67 喧嘩上等!
「ベルさん、さっきぶり」
「ケンタさん、今日はゆっくりするんじゃなかったの?
てっきり明日の昼に来るものだと思っていました」
「あんな風に意味深に言われたら気になるだろ
それに模擬戦祭りのことも聞いたよ
だったら来るしかないじゃないか」
「そうですよね、ごめんなさい、、、」
シュンとするベルさん
なんか責めてるみたいで落ち着かない
「ゆっくり観戦させてもらうよ
ところでいつ頃始まるの?」
「シズカさんと言う冒険者が来てからです」
「それじゃあ適当に端っこで待っておくよ」
俺たちは依頼板の近くで待つことにした
「やっぱりベルさんを詰問しましょう」
「アンナ、それはやめとけ」
「何故です? お兄さんだって気になるでしょ」
「そうだけどさ、何か事情があって話せないのかも知れない
そんな気がするから、そっとしておこうぜ」
「・・・・・わかりました」
アンナは俺のことを思って言ってくれている
ありがたいけど、ベルさんを責めるようなことはしたくない
「ケンタさん、もう来てたのか」
「ヒマだからね」
ストックさんが来た
「まだシズカさんは来ていないようだな」
「そういやそのシズカさんって見た目とかどんな感じの人なの?」
「それは見てのお楽しみだよ」
「そうなんだけどさ」
「まあ見た目だけだと強いとは思えない人だな」
アンナみたいな感じか
一人の冒険者が入ってきた
瞬間、空気が変わった
模擬戦祭りを楽しみにしている冒険者たちがざわつく
「待たせたな、今日も元気に闘おうぜ!」
その一言でギルド内が沸き立つ
「あ、でも先に依頼達成報告するからもう少しだけ待っててくれ
換金しないとメシ食えないからさ♪」
笑いが起こる
特に笑えるようなことではないが場の雰囲気だろう
彼女が場を支配している
それだけ模擬戦祭りが盛り上がっているということだ
そんなことより俺は彼女を一度見かけたことがある
ゆるふわ金髪ツインテのギャル
着ているのは薄い黄色の生地で紅い牡丹の花柄のミニ着物
足には茶色いショートブーツで装備は薙刀
そう、王都へ行く道中ですれ違った馬車の上に座っていた女子だ
インパクトがあったので覚えている、忘れるわけがない
この子は街に向かっていたから到着が6日前なら計算が合う
まさかこの子が模擬戦祭りの主催者だったとは
「たしかに見た目では強さがわからない人ですね」
アンナよお前が言うな、同類だぞ
「そうだな、でもまさか彼女だったとは思わなかった」
「え、知っている人なんですか?」
「ほら、王都へ行く途中で見かけた女子の話をしただろう」
「ええと、ああ、馬車の上にいた人のことですね」
「あの子がそうだよ」
「そうなんですね、なるほどこの世界では強いはずです」
「この世界では?」
「あの人、プレイヤーです」
「えっ!? そうなのか?」
「はい、姿は見えませんがガイド精霊も近くにいます」
あのとき俺に手を振ったのってプレイヤーだとわかってたからなのかも
ガイド精霊がいるなら伝えているだろうし
「そうなるとベンケイさんの可能性が高まりましたね」
アンナはシズカさんのことをベンケイさんだと疑っている
でも俺は・・・・・
「俺は違うと思う」
「どうしてですか?」
「だって漢気溢れるベンケイさんの正体がギャルなんてありえない!
ないわー、絶対にないわー」
「なんでそう思うんですか?」
「イケおじかイケメンかストックさんのような人のはずだ
仮に女子だとしてもギャルだけはありえない
ギャルが漢気あるわけないじゃん!」 ※個人の意見です
「すごい偏見ですね」
「漢気とギャルが合致するところなんてないだろう?」
「そうかも知れませんけど」
シズカさん=ベンケイさん説全否定に少し呆れるアンナ
俺的にありえないものはありえないんだよ!
シズカさんはベルさんとなにやら話していた
ベルさんが困ったり怒ったりしている
シズカさんは笑いながら流している
ベルさんが俺の視線に気付いて睨む
なんで俺が睨まれなきゃならんのさ
シズカさんもこっちを見る
あのときのようにニカッと笑って軽く手を振る
そしてまたベルさんの方を向く
本当にギャルと言うのはよくわからん生き物だ
うん、やっぱりベンケイさんではないな
シズカさんが訓練場へ移動する
模擬戦祭りを楽しみにしている冒険者たちも移動する
俺たちも訓練場へ向かう
シズカさんは訓練場の出入り口横に看板を取り出して置く
「あれは模擬戦祭りの看板だ」
そんなものまで用意しているのか、でもアレ
「看板に書かれているのって間違ってないか?」
「あれでいいんだそうだ」
「これ模擬戦祭りだよね、模擬戦祭りって書いてないぞ」
「冒険者やギルドが模擬戦祭りと言っているだけで
あれがシズカさんの祭りの正式名称なのだそうだ」
「『喧嘩上等!』が正式名称なのかよ」
看板には「喧嘩上等!」と書かれていた、でっかく筆文字で
ただのギャルじゃなくてヤンキーギャルだったのか
「ようし、それじゃあ今日も始めるぜ!
