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日報受取人  作者: 智天斗
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人見秀一の黙秘録-episode15-オツレサン②

オツレサン②




人見秀一は一命を取りとめていた。全身が痛いが仕方がない。車から降りたと言うよりは落ちたという言い方が正しいだろうか。あのまま車にいたらどうなっていたか分からないからだ。


「はぁはぁ」


通行人が口を抑えてこちらを見ている。


「見世物じゃないが仕方ないだろう」


何人かは救急車を手配しているようだった。


「あの、大丈夫ですか?」


「大丈夫だ…。大丈夫、心配するなと伝えてくれ」


すると、前から自転車が向かってくる。スマートフォンを見ている、ながらスマホと言うやつだ。


「ま、まずい!」


こちらに気づかない運転者を見て、人見秀一は避けた、が、避けた先には尖った石が落ちていた。


これは、よ、避けきれない!


「ぐっ…」


グチャと音がして、腕を見るとそこには尖った石が刺さっていた。


「なんて日だ…。こんなにも不幸なのは初めてってくらいだ」


そして、目の前を見ると、黒いスーツの男がいた。


「まだ、追ってくるのか!」


刺さっていた岩を取り、血を流しながら走る。

ぽたぽたと垂れる血を見て、通行人が大丈夫かと聞いてくるが、大丈夫だと言って人気のない所へ行った。


「はぁはぁ。とんでもない日だ。黒いスーツの男に追われ、その間に事故にあいそうになり、車から落ち、自転車を避け、石が腕に刺さるか…」


運が悪い。度重なる不運にさすがに他の人を巻き込んでしまう可能性を示唆して一人で行動をする。


「ゆっくりとゆっくりと近づいてくるみたいだ」


コツコツと音を立てて黒いスーツの男が近づいてくる。どうすれば対処できるのか全く分からない。


ここは一人で何とかしなくてはならない。

あの黒いスーツの男が言った言葉が脳裏に残る。


「えらんで」とは何を選ぶのだろうか。訳が分からない。


「もう、これはどうしようもないか」


そして、目の前に黒いスーツの男が佇む。周りに人はいない。

すると、やはりあの言葉。


「えらんで」


そう告げる。


「選べだと。何だ、手を取ればいいのか?」


「ふれて、どこか、ふれて」


触れろ、そう言われる。しかし、どこを触れたものか。

やせ細ったおじいさんのような手かそれともふくよかな顔か、それとも黒のスーツを着た上半身か、それとも…と足の方を見るとそこには足はなかった。宙に浮いていた。


「ぐっ…!」


「ふれて、からだ、ふれて」


もし、これで触れてこの黒いスーツの男がいなくなるならば、触れるべきなのか…。答えはない。手を差し伸べる黒いスーツの男はずっと待っている。


「まだだ」


やるべき事はまだある。立ち上がり、走る。

携帯を出して、『オツレサン』と検索をかける。


検索結果………0件


くそっ…。何故だ、来馬龍作は知っているじゃないか。なのに検索をかけても0件だと…?


「くっ…追ってきている」


この状況をどうにかするには…彼に聞くしかない。



そして、ある番号に電話をかける。


「はい、どうしたんすか?」


「僕だ。至急話をしたい、と言うよりも助けて欲しい」


「ど、どうしたんすか?本当に」


「あぁ。本当にどうかしちまってるらしいよ、僕は」


黒のスーツの男に追われ、さすがにどうしようも無くなっていた。触れればいいのか、それだけが知りたかった。


「悪いが来馬。今ちょうど追われていてね」


「なんかしたんすか?借金取り?嫌ですよ。そういうの嫌です」


「違う。『オツレサン』だ。多分、そいつにおわれてる」


すると、彼から意外な言葉が出てくる。


「『オツレサン』?なんすか、先輩。頭おかしいですよ。何言ってるんですか?」


「いや、おかしいのは君の方だ。今日朝言っていただろう、『オツレサン』って」


「あー、あの造り話ですか」



造り話、来馬ははっきりと僕にそう電話越しに伝えてきた。



『オツレサン』はいる。目の前に、確実にいるのだ。


何?造り話だと…?いや、でも、なぜ?現にここにいるのはその『オツレサン』じゃないのか?


