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日報受取人  作者: 智天斗
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人見秀一の黙秘録-episode1-異次元マンション③

 





 真っ暗、いや真っ黒と言うべきか。


 背後にあったはずの扉は触ってみる限りもうない。この場所は真っ暗であり真っ黒だった。

 辺り一面が闇に包まれている。文字どおりの真っ暗。

 普通なら目は暗い場所でもある程度時間が経てば目が慣れて風景が見えてくるだろう。

 でも、ここは違う。見渡す限り真っ黒なのだ。

 目が正常に機能してないのでは無いかと疑ってしまう。足を動かそうにも動かせない。


 この場所はどこだ


 あの家主を名乗る男によると田原はこの場所に押されて入ってしまったのだろう。

 あまり時間が経っていないにもかかわらず叫んでも返答は無い。田原が一体どこにいるのか、そして僕自身今どこにいるのか分からなかった────



 異次元マンション③



 僕は何処にいるんだ。周りを見渡しても黒であり、何かが見える訳では無い。

 手がかりになりそうなものは何も無い。自分がここにいることすら忘れそうになるほど視界が"黒"で覆われている。


 自分の身体に触れる。身体はある、いや当たり前だがそれが確認できただけで良い。持ち物はそのまま入ったと思っていたが財布と携帯がある。


「携帯があるならなんとかなる」


 しかし、携帯は電源を入れようとしても動かない。


「これは…」


 何かが邪魔をしているのだろうか。発光物を嫌っているように携帯は全く動くことがない。

 僕は諦めて、この場から動くことにした。


 次は動こう。


 平らだ、進んでみたが続いているのは平らな道。

 前が見える訳では無いため少しずつすり足で進んでいく。

 手を動かして見るものの、周りには何もない。全国のどこかなのかそれとも世界のどこかなのか。この場所は本当にどこなんだろうか。


 でも、田原は絶対この中にいる。存在しているはずだ。何処にいる、何処にいるんだ。


「田原、田原!どこにいる、いるなら返事をしてくれ!」


 返事は無い。

 闇雲に探しても仕方がない。この場所がどういう場所なのか考える方が良い。目を瞑り、この場所について思考する。


 異次元マンション


 そう称されるこの場所は全国16の扉に繋がっている。繋がった扉に入り閉めると、来た時の扉は無くなり、そこから帰る方法はその場所から戻るしかない。あるオフィスの一室は都内のある会社に繋がっていた。そこから帰るなら新幹線等を使えば良いだろう。

