70 シズカ対ストック
ストックとシズカの戦いが始まった
間合いを詰めて地をしっかり踏みしめるストック
腰の入った右ストレートを放つ
ドゴン!
シズカは頭を前に出し額で受ける
さすがに軽くよろける
「さすがに効くね、いいパンチ持ってんじゃん、いてて」
「おいおい、まさかそんな受け方するとは思わなかった」
普通は躱すか捌くところである
「避けると蹴り、捌くと掴まれて投げられそうだったからな」
「ほう、見抜かれていたか、すごいな」
「それじゃ次は私だ!」
右フックで頭部左側を狙うシズカ
身体を反転させて腕を掴みにいくストック
すかさず右腕を下げ右足蹴りに切り替える
勢いはそのままなので威力は落ちない
ドズン!
ストックの腹部を蹴り抜く
「ぬうっ!」
「うわ、動きゃしねぇ!?」
反撃を見越してすぐに距離を取ったシズカ
蹴られても倒れずどっしりとその場で踏ん張るストック
「結構いい感じで入ったと思ったんだけどね」
「効いてるよ、だが俺はタフさが自慢でね」
二人はニヤリと笑い合う
「ストック、小技の応酬なんてやめようぜ
せっかくのステゴロだ、勿体無いだろ?」
「どういうことだ?」
「ここから先は殴り合いで闘ろうじゃないか♪」
「ほう、殴り合いか」
わけのわからない提案をするシズカ
だがストックは興味を持つ
「お互い順番に一発ずつ上半身を殴る
先に膝を突いたり倒れた方が敗けだ
わかりやすくていいだろ?」
「なるほど、わかりやすい」
「どうだ、受けるか?」
「受けよう」
二人とも脳筋だった
観戦者たちは戦いが止まっていることに不思議がる
二人の会話は離れているから聞こえていない
だが審判のベルは近くにいるので聞こえていた
(この人たち、何言ってるの?)
「ではどちらが先攻だ?」
「ストックからでいいよ」
「いいのか?」
「さっき私が攻撃した後だからね」
「なるほど、では遠慮なく先手をいただこう」
「よし、それじゃあバトル再開だ!」
(本当に殴り合うつもりなの? この人たちバカなの?)
近い距離で向かい合う二人
観戦者たちがザワつく
ストックが右ストレートでシズカの左肩を撃ち抜く
ゴスッ!
しっかりと踏ん張り耐えるシズカ
わずかに身体がグラつくが立っている
「驚いた、避けるか捌くかすると思っていたのだが」
「は? 殴り合いだよ? 避けてどうする、捌いてどうする!
殴り殴られが殴り合いだろ? 私は全部受け切るぜ!
あ、でもストックが避けても文句は言わないよ
私のこだわりなだけだからさ、好きにしな」
(まあ、私の拳は避けられないだろうけど)
「わかった、それなら俺も全部受け切ろう
俺のタフさを見せつけてやろう」
「いいね、そうこなくっちゃ♪」
(駄目だわ、このバカ二人)
「次は私の番だね」(ボソボソ)
同じく右ストレートで顔面を撃つ
ボゴッ!
顔面ど真ん中にヒット、だがストックは微動だにしない
「なるほど、頑丈だね、ちょっと手が痛いよ」
「いやそっちこそいいパンチだ、クラクラしてる」
二人は再びニヤリと笑い合う
(わたしは何を見せられているのかしら)
続いてストックが左ストレートでシズカの右肩を撃ち抜く
シズカが左ストレートでストックの顔面を撃つ
ストックがシズカの左肩を撃ち抜く
「ちょっと待てストック!」
「なんだ?」
「あんた、私を馬鹿にしてるのか?」
「いや、してないぞ?」
「してるだろ! 肩しか殴ってないじゃないか!
急所のある胴体や頭を狙わないって馬鹿にしてる証拠だ!
もしかして私が女だからってなめてんのか?」
ストックを睨みつけるシズカ
「それは違う、いや違わない部分もあるか」
「はあ? ふざけんなよ!」
「待ってくれ、これは俺が悪かった、すまなかった
だが理由ぐらい聞いてくれないか?」
「理由? いいぜ、その理由がつまんなかったら殺すぞ」
怒り心頭のシズカ
「恥ずかしいから耳を貸してくれ」
「内緒話かよ、漢らしくねえなあ」
「頼む、こればっかりは大きい声では言えないんだ」
ストックが心底困った顔で頼む
仕方がないので耳を貸すシズカ
ストックとシズカはコソコソ話す
「女だからと侮っているわけでも馬鹿にしているわけでもない
それでも女性であることには変わりないだろ?」
「そりゃそうだけどさ、じゃなんで肩ばっかりなんだよ
もしかして腕が上がらないようにするためとかか?
でもそんなの時間が掛かってそっちが不利になるだろ」
「やっぱり女性の顔を殴るのは気が引けるし
その、なんだ、鳩尾は、狙えないし」
「顔は遠慮すんなよ、というか急所の鳩尾狙いはやれよ」
「だって、鳩尾って、む、胸のところだし、、、」
ストックは女性の顔を殴りたくない、傷物にしたくない
回復薬や治癒魔法があるが傷を付けたと言う事実が許せないのだ
ましてや女性の胸に触れるなんてできるわけがない
故に鳩尾などの急所が封じられてしまう
だから肩ばっかり殴っていたのだ
「・・・・・・・・・・・・・」
そしてシズカが大爆笑!
