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日報受取人  作者: 智天斗
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人見秀一の黙秘録-episode1-異次元マンション①

 異次元マンション①


 これから話す内容は僕、人見秀一が実際に体験した黙秘録の一つ。

 黙秘録とは、出版社に提供出来ないようなネタをまとめたもの。その中でも少し不気味で不可思議な話の数々。今回はそのうちのひとつをご紹介しよう────




 皆も一人暮らしをしようと思ってマンションやアパートや一軒家を借りるなんてことがあるだろう。どんな物件もそれぞれの良さがあるし、それぞれの悪さがある。

 僕の借りている事務所兼自宅は住み心地は良い。一点だけ、悪い点をあげるのであれば、田原愛美(たばらまなみ)という少しうるさい人間が毎日尋ねてくることくらいだ。


 田原愛美は同じルポライターであり、同じ仕事場で働く間柄だ。少し可愛い顔立ちをしているがそんなことは今はどうでもいい。大学卒業後に僕のある記事を読んで同じ仕事を志したらしい。


「一部屋マンションを借りる?」


 人見秀一(ひとみしゅういち)の目の前でその女性は高らかに笑ってスマートフォンをこちらに見せていた。


「そうなんです!凄くいい部屋見つけてー」


 目の前の女性、田原愛美に話をされたのは休日にカフェに訪れていた時の事だった。


「で、なんでその話を僕にするんだ」


 同じ職場の仲間ではあるが休日を共にするほどの中では無い。今回は相談と言われて少し気になってここに来た訳だが。


「だって、言ってたじゃないですか、人見さん。ネタがないから困ってるーって」


「あぁそんなことを言ってたな」


「で、それで私が紹介しようと思うわけですよ」


 最近はネタがなくて困っていたのは確かだ。言ってしまえばネタは自分で歩いて見つけるものだろうが正直最近あまり前ほど活発に活動をしてない。今は普通のネタを求めていた訳ではなから。非現実的なネタを探していた。でも、そう簡単にネタが降ってくるなんて都合のいいことは起こらないのが現実だ。


 そんな僕に話をする田原はなんとも"自信ありげ"という感じだ。


「で、どこの物件なんだ」


 先程見る気のなかったスマートフォンに目を向けるとマンションの名称と説明がされていた。


 "リバースプレス"


「島根県松江市にある…って都内から遠すぎないか?君、頭打ったんじゃないのか」


「違いますよー。最初から言ってるじゃないですか。ネタを提供するって」


 ネタネタと言われても話の本筋がまだ分からない。


「で、この"リバースプレス"とかいうマンションを君は借りたいってだけの話だろ?」


「はい、ただ…このマンションめちゃくちゃ格安の一室があるんですよ。だからそこを調査ちゃうぞーみたいな」


 いわゆる訳あり物件と言うやつか。そういうネタは今求めてないんだよ。ラップ音が多発するとか女の幽霊を見たとかそういう話は僕の探しているネタとはかけ離れている。


「って、調査って言ってるじゃないか。もしかしなくても君、借りるつもりなんてないな?」


「あ、バレちゃいました?」


 田原愛美という人間性がよくわかる。

 それに僕の求めているネタとは違うことは伝えなければならない。


「悪いがそういうオカルト的な話は────」


 と、僕が口にする前にスマートフォンに表示されているある文言を見て口は止まった。


「ん…」


 告知事項あり《体験されたい方はこちらまで》


 その後には電話番号が記されている。それも個人の携帯。


「体験されたいってどういう意味だ?心霊現象をか?そんな簡単に起こるものなのか?」


「やっぱりそこ気になっちゃう感じですよねー。なんて言うか、とりあえず体験でもどうですかーって感じの文言ですよね。そりゃ借りて欲しいんだからそういう目の引くような文言にするとは思いますけど」


