77 歌わずにはいられない!
サバノミソニ山でアマ草を採取する依頼を受けた
最低1キロは採ってこないと依頼達成にならない
それ以上採れるなら採っても構わない
あればあるだけギルドも街も経済も潤うのだ
そう言われてもわけがわからないだろう
なのでアマ草について説明しておこう
この草は多種多様なものに使われる凄い草なのだ
加工して砂糖にもなり香りも良く香水や化粧品にも使われている
回復薬や万能薬の原料の一つでもある
色々なものに使われているのだからたくさん必要になる
街で大量に栽培すればいいと思うが無理なのだ
北方の山でしか育たないため採りに行かないといけない
では山の近くの村民とかに仕事として採取させればいいのでは?
じつはアマ草が生えている場所には魔物が必ず棲み付いている
だから冒険者など魔物と戦える者が行かないと駄目なのだ
さて、お金の話をしよう
報酬が1キロで10万円、超過分100グラムごとに1万円追加
別途達成報酬として10万円となっている
100グラムで1万円も貰える
ということは市場価格はもっと高いということになる
色々なものに使われているのにお高い
そもそも依頼ランクがBと高ランクである
薬草採取なんてものは通常Eランク以下の依頼だ
その理由はさっき言った魔物が関係している
その魔物は強くない、むしろ弱い、だが厄介なのだ
まず数が多い、さらに一定数倒すとボスが湧く
しかもアマ草のすぐそばにいるため戦いにくい
下手に魔法を使うとアマ草まで巻き込んでダメにしてしまう
そういうわけで入手困難なのだ
だから依頼ランクも報酬も高いのである
「諸君、わかったかな? ここは試験に出るぞ」
「お兄さん、誰に言っているんですか?」
「試験、ああっ、受験地獄のトラウマがっ!」
「落ち着けアオイ」
俺たちはオシリペンペン街から北へ馬車で向かっている
この馬車はギルドが貸し出している馬車だ
依頼ランクがB以上だと無料で貸し出してくれる
サバノミソニ山の手前に街がある
その街はオシリペンペン街から馬車で約半日のところにある
朝に出発したから夕刻ぐらいに着くのでそこで一泊して山に入る
その街の名はケンニョウ街
なぜそんな名前なのか意味がわからない
オシリペンペン街とかも大概だがな
この馬車は冒険者自身が御者をやらないといけない
しかし俺、アオイくん、ベンケイさんはできない
アンナがやってくれている
「悪いなアンナ」
「いいですよ、これもガイド精霊の務めです」
俺はアンナの隣で景色を眺めている
「そういやアマ草と言えばイベントがあったよな」
「ありましたね、懐かしいです」
ベンケイさんとアオイくんの話し声が聞こえる
ゲームでアマ草採取イベントがあった
アマ草を採取した数で競い合う単純なイベントだ
もちろんあの魔物が邪魔をする
「私ら結局魔物ごとアマ草燃やしまくってランク外だったよな」
「そうでした、でもアレはアレで楽しかったです」
ごめん、俺がファイアストームぶっ放したから
でもベンケイさんだって面倒でアマ草ごとぶった斬ってたよね
アオイくんも手裏剣でまとめて切り裂いていたし
パンティさんはハエ叩きで潰してた
今更だが俺たちなにも考えず暴れていたな
「今回は燃やさないで下さいよ?」
アンナが不安そうに言う
「わかってるよ、俺はやればデキる子だぜ?」
「できる限り善処するぜ♪」
「頑張ります、多分」
(大丈夫かな、この人たち、、、)
予定どおり夕刻ごろケンニョウ街に到着
宿屋で宿泊手続きを済ましてギルドへ行く
依頼で来ているから滞在更新はしない
「パンティって名前の冒険者が来ているか調べてくれない?」
ベンケイさんが受付で聞く
受付嬢が困惑している
それでも調べてくれた
結果、パンティさんはいなかった
不審な目で俺たちは見られた
ギルドを出て宿屋へ戻る
今日は体を休めて明日の早朝から山へ入る
「やっぱり風呂はいいねえ~♪」 ジャバジャバ
私とアオイとアンナは風呂に入っている
「お姉ちゃん、泳がないで下さい」
アンナはお姉ちゃん呼びに慣れたらしい
もう少し恥ずかしがってるの見たかったけどな
「広いし他にいないからいいじゃん」 ジャバジャバ
「呼び方、ベンケイさんに戻しますよ」
「すまん、泳がないから許してくれ」
泳ぐのをやめる
「あ、そうだ、アンナとアオイに聞きたいことがあったんだ」
「なんですか?」「なんでしょう?」
「ケンタとアンナの出会いのこと聞かせてくれ
アオイはケンタと再会したときのことを教えてくれ」
少し渋っていたが二人は答えてくれる
アンナはデリートなんちゃらから助けられたこと
それから契約して一緒に行動してきたことを語ってくれる
大まかな部分だけだが良い関係であることはわかった
アオイは最初は気付かれないようにしていたらしい
でも固有スキルを使ってバレてしまう
それから仲間に復帰して色々ケンタに助けられたようだ
こちらも大まかにしか語らない
二人とも部分的に何かを端折って話しているようだ
それが何かはわからないが無理に聞き出さない
誰でも言いたくないことはあるからな
「お姉ちゃんも私たちに会うまでどんなことをしてきたんですか?」
「そうですよ、一人ブラック企業とか言っていましたし」
「そうだな、私のことも話さないと不公平だよな」
私は転移してからこいつらに会うまでのことを大まかに話した
デリートなんちゃらから助けてヨシツネと契約したこと
様々な依頼を連日こなしまくったことなど
「お姉ちゃん、それは働き過ぎです」
「ベンケイ殿、ゲーム時代より活動的過ぎです」
「そうかなあ?」
翌朝5時、俺たちは宿屋を出て山へ向かう
麓を抜けて山に足を踏み入れる
「とりあえず三合目まで行こう」
アマ草は三合目から上にしか生えない
サバノミソニ山はさほど険しくなく傾斜が緩やかで登りやすい
さくさく進んで三合目に辿り着く
平地になっている場所があった
そこに一面のアマ草が咲き並ぶ
草なのに咲き並ぶとはおかしな表現である
だが咲き並んでいるのだ
「アオイくん、ベンケイさん、アマ草と言えば?」
「もちろん、歌っておかねばなるまい!」
「歌わずにはいられないでござる!」
アンナが何を言っているんだと言う顔をする
だが俺たちはもう止められない!
