81 共に背負う
「さあて、そろそろ帰るか」
「そだね、帰ろう」
スーパーカブに俺たちは乗る
俺は王都へ向かって走り出す
「あれ、帰るんじゃないのか?」
「その前に王都まで行って自分の今の状態を確認したい」
「そっか、やっぱお前はデキる子だ♪」
「だろ?」
俺たちは笑い合う
王都へ近付くにつれて緊張するが身体は動く
ちゃんと前進できているようだ
ベンケイさんのおかげだ
本当に良い相棒がいてくれて感謝する
王都東門近くで停車する
「調子はどうだい相棒」
「少し緊張するが悪くない」
「そっか♪」
「ベンケイさんの言うとおり一生消えないだろう
だけど大丈夫だ、俺は前へ進むことができる
ありがとう、ベンケイさん」
「おう♪」
ベンケイさんがスーパーカブから降りる
「どうしたんだ?」
「さっき偉そうにかっこつけたこと言ってごめん」
「なんだよ、おかげで俺は前に進めることができたんだぜ」
「私も言ってないことがある
それなのにケンタたちに偉そうに語ったから」
そりゃ俺たちと再会するまで色々あっただろうからな
「だから私も言う」
ベンケイさんは小さく深呼吸して語り出す
「私もお前たちと再会するまでに人を殺してきた」
普通なら驚くとこだろう
でもなんとなくわかっていたから驚かない
俺のように殺らないといけなかったのだろう
「一人じゃない、数十人は殺したよ」
さすがに驚いた
「ケンタはそんな私でもまだ相棒と認めてくれるか?」
ベンケイさんはどこか遠くを見つめるような顔をして笑う
「さっきベンケイさんが言ってくれたこと、そのまま返すぜ
なめんな! いくら殺してもベンケイさんは俺の相棒だ!」
きっと、殺らないとどうしようもない状況だったんだろ
「どうして殺したのかは聞かせてくれるんだろ」
「聞きたいか?」
「もちろんだ、俺にも背負わせろ」
「わかった、背負ってくれ」
魔物に襲われている親子がいた
私は魔物を倒して親子を助ける
他にも魔物がいるかも知れないので村まで送ることにした
「村まで送るよ」
「ありがとうございます」
その親子の住む村が近くにあった
その村に数日滞在することになる
「小さい宿屋だけどゆっくりしておくれ」
「ありがとうおばちゃん♪」
村の子供たちと遊ぶ
「ベンちゃん、これあげるー」
「お、花冠か、さんきゅー♪」
「さんきゅーってなあに?」
「ありがとう、ってことだ」
村の仕事の手伝いをする
主に畑仕事だ
「こ、腰が、、、」
「若いのに」
「だって畑仕事なんてやったことねーもん」
おっちゃん、おばちゃんが笑う
周辺の魔物を退治したりして過ごす
「わっはっは、畑仕事より楽だぜ♪」
「おかげで食料の備蓄が増えて助かるよ」
「ありがとうなお嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんはやめろって言ったろ」
村人たちは親切でついつい長居してしまった
「そろそろ村から出るよ」
「そうかい、寂しくなるねえ」
「また仲間と共に立ち寄るよ」
「楽しみに待ってるよ」
旅立つことを伝えたら数人の子供に泣かれた
「また必ず来るから泣くんじゃねえよ」
「だってー」
旅立ちの日、村人のほとんどが見送ってくれた
「みんな、元気でな♪」
村から出て一日ほど行ったところの小さい街に着く
そこのギルドで野盗討伐の依頼を受ける
大規模な野盗一味らしく他の冒険者十数名との合同だ
馬に乗って野盗一味がいる方向へ向かう
「この方向、あの村の・・・・・」
その方向に嫌な予感がした
火の手が上がる村が見えてきた
そこは私が世話になったあの村だった
野盗一味に襲撃を受けていた
こんなことならもう数日滞在しておくべきだったか
「くそっ!」
冒険者たちと共に倒して捕縛していく
野盗一味は全員拘束できた
村の被害は大きかったが壊滅はしていなかった
だけど
私が魔物から救った親子が殺されていた
なんのために助けたのかわからなくなった
一緒に遊んだ子供たちのうち数人が殺されていた
花冠の子も、私が出ていくとき泣いた子もその中にいた
他にも親切にしてくれた人も数人殺されていた
私は愕然とした
本当に旅立ちの日をずらせばよかった
予測できなかったことだが後悔した
「こいつらが、、、」
捕らえられている野盗一味を見る
「ちっ、鉱山奴隷落ちかよ」 ブツブツ
悪びれず、捕まっちまったなあ程度の表情をしていた
「・・・・・・・・・」
それを見て私は頭に血が上る
焦燥感と怒りとドロドロした感情が湧き上がる
つまり、キレた
「てめえら、鉱山奴隷なんぞで済ましてやらねえっ!」
暴れた、野盗共を殴る、蹴る、斬り刻む
「お、おい、やめろベンケイ!」
他の冒険者たちが私を止めようとする
だが誰も私を止められない
止まってやるつもりなんざ毛頭ねえ
死ね! 死ね! 死にやがれっ!