 だが、16ある扉の先の一つであるここは一体どこなのか全く分からない。

 あの家主を名乗る男が言っていた。この場所は真っ黒だと。そして、戻ってくることが出来ないと。


 どうすれば良い。この場所から抜け出すには。


 考えても考えても答えがまとまる訳では無い。神頼みなんてことはしたくない。本当に田原はどこにいるんだ。


「田原、目の前に居るんなら居てくれ。お前は俺の相棒なんだから」


 ふっと目を開けるとそこには田原が居た。真っ暗だったはずなのに。何故か田原はそこにいた。


「田原、見つけた」


 なぜ急に田原が現れたのか全く分からない。でも、田原愛美は視認できるが周りはやはり、真っ黒だった。


「ひ、人見さん…?人見さんだ、人見さん!」


 涙目で僕の方を見る田原はようやく安心したのか涙を流した。


「人見さん…。ここどこなんですか?」


「分からない、ただこの部屋のルール。一度扉を抜け、扉が閉まってしまったらその場所から帰るしかない」


「でも…」


「大丈夫だ、必ずこのネタは僕が書く。だから心配するな」


「そういう心配してるんじゃないですよぉぉぉぉ」




 田原が落ち着きを取り戻した際に何があったのか話を聞いた。


「で、何故あのマンションにいたんだ」


 すると、田原は震えながら答える。


「呼び出されたんです…」


 呼び出されたとなるとあの男しかいない。


「あの家主の男にか?」


「はい」


「でも、お互い連絡先は知らないはずだろう」


「そうなんですけど、私の携帯にあの人から連絡があったんですよ。人見さんも呼んだから朝来てくれって」


 そんな連絡は僕にはなかった。つまり、あの家主を名乗る男が何らかの方法で田原に連絡をとったということか。


「理由はわかった。君も未成年じゃないんだから気をつけて行動してくれ。何か会ってからでは遅いんだから」


「はい……」


 僕が言わなくても彼女自身が分かっている。だから僕はそれ以上何か言うつもりはなかった。


 気を取り直して、僕らはこの場所から戻るための方法は考える。


 この真っ暗な場所。音もない、まるでこの場所だけ別次元に取り残されたみたいに。


「田原、ここに来てどれくらい経つ?」


「分からないです。多分30分くらいじゃないですかね」


「もうそんなに経つのか…」


 未だにここがどこなのかすら分からず2人は声をかけあってこの場所からの脱出方法を考える。


「色々とやってみるしかないな」


「そうですね!」


 僕は一度、田原から走って離れる。田原を視界から外さず、一歩一歩後ろに下がって距離をとる。


「田原から離れたらどうなる…」


 ある一定の距離まで離れたところで前を見ると田原は米粒程の大きさで見えていた。


「特に意味もないな」


 後ろを振り返ると、そこはやはり真っ黒だった。田原の存在しているのかさえ僕は分からなくなるほどにこの真っ黒に毒された。


「こんなことでは一向に何も解決しない。それにこんなに離れたら田原のことを見失うだろうな」


 ふとそんなことを口走った。落とした顔をもう一度上げて田原の方を見ると、田原が視界から消える。周りは真っ黒に包まれ、僕の視界も黒に覆われる。


「た、田原が消えた…?」


 先程までは一定の距離を離れたとしても米粒程の大きさで人物を視界に抑えることはできていたはず。なのに、一瞬でその姿が見え無くなる。


「田原…?どこだ!」


 僕は急いで先程の場所まで戻る。走って汗をかいてそれを拭う。ある程度走って元の位置に戻ってきたはずなのに田原の姿はどこにもない。


「おい!どこだ!どこに行ったんだ!」


 急に消えた田原の姿はやはり無い。あの一瞬で何処かに行くのは考えづらい。何か、何か原因があって田原は僕の前から姿を消したのだ。

 それは僕の意思なのか田原の意思なのか。それすらも全くわかることは無い。


「くそっ…せっかくさっき会えたのに僕は何をやっているんだ。田原、頼むからさっきみたいに俺の前にいてくれ」


 そう思いながら当たりを見渡すとそこには────


「田原!」


「あれ、どうしたんですか?」


 どうやら田原は僕の存在を認識していたみたいだ。


「いや、君が急に消えたから探していたんだ」


「え?私はずっとここにいましたよ?」


 田原確かにここにいる。僕が視界から外していただけなのだろうか。いや絶対に違う。これは何かある、この場所のルールのようなものが。


「そうか…。田原、僕はもう少し考えてみるよ。ここについて」


 もう一度考えよう。この部屋から帰るための方法を。


 この部屋はいくつかの扉と繋がっている。扉を閉めれば消える。じゃあここはどこだ。そして、最初田原は急に現れた。そして、急に消えた。再度、今現れた

 この全てに共通していることはなんだろうか。


 僕は思考する。


 異次元マンション


 異次元、それは異なる次元。また、次元の異なる世界。


 空想上の世界なら…もしかしたら…


「やってみるしかないか」


「どうかしたんですか?」


「これはこの世界から戻るために必要だからやるんだ。それを理解してくれ」


「へ?一体何を?」


「まぁ耳を傾けてみろ」


 そして僕たちはそれを実行に移した────



 まず、音がした。


「おい、なんで生きてる人がここにいるんだ!」


 そして男の声がした。


 そして、光が指す。ようやく手に入れた明かりが僕らを照らす。周りには礼服を着た男性が居た。


「ちょっとあなた達ここで何をやっているんですか!」


「君たち、こんなところで何をやってんだ!」


「「え?」」


 顔が近い。田原の顔が……。


「人見さん…離れてください!」


 押されても直ぐに木の壁があるため顔を打ち付ける。


「ち、違う!田原!」


 何とかその狭い場所から脱出して僕はため息を吐いた。


「で、君たち何してるのかわかってるの?」


「ご最もです」


「人見さん…酷いです!」


「え?」


「この男を取り抑えろ!多分そういうことだ!」


「ち、違う違うー!!」


 そこは火葬場だった。僕たちは棺桶に入っていた。


「ようやく帰ってこれたみたいだ」


 2人は現世に帰ってこれた。いつの間にかここにいた。周りを取り囲む男女。そのうちの一人に連れられて僕達は別室へと案内される。


 色々と説明しろと言われたため、僕はそれなりの説明をしてさっさと出て行けと言われて追い出された。


「人見さんすみません!」


「いや、いいんだ。戻ってこられたからな」


 あの時、あの暗い場所で僕らはただ思考するだけだった。


 あの暗黒は異次元。異なる次元。


 どこだろう、そう思うから僕たちはいつまでもあの闇の中に存在してしまう。

 なら、考え方を変える必要があった。


 田原を見つけた時もそうだった。田原がどこにいるのか"探す"という行為は見つけていることにはならない。それにこの暗闇の"どこか"に田原はいると考えていては見つけられない。


