76 薬草採取依頼
「黙っててごめんなさい」
「ベルさんは悪くありません、悪いのはお姉ちゃんです!」
「そうです、ベンケイ殿が悪いのです!」
「事実だけどそんなに言わないでくれよー」
「ベンケイさん、ベルさんにきちんと謝罪しなよ」
「ケンタまで! 私の味方がいない!」
ベンケイさんはベルさんに頭を下げて謝罪する
「ベル、色々とすまなかった」
「ふぅ、もういいですよ」
ベルさんはベンケイさんを許してくれた
話が終わり俺たちは受付に移動する
ベンケイさんをメンバー登録だ
登録用紙にサクサクと書いていくベンケイさん
「ほい、書いたよ」
俺は提出前に確認する
「えっ?」
「ケンタ殿、どうしました?」
「ベンケイさん、Aランクなの?」
「そだよー」
俺たちはCランク
同時に転移しているのに差がついている
「片っ端からいろんな依頼をやりまくったしな
一人ブラック企業だぜ♪」
俺たちたまにダラダラしていたから差が出たんだな
でもブラックは駄目でしょ
「俺たちはホワイトなパーティーでやるつもりなんだけど」
「いいよそれで、一人だったからやってただけだし
仲間と一緒なら楽しくやっていきたいからな♪」
こういうところがベンケイさんなんだよな
ゲームでもソロプレイのときは無茶なことしてたなあ
俺たちと一緒のときは合わせてくれてたし
用紙を提出して処理が完了する
これでベンケイさんも仲間入りだ
「あとはパンティだけだな」
「パンティさんが見つけにくいんだよなあ」
「パンティ殿は一ヶ所に留まっているかも知れないんです」
俺たちはもう名前を恥ずかしがらない
でも本人は隠して真名か偽名で活動している可能性が高い
アンナやアオイくんの言うように移動していないだろう
「この街には来ていないようですから他の場所ですね」
「ならさっさと他の場所へ行こうぜ」
ベンケイさんはアクティブだ
ここにいないならさっさと他へ行くという考えだ
「そうだな、じゃ明後日出発しようか」
「今からでもいいぞ?」
「お姉ちゃん、少しは計画的に動きましょうよ」
「私、計画性あるよ?」
どこが? という顔をする俺たち
「酷いなお前ら!」
俺たちはギルドから出る
「ベンケイさんはどこの宿屋なんだ?」
「今朝引き払ったよ、今日からケンタたちと同じ宿屋に泊まるから」
俺たちの泊まっている宿屋に着いた
ベンケイさんは宿泊手続きをする
そのまま食堂で夕食にする
「明後日出発なのはいいけど明日は何するんだ?」
「必要な物の買い出しとか、あとは各自の自由かな」
「お兄さん、肝心なことを決めていませんよ」
「なんだ?」
「どこへ向かうんですか」
「あ、決めていなかった」
「わはは、さすがケンタだ♪」
ベンケイさんが仲間になって浮かれていたからな
「そうだな、ついでだから依頼を受けよう
近場じゃなくて遠出になるやつ」
「そうですね、それだと他の街とかにも行けますし
パンティさんがそこにいるかも知れませんから
パンティさん探しと依頼を同時にできますね」
「ここ以外の街にも行ったんだよな」
「行ったよ」
「各街のギルドで滞在確認はしたのか?」
「「「・・・・・・・」」」
「してないんだな」
「そのやり方を知ったのはこの街に来てからだから」
「私はお前らがいるかもと寄った街のギルドで必ず確認していたぞ」
(まあ私は忘れててヨシツネがその都度言ってくれたからだけど)
「と言うことはここに来るまではパンティさんいなかったんだね」
「ああ、だけど行き違いもあるかも知れない
だから立ち寄るたびに聞こうと思っている」
「そうだな、今後は必ず訊ねることにしよう」
明日の予定は買い出しと遠出の依頼を受けることに決まった
パンティさん探しは本当に雲を掴むような難易度だ
「ところでケンタ」
「なに?」
「ベンケイさんと呼ぶのは呼びなれているからだろうけど
シズカさんって呼んでいたのは違和感があったぞ」
「どうして?」
「私、ケンタよりかなり年下だろ?
なのになんでさん付けしてるんだろって思ってた」
「そうだけど、なんとなくさん付けしてた」
「変なの」
「ほっとけ」
多分、ベンケイさんだと無意識に感じていたのかも知れない
「それよりシズカって偽名?」
「うんにゃ、真名だよ、私のリアルネームは小林静ってんだ
そうだ、ケンタとアオイもリアルネーム教えろよ」
「俺は佐藤健太だ」
「うっわ、ふつうー」
「ほっとけ!」
「あはは、私の小林静も普通だけどな♪」
「アオイは?」
「田中葵です」
「なんだよ、全員普通じゃん」
「ついでだから年齢も言えよ、アオイはいいよ知ってるから」
アオイくんは最初から実年齢を俺たちにバラしていたから知っている
出会ったときは7歳だった、今は18歳だ
「私は20歳だ、女子大生だぜ♪」
「え? マジで?」
「それはどういう意味だ」
「アオイくんと同じぐらいかと」
「だから見た目で判断すんじゃねーよケンタ」
「ごめん」
ちなみにベンケイさんの背丈はアオイくんより低くアンナより高い
「ケンタは何歳なんだよ」
「俺は30歳だ」
「キャラは20歳の好青年だったよな」
「そうだよ、中身はご覧のとおりおっさんだよ!」
わかってるよ! サイショノ村で痛い目見てるから!