「ぶはっ! あはははは♪」
「わ、笑うなよっ!」
「いや、すまん、でも、ぶっ、うはは♪」
恥ずかしそうに困惑するストック
腹を抱えて笑うシズカ
「おっと危ない、気が緩んで膝が落ちそうになった
こんな笑い敗け一生の恥だぜ♪ ぷぷっ♪」
「笑い過ぎだ!」
「すまんすまん♪」
「それで俺の殴り方に文句はないよな?」
「ああ、わかったよ、でも頬と額と脳天なら殴れるだろ?」
「ギリギリ脳天と額はたしかにそうだが頬は駄目だろ」
「だったらこめかみを狙えよ」
「、、、わかった」
「あと腹は殴れるだろ」
「女性のお腹は色々と問題あるだろ」
「お前はむっつりスケベか!」
「し、失敬な!」 真っ赤
「だったら腹もアリにしろ!
でないとむっつりスケベって言いふらすぞ!」
「おま、なんちゅうことを!」
「私は男とか女とか関係なくストックと闘いたいんだよ
ストックは私を侮っていないんだろ?」
少し考えてストックは自分の迷いを恥じて思い直す
「なるほど、たしかにそうだな」
「じゃ続けようか」
「ああ、やろう」
殴り合いが再開される
シズカの右拳がストックの鳩尾に撃ち込まれる
「ぬぐっ!」
微動だにしていなかった身体が少しだけグラつく
耐えてストックはシズカの腹部を撃ち抜く
踏ん張るが少しだけ後退するシズカ
「くぅっ、いってぇ~」
すぐに間合いを戻してストックの顎を下から撃ち抜く
巨体がほんの少しだけ浮くが倒れない
「まだまだ、倒れんよ」
ストックはシズカの脳天を打ち下ろしで殴る
さすがに膝が曲がりかけるが耐えるシズカ
「くはぁっ、やばかった!」
やばいと言う割に楽しそうなシズカ
ニヤつきながら右フックで左頬を撃ち抜く
首が右へ飛ばされるストック
「首がもげそうだ」
「もげてないじゃん♪」
同じく右フックでシズカの左こめかみを撃ち抜くストック
シズカの首も右へ飛ばされる
「うん、もげるなこれは」
「もげてないぞ?」
(本当にわたしは何を見せられているの?)
今度は左フックでストックの右頬を撃ち抜くシズカ
お返しの左フックで右こめかみを撃ち抜くストック
初手に戻って顔面を撃ち抜くシズカ
もう一度脳天を打ち下ろすストック
シズカも再び鳩尾を正拳突き
「うわ、クラクラするぅ、、、」
「俺もだ、予想以上にシズカの拳は重いな
タフさ、頑丈さは自慢だったんだがな」
ストックの基礎身体能力は鍛えているので頑丈でタフである
さらに固有スキルによって一部の能力値が上昇していた
ストックの固有スキル<タフマン>
生命力、体力、物理防御力が100倍になる
戦闘が始まり物理攻撃を一回受けると発動する
そんなストックの体力を大量にシズカは削っていた
(一撃ごとに威力が上がっている気がする)
攻撃を受け続けているからこそストックは気付く
(シズカの固有スキルだろう、だがお互い様だ)
ストックはさらにシズカの脳天を打ち下ろす
これが一番効いていそうだったので狙いを絞った
耐えた、だがかなり足に来ているシズカ
「こ、こなくそぉっ!」
ストックの顎を下から撃ち抜くシズカ
二度目のアッパーである
これが一番効いているようなので狙いを絞る
さっきよりも大きく巨体が浮いた
バランスを崩すが踏ん張り膝が落ちるのを耐える
脳を揺さぶられているため少しフラフラしている
(これはちょっと、いやかなりやばいな)
本能でストックの身体に警鐘が鳴る
(卑怯かも知れん、大人気ないかも知れん)
次の一撃に全てを賭けようと決意する
(だが使うのは己の拳と身体のみ!)
ストックは跳び上がる
普通に打ち下ろすのではない
高い所からの脳天打ち下ろし
ズガゴンッ!
「ぐあっ!!」
シズカの脳天に巨体の体重が乗った拳が打ち下ろされる
耐える、だが足が震える、膝が曲がり始める
「うぅ、おぅらあぁっっ!!」
気合を入れて留まる、耐え切るシズカ
ストックもなんとか着地して震える足と身体で踏ん張る
「くっ、まだ耐えるかっ!」
シズカの口の端から少しだけ血が流れる
軽く拭って攻撃態勢に入る
「ぜんりょくぅっ、あっぱぁーーーっ!」
腰をグッと落としてストックの顎を目掛けて撃ち込む
思いっ切り、まさに全力のアッパーがクリーンヒットする
撃ち込んで着地するときバランスが崩れる
だが耐える、必死で踏ん張るシズカ
ストックの巨体が今日一番高く浮いた
着地する、踏ん張ろうと気合いを入れる
ドスン!
だが脳を揺らされ過ぎてバランスを完全に失っていた
威力が徐々に上がるアッパーを三度も喰らったのだ
平衡感覚が狂わないわけがない
そして足も震える状態での着地
ストックは仰向けに倒れていた
「シ、シズカさんの、勝利です!」
ベルがシズカの勝利を宣告する
「やったぜ♪」 バタン
右手を掲げてそのまま倒れ込むシズカ
シズカとストックは医務室へ運ばれた
観戦者たちは最初こそ殴り合いに戸惑っていたが次第に盛り上がる
二人が倒れたあとには歓声と拍手の嵐が沸いた
残念ながら気を失っていた二人には聞こえていなかったが
次回、ベルさんは苦労人