 確かに引っかかる。告知事項ありと書かれていることはあるだろうが体験されたい方はこちらまでという、いかにも誘っている文言。


「はぁ…松江市までどれくらいだ」


「既にチケット取ってます」


 2枚の乗車券『東京→出雲』寝台特急出雲サンライズ


 乗車券が彼女の手には握られていた。


 これは………


「いいだろう、君の口車に乗ってやる」


「たまたま取れたので行きましょうー!ってことで不動産会社には連絡入れとくので」


「ん?その下の電話番号は連絡したのか?」


「いえ、この携帯番号は使われてないので、不動産会社に電話したんですよー」


「そうだったのか。まぁそういうこともあるだろうな」


 その後、ウキウキした様子で立ち去る田原を見送り、コーヒーを口に含む。


「寝台列車とは懐かしい」


 ○月✕日都内某所


「じゃあ行きますかー」


「あぁ」


「これ、乗車券でーす」


 乗車券を受け取り、ふと昔の記憶が蘇る。


 寝台列車は久方ぶりだな。僕が大学生の時に少しばかり厄介事に巻き込まれた日の帰りだったかな。乗車したことを覚えている。朝日がとても綺麗だった。


「ってこれは普通の新幹線の乗車券じゃないか。寝台列車の乗車券は?」


「え?寝台列車?なんのことです?」


「いや、君持ってただろ。寝台列車の乗車券を。僕を誘う時に手に持ってたあの乗車券はどこにやったんだ」


「あー、あれは数日前に使いましたよ?あれは母と父が乗る分だったので。たまにはそういうところに旅行に行かせてあげたいって気持ちですよ」


「えっ…」


 まぁいい。もうやめよう。僕が勘違いしただけだ。


「なんでもない、さっさと行こう。松江市まで」


 新幹線に乗って約10時間以上乗っていただろうか。移動時間だけで疲れた。今度からは飛行機で行こう…

 こうして僕は松江市に着いた。よく考えてみれば出雲市と松江市では距離が違う。何を勘違いしていたのだろうと新幹線内で思っていた。


「じゃあ人見さん、行きましょー」


 僕は案内されるがまま、ある不動産会社に来ていた。


「佐藤と言います」


 軽い自己紹介の後、その物件に着いて尋ねた。


「電話でもお伝えした通りなんですけど、その物件について教えてください」


「はい、私共は詳細について知りません。大家さんの家がそのマンションの向かいにある一軒家になるのでご案内しますね」


 車で15分くらいかけてそのマンションに着いた。


 マンションはそれなりの大きさだった。特に不思議なところは無い。グレーのコンクリートがむき出しで無機質な佇まい。得に感想も出てこなかった。


「それでは、こちらです」


 振り返り、一軒家の方を見る。その訳あり物件を所有する大家さんが住む一軒家は木造二階建ての新築物件だった。


「大家さんにはこちらから連絡してます」


 インターホンを鳴らして少し時間が経ってから男性が玄関から顔を出した。


「これはこれは」


 30代ぐらいの男性だった。歳が若かったため意外だなと思った。


「それでは家の中で説明するので入ってください。佐藤さん、いつもありがとうございます」


「いえ、それでは私はこれで。また、帰りの際はご連絡頂けたら迎えは来ますので」


 そう言って車で去っていった。そして、僕たちは大家さんである男性について行く形で家の敷地内に入る。

 男性の家は庭が広く、手入れも行き届いていた。

 マンション収入でそれなりに貯蓄もあるのだろう。


「今日は時間をいただきありがとうございます」


「いえいえ。とりあえず中でゆっくり話をしましょう」


 新築の一軒家に入る。一人暮らしなのだろうか。それにしてはとても広い一軒家だと僕は思った。人それぞれ重視したい点はあるだろうから変なことは言えないが。


「こっちがリビングです」


 リビングに通されて促されるように椅子に腰かける。リビングも広く、高そうな家具が置いてあった。


「あの、ひとついいですか?」


 僕はとりあえず質問した。


「失礼ですが一人暮らしですか?」


 キョトンとした様子だったがすぐに我に返って僕の質問に言葉を返す。


「はい。以前までは妻と2人で暮らしていたのですが他界しまして」


「そうでしたか。それは不躾な質問をしました」


 それにしてはあまりに片付いているというか、その妻の遺影なんかも置いていない。別の部屋にでもあるのだろう。リビングに故人の物を置くことに抵抗があるのかもしれない。


「人見さん、質問すること違うでしょ!」


 田原に怒られている様子をにこやかに楽しむように見ている家主の男は僕らにその物件の資料を渡してくれた。


「えっと、人見さん、田原さん。おふたりとも紅茶で良いですか?」


「はい、ありがとうございます」


 出された紅茶を口に運び、渡された資料に目を通す。


 "リバースプレス"305号室


 そう書かれた物件の資料には間取りが書いてあった。1LDKの賃貸マンションのようだ。

 すると、家主の男が口を開く。


「では、まずこの物件はどこで情報を知ったのですか?」


 なぜそのような質問が必要なのか分からないが、田原は聞かれたことに答える。


「あ、私が見つけたんです。たまたま家を借りようとしていたのでそれで」


「そうでしたか。ならたまたまネットで?」


「はい、そうです」


「まぁ良いでしょう。あなた達はこのマンションの3階にある一室を借りたいということで良かったですか?」


 2人は頷く。


「このマンションの一室の噂を聞いたことはありますか?」


 何故かマンションの説明ではなく、このマンションの一室の何を知っているのかを聞きたい様子だった。


「いえ、特には。訳あり物件で体験したいならどうぞという事だったので」


 事実を伝えると、家主の男は頭を書きながら告げる。


「あー、そういう事でしたか。あれね。そういえばそんなことも掲載してましたか」


「はい」


 2人で答えるとため息を吐いてから男は僕たちに伝える。


「分かりました。ならあなた達元々借りるってより興味本位って感じですよね」


 やはり頭を抱える家主の男に僕は正直に伝える。


「そうです。どういうことなのか知りたくて」


 あまりに正直すぎたため、田原は家主の男に謝罪する。


「すみません。何と言うかそんなことでここに来

 てしまって」


「いいの、いいの。ま、そういうことならこれを見せなければならないね」


 そう言ってもう1枚資料を出した。そこにはこう書かれていた。


 異次元マンション《3階305号室》


 はっきりと文字で書かれているのを見て僕の脳内にはクエスチョンマークが浮かんでいた。


ここまで見て下さりありがとうございます。

次回の更新は金曜日です。

今後は日報受取人と人見秀一の黙秘録という物語の2部構成で行う予定です。日報受取人は通常通り、短くまとめた不思議な話です。人見秀一の黙秘録は日報受取人にも登場するライターの人見秀一が主人公として現在投稿している日報受取人のepisodeを元に物語を書いています。皆さんの反応が良ければ続けていくのでよろしくお願いします。

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