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愚者の楽園に転移したけどまったく問題ない  作者: 長城万里
2 永遠の混沌

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80 そして、進め!

「なんですか、さっきから勝手なことばかり言って!」


失格と言われ激昂するアンナ


「お前の役割で一番大事なことを忘れてるからだよ」


「忘れてません! お兄さんをちゃんと見守っています!

 状況を見てその都度助力しています!」


「やっぱアンナもケンタと同じように心が弱ってるんだな」


「弱ってる? 別に私は落ち込んだりしてませんよ?

 恐怖に縛られてもいませんよ? 意味がわかりません」


ベンケイは一拍置いて口を開く


「ケンタは殺したことへの恐怖で足がすくんで立ち止まっている

 普通の冒険や生活には影響ないみたいだがな」


「そうですよ、だから私は、、、」


「だけど、王都へ、護衛をする、ことだけはできないでいる

 その二つがセットになったら駄目だってことだ

 心が拒否反応を起こすんだから無理もない」


「わかっているんなら、もういいでしょお姉ちゃん、、、」


「アンナ、ガイド精霊の助けるってのは導くってことじゃないのか?

 ケンタが暗闇で立ちすくんでいるなら手を差し伸べて引っ張れよ!

 迷って動けないなら背中を押して前進させてやりやがれ!

 それがガイド精霊の一番大事な役割だろうがっ!!」


「っ!」


アンナはベンケイに言われてようやく気付く、思い出す

たしかに忘れていた、それこそが一番大事なことだと


「ケンタと一緒になって立ち止まってどうする

 そばにいる、見守るもたしかに必要だろう

 だけど導いてやれよ、ケンタを前に進ませてやれよ

 そいつがパートナーってもんだろ、アンナ」


アンナは自身で気付けなかったことが悔しく唇を噛み締める


「でも、無理に背中を押して余計にお兄さんが苦しむかと思うと、、、」


「ばーか、あいつには引っ張ってくれる奴が必要なんだよ

 背中を押されたら頑張れる単純な奴なんだよ

 ゲーム時代のパートナーの私が保証するぜ♪」


ニカッと笑うベンケイ



ケンタ、ベンケイ、アオイ、パンティの四人はベータからの仲間である

しかし出会ったタイミングは同時ではない

ベンケイ、アオイ、パンティの順にケンタと出会っている


ベンケイはベータ開始初日にケンタとフレになった

他の二人よりケンタと共に過ごした時間が最も長い

ベータ初日からゲーム終了まで11年の付き合いだ

まさにパートナーと言える仲である



「悔しいですね、私よりも最良のパートナーなんて」

「私だって悔しいよ」

「どうしてですか?」


「この世界でケンタの最初のパートナーの座を奪われたからな

 再会もアオイが最初だから私の立つ瀬がないぜ」


「う、すみません、、、」

「だから謝るなっつーの」


「アンナ、もう立ち止まるなよ?

 ケンタを前に引っ張ってやれ、背中を押してやってくれ

 この世界のパートナーはお前なんだから」


「はい、お姉ちゃん、ありがとうございました」 ペコリ


ベンケイは立ち上がる


「じゃ私は自分の部屋に戻るわ、おやすみー」

「はい、おやすみなさいお姉ちゃん」

「おやすみなさいベンケイ殿」


アンナは自分の役割を、想いを、再度確認して決意する

アオイは自分の弱さを痛感し、強くあろうと決意する


(私も偉そうなことは言えないけどな、それはそれ、これはこれだ)


ベンケイは自分の部屋に戻らずケンタの部屋へ直行する






ベッドの中でウジウジグダグダ悩むおっさんがいた、俺だ

だって仕方がないじゃないか、身体がすくむんだもの


いっぱい吐き出して覚悟も決意もした

それでも心の奥底に殺した事実の恐怖がこびり付いている


<王都へ><護衛する>が合わさると呼び起こされちまう

情けない、マジで俺はダメなおっさんだ


「・・・・・やっぱ風呂入ってこよう」


ベッドから出て風呂へ行く準備をする


バターン!


いきなり乱暴に扉が開けられる


「な、なに!?」 ビクビク


「いよう、ケンタ! 起きてたか、寝てても起こすけどな」

「ベンケイさん、なんか用?」


「明日、ちょっと私に付き合え! 出掛けるぞ!」

「え、なに? どこへ?」


「お前に拒否権はない! じゃ、おやすみー♪」

「え、ちょ、ベンケイさん!?」


言うだけ言って去って行く嵐のようなベンケイさんだった


なんなのだろう?

領主邸からずっと怒ってたかと思えば意味がわからん


まあ気分転換に出掛けるのも悪くないか

ベンケイさんと二人で遊ぶのもゲーム以来だし


それから風呂に入って就寝




翌日、スーパーカブに乗って俺とベンケイさんは出掛ける


「やっぱ便利だなコレ」

「だよね、ところでどこへ行くの?」


とりあえず西門へ行けと言われたので西門まで来た

西門から出てこのまま進めと言われる


この街道は王都と街を繋ぐ街道だ

途中に小さい村や街もあるからそれのどこかだろう


「ケンタ、時速300キロにしようぜ♪」

「ここ街道、行き来する馬や馬車が結構あるから危ないでしょ」

「じゃ街道を少し外れて走れば大丈夫じゃね?」

「まあそれなら、ってダメでしょ!」

「なんだよう、いいじゃんよう」


「そもそもそんな速さで走ったらすぐに王都に着いちゃうよ?