ひたすら拳と薙刀を振るい続ける
少し、落ち着きを取り戻す
そのときにはすでに野盗一味は全員死んでいた
「わりぃ、先に帰るわ」
「ちょ、お前、、、」
私は他の冒険者たちを残して馬に乗り一人で街へ帰った
生き残った村人たちの顔を見るのが辛い
血塗れになった私を見られるのが恐かった
でも殺したことへの罪悪感も恐怖もなかった
そんな自分が化け物のように思えて嫌だった
「街に戻ったらギルドから怒られたよ、当たり前だがな
でもそこのギルマスが良い人でな、罰金だけで許してくれた
他の冒険者も村人から私のことを聞いたらしく許してくれた」
「多分、俺も同じことをしたかもな」
「そう言ってくれると救われる」
「アンナたちにはどうする?」
「帰ったら話そうと思う」
「いいのか?」
「当たり前だろ、仲間なんだから
まあこれで嫌われたらそれまでさ」
「大丈夫さ、二人ともそんな奴らじゃないから」
「そうだな」
俺とベンケイさんは再びスーパーカブに乗る
そして街へ向かって走り出す
「時速300キロやっちゃえ♪」
「らじゃー!」
街道から離れたところを大爆走する
街に戻って宿屋へ帰る
「「ただいまー」」
「おかえりなさい二人とも」
「ベンケイ殿、ケンタ殿、おかえりなさい」
昨日できなかった打ち上げをする
バカ話したりバカ笑いしてたくさん飲み食いした
ベンケイさんの話もした
二人は平然と受け入れてくれた
仲間がいる、だから俺は前に進める
ベンケイさんも同じだろう
アンナとアオイくんもなにか吹っ切れた感じだった
きっと俺のようにベンケイさんからなにか言われたのだろう
頼りになる相棒と仲間たちだぜ
翌日の昼過ぎ、俺たちは領主邸に来ていた
「いきなり押し掛けてごめんな」
「いえ、ケンタ様たちなら歓迎いたしますわ」
シシリーはいつもどおり接してくれる
シシリーにも心配かけていたからな
「それで用件は何かなケンタ」
領主様が対応してくれる
「シリウス様の護衛の件、まだ決まっていませんか?」
「まだ決まっていないが?」
「やっぱり俺たちが受けていいでしょうか」
「いいのかケンタ?」
「はい」
領主様が俺を見る
(なにがあったかは知らぬが大丈夫そうだな)
「わかった、ケンタたちに依頼しよう」
「ありがとうございます」
「シシリー、シリウスを呼んで来てくれ」
「はい」
シシリーがシリウス様を呼びに行く
「いやあ、助かるよ、ありがとうケンタくん♪」
相変わらず軽い人だ
護衛依頼の受理をして日程などの説明を聞く
出発は明日の朝なので明日は早起きだ
領主邸を出て準備をして明日に備える
翌朝、領主邸の前に集合する
「それじゃ、よろしく頼むね♪」
「はい」
馬車にシリウス様が乗り込む
続いてシシリーが乗り込む
「待って、シシリーも行くのか?」
「そうですよ」
「まさか今回もシシリーを街へ送るまでが依頼なの?」
「そうですよ」
そんなシレっと言われても
「昨日の打ち合わせでは言わなかったじゃないか」
「言いましたよ、叔父様の付添人も一緒だと」
「それがシシリーってこと?」
「そうですよ」
それ、詐欺じゃね?
「すまんなケンタ、シシリーのことも頼む」
領主様が頭を下げる
そんなことされたら断れないよ
「あとシリウスの監視も兼ねている」
「あー、なるほど」
シリウス様が道中好き勝手しないようにってことね
俺、ベンケイさん、ヨシツネはスーパーカブに乗る
アンナ、アオイくん、ポチャ、サスケは馬車に同乗する
いざ、王都へ向かって出発進行!
「ここらへんだな」
「なにがだケンタ」
「ここらへんでベンケイさんとすれ違ったんだよ」
「ああ、あのときか、よく場所覚えてるな」
「あのときって俺がケンタって気付いてたの?」
「いんや、ヨシツネにプレイヤーがいるってだけ教えられた」
「なるほど、やっぱりそれで手を振ってくれたわけだ」
「ケンタも手を振り返してくれたじゃん」
「無視するわけにはいかんだろ」
「そりゃそうだな」
「案外そんな感じでパンティさんともすれ違っているのかも」
「あー、有り得そうだなー」
前回と同じく途中にある野営地に着く
相変わらずたくさんのグループがいた
見張りの順番は夕食を食べながらベンケイさん以外でジャンケンして決めた
ベンケイさんは今回が初回なのでラストに回す
「ジャンケンで決めてんのかよ」
「そうじゃないときもあるけどね」
見張りは俺、アンナ、アオイくん、ベンケイさんの順になった
「食事中になにをしていらっしゃるのですかケンタ様」
シシリーに呆れられる
「ところでシズカくん、じゃなかったベンケイくん」
「なに?」
「やっぱり一戦交えてくれないかな?」
「叔父様、いい加減諦めていただけませんか?」 ニッコリ
シシリーの笑顔が恐い
「んー、いいぜ」
「ベンケイさん、引き受けないで下さい!」
シシリーが怒る
「悪いなシシリー、やっぱり戦ってあげないといけない
先着順のルールを守って挑戦しに来てくれたんだし
それを断るってのは私としては心苦しいんだ」
「そう言われましても」
「シシリーに譲れない矜持があるのと同じだよ」
「ケンタ様、はあ、仕方がありませんね
わかりました、許可します」
シシリーから許可が下りて喜ぶシリウス様
よっぽど戦いたかったんだろう
俺もシリウス様とベンケイさんの戦いは見てみたかった
シリウス様の魔法の実力に興味があったからな




