86 リディア・フレンダ 3
朝早くから身支度に気合いを入れます
侍女たちも頑張ってくれました
パトラッシュも手を打ってくれています
シシリーたちは別行動をしてくれます
アオイさんも応援はしてくれますが葛藤しているようです
ごめんなさいアオイさん、恋の戦いは非情で無情なのです
アンナさんはやれやれといった感じですが協力してくれるようです
ベンケイさんはケンタさんの反応を楽しんでいます
ただ、ケンタさんが苦しむようなことはするなと言われました
しませんよ、失礼な!
門前に行きます
昨夜は感想がないかと聞いただけなので失敗しました
なんの感想を聞いているのかわかるように言わないと駄目なのです
それぐらい鈍感なのですケンタさんは!
「お待たせしましたケンタさん♪」
さすがに気合いを入れたお洒落だと気付いたようです
そんなに見つめられたら照れてしまいます♡
「ふふ、どうですかケンタさん、この装い似合いますか?」
「似合ってるよ、少し大人っぽいね、キレイだ」
恥ずかしがりもせず平然と褒めて下さります
「・・・・・・・・・・ありがとうございます」
あああっ、もうっ! 鈍感なくせに天然っ!
真っ赤になった顔を隠すため背を向けてこの場を離れます
パトラッシュに宥められます
「お嬢様、この程度で照れていてはいけません」
「でもパトラッシュ、ケンタさんってば」
「頑張って下さい、お嬢様なら大丈夫です」
「むう、他人事だと思って」
「はい、他人事ですから」 ニッコリ
「パトラッシュ酷いっ!」
気を取り直してケンタさんのところへ戻ります
「お待たせしてすみませんケンタさん」
私はケンタさんのスーパーカブに乗せてもらいます
「それでは私たちは行きますわね」
「またねシシリー♪」
シシリーたちの馬車が出発しました
デートコースをケンタさんにお任せすることを伝えます
数秒、ケンタさんが固まります
我に返ったケンタさんがあたふたします
可愛いです♡
「待てリディア、なぜデートなんだ?」
「昨夜約束しましたでしょう」
「それは護衛するってことだろう」
「一緒に出掛けて下さいねって言いましたよ私」
鈍感だから気付かなかったでしょうこのトラップに
「約束、破るのですか?」
少し悲し気に上目遣いでケンタさんを見つめます
男性はこれに弱いと本に書いてありました
「わかった、デートな、、、」
「はい、デートです♡」
デートであると認識させることに成功しました!
ですがまだ油断は禁物です
「ケンタさん、そろそろ行きませんか?」
「お、おう、でもどこに行こう」
メモを見ながら思考しています
すごく真剣に悩んでいます
ちょっと強引過ぎたでしょうか
「あの、私、ケンタさんを困らせていますか?」
困らせたいわけではありません
ただデートして楽しい時間を過ごしたいだけです
そして私のことを好きになって欲しいだけです
「あのさ、デートっぽくない場所でも勘弁してくれるか?」
「ケンタさんと一緒ならどんなとこでも構いません♪」
そうです、場所とか関係ないのです
好きな人とならきっとどこでも楽しいはずなのだから
「よし、それじゃあ出発するぞ」
「はい♪」
「行ってらっしゃいませ、お気を付けて」
パトラッシュに見送られ出発します
さあ、私たちのデートを始めましょうか♡
商店区画に到着してスーパーカブから降りる
「お買い物ですか?」
「屋台とか小さい露店を見て回ろうかなと」
ここは平民向け、冒険者向けの店だらけだ
デートで来るようなとこじゃないのはわかってる
「えっと、ダメかな?」
「いいえ、貴族向けしか行かないので新鮮です♪」
リディアはいい妹だぜ
「じゃ早速あっちの屋台から」 ギュッ
左手をリディアの右手に繋がれた
「リ、リディア?」
「手、繋いじゃ、駄目ですか?」
うん、はぐれたら駄目だからな
きっとはぐれるのが不安なんだな
「いいよ」
「嬉しいです♪」
そのまま屋台を巡り、露店を眺めていく
串焼きとか軽食をつまみながらウロウロする
露店で雑貨や装飾品などを見ていく
バラのブローチを買おうか迷っていたのでプレゼントする
とても喜んでくれたので俺も嬉しい
段々と俺も楽しくなってきた
リディアはソース系が好みだったようだ
たこ焼きと焼きそばを気に入ったらしい
商店区画から少し離れたところに広場がある
そこのベンチでお好み焼きを食べる
「美味しいです♪ 貴族向けのお店にはないのが残念です」
「まあ貴族向けではないかもな」
「ソース、付いてます」 拭き拭き
「だから自分で拭くってば」
「拭いてあげたいのです♪」
「だったらお返しだ」 拭き拭き
「ひゃん!」
リディアの口の横にもちょっとだけ付いてたので拭いてやる
「うう、たしかに恥ずかしいですね、、、」
「だろ?」
リディアの顔がほんのり赤い
ついでに俺もやったはいいが照れる
拭かれるのも拭くのも恥ずかしいなコレ
「よし、ちょっと歩くけど大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
歩き始めるとまた手を繋いできた
俺も慣れたのか緊張しなくなった
広場から少し行くと大きい池がある
池沿いにゆっくり散歩する
舗装されていて歩きやすい
木も植えられていてベンチもある
散歩するのにいい環境だ
この池には釣り堀がある
ゲーム時代、池釣りイベントがあったなあ
そして定番のスワンボートもある
「あの乗り物、面白そうですね」
「乗りたい?」
「いえ、今日はいいです
デートはこれからもしますから♪」
「え、今回だけじゃないの?」
「駄目、ですか?」
また上目遣いされる、俺は敗北する
「駄目、じゃない、、、」
「えへへ、嬉しいです♪」 ギュッ
手繋ぎから腕掴みにシフトした
柔らかく温かいなにかが腕に当たってる
あと近くなったからなんかいい匂いがする
(恥ずかしいけどこれも有効だと本に書いてありました)
俺たちは口数が減った
目的の場所に着いた
「この高台に行くけど大丈夫か?」
結構歩いたので疲れているかも知れない
リディアは体力ないからな
「大丈夫です」
(少し疲れていますけど頑張ります)
本当に大丈夫かな?
