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愚者の楽園に転移したけどまったく問題ない  作者: 長城万里
2 永遠の混沌

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64 乙女の涙、少女の祈り 7

もう少し遅れていたらシシリーが殺されていた

間に合ってよかった


「待たせたなシシリー」


シシリーは横たわったままこっちを見る


「本当に待ちくたびれましたわケンタ様」


あちこち痣だらけになっている

顔にも殴られた跡があった

口のまわりに血の跡もある


「・・・・・ごめん、遅過ぎだよな」


ボロボロだ、でもこれだけやられていても目が強く輝いている

出会ったときも思ったが本当に心が強い子だ


「これでも飲んで待っててくれ」

「ありがたくいただきますわ」


シシリーに回復薬を渡す


「ポチャ、シシリーに付いてやってくれ」

「うん」


俺は倒れているバカのところへ行く


「うう、、、 くそ、、、」

「よお、バカ伯爵」

「貴様、、、 んおっ!?」


胸ぐら掴んで立たせる


「とりあえず百発な?」

「は?」


言葉どおり百発分、殴りまくる

倒れては立たせてひたすら殴り続ける

無言でサンドバッカー伯爵を殴り続けた


「らすとおっ!」


ボゴォッ!


すでに意識を失って汚い悲鳴も出せないバカはそのまま倒れる

きっちり百発殴ったのでもう立たせない


殴り過ぎて手がいてーや

俺も回復薬飲んどこう


「死んでないですよねソレ」

「殺さないように殴ったから多分生きている」


ちょっと自信ない、怒りに任せてやったからな


「それよりシシリーは回復できたか?」

「おかげさまで」


痣も消えている、顔の殴られた跡もない

まったくあのバカはどこまでクズなんだか


男爵様たちと合流する

バッカー伯爵、チンピラたち、騎士たちを護送していく


騎士がいるから騎士団から増援が来ていた

仲間が悪事に加担していたからやりにくいだろう

それでもしっかり検挙していく


後は男爵様たちの仕事だから俺たちは屋敷へ帰る



帰ったらパトさんがフレンダ家の主治医を呼んでくれた

回復薬で治ってはいるが一応検査してくれる

みんな大丈夫だったので一安心だ


風呂に入り汚れを落とす

風呂に浸かりながら明日のことを考える


明日は街へ帰るためここを出発する

シシリーを無事に領主邸まで送り届けるまでが護衛の仕事だ


「今日は長い一日だったなあ」


俺は湯に顔を浸ける   ブクブクブク・・・・・・・



風呂が済んだら夕食タイム


男爵様は後処理で今日は帰って来れないそうだ

お仕事お疲れさまです


会話は特にせずみんな黙々と食べる

今日一日色々あったからな、疲れているのだろう


リディアは好きだった先生がアレだったし

シシリーはボロボロにされたし

アオイくんは死にかけたし

アンナには心配かけたし

ポチャとサスケも頑張ってくれたし

俺は、、、 特にないな、、、、、


食事が終わり部屋に戻る


明日は街へ向かって出発する

早く寝て身体を休めておくべきだろう

でももう少しだけ起きておく


「お兄さんどこいくのー?」

「ちょっと散歩してくる」

「僕もいくー♪」

「ごめんポチャ、一人で行きたいんだ」

「・・・・・うん、わかったー」


聞き分けいいな?


俺は中庭まで散歩に行く














「リディア、その、上手く言えませんが元気を出して下さいね」

「シシリー、どうしたの? 私は元気ですよ」

「ごめんなさいリディアさん、シシリーさんに先生のことを、、、」


アンナはシシリーにイストのことを伝えていた

シシリーはリディアを慰めてあげたかった


「私がシシリーの親友ですから伝えて下さったのです

 アンナさんを怒らないであげて下さいね」


「ふふ、怒りませんよ、気を遣わせてしまいましたね

 たしかに先生のことは辛かったです、悲しかったです

 でも、私の見る目がなかっただけなのですから

 大丈夫ですよ、私はもう同じ間違いは致しません

 それよりアオイさんは大丈夫ですか?」


「へ? わたしも、大丈夫、ですよ、、、」


あまり大丈夫ではなさそうだ


「そうですわね、死にかけたと聞いています」


「あはは、、、 たしかにまだ身体が震えたりします

 でも、大丈夫です、すぐになくなりますから

 と言うかシシリーちゃんだって殺されかけたのに」


「私は必ず助けが来ると信じていましたから平気ですよ」

「でも無理はしないで下さいね」

「ありがとうアンナさん、無理は致しませんわ」


アンナは小さくため息をつく


「アンナさん? あなたこそ大丈夫ですの?」


「あ、別に私は大丈夫ですよ

 私今日は全然戦ったりしていませんから

 回復とか補助ばかりでしたから

 あ、ちょっとお手洗いに行ってきますね」


いそいそと部屋から出ていくアンナ


「本当に大丈夫なのかしら?」














俺は中庭へ向かう前に手洗いへ行く

洗面所で水を出しっ放しにする


人んちの水を出しっ放しにするのは悪いと思う

でも今だけは許してくれ














吐いた


さっき食べた夕食も吐いた


胃液も吐いた


胸が苦しい


頭が痛い


心が壊れそうだ


泣いた


ひたすら泣いた


声を押し殺して叫ぶように泣いた


震える


身体の震えが止まらない


右手を見る


この手で殺した


人を、殺した


俺は、、、


また吐いた


繰り返す


相手が誰であれ俺はヒトを殺シタ











自問自答を繰り返した


もう吐くことすらできなくなっていた


震えは止まった、涙も枯れた


この罪を抱えて生きていく


マーデラを殺すときに覚悟したのにこの様だ


滑稽だ


俺が代わりにやってやる?