「「「さーいーたー、さーいーたー♪」」」 合唱
「チューリップのはーなーがー♪」 俺
「「「なーらんだー、なーらんだー♪」」」 合唱
「あーか、しーろ、きーいーろー♪」 ベンケイさん
「どーのーはーなーみーてーもー♪」 アオイくん
「「「きーれーいーだーにゃー♪」」」 合唱
にゃーのところでは三人ともにゃんこ手だ
(うわー、ナニこの人たち、うわー、、、)
アンナがドン引きだ
アマ草、その姿はチューリップ!
そう色とりどりのチューリップが咲き並んでいるのだ
一面のチューリップ、これを見たら歌わずにいられない!
「アンナよ、これが永遠の混沌だ」
「本当に混沌ですね」
お前もメンバーだからいずれは一緒に歌ってもらうぞ
さて、アマ草が一面に咲き並んでいるがまだ採取できない
魔物を討伐しないことには採取は不可能
だがどこを見てもアマ草しか見当たらない
魔物はどこに?
じつは魔物は目の前にいるのだ
魔物の名前はドクダミ
ドクダミ草じゃないよ? 草じゃないよ魔物だよ
そしてその姿はアマ草と同じくチューリップ!
そう、一面のアマ草に見えるがアマ草とドクダミが共生しているのだ!
どれがアマ草でどれがドクダミなのか判別がつかん
弱いが厄介なのはこういうことだ
数が多いと言うのもご理解いただけただろう
しかも一定数倒したらボスが湧いてくるし
アマ草もあるから戦いづらい
「これ、どうやって採取するんですか?」
「そうだな、作戦があるから説明するぞ」
俺たちは作戦会議をする
「では各自持ち場に分かれよう」
さあ、ドクダミ退治の時間だ
フライで俺は上空に待機
アンナはポチャを抱えて俺のそばにいる
アンナが足元に結界を展開する
ポチャを下へ向ける
「わおーーーーーんっ!」
一面のチューリップもどきに大音量で吠える
すると茎を伸ばすチューリップもどきが出てくる
それがドクダミだ
ドクダミは一定以上の音に反応して敵と認識する
そしていったん茎が伸びると戻らない
これでアマ草とドクダミを見分けることができる
茎を伸ばすと同時に攻撃もしてくる
伸びきった瞬間に毒針を飛ばしてくる
今まさにこの結界にガシガシぶつかっている
この毒針は太く長い、ぶっちゃけ千枚通しだ
毒付きの千枚通しが大量に結界にぶつかっている
結界で防げているがちょっと恐い
次の毒針は10分後でないと生成されない
なので一回凌いだら倒し放題だ
結界を解除、アンナがエアニードルでドクダミを次々と潰していく
俺もエアニードル、空気の針で潰していく
一面あったチューリップもどきの半分が消滅した
アマ草とドクダミが半々あったということだ
一定数倒すとボスが湧く
かなりの数のドクダミを退治したからボスが一体と言うことはない
五体現れた、ドクダミの上位個体
その名もドクダミチャン!
どくだみ茶ではない、ドクダミチャンだ
お茶ではなくて魔物である
その姿は体長5メートルの巨大チューリップ
本来、葉っぱのところが蔦になっている
さらに蔦の先に巨大千枚通しが付いている
≪キエエエェェッッッ!≫
叫ぶドクダミチャン、そう、こいつは叫ぶのだ
この叫びは魔封じの音波結界になっている
一回叫ぶと一分間は魔法が効かない
しかも一分ごとに叫ぶから永久に魔法が効かない
だが大した問題ではない
魔法が効かないなら物理で殴ればいいじゃない!
防御力が紙だから




