。疲れも汗もにじみ出る。

 そして、ようやくあるものを見つけた。


「あ、あれは!?」


 看板だった。でも今はその文字が見えない。少しと遠く何よりもほふく前進という体制のため前をよく見ることが出来ない。


「おい、田原。ようやく次の看板だ。もしかするともしかするぞ」


「ほ、本当ですか…?」


「あ、あぁ!」


 ゆっくりとゆっくりとほふく前進で進み、ようやくその看板の近くまで来た。


「やっと着いた。それで、看板には……」


 その内容に思わず声を上げる。


「な、何!?」


「ど、どうかしたんですか。人見さん…」


「いや、みろ。あの看板に書かれている文字を!」


「え…?"うごくべからず"?」


「そういうことだ」


 "うごくべからず"そう看板にははっきりと墨で書かれていた。


②はまた更新します。ブックマーク・評価を頂けたら嬉しいです。

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