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南へ  作者: 泉田清
3/3

朝の光

 頭がボンヤリするのは5:00に起きたから、時速300キロで南下しているから、どちらかは分からない。二駅目を過ぎた辺りが女の故郷。遠い昔の話、いつも、女の顔を思い出す前に通り過ぎてしまう。

 年に一度、ニ月に、首都圏に住む身内を訪ねる。新幹線の始発に乗る。家を出る頃外は未だ真っ暗。スズメの囀りさえない。空は鮮やかな朝焼けだ。まるで五月の夕焼けのように。


 飲み過ぎた後は、いつも夜が明ける前に目が覚める。コップ一杯の水を飲む。ゴミを出し忘れたことに気づく。ゴミ袋を持って外へ出る。夜明け前の空は真っ白。アスファルトの上でスズメがボサッとしている。一歩手前でようやく気付き、慌てて逃げ飛んだ。この時間にいるはずの無いヒトが現れ驚いたのだ。国道を一台のトラックが走り去った。行先は?ゴミ袋を捨てた後、歯を磨き、トイレに行き、横になった。次に目が覚めたのはゴミ収集車が行った後だった。


 目を開ける。天窓は白。二度寝するには一番いい。それでも靴下を履き、水筒に水道水を入れ、布団を押し入れに突っ込む。出ろ、出ろ、出ろ!とにかく外に出る。外に出てしまえば後は習慣だ。さあ、仕事だ。

 赤信号で停まる。マイカーのルームミラーに、後ろの車の運転手が映った。その女は欠伸をした。無防備な顔。私もそうなのか?不安になる。まあいい、気の抜けた顔を見られた所で、知り合いという訳でもないし。


 目を開ける。天窓は青。寝る前に黒いタオルで目を覆う。どんなに深い眠りに陥っていても、太陽光は覚醒を強いる、それをタオルは防いでくれる。尻を掻く。立ち上がる。床の隅に10円硬貨が落ちていた。硬貨を拾う。何をやっているんだ!時間が押し迫っているほどヒトはムダな行為をする。

 やっとマイカーに乗り込んだ。時計はいつもより5分早い時間を指している。ムダをしたはずだが、それを取り戻すため他の動作が早まったのかもしれない。ラジオからは朝のニュースが流れている。相変わらずヒトは戦争を止めようとしない。


 休日。目覚ましの一時間前には目が覚める。早く起きたほうが一日を有効に使える。昨夜は夜更かしした。こうしていつもロクに寝れない。咽頭痛がする。休みはいつも体調が悪い。あ、洗濯してない、掃除してない、買い物してない。やる事が多すぎる。雨が降ろうが風が吹こうが外に出なければならない。

 ドアを開ける。電信柱の上にカラスが止まっていた。スズメが囀る時間はとっくに過ぎた。ワン、ワン!近所の動物病院から、悲痛な犬の鳴き声がする。ああ、通院を忘れていた。コンビニでお茶を買い飲んで一息つく。昔は毎日コーヒーを飲んだ。今は週に2回くらい。コーヒーは体に負担がかかる、そういう歳になったのだ。


 目を開ける。天窓は黒。雨が降る、雨が!心を覆う暗雲を振り払うように立ち上がり、靴下を履き、Tシャツを変える。一番勢いがあるのが雨の日かもしれない。そうでないと雨の日の仕事をやっていけないからだろう。

 マイカーの中で菓子パンを齧る。交差点を右折する。大口を開けても、対向車に我が無防備な顔を見られる心配はない。雨が見られたくないものを洗い流してくれる。車の汚れも?洗車を最後にしたのは半年前だ。不思議なことに、どんなに雨が降っても汚れを洗い流してくれたりはしない。マイカーの乗るのはどうせ独り。それならいいんじゃないかな。


 起床!快晴!着替えてすぐマイカーに乗り込む。若いなら多少寝不足でも一日遊び通せる。とにかくマイカーを走らせる。出勤時間より30分早い出発。いい朝じゃないか。

 お気に入りの曲をかける。一時間たっぷり聞けば、ミュージシャンになった気分さ。この曲のどこがいいのか?あの娘に教えてやろう。きっとうんざりするだろうな。コンビニで買った缶コーヒーを飲んで、ハンバーガーを食べて、さあ遊びに行こう!きっと楽しい一日になる。

 ショッピングセンターの駐車場の隅に車を停めた。10分ほどして白い車、彼女の車がやってきた。待ち合わせの5分前。いつもいつも、待ちきれなくて自分の方が早く着いてしまう。「待たせてゴメン」そう言う時の彼女の、可愛い顔!彼女が車から降りる。キラリと、ルームミラーが太陽を反射して、私の目を眩ませた。


 さあ、眩暈がするほど幸せな、休みの朝へ。

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