迫ってくる杖を着く黒のスーツ男。顔はとても裕福そうなふくよかな男なのに伸ばしてくる手はしわしわなおじいさんのよう。それによく見るとスーツ、体つきはとても痩せている。

身体の構造が歪な男は確実に目の前にいるのだ。


「先輩。それ造り話ですよ。先輩が最近運が悪いって言って言うから…。あれですよ、例のサイトにアップした造り話」


その言葉に人見秀一は言葉を失った。


『オツレサン』はいる。

目の前にいるのだ。なのに造り話?どういうことか理解に苦しむ。


「だがな、実際に『オツレサン』はいるんだ。来馬が造った話なら対応策とかあるだろう!」


流石の来馬龍作も電話越しでも伝わる緊迫感にただ事ではないと思う。


「は、はい。これは僕がサークルに入った後に造った話です。覚えてないですか?確か、例のサイトにもアップしたような…。まぁ、『オツレサン』のことは話したらダメなので。言えることだけ言います。『オツレサン』は「せんたく」させる。その「せんたく」を間違えたらどこかへ連れ去られます。そして二度と帰って来れなくなる。だからねせんぱ…」


ようやく聞けた。

あの、黒いスーツの男が言っていた「せんたく」の意味がこれでわかった。


「それで、その対処法は?」


問いかけるも返事はない。


「うぅ。痛い…」


「どうかしたのか?」


「いや、急に頭が…」


電話越しにドサッと言う音が聞こえる。


「来馬!来馬!」


声をかけても返事はない。


すると、近くに女性がいたのか叫び声を上げている。


「大丈夫ですか?」


女性の声が聞こえる。


「来馬、来馬!」


「あ、頭が…」


近くにいた人達が集まっているのを携帯電話越しから感じる。


「あ、あの」


すると、電話から声が聞こえる。来馬龍作では無い。恐らく、あの叫んでいた女性だろう。


「おい、来馬は大丈夫なのか?」


「は、はい。今は気を失っています。あなたはさっきの方ですか?連絡してって店を出た人?一応、救急車を呼んだので。こちらで対処します」


「助かるよ。ありがとう」


来馬の心配も必要だが、今はあの追ってきている黒いスーツの男をどうにかしなければ。


「き、君。今電話で話ている君」


「は、はい!」


「来馬は何か最後に行っていなかったか!?」


「は、はい。言ってましたよ」


女性は言う。


「これで大丈夫って」


何が大丈夫なのだろうか。一番の救世主である彼がいないとなるとこれはもう、本当にやばい。


「わかった、ありがとう。あとでどこの病院に搬送されたのか教えてくれると助かる」


そして、背を向けていた黒いスーツの男の方を見る。携帯を切り、僕はその黒いスーツの男と相対する。


「悪いが時間が無い。さっさと蹴りをつけさせてもらう」


すると、やはり黒いスーツの男は言う。


「えらんで」


「えらんで」


「さわって」


「さわって」


どこに触れればいいのか全く分からない。ただ、分かることは、この『オツレサン』の意図しない場所に触れれば連れ去られるということだけ。

そして、彼の言っていた「大丈夫」という言葉。

大丈夫って?まさか、運に従えって…?直感を信じろって?


「どうする」


その間にも近づいてくる『オツレサン』はこちらを凝視している。


「はやく、えらんで」


「はやく、えらべ」


だんだんと口調が荒くなっていく。


「さっさと、えらべ」


そして、あの言葉を言う。


「つれていくぞ」


それが警告だということにようやく気づいた人見秀一は走る。なぜ走るのか、逃げるのではない。近づくために走るのだ。


「こうなったら完全に"運"でやるしかない!」


血だらけの体を動かし、近づく。そして、目の前に立つ黒いスーツの男は言うのだ。


「えらべ」


「えらべ」


血がたれ、考えがまとまらない。


「どこを選ぶべきなんだ」


おじいさんのようなやせ細ったしわしわの手なのか、それともそのふくよかな顔なのか、それともそのスーツに触れればいいのか!?


「何も無いならもう、何も考えるな」


そう思っても少し考えていた。"大丈夫"と彼は言った。ならば、それならばあそこしかない。今の彼ならあそこを選ぶ。


そして、人見秀一は黒いスーツの男『オツレサン』の頭にゆっくり触れた


「絶対に行くから待っとけ」


すると、『オツレサン』は黙って消えた。光の粒子となり、ゆっくりと姿を消していった。

その場に残ったのは血が滴り落ちる自分だけ。


「はぁはぁ。これで…良かったのか」


頭が痛いと言ってくれなければ分からなかった。多分、それがメッセージだったのだろう。


「多分あいつ、そういう事か」


人見秀一は『オツレサン』が消えたあと、一人で空を見上げていた。




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