喧嘩上等っ! かかってこいやーっ!」
どこのプロレスラーだ
でもギャラリーは大歓声を上げる
「挑戦したい奴、訓練場の中央まで来い!
いつもどおり早い者勝ちだ!」
自分が選ばないんだな
挑戦者を選べば自分が勝てそうな相手を選んだと言われる
でも選ばず誰の挑戦でも受けているということだ
それなのに全勝しているから強いというのは納得できる
「挑戦者が殺到するかと思ったけどあまり出て来ないね」
「初日はそうだったよ、でも段々と減っていった
色んなタイプの相手に勝ち続けているからね
諦めて観戦側に回る奴が増えていった」
さすがにわざわざ負けにいこうとはしないか
それよりもバトル観戦を楽しもうと言うことだな
先着したのが4人組、6人組、3人組の3パーティー
その後ろには出遅れたことに残念がっている有象無象
「よし、今日の挑戦者は決まったな」
いよいよ始まる、どれほどの強さか見せてもらおう
って、何だあいつら?
ゾロゾロと20人の如何にもガラの悪そうなのがやって来た
「おい、なに割り込んでんだよ!」
「うるせえっ!」 バキッ!
一組目の男がロン毛の男に殴り飛ばされる
「おいお前、楽しい祭りにケチ付けるんじゃねえよ」
シズカさんがロン毛を睨みつける
「俺たちが最初の相手だ、構わねえだろ?」
ニヤニヤしながらロン毛が言う
「お前、この祭りのルールわかってないのか?
先着順なんだから明日頑張って早く来いよ」
「知るかよ、なにが先着順だ、誰の挑戦でも受けるんだろ?
だったら俺たちからやってもいいじゃねえか」
ウザいなコイツ、でも手は出さない
シズカさんがまったく動じていない怯んでいない
ギャルでも肝が据わっているのがわかる
様子を見よう
「ていうかお前誰?」
「おいコラ! 2日目に戦っただろうが!」
「それこそおいコラだぞ? 戦う権利は一回だけだ
お前私に敗けたんだろ? だったらもう挑戦権はないぞ」
「たしかに敗けたから俺にはないな」
「わかってるんならさっさと出てけ」
「俺にはないがコイツがリーダーだから挑戦権はあるぞ?」
「おう、俺がこのパーティーのリーダーだ」
モヒカン刈りの男が前に出る
「たまたまお前に敗けたコイツがメンバー入りしているだけだ
俺のパーティーで挑戦するんだから問題ないだろ
俺はまだ戦っていないから挑戦権あるしな」
ヘラヘラしながら屁理屈をこねるモヒカン
「挑戦権があっても先着順のルールは守れ」
「何だあ? 勝てそうにないからルールを盾にしてるんじゃねえのかあ?」
モヒカンの仲間たちが笑う
「安い挑発だな」
シズカさんは至って冷静のようだ
「よし、条件付きでやってやる」
「条件だあ? ハンデを寄越せってかあ?」
モヒカンたちはニヤニヤヘラヘラ笑う
「ハンデ? そんなものはいらない
お前らが敗けたら今後一切お前らの挑戦は受け付けない
今回のように他のパーティーで来ても却下する」
「はあ? まあいいぜ、勝つのは俺たちだからな♪」
「言っておくが敗けた後に挑戦して来たらどうなっても知らないからな」
「どうなるんだよ」
「冒険者として活動できなくしてやる」
モヒカンたちが笑うのを一瞬止める
しかしすぐに大爆笑
「何かと思えば、そんなことできるわけねえだろ、バカかお前
うひゃひゃ、笑わすんじゃねえよ」
「そう思うなら思っておけばいい」
「はん、だったら俺たちが勝ったらお前俺たちの奴隷になれよ」
見事なまでのザコクズっぷりだなモヒカン
さすがにその条件は呑まないだろう
「いいぜ、お前らに敗ける程度ならどの道終わりだからな」
なんでそんなの呑むかな?
敗けなしで来てるからってそれは無謀だろ
仕方がない、危なくなったら割り込むか
「ようし、これで決まりだな♪」
シズカさんがさっき殴られた一組目の男に回復薬を渡す
「悪いな、こいつら倒したら相手するから待っててくれるか?」
「いいんですか?」
「本当ならあんたたちが最初の挑戦者なんだから当たり前だよ」
「ありがとう」
「俺たちに敗けるんだから出番はねえよ、帰れ帰れ」
「気にするな、私はあんたたちと必ず戦うから観戦しててくれ」
「「「「は、はい」」」」
一組目の4人パーティーは観戦に回る
二組目と三組目も観戦に回った
シズカさんは三組目まで戦うことを約束した
モヒカンたちに絶対敗けないと言う自信があるのだ
大丈夫かな、自信過剰だったらと思うと心配だ
「おい審判! 早く開始の合図してくれよ!」
モヒカンが開始の合図を急かす
「はいはい、、、」(うるさいなあ)
「ベルさんがやるのかよ」
「ああ、ベルさんが審判だ」
イヤイヤやっているなベルさん
まあイヤだろうな、心中お察しいたします
「シズカさん、準備は?」
「いつでもいいよ」
小さくため息をつくベルさん
「では、始めて下さい!」
モヒカンパーティーとシズカさんの戦いが始まる
やっと次回からバトルです
まずは 金髪ツインテ vs モヒカンと世紀末な仲間たち
ゆあーしょーっく!