様子を見ながら上るか
「それじゃ行こうか」
「はい」
高台への石段を上っていく
もうすぐ夕刻だからここが最後のスポットだ
全然デートっぽくないからガッカリしてるかもな
デートなんてしたことないからごめんな
せめて最後ぐらいはそれっぽい場所を選んだつもりだ
リディアが喜んでくれたらいいんだが
掴んでいた腕が解放された
石段の途中でリディアがしゃがみ込む
「リディア!?」
「ご、ごめんなさい、足が痛くなってきました、、、」
やっぱ無理していたのか
「悪い、気付いてやれなくて」
「ケンタさんは悪くないです
せっかく色々して下さっているのにごめんなさい」
しょんぼりするリディア
そんな顔させたかったんじゃない
楽しく笑わせたかっただけだ
「石段はあと半分か」
「ごめんなさい、、、」
ヒョイ
「きゃっ!?」
「リディアは謝るな、俺が謝る、すまん」
「ケ、ケンタさん? あの、その、これは、、、」
俺はリディアを抱えただけだが?
「このまま俺が上まで連れて行く
足は上に着いてからヒールと回復薬で治してやるから我慢してくれ」
「そ、それは、ありがとうございます
でも、その、重くない、ですか?」
女の子だもんな、気にするかやっぱ
「全然、軽いぞリディアは」
「そ、そうですか、、、」
俺はリディアを抱えたまま石段を上り切る
マジで軽いぞリディア、心配すんな
高台のベンチに座らせてヒールを掛ける
回復薬も渡して疲れも癒す
リディアの顔が赤い
「どうした、熱でも出たか?」
「いえ、これは違います、、、」
よくわからんが元気はありそうなので大丈夫かもな
「なんとか間に合ったようだ、立てるか?」
「はい、でもここに何があるのですか?」
俺はリディアを連れて高台の柵の近くまで行く
他にも人が集まって一点を見つめている
王都にあるこの高台、コールタール展望台
夕刻にここから眺める景色は素晴らしい
「これは、、、」
夕陽が沈み始める瞬間が見れる
オレンジ色に近い赤い夕陽に見惚れてしまう
半分少し手前ぐらい沈むまでが眺めとしては最高だ
リディアも見惚れている、どうやら気に入ってくれたようだ
連れて来てよかった、俺もこの景色が好きなんだ
俺の好きなものを気に入ってくれて嬉しい気持ちになる
半分近く沈んで眺めていた人たちが帰っていく
俺たちも帰るとするか
「リディア、そろそろ帰るけど足とか大丈夫か?」
「それは大丈夫です」
「そうか、それじゃ暗くなる前に帰ろう」
「待って、ケンタさん」
袖を引っ張られる
「どうした?」
リディアが真っ直ぐ俺を見る
「今日はデートして下さりありがとうございました」
「おう、約束だったからな」
「私のこと女の子としてデートしてくれましたか?」
「リディアは女の子だろ?」
「そうではなく、一人の女性として見てくれてましたか」
「えっと、それは、、、」
リディアが悲しそうに小さくため息をつく
「やっぱりただの護衛対象か妹扱いだったのですね」
「まあ、そうだな」
真剣な顔で俺を見るリディア
「私はケンタさんのことが好きです、お慕いしています!
一人の女性として私を見て下さい!
そして私とお付き合いをして下さい!」
俺は歳の離れた妹ぐらいにしか見ていないし見れない
でもリディアは真剣に俺のことを一人の男として見てくれている
大好きなお兄ちゃん的な感情だと勝手に解釈していた
ごめんな、リディアの感情を勝手に解釈していて
モテたことがないしヘタレだから勝手にただの好意と思ってしまう
でも鈍感な俺でもただの好意ではなく恋愛感情だと理解したよ
こんな俺を想ってくれるなんて嬉しいよ
「リディアの気持ち、すごく嬉しい、ありがとう」
「ケンタさん、それじゃ、、、」
悪いなリディア
「だけど俺は応えることはできない、すまん」
「なぜ、ですか?」
「歳のことも含めてリディアを恋愛対象に見れない」
「でしたら何歳だったら対象になるのですか」
「だから歳だけでなくもう妹のように思ってるから駄目なんだよ」
「いいから何歳か教えて下さい」
リディアは泣きそうな顔で食い下がる
次回、恋する乙女は諦めない!




