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2.立ち止まれないのだ

「おー、サクラ! 久しぶり!」


リビングでは、魔鈴のメンバーであるガーランドとロベリア、ガイルがソファに座ってくつろいでいた。全員純粋な魔族だが、見た目だけではまったくわからない。


「うん、みんな久しぶり。元気だった?」


サクラがあいているところへ腰をおろす。


「元気元気。楽しくやってたよ」


ツンツン頭がトレードマークのガーランドが、にぱっと笑みを浮かべる。


「新曲づくりがなかなか忙しかったけどな」


クールに口を開いたのはベーシストのロベリア。低く構えたベースを上半身裸で演奏するスタイルで、大勢の女子を虜にするベーシスト。


「ガハハ。サクラも元気そうで何よりだぜ! それに、前に見たときよりちょっと大きくなってないか?」


豪快に笑い声をあげたのはドラム担当のガイル。魔鈴のムードメーカーで、がっちりとした体つきの兄ちゃんだ。


「そうかな? って、前に会ったの一年くらい前だし、そんなに変わってないと思うけど」


そう言いながら、サクラはそっと胸元に両手をあてた。その様子にぎょっとする一同。


「い、いや、サクラ。俺は身長のこと言ったつもりだったんだが……」


「……はぅっ!!」


サクラの頬が一瞬にして真っ赤に染まる。


し、しまった……! 何やってんだろ私……!


「大丈夫だよサクラたん。ザラも貧乳だったし、気にすることなんて――ぎゃふっ!!」


みなまで言わせず、サクラの強烈なパンチが再びロキの顔面にめり込んだ。


「今のは……ロキが悪いな」


「間違いない」


「最低だなロキ」


顔面を押さえてフルフルと肩を震わせるロキに、メンバー全員が辛辣な言葉を投げかける。が、すぐに気を取り直し、パッとサクラのほうへ顔を向けた。切り替えの早い魔王である。


「そ、それはそうと、サクラたん。明日はその……パパとデートしてくれるんだよね?」


「お出かけ、ね。……まあ、約束してたし。いいよ」


ロキにジト目を向けながらサクラが言う。


「でも、私と二人で出かけてるとこ、誰かに見られたら大変なことになるんじゃない?」


「大丈夫! 変装するから!」


言うが早いか、ロキはどこから取りだしたのか、メガネをかけ長いブロンドの髪をヘアゴムで後ろにまとめた。実にチープな変装である。


「握手会の準備があるから……時計台のところで待ち合わせでいいかな?」


「うん。遅れたらすぐ帰るから」


「は、はひ……」


と、そうこうしていると、パメラが両手に大皿をのせてリビングへと入ってきた。


「ご飯できたよー! いっぱい食べてね!」


魔鈴のメンバーが「待ってました!」と声をあげる。久しぶりに、和気あいあいとした楽しい雰囲気のなか、サクラも夕食の時間を楽しむのであった。



――翌日。


「とりあえず……これで準備は終わりかな」


広々とした握手会の会場を見わたし、ロキが「ふぅ」と息を吐いた。と、そこへ。背後に気配を感じ、ロキが静かに振り返る。


「お疲れ様です、ロキ様」


音もなく背後に現れたのは、ロキの側近であり魔鈴のマネージャーでもあるラーズ。目つきの悪い魔族だが、ロキが心から信頼している側近である。


「ああ、ラーズもお疲れ。あとは任せてもいいよな?」


「もちろん。そろそろ出ないと、サクラ嬢との待ち合わせにも遅れてしまいますよ?」


「時間的にはまだ余裕がありそうだが、そうだな。遅れたらまた嫌われてしまうしな」


苦笑いを浮かべるロキに、ラーズが「その通り」と頷く。


「じゃあ、すまんがあとは任せた」


「はい。楽しんできてくださいね」


肩越しに手を振ると、ロキはサクラとの待ち合わせ場所へ向かうべく一目散に駆けだした。


「うーん、空を飛べりゃ一瞬なんだがな~」


いや、ダメだ。誰かに見られたら面倒なことになる。ここはおとなしく歩いていくか。


時計台へと続く大通りをロキはテクテクと歩いていく。道も混雑していないし、これなら少し早めに着きそうだ。


そんなことを考えながら歩いていると、前方に何やら人だかりができているのをロキの視界が捉えた。


何だ……? できることなら人だかりには関わりたくないな~……もし正体がバレたら取り囲まれるのは目に見えてるし……。


ロキは周りを見わたした。


うーん……別の道から迂回していくか……? でも、かなり遠回りになるな……やっぱりこのまま進むか。まあ、バレることはないだろ。多分。


なるべく顔を見られないよう、ロキは俯き加減のまま人だかりのそばを通過しようとした。と同時に、人々が話している内容を瞬時に聞きとる。


「強盗だってよ」


「物騒だなぁ……」


「建物のなかには人質もいるらしいぜ」


どうやら、三階建ての商店に強盗が入ったようだ。おそらく、すでに誰かが衛兵に通報はしているはずだが、まだ衛兵の姿は見えない。


強盗か……何とかしてやりたい気持ちはあるが、すまん。今はムリだ。今の俺には何ものにも代えがたい大切な約束があるため、立ち止まれないのだ。


ロキが素知らぬ顔をして人だかりを抜けようとしたそのとき――


「お願い……! お願いします! 誰か、誰か助けて……! なかに人質が……!」


声の主をちらりと見やる。中年の男性が、必死の形相で野次馬たちに訴えかけている様子が目に映った。


んー……! いや、ダメだダメだ。約束の時間に遅れてしまう。もうすぐ衛兵も来るだろうし、すまん。


必死に呼びかける中年男性の声を振り払うようにして、ロキが再び歩を進める。


「お、お願いします……! 助けてやってください……! 娘を、私の幼い娘を、助けて……!」

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