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愚者の楽園に転移したけどまったく問題ない  作者: 長城万里
2 永遠の混沌

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79 トラウマ

少し早目に昼食を済まして領主邸へ向かう

領主様が俺たちに大事な話があるそうだ


「ケンタ様、皆様、お待ちしておりました

 あら? こちらの方はたしか模擬戦祭りの?」


「ベンケイだ、よろしく」

「俺たちのパーティーメンバーなんだ」


「そうなのですね、初めまして、シシリー・ペンペランと申します

 でも祭りのときはシズカさんと言うお名前だったような」


「あれはなんと言うか芸名みたいなもんだ

 ベンケイが本当の名前だからこっちで呼んでくれ」


「承知いたしました、よろしくお願いしますベンケイさん」


シシリーに案内されて客間へ行く

中に入ると領主様がすでにいた、ついでにシリウス様もいた


「君たちがシシリーを救けてくれた冒険者だったんだね

 祭りでは恥ずかしいところを見られたな、ははは♪」


俺たちのことを覚えていたようだ


「あれ、シズカくんじゃないか、どうしてここへ?

 君も彼らの仲間だったのかい?」


「そうだ、ですよ」


ですよに言い直したなベンケイさん


「せっかく再会できたんだ、一戦どうだいシズカくん♪」


「叔父様!」「シリウス!」


シシリーと領主様がシリウス様を睨む


「やだなー、冗談ですよ、恐いなあ」


「えっと、シリウス様」

「なんだいシズカくん」

「私は本当はベンケイという名前だから今後はベンケイと呼んでくれ」

「そうだったのかい? うん、わかった、そう呼ぶよ♪」


敬語は諦めたようだベンケイさん


「呼び出してすまなかったなケンタ」

「いえ、それで大事な用とはなんでしょう?」


「その前に改めて礼を言おう

 バッカー伯爵の件、本当にありがとう」


領主様、シシリー、シリウス様が頭を下げる


「お礼ならもうたくさんいただきましたから」


ここまで感謝されるとは思ってなかった


「今回呼んだのはその件の事後報告のためだ」

「事後報告?」


「バッカー伯爵及びそれに与した者たちの処罰などについてだ」


そうだな、もう二週間ほど経っているから結果が出てるか


「えーと、悪い、私その件なにも知らないんだけど?」


そうだった、ベンケイさんにはこの件を話していなかった

大まかな事の経緯だけベンケイさんに説明する


「とんでもないクズだなそいつら

 でもそういうことはちゃんと話してくれよケンタ

 この場にいていいのか迷っちまったぞ」


「ごめんなベンケイさん」


あの事とかは伏せているのもごめんな


「では事後報告をするけどいいかな?」

「え、シリウス様がするの?」

「シリウスが報告書を王都から持って来てくれたんだ」


だからシリウス様がここにいたんだな


シリウス様が報告を始める

主犯のバッカーは爵位の剥奪、伯爵家は取り潰し

バッカーは処刑、伯爵の家族は平民に落とされる


イストも処刑、手を貸したチンピラ共は鉱山奴隷

騎士たちは騎士団から除名及び各家からの廃嫡処分

廃嫡後は平民となるが一部の者は鉱山奴隷となる

手を貸した内容によって分かれるらしい


奴のことは言われなかった

まあ死んでいるから処刑もなにもないからだろう

俺としては言われなくてホッとしている


「報告は以上です」


シリウス様が書簡を片付けて領主様に渡す


「ケンタたちには報告すべきだと思って呼んだのだ」


「そうですね、関係者ですから

 えっと、それでは俺たちはこれで」


立ち上がろうとすると


「待ってくれ、頼みたいことがある」


座り直す、一応聞くだけ聞かないと失礼だからな


「シリウスが王都へ帰るときの護衛を頼みたい」


「王都、護衛、ですか、、、」


身体が震える

汗がじんわり出てくる

声が出しづらい


「どうしたケンタ?」


ベンケイさんが不思議そうに声を掛けてくる


(なんだ? ケンタの様子が変だ)


「シシリーを守ってくれた英雄たちなら安心だよ♪」


シリウス様が呑気に言う

英雄? そんないいものじゃない


(アンナとアオイもケンタを心配そうに見ている)


「叔父様!」

「突然なんだいシシリー、驚くじゃないか」


シシリーが俺の近くに来る


(シシリーもケンタを気遣うような感じだ)


「ケンタ様、いいのですよ断っても」

「シシリー? それじゃ私の護衛が」


「叔父様、冒険者は他にもいますわ

 ケンタ様たちでなくても良いでしょう?」


(なんなんだこいつら、わけがわかんねえぞ)


「ああ、うむ、そうだな、シシリーの言うとおりだ

 ギルドで依頼するとしよう、悪かったなケンタ」


情けない、シシリーと領主様にも気を遣わせてしまった

二人とも事情を知っているからな、すまない、、、


(何かあったのか? まだ私に言ってないことがあるのか?)


「すみません、今回はお断りさせていただきます」

「ええー、そんなあー」

「叔父様、諦めて下さい」

「シリウス、諦めろ」


(・・・・・うぜえ、気に入らねえ)


「無理を言ってすまなかったなケンタ」

「ケンタ様、すみませんでした」

「いや、俺の方こそごめん、、、」

「お兄さん、今日はもうゆっくりしましょう」

「そうでござる」


「帰るんだろ、さっさと行くぞ!」 ドスドス


なんかベンケイさんが怒ってる、どうしたんだ?

