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南へ  作者: 泉田清
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青い空

 豆粒ほどの、白い飛行機が飛んでいくのが見えるかい。ああそうだ。あの南の空の向こうに空港があるんだ。

 今キラリと陽の光を反射したね。はるか空の上にある、鉄の塊だって光を反射する、不思議な気分さ。


 ボンヤリと。音も無く。大きな模型ほどの旅客機が離陸する。手に取るほど近くを飛んでいるような気もするし、かなり遠いような気もする。狂った遠近感。ただただ眺めていた。

 「ロマンチックじゃない?スチュワーデスっていえばどんな男だって優しくしてくれるの」。助手席にいるのは病院の事務をやっている女。スチュワーデスじゃなくても、看護婦じゃなくても、制服姿のその尻は中々のものだ。私は女の尻に弱い。

 「この空港近くの公園は人気のデートスポットなんだから」。いい尻をした女は得意げに言った。


 国道沿いには何でもある。コンビニ、ファミリーレストラン、ホテル、家電量販店、雑貨店、ショッピングモール、観覧車、銭湯、古本屋。金とマイカーさえあれば、国道を行ったり来たりするだけで楽しく暮らせるだろう。

 いつも日曜日だった。女に会いに行くのは。国道の何処かで待ち合わせて、遊びに行くのも大抵が国道の何処か。日曜日の朝。意気揚々とマイカーを走らせたものだ。この道の先に女が待っている。制限速度をオーバーし、黄色はもちろん、時には赤信号も無視して南へ突き進んだ。


 ある日。待ち合わせ場所に向かう途中。ガソリンを入れるため、反対車線のガソリンスタンドへ行こうと思った。中央分離帯の切れ目で転回する。その先には消防署がある。その隣は交番だ。交番から警察官が飛び出してきて、マイカーの前に躍り出た。「中央分離帯の切れ目」は消防車の出入り口である。そこで転回してはならない。道路交通法違反であり反則金を取られる。当時は7000円だった。それがマイカーを制止した警官が私から徴収した金額。消防署の隣に交番とはよく出来ているじゃないか。

 こんなこともあった。走行中に女からの電話が鳴る。出ると「ゴメンちょっと遅れる!」との事。そこから女はダラダラお喋りを始めた。自分は今走行中だし、女もまたそうだ。もちろん違反に相当する。その懸念を伝えると女は「大丈夫だって」である。交差点で止まると、横断歩道が青なのに、渡りもせずこちらを睨みつけてくるヤツがいた。何だコイツは。青になった。交差点を少し過ぎるとパトカーが止まっている。傍らにいた警察官が真っ赤な誘導棒を振り回しマイカーを停止させた。ウインドウを下げる。「いま電話してたよね」警察官は凄んだ。いい連係プレーだ。反則金は当時で8000円である。

 「もったいない事するねえ!」どちらの場合も女はせせら笑った。誰のおかげでこうなったと思っているんだ。前者はともかく後者は完全にお前のせいだろう。とはいえ何も言い返せなかった。こういう所でしっかりものを言わないとうまくいかないのかもしれない。言ったところで、やはりうまくいかないような気もするが、どうなのだろう。


 女の住む街の近くにある、山の上の公園へ行ったことがある。山を登る時。耳がキーンとした、耳鳴りで。公園に着いて、手製の弁当を広げた。「外で食べるご飯は美味しいな」大して美味くもない料理を褒めると、女は喜んだ。

 公園からの眺めは良かった。遠くの海が微かに見える。北には都市のビル群があり、南にはさらに高い山もある。この眺めは私の地元の近くにある、山からの眺めに似ていた。耳鳴りの度合いも似ている。標高も同じくらいに違いない。いつか女を連れてくる日があるだろうか。「地元にも同じような、」言いかけた時「あっ、ほら!」女が叫んだ。「あそこの運動場、その近くが私の家」そう教えてくれた。地元の山の山頂からも我が家がみえる。ますますソックリだ。気味が悪いぐらいに。

 頭上には、ボヤけた飛行機雲が横たわっていた。飛行機雲はどのくらい離れていると目に出来るのだろう。間近でみたら霧の中にでもいる感じなのだろうか、雲がそうであるように。目の前は真っ白になる。もう、目に映るものは何もない。


 そんなことを考えていたら、飛行機雲は散り散りに消え去った。残ったのは真っ青な空だけである。


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