93 魔女の城 前編
朝食を食べながら思い出したことを話す
「魔人城のことで思い出したことがあるんだけど」
「奇遇だな、私もだ」
「じつはわたしも」
やはり古参プレイヤーだから記憶に残っていたか
「「「風雲!まじん城」」」
「なに言ってるの!?」
アンナはプレイヤーじゃないから知らなくて当然
FPOのイベントの一つ<風雲!まじん城>
魔人城の周辺の森や平原などをくぐり抜け
城にいる魔人を倒す毎年恒例のイベントだ
そう、年一回開催されるFPOの定番イベント
各所に様々な魔物が配置されてプレイヤーの邪魔をする
魔物は種類、強さに関係なく一律1点
魔人は1万点で終了までのポイントで競う
魔人は倒されると30分後に再配置される
再配置されるまでは魔物をプチプチ潰すと言う作業プレイ
「なんてつまらなそうなイベント」
「「「楽しかったよ?」」」「どこが!?」
「わたしは魔人を無視して魔物をひたすら潰していました」
討伐好きのアオイくんらしいね
「私は逆に魔物無視して魔人だけ潰してた
復活までは休憩して復活したら潰す」
さすがベンケイさん、大物狙いだね
「俺は適当に広範囲魔法で殲滅してた」
他のプレイヤーからしこたま怒られたなあ
「あ、もういいです、どうでもいいです」
どうでもいいはひどいなアンナ、って
やめろ、可哀想な子を見る目で俺たちを見るな!
食べ終わって俺たちは王都へ行く
パンティさん捜しをいつものように繰り返す
夕刻前、ギルドで集合
「今日も収穫なしか」
「そんじゃ帰ろうぜ」
そのときギルドに十数人の冒険者が入ってきた
昨日の朝、魔人城へ行った調査隊だ
「大怪我してる奴はいないみたいだね」
「無事に帰って来れたか」
結果が気になるので帰るのをやめる
他の冒険者たちも気になっているようで聞き耳を立てていた
「まずは無事に帰還してくれてよかったよ」
マフィアのボスのような人が調査隊をねぎらう
この人がギルマスである
「ニードルさん、たしかに無事だが実際はそうではないんだ」
調査隊のリーダーが禅問答のようなことを言う
どっから見ても全員無傷なんだが?
「どういうことかわかるように説明してくれ」
「もちろんだ、でも先に結論から言わせてくれ
あの城はもう魔人城じゃない、魔女の城だ」
ギルマスがなにを言っているんだという顔をする
俺たちや他の冒険者やギルドの職員も同様だ
調査隊のリーダーは詳しく話し出す
昨日の朝、調査隊は魔人城へ向かう
王都から北へ真っ直ぐ進む
ポップコーン平原を抜けてフタマタの森へ入る
魔人城は森に囲まれていて少し高台になっているところにある
森にはこれまでは魔物がたくさんいたが激減している
真っ直ぐ正面から城へ向かう調査隊
ある程度近付いたら炎の塊のような魔物が現れる
「ここから先へ進んでは駄目よ、燃やすわよ」
その魔物は人語を話した
「私たちは魔人城の調査に来ただけだ
城を壊したり宝を盗んだりはしない
どうか通してもらえないか」
この炎の塊は人語を話すし、いきなり攻撃をしてこない
警告をして追い払おうとしているだけだ
そう判断したリーダーは交渉を始める
「そういうことじゃなくて、城に来られること自体が迷惑なの」
「城に? 魔人と戦おうなんて思っていないぞ」
「魔人? ああアイツね、魔人ならいないわよ
今住んでいるのはチ、魔女よ」
「チ? 魔女?」
魔人がいなくて魔女がいる
リーダーは何がどうなっているのかわからなかった
しかも魔人をアイツ呼ばわり
「その魔女が魔人を倒したということなのか?」
「まあそんなとこかしら」
「ではキミは魔女とどんな関係なんだ?」
「わたしの大事な方よ」
「頼む、ここを通してその魔女に会わせてくれないだろうか」
「は?」
このとき炎の塊がさらに大きく燃え盛る
『あんたたちみたいな野蛮人に会わせるわけないでしょ』
怒らせたようである
攻撃はしてこないがその炎の熱が半端ない
「待て、わかった、悪かった」
「わかればいいのよ」
攻撃する気はないようだが怒らせるのはマズいとリーダーは悟った
一旦その場から退いて調査隊は会議を始める
「正面はあの炎がいるから無理だな」
「では他から行きますか?」
「だが情報によると四方にそれぞれ大きい魔物がいると聞いている
正面があの炎、他のところも同じぐらいの奴がいると考えられる
もしかしたら炎よりも強いのがいるかも知れない」
リーダーは現状わかっている情報と今の体験から思考する
「他の三体も会話ができると思っていいだろう
なので一通り交渉してみよう」
城の西側へ回り込む調査隊
ある程度近付くと白い大きな虎の魔物が現れる
「ここから先へは行ったら駄目だよ」
身体が大きいから鋭い牙と爪も大きい
「どうしても駄目かい?」
「駄目ったら駄目、さっさと帰ってよ」
子供っぽい言動である
「そこをなんとかできないかい?」
優しく話しかけるリーダー
「んー、じゃボクと遊んで生き残ったらいいよ」
「遊ぶのはわかるが生き残るとは?」
「いくよー」
左前足を振り下ろす
「うわっ!」 ドシン!