でも今はなにも考えたくない、帰ろう


俺たちは領主邸を出て宿屋へ帰る



夕食は打ち上げの予定だったが中止になった

アンナとアオイくんが俺を気遣って普通に食事した

ベンケイさんはヤケ食いっぽい食べ方をしていた


さっさと食べて一人で風呂へ行ったようだ

アンナとアオイくんは後から入る


俺は久々に風呂へ入らずベッドに潜り込む

臭くったって知るか、そんな気分じゃないんだよ






アンナとアオイが風呂へ行くとベンケイが湯船に浸かっていた


「お姉ちゃん、どうしたんですか?」

「・・・・・べっつにー」


アンナとアオイも湯船に浸かる

ベンケイは湯から出て立ち去る


「ベンケイ殿、どうしたんでしょうか」

「さあ、なにをイラついているのかさっぱりです」



風呂から部屋へ戻るアンナとアオイ

部屋に入るとベンケイが胡坐をかいて座っていた


「お前ら座れ!」

「なんなんですか?」

「いいから座れ!」


仕方がないので座る二人


「聞かせろ」

「なにをですか?」


「私に言っていないこと全部だ!」

「えっと、それはどういうことですか?」


「シシリーを囮にしてバッカーとかを捕まえたんだよな?

 私に説明したのは大まかな一部だけだろ!

 もっと詳しくなにがあったが包み隠さず全部話しやがれっ!!」


アンナとアオイは困った顔をする


「お前ら、私は仲間じゃないのかよ

 仲間だと思っているのは私の勝手な妄想か?」


「ベンケイ殿は仲間です!」

「そうですよ、お姉ちゃんは仲間です」


「だったら言えよ! コソコソ隠してんじゃねえよ馬鹿野郎!

 どうしても言わないってんなら私はパーティーを抜ける!

 信用されていないのにやってられるかっ!」


「・・・・・そうですね、ごめんなさいお姉ちゃん」

「ベンケイ殿、すまなかったでござる」



二人は覚悟を決めて話し出す

囮作戦を開始して敵の本拠地でどのようなことが起こったのか

それぞれが知っていることをベンケイに全て話した

ケンタがマーデラを、人を殺したことも伝える

そして未だにケンタの心の奥底に恐怖が巣食っていることも



「・・・・・それでケンタの様子がおかしかったんだな

 王都、護衛の二つのキーワード

 それが恐怖を呼び起こしてるってわけか」


ベンケイは少し沈黙する


「だからそっとしておいてあげてお姉ちゃん」

「そうでござる、今は見守るでござる」


「けっ!」


「けっ、て、、、」

「ベンケイ殿、、、」


ベンケイは二人を見据える


「アオイ、自分が殺せなくて代わりに殺させてしまった

 それを気に病んでんのか? 申し訳ないって思ってんのか?」


「当然です、わたしの代わりに殺させてしまったんですから」

「でもケンタ自身が代わりにやってやるって言ったんだろ?」


「ケンタ殿は優しいからそう言ってくれたんです

 その優しさに甘えて、ケンタ殿を苦しめている

 いくら謝っても謝りきれません!」


泣きそうな顔でアオイは返答する


「悲劇のヒロインぶるんじゃねえっ!」

「そ、そんなことは、、、」


「ああ、あいつは優しいよ! 馬鹿なお人好しだぜ!

 アオイ以上に私はよーく知っているっ!

 だがな、優しさだけで人を殺さねえよあいつは!

 代わりにやるってのはケンタ自身が決めたことだ!

 お前のためだけにやったんじゃねえよ!」


「でもわたしが殺せないからっ!」


「お前も含めてこの先出会う奴ら全てのために殺したんだ!

 それがあいつの優しさなんだよ!

 お前一人のためだとか自惚れんなぁっ!!」


「・・・・・・・・・・」


アオイの頬を涙が伝う


「アオイ、もう一つ間違っていることを教えてやる」

「なん、ですか、、、 グスッ」


「謝るんじゃねえよ、ありがとうって言ってやれよ

 あいつはその方が前に進める、そういう漢だ」


アオイはやっと気付いた

ごめんなさいという気持ちばかりケンタに伝えていた

あれから一度もありがとうと感謝を述べたことがないことに


「あいつはな、謝られると自分に悪いところがあると思うんだよ

 それで余計に悩んじまうんだ、だから謝るな

 ありがとうと笑顔で言ってやれ、そいつがあいつの力になる」


「、、、、、ベンケイ殿、ありがとう」


アオイは泣き笑いながらベンケイに礼を言う


「ばーか、私じゃなくてケンタに言えっての」


ニカッと笑うベンケイ


「んじゃ次はアンナ、お前だ」


「な、なんですか、私はお兄さんを苦しめていませんよ?

 むしろ慰めているというかなんというか、、、」


「アンナ、慰めるのがガイド精霊の役割か?」

「そうですよ、パートナーを助けたり慰めたり」

「お前、そんなんで本当にガイド精霊のトップかよ」


はあ、とこれ見よがしにため息をつくベンケイ


「な!? お姉ちゃん、いくらなんでも失礼ですよ!」


「ケンタが弱ってるからそっとしといてやる

 なにも言わず見守ってやる、ただそばにいてやる

 そんな程度でパートナー気取ってんじゃねえよ」


「私がパートナー失格とでも言いたいんですか?」


ベンケイを睨むアンナ、臆せず見据えるベンケイ


「そうだな、今のアンナは失格だ」

「・・・・・・・・・」

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どうしましょう…ベンケイさんが漢前すぎて惚れそうになってます。
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