 田原はここに、目の前に存在している。そう思うから見つけれたのだ。消えた時も何となく見失うかもしれない、そう考えたから。そして、もう一度現れた時も良く考えれば僕の前に田原が現れるように僕がそう思ったから。

 なら、この場所から脱出するには僕らが別の場所にいると考える必要がある。

 でも、この暗闇だ。どれだけ想像しても暗い闇の中である事実は変えられない。

 なら、暗闇でもその場所を変えればいい。

 一か八か、やるしかなかった。

 暗闇、想像した。そして、思い浮かんだ。

 田原に告げた、ここを棺桶の中だと思えと。

 だから、2人は目を瞑る。お互いが傍にいることは理解しつつ、思考する。

 棺桶は暗闇。構造を思い浮かべる。ここは棺桶の中。木の中、だから暗闇。木の箱の中だから暗闇。周りは木の壁に囲まれている。徐々に棺桶を形作る。頭の中で考えて、手で触れることはしない。あくまでも頭の中で考える。

 今、どこかに触れればその想像は消える。なぜならここは何もない暗闇だから。目の前の田原を抱きしめながら創造する。

 田原もまた、同じように創造する。


 想像しながら創造する。


 だから戻ってこれた。


 いつ、現世に戻ってきたのか分からない。誰かが棺桶の中を開けたことで僕らは戻ってこれた。


 現実と異次元の狭間。それがあのマンションの暗黒の正体。


「とりあえず、帰りましょうか」


「あぁ。で、ここはどこだろうな」


 後日談



 僕らはもう一度松江市に訪れていた。あのマンションが現在どうなっているのか確認するために。


 飛行機乗り継ぎながら松江市に到着した。


「無いな」「ありませんね」


 マンション"リバースプレス"は無くなっていた。

 その姿形は無く、空き地になっていた。張り紙がされており、募集中等書かれていた。


 そして、その空き地を振り返と、あの家主を名乗る男のいた家はあった。


 インターホンを押すと出てきたのは男性ではなく、高齢の女性だった。


「あの、目の前にマンションってありませんでしたか?」


「はい、ありましたけど…。どちら様ですか?」


「こういうものです」


 名刺を渡すと高齢の女性はその場で話を聞いてくれた。


「あそこにあったマンションはいつ頃無くなったとかご存知ですか?」


「あー、数年前かねー。取り壊し自体結構前ですよ」


「なるほど。失礼ですが息子さんやお孫さんはいらっしゃいますか?」


「いえ、独身ですのでいませんけど…」


 どうやら、本当に僕たちはたぬきに化かされたみたいに何かしらの"怪異"に誘われてしまったみたいだ。


「そうですか、ありがとうございます」


 2人でお礼を言って立ち去ろうとすると、高齢の女性は僕らを引止めた。


「あの、すみません。あのマンションのことでしたら不可思議なことが起こるって噂になってましたよ」


「不可思議なことですか?」


「はい、異世界に通じる扉があるとか何とか。すみませんね、こんな話しても仕方ないのに」


「いえ、おばあちゃん!ありがとうございますー」


 田原が頭を下げて僕も頭を下げた。


「どうやら、おばあさんの話は本当らしい」


 昔のある記事を田原に見せる。

 その記事には確かに"異次元マンション"という見出しがあった。


「分からないもんですねー、不動産屋行っときます?」


「そうだな」


 最初に訪れた不動産屋に行って担当だった佐藤さんを呼んだ。


「あの、佐藤ですけど…どちら様で?」


 名指しが珍しがったのか僕らを見るなり頭にクエスチョンマークが浮かんでいるようだった。

 佐藤さんにあのマンションのことを聞いたが全く何も覚えていない様子だった。


「帰るか」「ですねー」


 マンション"リバースプレス"はもう取り壊しが行われており何も分からなかった。あのマンションの本当の持ち主は現在も行方不明になっている。どこに行ったのか家族も探しているみたいだ。


「人見さん、今回は不思議な体験しましたね」


「あぁ、そうだな」


「今回の話、記事にするんですよね?」


「いや、ボツだな」


「えー!なんでですか!自分で書くって言ってたじゃないですか!」


「単純だ、もうあのマンションは取り壊しが行われている。もう、記事にしても意味が無い」


「そうかもしれないですけどー」


 松江市からの帰り道。そんな話をしながら、僕らは帰路に着いた。


 あのマンションの取り壊しが行われた同日、全国各地で扉のみが壊されるという器物損壊事件が15件ほど発生したらしいが僕の黙秘録にメモ書きで残しておく程度にしておくとしよう。













異次元マンションの話はこれで以上。

次に話をするのは僕の大学時代の後輩とのある怪異についての話だ。


次回更新日曜日予定

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