 目的地は途中の村か街なんだろ?」


「うんにゃ、目的地は王都だぜ」


は? 王都が目的地? なにを言っているんだベンケイさん

俺はスーパーカブを停車する


「おっと、なんで止まるのさ」

「王都に何しに行くのさ」


ベンケイさんがスーパーカブから降りる


「ま、ここでもいいか」


レジャーシートを広げて座るベンケイさん


「ケンタも座れよ、お茶しようぜ♪」


収納庫からお菓子とお茶を出すベンケイさん

仕方がないので俺も座る


少しの間、黙ってお菓子を食べてお茶を飲む


「それでなにか話でもあるの?」


ベンケイさんはなにもないのにこんなことはしない

付き合いが長いからわかる


「ケンタ、バッカーを捕らえる作戦のとき」


鼓動が早くなる


「マーデラとか言う騎士を殺したんだってな」


息が止まりそうになった、苦しい


「・・・・・アンナから、聞いたのか?」


「アンナとアオイから無理矢理聞き出した

 言っとくが二人を責めるなよ?」


わかってる、ベンケイさんに隠せなかったんだろう

二人は悪くない、ベンケイさんに黙っていた俺が悪い


「ああ、責めないよ、それがどうかしたのか?」

「なんで私に隠していた」


「ベンケイさんにいらない心配させたくなかっただけだ」

「ほう、私のためってか」


ベンケイさんはお茶を一口すする


「私はケンタの仲間、でいいんだよな?」

「当たり前だろ、大事な仲間だ」


「だったらなぜ言わない」

「だから心配を」


ゴン! 額に拳骨を喰らう


「いてっ! なにすんの!?」


「心配させたくないだあ? ふざけんなよケンタ

 仲間を心配してなにが悪い、いくらでも心配させろや!」


ああ、昨日から怒ってたのは隠し事してたことに怒っていたのか


「ごめん、でも俺が人を殺したなんて知られたくなかったんだ」

「なんでだよ」


「ベンケイさんに人殺しを見る目で見られたくなかったんだ」


ゴン! また額を殴られた


「痛いよ! やめてくんない?」


「うるせえ、このバカケンタ!」

「そりゃ馬鹿かも知れんけど、、、」


「私がお前をそんな目で見るような奴だと思ってたのかよ!

 なめんな! お前が大量殺人してもそんな目で見ねーよ!」


さすがに大量殺人はしないよ?


「私はケンタとは長い付き合いだ、相棒だと思ってるんだぜ

 お前は私をゲームのフレの一人程度にしか思ってなかったのか?」


「違う、俺だって相棒だと思ってるよ!」


FPOのベータ初日に出会って終了までの11年ずっと一緒だった

他の二人以上に長い時間を共有していた最高で最強の相棒だ


「だったらさ、言ってくれよ、辛いことも悲しいことも

 お前が抱えてる苦しみを私に共有させろよ

 一緒に悩ませろよ、それが相棒だろ」


寂しそうに笑うベンケイさん

大事な相棒にそんな顔させてんじゃねえよ俺


「そう、だよな、ごめん」

「謝んな、それより私はまだ相棒でいいんだよな?」


「当たり前だ、ベンケイさんは大切な頼りになる相棒だ

 これまでも、これからも!」


「そっか、嬉しいぜ♪」


ニカッと笑うベンケイさん


うん、寂しそうな顔よりこっちの方がベンケイさんに合ってる


「でもさ、このままだと王都へ行く仕事ができないだろ?

 遊びにも行けないんじゃないか?」


「う、そうなんだけどさ」

「この先、冒険するにも王都は避けられないぞ」


「うん、わかってる、頭では理解してるし割り切れている

 でも心の奥底の恐怖が身体を、動きを止めてしまうんだ」


「恐いか?」

「恐いさ」


「その恐怖を消したいか?」

「消したいけど多分消えない」


「そうだな、こびり付いた恐怖は一生消えるわけがない」

「なんだよ、解決策でも言ってくれるのかと思ったのに」


「そんな都合の良いもんあるかよ」

「ベンケイさん、そういうとこ相変わらず雑だよな」


「消えなくてもいいんじゃね?」

「ええっ!?」


「重たいだろう、辛いだろう、だけどそいつを背負って生きようぜ

 そいつはもうお前の身体と心の一部になっちまってる」



それは俺自身も理解している



「だったらさ、それごと抱えて進もうぜ

 苦しいから辛いからって立ち止まるなよ

 それで倒れそうなら私が、私らが支えてやる」



そうだ、俺には仲間がいる



「身体が震えるなら、震えたまま進め

 迷うなら、迷いながら進め

 辛いなら、苦しいなら、無我夢中に進め

 暗闇が広がっていても、必ずあるもんだぜ?

 お前を照らしてくれる灯りってやつが」



道を照らしてくれる仲間がいる



「だから、進め!」



俺は大人だ、おっさんだ

だけど馬鹿みたいに涙が溢れてくる


これからもきっと辛く苦しいことがある

だけど支えてくれる仲間がいる


俺はもう大丈夫、とまでは言わない

だけど立ち止まらないだろう

身体がすくんでも動けるだろう



自分で自分を鼓舞するように自身に語りかける


立ち止まるな!


お前はやればデキる子だ!


一歩ずつでいい、足を前に出せ!



そして、進め!

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