辛うじて回避するリーダー
「まだまだー」
ドシン! ドシン! ドシン!
次々と両前足で踏み付けようとしてくる
必死で逃げ惑う調査隊
「ま、待ってくれ、私たちは帰るから!」
「ええー、遊んでくれないのー?」
心底残念そうな白い魔物
「ちぇっ、しょうがないなあ、じゃさよならー」
調査隊はそそくさとこの場から立ち去った
続いて北へ回り込む調査隊
今度は巨大な亀の魔物が現れた
「なんだお前ら、1分以内に出てけ
でないと焼きを入れるぞ」
もはや交渉の余地なし、調査隊はすぐに立ち去る
最後に東に回り込む調査隊
青い龍が現れた、というか近付く前から鎮座していた
遠目にいるのがわかっていたが一応近付く調査隊
「結局一周してきたようだな、お主ら学習能力がないのか?
我らが四方を守護しておるのだ、通すわけがなかろう
ここはもう魔人城ではない、我が主人の城となっておる」
「教えてくれ、その主人とやらは何者なんだ
魔女と言っていたがそれなら人間なのだろう?
なぜ、私たちを拒む」
「答える必要は無いな」
「キミたちのような魔物を従えて何か企んでいるのか?」
言ってリーダーはしまったと思った
『貴様、我が主人が奸計を巡らせていると申すか
我が主人の侮辱は万死に値する』
怒りの圧が凄い、調査隊は身体が竦んで逃げることすらできない
『消えろ、塵となれ!』
龍の口から光の塊が飛んでくる
「け、結界を、結界を張れる奴は全力で張れぇっ!!」
リーダーは力を振り絞って全員に叫ぶ
必死で身体を動かし結界を張っていく調査隊
だが防ぎきれない、終わったとリーダーは思った
だが光の塊が少し当たっただけで消えていく
「なんだ? 助かったのか?」
助かってはいるが少し当たっていたので重傷者だらけであった
「やり過ぎですよ、めっ!」
ベシッ! チョップされる龍
「うぐっ」
龍にチョップした宙に浮いている者を見上げる調査隊
身体中が光っていて姿がよくわからない
「うちの子たちがごめんなさいね
でもあなた達もしつこいのがいけないのよ?
すぐに帰ってくれれば怪我しなくて済んだのに」
「ええと、あなたが魔女、ですか?」
「そうよ、わたしが魔女です♪」
光の塊にしか見えないのでリーダーはどうしたものか困った
「そんなことより、怪我人が先ね」
魔女はまとう光を広げて調査隊全員を包み込む
光が消えて調査隊は起き上がる
「あれ、痛くない」「治ってる」「すげえ」
瀕死の者もいたが全員怪我も治り体力なども回復していた
「これでよし♪」
「魔女さん、みんなを助けてくれてありがとう、礼を言う」
魔女は相変わらず光っていて姿がわからない
「今のこの城の主はわたしです、魔人城ではないです
魔女の城とでも呼んでくれて結構です♪」
「あなたはここで何をしているのでしょうか」
「普通に生活しているだけよ」
「なぜ城へ立ち入ることを拒むのですか?
これだけ強い魔物まで従えて」
「この子たちは魔物じゃないですよ
まあ言ってもわからないでしょうから説明は省くわね」
魔物じゃないにしてもこの強さは脅威である
それを従えているこの魔女はもっと脅威だ
しかもあれだけの治癒魔法も使える
「とにかく、わたしたちは普通に楽しく暮らしているだけなの
だから立ち入らずそっとしておいてちょうだい
わたしたちの生活を邪魔しない限りなにもしないから」
「わかった、ギルドには伝えておく」
「よろしくね♪」
調査隊は森から出て王都へ帰った
「と言うわけであの城は魔女の城になっている
私たちが無傷なのも魔女が治してくれたからだ」
「にわかに信じがたいが事実なのだろう」
リーダーのことをギルマスは信頼しているようだ
「だが疑念もある」
「そうですよね、私もわかっていない部分が多いですから」
「その4体が本当に魔物ではないという確証がない
本当にただ暮らしているだけなのか、何も企んでいないのか
その魔女の言っていることが嘘か本当なのかは判断できん
じつは魔人が化けているのではないかとも疑ってしまう」
ギルマスの疑念はもっともだ
とりあえず様子を見ることにしたギルマス
魔女の城周辺へは近付かないことが決まった
冒険者たちにもそのように告知する
魔女と4体の巨大生物か、何者なんだろう
だけど俺たちには関係なさそうだからほっとくか
「調査結果も聞けたし帰ろうか」
「おう」「はい」「・・・・・」
「どうしたアンナ?」
「あ、いえ、帰りましょう、お腹空きましたし」
よくわからんが俺たちは街へ戻って食事する
風呂も済ませて明日の打ち合わせのために俺の部屋へ集まる
「打ち合わせと言っても明日も同じことするだけだもんな」
「それを言っちゃあおしまいよ」
ベンケイさんといつもの掛け合いをする
アンナがまだなにか考えていた
「アンナ、なにか気になることがあるのか?」
「あるなら遠慮なく話せよアンナ」
「えっと、魔女の件なんですがいいですか?」
俺たちに魔女の件がなにか関係あるのか?