「いやそういう意味じゃなくてだな
今の方が親しみがあって嫌いじゃないぜって言いたかったんだ」
「お兄さんは卑屈ですからね」
「悪かったな卑屈で」
「アオイもケンタがおっさんだからって嫌ってないだろ」
「もちろんです」
「アオイくんは優しいからな」
「そ、そんなことは、、、」
それから食事も終えて風呂に入り各自部屋でくつろぐ
アオイくん、ベンケイさんと仲間が集まった
残るはパンティさんだけだ
絶対に探し出してまたみんなで冒険するんだ
ゲームのときと色々違うけど絆は失われていないと思っている
アオイくんは俺とベンケイさんを変わらず慕ってくれている
ベンケイさんは姿は違うがキャラと変わらぬ性格だ
きっとパンティさんだって俺たちを待ってくれているはず
俺は頑張ろうと決意して眠りについた
朝食後、すぐにギルドへ向かう
俺たちはCランクパーティー
B、C、Dランクの依頼を受けることができる
「ケンタ殿、討伐依頼で流して行きませんか」
「パンティさん探しもあるから討伐ばかりは駄目だよ」
討伐大好きっ子め
「お兄さん、南方の街が良さ気ですよ」
「どんなところが?」
「お肉の料理が美味しいんだってー♪」
「こらポチャ、バラしちゃダメって!」
「お前ら、食い意地張り過ぎ」
「お前じゃなくてアンナですよ?」
アンナが小首を傾げながら言う
「可愛く言っても却下だ」
「「ケチ」」
誰がケチだコラ!
アンナが最近ポチャのように食いしん坊になっている
「ケンタ、王都南東の廃村にコムソウが湧いてるぞ
面白そうだから行こうぜ♪」
「もう一人討伐好きがいた!」
「コムソウ!? わたしも行きたいです!」
「アオイくん、ベンケイさん、趣味だけで選ばないでね」
サスケがこっちを見ている
まさかサスケも変な依頼を?
「ケンタさん、この薬草採取は如何でしょう」
「薬草採取?」
依頼書を見せてもらう
[ 薬草採取依頼 ]
依頼ランク B
場所 サバノミソニ山
内容 アマ草を1キロ以上採取
報酬 1キロで10万円、超過分100グラムごとに1万円追加
別途達成報酬として10万円
なかなか悪くない依頼だ
やるじゃないかサスケ
「サスケ、討伐依頼選んでよ」
「主、わがままを言わないで下さい」
サスケも大変だな
そう言えば
「ベンケイさん」
「なに?」
「ベンケイさんのガイド精霊、紹介してよ」
「そういやしてなかったね」
酷いな、可哀想じゃないか
「ヨシツネ、出て来ていいよ」
「いいんですか?」
「みんなに紹介しとかないと」
「わかりました」
ベンケイさんの肩に小さい狐が座っていた
「姿を消してるけどいつも肩に乗ってるんだよ」
「初めまして、ヨシツネと申します」
「ケンタです、よろしく」
「アンナです、よろしくお願いします」
「アオイです、よろしくです」
「ポチャだよー♪」
「サスケです」
「ベンケイだ♪」
「姫は必要ないでしょう?」
「ノリだよ」
姫? ベンケイさんのことか?
「ベンケイさん、姫って呼ばれているの?」
「なぜかそう呼ばれている」
「呼び方はアンケートから判断しています
お姉ちゃん、それっぽい回答をしたんでしょうね」
「うーん、記憶にないんだよなあ」
「姫ってなんかいいなあ」
チラリとサスケを見るアオイくん
「今更変更はできません」
きっぱり断られる
「ともかく、この薬草採取に決定だ」
「しょうがないな、リーダーはケンタだから」
依頼書を持って受付へ向かった
メンバーが増えたので全員で行くと受付の邪魔になる
リーダーの俺が代表で受付に行く
「ベルさん、この依頼受けるんでよろしく」
「はい、薬草採取ですね」
ベルさんがてきぱき作業する
もう元気になったようだ
「元気そうですね」
「やっと通常業務に戻れましたからね」
うん、祭りでお疲れだもんね
「その節は本当にすみません」
「なんでケンタさんが謝るんですか?」
「だってベンケイさんは俺の仲間だから」
仲間が迷惑をかけたから申し訳ないのですよ
「でもわたしも黙っていてごめんなさいね」
「それはベンケイさんに口止めされてたからでしょ」
「それでも真剣に探していたのを知っていますから」
「うん、ありがとう」
優しいなベルさん
「じゃもうこの件はお終いということで」
「そうですね、お終いということで」
優しく微笑むベルさん
「はい、依頼受理完了しました
こちらが必要な情報書類になります」
書類を受け取り立ち去ろうとしたら
「ケンタさん、先日の件なんですが」
「先日の件?」
「ほら、奢ってって言ったことです」
「ああ、街にいる間ならいつでもいいですよ」
「ありがとうございます、でも奢らなくていいです」
「どうしたの?」
「やっぱり黙っていたことは悪かったのでケジメです」
「お互い様だからいいのに」
「でしたら普通に割り勘で一緒に食事に行きませんか?」
「そうだね、そうしようか」
「はい、楽しみにしています♪
ケンタさんの都合に合わせるので誘って下さいね♪」
「ああ、依頼のないときにでも誘うね」
「はい♪」
次回、歌わずにいられない!