かっこつけてんじゃねーよ!


俺が苦しめばいいだけ?


こんなに苦しいなんて思わなかったのかよ!








今の俺、かっこ悪い

もともとかっこ悪いけどな








だけど、苦しいけど、辛いけど


これで良かったとだけは本音で本気で思っている


アオイくんが殺されなくて良かった


アオイくんが殺さなくて良かった




だから、苦しいけど、辛いけど


一切の、後悔は、ない!


吐いたり泣いたりしたのは後悔からではない


殺したことへの恐怖だ











次第に落ち着いてきた


「はっ、情けないおっさんだぜ」


俺はもう迷わない


今後も誰かを殺すこともあるだろう


それでも俺はもう大丈夫だ


今すべて出し切った


生きるために、誰かを守るためになら殺せる


覚悟と決意は完了だ











中庭に出る


風が肌寒い


「夜は冷えるな」


ベンチに座る


星空を眺める


「お邪魔します」


右隣にアンナが座る




「お前も散歩か?」

「お前じゃなくてアンナですよ」

「久々だなそれ」

「そうですね」




そのまま俺たちは無言で星空を眺める











「ありがとうなアンナ」

「どういたしまして」











俺たちはそれぞれの部屋へ戻る


ポチャが俺に甘えてくる


ポチャにも俺の気持ちが伝わっていたらしい


ありがとうなポチャ




ベッドに潜り泥のように眠った











翌朝、精神的な疲れが少し残っているが問題ない


朝食後、出発準備を始める


「荷物は収納庫に入れているから楽だな」

「行きと同じルートなので他の馬車とも一緒ですしね」


街と王都の行き来は危険が少ない

街道は整備されているし、たくさんの馬車が行き交う

巡回の警備兵もいるから盗賊なんかも手出しがしにくい


準備と言うほどのことはなく完了する


「ケンタ様、旦那様からこれを預かっています」

「この書簡は?」

「ペンペラン伯爵様にお渡し下さいとのことです」

「俺が? シシリーじゃなくて?」

「はい、ケンタ様にお渡しするよう仰せつかっております」


男爵様はまだ後処理があるのでここにはいない

昨日の今日だからね


とりあえず書簡は預かっておく


「それから先日は本当に失礼なことを申しました

 改めて謝罪致します、申し訳ありませんでした」


深く頭を下げるパトさん

俺のことを少女好きとか疑ったことだな


「いやもう怒ってないし、いいですよ」

「ありがとうございます」


シシリーとリディアが来た


「やっと来たか」

「あら、女性には色々あるのですよケンタ様」

「へいへい」

「ケンタさん、シシリーを助けて下さりありがとうございました」

「私もありがとうございますケンタ様」


「こっちも囮作戦なんて危険な目に遭わせてごめんな

 あと色々あって渡しそびれていたんだけどコレ」


収納庫からネックレスを二本出す

赤い魔石と青い魔石のネックレス


「それはもしかして」

「ああ、装飾は違うけど絆の魔法を付与してあるネックレスだ」


リディアの居場所を探すために消滅した

二人が大事にしていたお揃いのネックレス


「二人の絆の証だったんだろ

 代わりになるかなと思って買っておいた

 受け取ってくれるか?」


「「もちろんです!」」


息ピッタリだな、さすが親友


二人がお互いに着け合う

そして照れながら笑っていた

うん、微笑ましいね


「ケンタ様、ありがとうございます」

「ケンタさん、ありがとうございます」


嬉しそうにお礼を言う二人

喜んでくれて俺も嬉しいよ


「リディア、また街に遊びに来て下さいね」

「ええ、シシリーも王都にいつでも来て下さいね」


シシリーは馬車に乗り込む

アオイくんとサスケとポチャも一緒に乗る

アンナは俺とスーパーカブだ


「いいのか?」

「お兄さん一人じゃ可哀想ですからね♪」

「そうだな、一人は寂しいからありがたいよ」

「な、なんですか! 素直過ぎませんか!?」


なぜ照れる、俺が素直だったらダメなのかよ


スーパーカブを出す

アンナがタンデムに座る


俺もシートに座って準備していると


「ケンタさん」

「どうしたリディア」

「また王都に来て下さいね」

「ああ、王都にはこれからも来ることはあるからな」

「来たら絶対会いに来て下さいね」

「ん? そうだな」


リディアは何が言いたいんだ?


リディアが俺の左横に来る


「「リディアさん!?」」「リ、リディア!?」


俺は何が起こったのかわからなかった

いやわかってはいるが何がどうしてそうなったと混乱していた


「ふふ、待っていますね♪」


シシリーがあたふたしている

アオイくんが固まっている

アンナが呪われろと呪詛を吐く

こらアンナ、呪詛吐くな!


パトさんが宜しくお願いしますと言う感じで一礼する

待って、何をよろしくなの?


馬車が街へ向かって走り出す


俺は呆然としながらスーパーカブを走らせる


アンナが馬車の方に行ってしまったので一人だ


「ほっぺに、チュウ、された、、、」

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